「お主、優しげな顔に似合わず何ともあくどいのぉ」
——こやつの事だ。後で盛大にベルティナ様に文句を言われたとて、のらりくらりとかわしてしまうんじゃろうな。
呆れ果てたようにロドルバンは澄まし顔の宮廷薬師の若者を見た。
そこへ血相を変えてベルティナが戻ってきた。
まさかもう気付かれたのかと三人が身構えると、ベルティナは真っ直ぐ騎士隊長の男に詰め寄った。
「ちょっと、どういう事ですの」
と、レグナントに猛然と喰って掛かる。
「女性連れはフォルド様の名に傷が付くとか言っておきながら、あのアルフィーネとかいう侍女はしっかり付いて行くっていうではないのっ!」
「ああ、それは今回の旅に私が同行できないからですよ」
ベルティナの怒りをやんわりと受け止め、エイルは説明した。
「今他の薬師も手が空いている者がおりませんので、急遽皇子の体調をよく知るアルフィーネを同行させる事にしたのです」
幼いアルフィーネを引き取った頃から、エイルは彼女に薬学などの医療に関する知識を教え込んでいた。
皇子が意識不明の際にアルフィーネ一人に看護を任せたのも、自分の信頼に足る者を皇子の傍に置くという以外にも、それがあっての事だ。只の女官では何か皇子の容体が急変した場合、自分が駆けつける前に適切な処置をする事ができないからだ。
「ベルティナ様、皇子は大病の後ですので、より体調には注意が必要なのです。もし皇子が道中体調を崩したり、怪我や病気などして
「今回は日程も長い故、医薬に通じる者は最低でも一人は必要です。皇子の御身が大切ですので、私も仕方なく許可したのです」
すかさずレグナントも口添えする。
こうまで言われては、さすがにベルティナもこれ以上異を唱える事ができなかった。
「わ、判りましたわ。今回は大目に見てあげてよ」
悔しげにベルティナはふいっとそっぽを向いた。
その先に愛しの従兄と彼の侍女が何やら親しそうに話をしているのが見える。
むっとしてベルティナはつかつかと二人に近づいた。
「フォルド様ぁ」
と、人目も
不意を突かれてぎょっとする晶に蠱惑的な笑みを向け、チラリと傍らの侍女に優越感に満ちた視線を走らせた。
「一緒には行けませんけれど、わたくしも直ぐに参りますので、淋しいでしょうが我慢してくださいませ」
と、硬直する晶の頬にキスをする。
これは半分以上がアルフィーネに対する当てつけだった。
「わたくしが行くまで、どうかお元気でいてね」
「あ、ああ。従妹殿もお元気で」
引きつった笑みを浮かべてぎこちなく応えると、晶は抱き付くベルティナをやや強引に引き剥がした。
そして、これ以上何かされる前にと、手の甲で頬に付いた口紅を拭いながら急いで自分の額に一本の角を生やした白馬—所謂一角獣に乗った。
白い一角獣が落ち着きなく低くいななき、苛立たしげに蹄を石畳に打ち付ける。
それを宥めるように、晶は首筋を軽く叩くようにして撫でた。
最初フォルドの愛馬であるこの純白の一角獣は、酷く晶を警戒して威嚇してきた。
騎士達はずっと構って貰えなかったから拗ねているのだろうと言ったが、そうではない。やはり獣だけあって中身が別人だと瞬時に気付いたのだろう。
それからこの一角獣に馴れて貰うのに結構苦労した。乗馬の訓練は乗り方より、このフォルドの一角獣に乗せて貰う事に時間の殆どを費やしたといった方がいい。こうしてまともに乗せて貰えるようになったもの、つい昨日のことだった。