アーサス   作:飛鳥 螢

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 前回の最後の部分を多少書き直しました。


第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅷ ―出城巡り(4)―

「では、出発っ」

 晶が一角獣を宥めている間に準備を整えた随行の騎士達は、騎士隊長レグナントの号令の許、一斉に移動を開始した。

 整然と隊列を組んで城門より出て緩やかな丘を降り、《光の都(ソーラス)》の中央を通り抜けるメイン通りに出る。

 通りの家々はみな、赤煉瓦色の屋根に白壁の角を濃い茶色の煉瓦が縁取った造りになっている。そして、どの窓辺にも色とりどりの花々が咲き誇っていた。

 何時もならこのメイン通りは思い思いに人々が行き交っているのだろうが、今日はフォルド皇子があの事故以来初めて姿を見せるとあって、通りの両脇には大勢の民衆が詰めかけていた。

 ——これ皆、フォルド皇子の姿を見に来たのか……

 メイン通りの石畳の上を並足で一角獣を歩かせながら、晶は自分に向けられる両脇の熱狂的なまでの熱い視線を感じて驚いていた。

 王宮内でも乗馬の訓練で南棟から出て来ると、すれ違う者の安堵の表情と、たまに声を掛けてくる騎士達の喜びの声に、皇子がいかに臣下の者達に好かれていたか思い知らされていた。

 斜め後ろを行くロドルバンが晶に一角獣を寄せ、小声で「フォルド様、にっこり笑って手を振りなされ」と言ってきた。

 その通りに笑みを浮かべて手を振ると、わっと民衆が湧き上がる。

 うっと思わず晶は身を引いた。

 何だかワールドカップで優勝した選手の凱旋のノリのようだ。フォルド皇子がどれだけ民衆に慕われていたかが判る。

 ——そう、これは全部フォルド皇子に向けられたもので、「俺」にじゃない。ここには何処にも「倉橋晶(おれ)」は存在していないんだ……

 人前に出れば出るほど、人と言葉を交わすほど、それを嫌と言うほど思い知らされる晶だった。

「皇子……」

 笑顔で手を振りながら人知れず小さく吐息を漏らす晶を、荷馬車の荷台の幌に隠れ、アルフィーネは気遣わしそうに見ていた。

 王都を抜けると一行は一気に速度を上げた。

 別にベルティナに追いつかれないようにする為ではなく、当初からの予定である。

 あのごたごたで出発するのが遅くなった為、更に速度を上げなければ今日泊まる予定の町に辿り着けないのだ。

 何処までも続く長閑(のどか)な田園風景を横目に、一行は夕暮れ近くに最初の目的地である町に着いた。

 次の日、少し早めの朝食を取ると支度を整え、更にシャナン河を遡るように北西に向かう。

 二日目、三日目とトラブルらしいトラブルもなく順調に日程をこなし、行く先々でフォルド皇子の一行は熱烈な歓迎を受けた。

 そして四日目には、広大な湿原地帯の先にあるエスカーの牧草地を目指して一行はひた走った。

 一日に移動する距離としては一番長い。今突っ切って行く湿地地帯を迂回して行けば宿泊できる村があるのだか、日程的に迂回するだけの時間がなかった。野営するにしてもこの湿地地帯では野営地には向かないので、多少無理をしてでもエスカーの牧草地に行くしかないのだ。

 湿地地帯に差し掛かるまでの道のりで昼食と休憩を二度ほど取り、後はこの湿地の中をエスカーの牧草地まで休み無しの強行軍である。

 このフォルドの一角獣に乗れたのが出発前日で、殆ど馬術の練習ができなかった晶だったが、今では危なげなく一角獣を操っている。この四日間乗り続けたことで完全に勘を取り戻したようだ。

 白い一角獣の方もようやく馴れてきたのか、嫌がることも少なくなってきた。

 余裕が出てきた晶は、時々後ろを走る荷馬車に乗るアルフィーネに気遣わしそうな視線を走らせた。

 王都付近と違い舗装などしていない田舎道を一角獣と同じ速度で行くのだ。荷馬車の揺れはかなりのものだろう。そこに乗って居るだけでどんどん体力を削られていくに違いない。

「まだエスカーには着かないのか?」

 晶は隣を駆けるロドルバンに声を掛けた。

「この湿原を抜ければ、すぐでございますよ」

 そう応えてロドルバンはにかっと笑った。

「アルフィーネが心配ですかな」

「当たり前だろ、女の子なんだから」

 晶は顔を背け、ぼそぼそと言った。

 それを見て、ますます可笑しそうにロドルバンが口許を緩めた。

「そうですな」

「爺、何が言いたい?」

「ほれフォルド様、エスカーの牧草地に着きましたぞ」

 むっとして険を含んだ声で訊く主君に、ロドルバンは前方を顎で指し示した。

 はっとして晶も前を見る。

 ようやく湿地地帯を抜けた先には広々とした牧草地が広がっていた。

 

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