アーサス   作:飛鳥 螢

59 / 166
第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅸ ―出城よりの知らせ―

 穏やかな陽光が射し込む部屋の、窓辺の脇にある重厚な造りの天蓋を持つベッドの周りで数人の宮廷薬師達が、ベッドで上半身を起こす病身の王の体、特に下半身を中心に触診しては、傍らで一人それを記録している同僚の淡い金髪(ペールブロンド)の若者に告げていた。

「少しは良くなっているようですね……」

 同僚の薬師達の診断を羊皮紙に書き留めながら、エイルは独り言ちた。

「漸く足の指先が少し動く様になったので、このままマッサージは続けた方が良いでしょう。今服用している薬はもう少し様子を見た方がいいかもしれません。それと——」

 と、エイルが診察結果をまとめて今後の治療方針を模索していると、不意にばさりと開いた窓の方から羽ばたくような音がした。

 その直後、いきなり何かが部屋の中に飛び込んでくる。

 はっとして、ベッドの周りに控えていた騎士達が、一斉に佩剣を抜き放って身構えた。

 緊迫した空気の中、飛び込んで来たそれはバサバサと羽音を立てて淡い金髪(ペールブロンド)の薬師の肩に降り立った。

 それは小鳥よりやや大きめの金茶色の鳥だった。

 早鳥(ピクト)と呼ばれる鳥だ。頭が良くて警戒心が強いが、一度懐くと人の言う事をよく聞く。名前が現わすように飛ぶ速さは他の鳥の追従を許さず、どんな遠い道程でも必ず飼い主の許に戻ってくるので、緊急時に使う伝書用の鳥として重宝されていた。

 ただ、このピクトは他のピクトより(くちばし)の色が濃く、橙色をしている。

 部屋の中の一同が、自分の肩に降り立ったピクトに目を丸めて注視する中、エイルは痛む頭を堪えるように嘆息した。

 そして、ベッドの上の王に深く詫びる。

「申し訳ございません。部屋に飛び込んで来るような不作法な真似をしてしまいまして」

 エイルの肩に止まるピクトも一声()いて頭を下げる。どうやら謝っているらしい。

「いや、余程急いでいたのだろう」

 微笑ましそうにカムラスは薬師の肩のピクトを見た。

 許して貰えたと思ったのか、ピクトが更に熱心に(さえず)り始めた。

 エイルが僅かに眉を(ひそ)める。

 それを見て、カムラスはおもむろに口を開いた。

「エイルを残し、他の者は皆下がれ」

 いきなりの(めい)に皆驚いたものの、それに従い次々と部屋を出て行く。

 ただ警護に就いていた騎士の一人、明るい金髪の男が何か言いたげに王に水色の瞳を向けたが、カムラスは小さく首を横に振ってそれを封じた。

 仕方なさそうに溜息をつくと、騎士も皆に倣ってその場を後にする。

 人払いをして部屋に自分と若い薬師とピクトだけになると、カムラスは訊いた。

「何か良くない事でも起きたか?」

「と言うより、予想通りと申し上げた方がよろしいかもしれません」

 ピクトの(さえず)りに耳を傾けながら、エイルは溜息混じりに言葉を継いだ。

 このピクトにはネールの出城に伝言(ことづけ)を持って行った後、皇子達が到着して次に向かうまで様子を見て貰っていたのだ。何か異変が有ったらすぐ知らせる様に言い含めて。

「ネールの出城に着いた早々、皇子が失踪されたそうです。——侍女のアルフィーネも一緒に」

 このピクトは自分の養い子とも仲が良かった。こちらに戻る前に美味しい餌を貰うつもりで彼女を捜したらしい。

 だが、出城の周りを飛び回り、窓から中を見たりしたが何処にもアルフィーネの姿がなかったのだ。

「おそらくは〈生命の丘(ヴィルドヒル)〉に向かったのでしょう」

 出城巡りの日程の話をしていたあの時、熱心にヴィルドヒルについて訊いてきた皇子の姿をエイルは思い浮かべた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。