アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅸ ―心 話―

「そうか……」

 カムラスは深く息をついてクッションに身を沈めた。

「出城は大混乱のようですね。次々と捜索隊が飛び出して行ってるようです」

 まるで見聞きしたかのようにエイルが告げる。

 しかし彼はずっとこの王宮にいたのだ。国境付近の出城の状況を知る筈がない。

 だが、カムラスはそれを真実として受け止めていた。

「ふむ、やはり便利なものだな、その『心話』とは」

 感心したようにエイルとピクトを見る。

 今彼が話したことは、肩に乗る金茶色の鳥からもたらされた情報だった。

 カムラスがこの光景を見たのは今回が初めてではなかった。初めて見たのは元近衞の長のオルフォートが面白い技を使う奴がいるとエイルを連れて来た時だった。

 動物と心を通い合わせ、意思の疎通ができると——

 最初カムラスは流石に驚き疑いもしたが、今では最速で各地の情報を得られるので色々と重宝していた。

 同時に動物と心で会話するという、このソルティアでは馴染みのない能力なだけに、他の者には伏せておいた方がいいだろうとカムラスは判断し、誰にも知られない様に配慮していた。さっき部屋の者全て退出させたのもその為だ。

「エラドラ殿も『心話』を得意としていると聞いておるが、《暁の国(エルティア)》の者は皆このような事が出来るのか?」

「いいえ、エルティアでもできる者は(まれ)でございますが、本当に我が師の事をよく知っておいでですね。他国の者ですのに」

 少し呆れ気味に、エイルは興味深げに訊いてきた王を見返した。

「なに、この大地を(あまね)く駆け、全ての知識を統べるという清風の女神ヴァンデミーネの巫女エラドラ殿の事を、この世界(アーサス)で知らぬ者はおるまいよ」

 当然のようにカムラスは言い返した。

()の国の王都《明の都(エルゼナ)》が失われた後でも、エラドラ殿の持つ力の宝石(いし)暁の星(エルーラ)〉の知識を求める者は後を絶たぬのだろう?」

「ええ、私があの(むら)に居た時も、よく外部の者が訪れておりました」

 エイルは懐かしむ様に一瞬遠い目をしたが、すぐに気持ちを切り替えて話題を変えた。

「まあ、それはともかくとして、早鳥(この子)の報告だけでは情報が足りませんので、後でロドルバン殿に城内の様子について送って貰おうと思います」

 と、横目で肩のピクトを見やると、その視線に何か感じてかピクトはピクリと身を震わせた。

「しかし、其方が予想した通り、出城に着いた早々本当に姿を(くら)ませるとはな」

 表情(かお)を曇らせ、カムラスは傍らに立つ若い薬師に目を向けた。

「本当に行かせて良かったものか……」

 未だフォルドの(こころ)が別人だという確たる証拠はない。だが、魂が別人であろうとなかろうと、この世界の様々な記憶が抜け落ちて〈陽の剣(ソーレス)〉の加護も失った状態で旅に出るのは、かなりの危険を伴う事になるだろう。

 黙って行かせるのではなく、もっと他にやりようがあったのではと、今更ながらにカムラスは憂えるように呟いた。

 




【アーサス豆知識③】
 《陽の国(ソルティア)》では、宝剣〈陽の剣(ソーレス)〉の力を正しく扱う為に国中からその担い手に相応しい子供を集めて教育し、力の宝石(いし)に選ばせてその者を王とした。
 《暁の国(エルティア)》では、力の宝石(いし)暁の星(エルーラ)〉の知識は王が独占するのではなく、広く民衆にも分け与えるべきだとの祖王の考えにより、王都《明の都(エルゼナ)》に造った女神ヴァンデミーネを祭った神殿にそれを収めた。
 最初は王が司祭長を兼任していたが、その後は自分の担い手をエルーラに選ばせてその者を司祭長とした。これにより力の宝石(いし)はエルティア王家の手を離れ、神殿の所有物となる。
 エラドラはエルーラが最後に自分の担い手として選んだ巫女。
 《昏の国(アルティア)》では王位継承権の証として、《宵の国(ナイティア)》では王の証として、それぞれの王家に受け継がれている。
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