アーサス   作:飛鳥 螢

64 / 165
第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅸ ―囚われの皇子(2)―

 一人残されたソルティアの皇子——フォルドは深く息をついて体から力を抜いた。

 何かあったのか、最初苛立っていたようだが、今回は随分と情報を得ることができた。

 初めてあの女に会ったのは、ここでこの状態で目覚めた時だった。

 状況が判らず、混乱する自分に『其方の為に特別に用意した肉体(からだ)の具合はどうじゃ』と(わら)って尋ねてきた。

 そして『ここは神話の中に埋もれた〈生命の丘(ヴィルドヒル)〉じゃ。誰も其方がここに囚われておることに気付きはせぬ。其方の体は今でもソルティアの王宮におるのじゃからな』と、手に持つ水晶球(オーブ)の中に、王宮の壁に寄りかかりながら通路を歩く自分の姿を映して見せたのだ。自分の半身が其方の代わりをしてくれているのだと。

 それを知ったフォルドは一か八か精神(こころ)を飛ばしてみた。

自分の体の中にこの体の本来の(こころ)が宿っているなら、常に一緒にある〈陽の剣(ソーレス)〉の柄の〈蒼の閃光(ソレイア)〉を介して精神(いしき)を繋ぐことができるのではと考えたのだ。自分がここにいると知らせる為に。

 だが、精神(いしき)を繋げられたのは一回限りだったので不安だったのだ。

 ——どうやら、上手くいっていたようだな……

 その事にフォルドは安堵した。あの白銀の髪の女の言うように、彼にとっては酷な事だと判ってはいるが、自分が身動きできない以上仕方なかった。彼女の企みを阻止する為には。

 既に王宮内にも手を伸ばしているかもしれないと判った以上、それは尚更だった。

 さっき心当たりがあるだろうと言われて、フォルドは言葉に詰まった。

 確かに三年前の「継承の選儀」で〈陽の剣(ソーレス)〉に選ばれ、世継ぎの君として「皇子」と呼ばれるようになってから、度々身の危険を感じるようになった。実際、襲撃を受けた事もある。

 最初はソーレスに選ばれ損ねた従兄の度を超した腹いせだと思っていた。

 でも、従者に騙されて殺されかけた一件で、自分を亡き者にして新たな次代の王を望む者がいるのだと気付かされた。

 けれどそれが誰なのか、その者は巧み正体を隠して尻尾を掴ませることはなかった。

 ロドルバンやエイル達は証拠はないが、その首謀者が従兄の侍従長だと確信しているようだった。

 そして、それに手を貸している者がいるとも考えていた。その最有力候補に伯父ルゴスを上げ、警戒していたのも知っていた。

 けれど、それでも信じていた。あの伯父が本気で事を為す気なら、(とう)の昔に成していただろうから。

 先程の女の言葉の真偽を確かめる(すべ)がなく、フォルドは遣る瀬無さそうに瞳を揺らした。

 ——それにしても、何故彼女はああも僕を憎むのだろう……

 体を取り換えるなどという手の込んだ真似をして自分をここに捕らえ、〈陽の剣(ソーレス)〉から自分を引き離して〈蒼の閃光(ソレイア)〉の力を十全に使えないようにしてまでして。

 ああやって逐一外の情報を教えに来るのも、知りながら何もできない自分の反応を見て(たの)しむ為だ。

 それに最後のあの言葉、力の宝石(いし)に選ばれた自分をと言うより、力の宝石(いし)そのものを憎んでいるようだった。

 でもそれが何故なのかまるで判らない。今まで彼女に会ったことも恨まれる憶えもフォルドにはなかった。

 ただ、彼女が姿を消す前に輝いた額のサークレットの宝石に、フォルドは妙な既視感を覚えていた。

 ——あれは、もしかしたら……いや、それならあの色は……

 アルビナの女の消えた空間を見やり、フォルドは自らの思考の檻に囚われていった。

 その様子を、いつの間にか戻って来ていた小鳥達が、木の梢から小首を傾げて下ろしていた。

 




これで本当に第一章は終わりです。
次から第二章《暁の国(エルティア)》に入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。