アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅰ ―追跡者(1)―

 ネールの出城から一望に見渡せる公路沿いには、長閑(のどか)な田園が広がっていた。その向こうに大きくはないが《昏の国(アルティア)》との交易拠点の一つとして、辺境ながらもそれなりに賑わっていた町があった。

 だが今は、ダルの森の公路が封鎖状態のためアルティアからの商隊が来ず、どことなく町全体が寂れた感じになっている。

 その町の外れに広がる田園を囲むようにして、新緑に彩られた雑木林があった。

 ダルの森から離れたそこは猛獣の類いは棲んでおらず、多くの木の実を付ける秋以外は殆ど人はやって来ない。秋の収穫時にのみ使われる休憩小屋が一つあるだけだった。

 その休憩小屋の脇に、人目を(はばか)るように二頭の一角獣が繋がれていた。そして、小屋の中にその乗り手と思われる二人の人物がいた。

 一人は長身の男で薄暗がりの中、イライラと広くはない小屋の中を行ったり来たりし、背の低い小肥りのもう一人の男は、それをただぼんやりと眺めていた。

 ソルティアの宰相の息子サウアーと、その従者の一人アガスである。

 セスラの別邸でフォルドの暗殺話を耳にし、その後サウアーはすぐにエスカーへと取って返すと息巻いたが、それをすることは叶わなかった。

 それまでの道中でかなり無理をさせた所為で、潰れる寸前の一角獣しかいなかったのだ。換えの一角獣(もの)を用意するにも、王宮の軍馬並みの一角獣など直ぐに用意できるものではない。

 それに興奮していて本人は気付いていないが、サウアー自身の体力も既に限界だった。ここで休ませなければ遅からず倒れる。

 それが判っていた侍従長親子は、何とかサウアーを(なだ)めすかして休ませたのである。

 そして翌日、人馬共に体力を回復したサウアー達は、アルティアの男——ゲッシュを加えてエスカーの地に戻ったのだが、当然燃えた野営地はもぬけの殻だった。

 それは予測できた事なので、四人はそのままフォルドの後を追ってこの地まで来た。

 フォルド皇子の一行より一日程遅れて出城手前のこの町に辿り着いた時、ネールの出城から多くの騎士が飛び出していく姿を目撃し、サウアー達は慌てて身を隠した。既に騎士達が誰も居ないことを確認した後のこの小屋に。

 エスカーの襲撃で買収した騎士は既に始末してある。顔を知られているのは、フォルドを殺し損なったサウアーだけだ。

 無事出城に辿り着いたフォルドがその事を告げたのなら、この騎士達はサウアーを捜して出城を飛び出した可能性が高かったからだ。

 以来サウアーはこの小屋から一歩も外に出られずにいた。

 憎いフォルドを()るどころか、こんな薄汚い小屋の中に人目を避けて閉じ籠もっているなど、サウアーにとって屈辱以外の何物でもなかった。

 その怒りがより一層フォルドに対する憎しみを掻き立て、苛々を募らせていた。

 

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