アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅰ ―エイル(1)―

 《陽の国(ソルティア)》の手入れの行き届いた王宮の中で、三つに分かれた東棟の北側辺りは自然の風合いを残した樹々が多く生え、野鳥などがよく遊びに来る憩いの場所にもなっていた。

 その北側の棟の二階の一角にある自分の部屋で、エイルはテーブルの上に積み上げた書物の山から新しい本を取り、パラパラとページを捲り熱心に書かれてある内容に目を通していた。

 謎の〈白き者(アルビナ)〉の女の襲撃からずっと、エイルは各地に残るアルビナの伝説について調べていたのだ。

 先日(ようや)く見つけたアルビナの言い伝えを記した書物の中に、魂換(たまか)えの能力らしきものが書かれてあったが、それだけだった。

 あくまで伝承としてであって、それ以上の記述はなかったのだ。

 エイルとしてはもっと詳しい——できればその力、特に他者同士の魂換えの方法について知りたかった。例えば行使する為にどんな条件が必要なのか。

 そして、魂換えした人間を元に戻せるのか。戻せるなら、どうやれば出来るのかなどだ。

「やはり、手持ちの書物(もの)だけでは、これ以上調べるのは無理のようだね」

 読んでいた本を閉じ、エイルは深く嘆息した。

 以前読んだものと同じような書物があるとしたら、後は神殿か、王宮の書庫だろう。その二つの書庫の膨大な量の書物の中から、その一冊を探すしかなさそうだった。

 その手間を考えると、なんだか気が遠くなってきた。

 ——お婆様なら、きっと全て判っているのだろうけど……

 訊いたところで、絶対に教えてくれないに違いない。

 それくらい自分の力で調べてみろと、自分をどやしつけるエラドラの姿まで克明に想像できて、エイルは溜息をついた。

 不意に開け放たれた窓の外、梢に群れる鳥達が賑やかに(さえず)り出した。

 そちらに目を向けると同時に、ざっと部屋の中に飛び込んで来るモノがいた。

 器用にエイルを避けてくるりと部屋の中を一周すると、テーブルの近くにある止まり木に降り立ち、早鳥(ピクト)は得意げに囀った。

 どうも今までで一番早く戻って来た事を自慢しているらしかった。

「ルーク」

 エイルはそれを褒めるどころが、冷ややかに止まり木に掴まるピクトを睨んだ。

「いきなり部屋の中に飛び込んではいけないと、何度言ったらわかるんだ」

 どうやら以前王の部屋に飛び込んだあのピクトらしい。よく見ると、(くちばし)の色が他のピクトよりも赤味が強い橙色をしている。

 しかし、当の本人は悪怯(わるび)れもせずに囀り返した。

 早く戻ったんだからそれくらいいいじゃないかと。

「それとこれとは別問題だよ。大体君は——」

 と、エイルが説教モードに入り出すと、ルークは慌てて自分の足の筒を(つつ)いて囀った。

 早く見なくていいのかと。

「——ったく」

 確かにそうなので、仕方なくエイルは文句の数々を呑み込み、ピクトの足の筒から木紙を取り出した。

 

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