アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅱ ―森の蛮人(オーシグル)

 アルフィーネが怯えてショウにしがみつく。

「な、なんだ?」

 ショウもギョッとして辺りを見回した。片手で自分に身を寄せるアルフィーネを抱き寄せ、短剣を手に身構える。

 なおも聞こえてくる咆哮の中に、断続的に明らかに人とおぼしき悲鳴が混じっていた。

 誰かが、何かに追われて助けを求めているのだ。

 ここから、然程遠くない。

 ショウとアルフィーネは互いに顔を見合わせ、そして、急いで声の方に向かった。

 悲鳴を頼りに、邪魔な下生えを短剣で薙ぎ払う。

 不意に、間近で悲鳴と咆哮が上がった。

 次いでショウ達から十フィノと離れていない樹々の間に、逃げ惑う十三歳位の橙色の髪をした少年と、それを追う毛むくじゃらの一群が姿を現わした。

「何だ、あれは……!?」

 ショウ達は愕然とした。

 少年を追う毛むくじゃらの群れ——それは体長二フィノを越え、全身を灰褐色の毛で被われた獣の群れで、飛び出た目、潰れた鼻、捲れ上がった唇。そして遠目でもそれと判る鋭いかぎ爪と牙を持っている。

 両腕を振り上げ、がに股の二本足で獲物を追うその姿は人間のそれに酷似していて、まるで獣の皮を被った人を見ているようだった。

 が、その口から発せられる咆哮は、紛れもなく獰猛な肉食獣のそれだった。

「まさか、あれは……」

 目を(みは)り、掠れた声でアルフィーネは呟いた。

「知ってるのか?」

森の蛮人(オーシグル)——昔おじ様から聞いた事があります」

「あれが……」

 度々獰猛な獣として話に名が出ていたが、実物を見るのはこれが初めてだった。

 だが、近年オーシグルは西の《昏の国(アルティア)》寄りのダルの森周辺を棲処(すみか)としていた筈だ。それが何故東の《暁の国(エルティア)》近くの森の中にもいるのか。

「うわっ」

 逃げ惑う少年が樹木の根に(つまづ)き、勢い良く転んだ。

 それを見た森の蛮人達が歓喜の雄叫びを上げ、我先にと橙色の髪の少年に襲いかかる。

 咄嗟にショウは手にしていた短剣を、少年に飛びかかろうとするオーシグルに投げ付けた。

 見るからに凶暴そうで、明らかに(かな)いそうもない猛獣の群れに、たった一人で立ち向かうような無鉄砲さは、ショウは持ち合わせていなかった。

 でも、目の前で襲われている少年を見殺しにすることもできない。

 短剣は狙い違わず、先頭のオーシグルの体に突き刺さった。

 甲高い悲鳴を上げ、オーシグルが地面に倒れ込む。

 一瞬、森の蛮人達の動きが止った。

 ——ままよ。

 ショウは背負っていた荷物を投げ捨てると、腰に佩いた剣を鞘から抜き放ち、下生えの繁みの中にアルフィーネを残して、間髪を容れずにオーシグルの前に躍り出た。

「でやぁぁっ」

 雄叫びと共に、オーシグルに斬り込んでいく。

 森の蛮人達は何が起こったのか分からずに呆然としている。

 その隙に、ショウは剣を一閃させた。

 オーシグルの肩口から袈裟懸けに、どす赤黒い血飛沫が上がった。

 絶叫を上げ、どぅとオーシグルが倒れる。

「早く逃げろっ!」

 茫然と立ち尽くす少年にそう叫びながら、ショウはオーシグルの(しかばね)を跳び越え、更に襲い来る猛獣に向かって剣を振るった。

 考えるより先に、体がオーシグルの動きに反応している。それはあの森でサウアーと闘った時よりも敏捷で、一分の隙もない洗練された動きだった。

 これはショウの鍛錬の成果というより、この体に染み込んだ生来の動きだ。——疲労した体で剣を振るう事で力みや無駄な動きがなくなり、フォルド本来の動きができるようになっていたのだ。

 ただショウは助けた少年を逃がす為、猛獣等の相手をするのに必死で、自分の動きの変化に全く気付いていなかった。

 

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