アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅱ ―激  闘―

 唸りを上げて鋭利なかぎ爪が目前に迫る。

 それを剣で撥ね上げ、ショウは鋭く斬撃を浴びせた。

 吼えるような断末魔の声が森の中に響き渡る。

 それに混じって風切る音が耳朶を打った。

 斜め前からオーシグルの強靭な腕が、ショウの顔面目掛けて振り下ろされる。

 瞬時にショウは地を蹴って後ろに跳び退いた。

 眼前すれすれを鋭いかぎ爪が切り裂いていく。

 パラリと前髪が数本、空を舞った。

 それに構わず即座に踏み込み、ショウはオーシグルに横薙ぎに剣を一閃させた。

 そして、絶叫を背に次へと体を返す。

 ショウはオーシグルの攻撃を紙一重で(かわ)しながら、一匹、また一匹と(ほふ)っていった。

 森の蛮人達は、目の前で瞬く間に仲間が次々と斃されていくのを見て、恐れ(おのの)くどころか、反対に仲間の血の臭いに興奮し、耳障りな咆哮を上げて猛然とショウに襲いかかる。

 それは仲間が()られて猛り狂うというよりも、むしろ、新たな獲物に歓喜しているようだった。

 オーシグルの鋭いかぎ爪が空を裂いて一閃する。

 刹那、ショウは身を沈めた。

 オーシグルの太い腕が、頭上ぎりぎりの処で空しく宙を切った。

 勢い余り、オーシグルがよろける。

 すかさずショウはオーシグルの胸を剣で薙ぎ払った。

 絶叫を放ち、オーシグルがショウに倒れかかる。

 横に跳び退き、ショウはそれを避けた。

 そこへ、新たな一撃。

 別のオーシグルの毛むくじゃらな左腕が迫る。

 咄嗟にショウは傍らの樹木の反対側に回り込んだ。

 生木を裂く音と共に木片が飛び散る。

 見ると、幹の半分近くが抉り取られていた。

 たった一撃で凄まじい破壊力だ。

 こんなのをまともに喰らったらひとたまりもない。

 それを見てぞっとしたショウの足が一瞬止まる。

 背後から容赦なくオーシグルが飛び掛かって来た。

 ハッとして、ショウは振り返った。

 剣を構え直す暇がない。

 思わずショウは()()って体を捻った。

 右腕に鋭い痛みが走る。

 オーシグルの鋭いかぎ爪が(かす)ったのだ。

 服が裂け、鮮血が(ほとばし)る。

「うぅっ……」

 右腕を押さえ、ショウは呻いた。

 オーシグルは勝ち誇ったように一声吼え、獲物に(とど)めの一撃を加えるべく、毛深い剛腕を振り下ろす。

 同時に横っ飛びに地に転がり、ショウはぎりぎりでそれを回避した。

 ばっと跳ね起き、両手で剣を構え直す。

 が、右腕にうまく力が入らない。

 ショウを引き裂こうと、二方からオーシグルのかぎ爪が迫り来る。

 一方を躱し、もう一方のかぎ爪を掻い潜って、ショウはオーシグルの喉元に剣を突き刺した。

 肉を貫く感触に、激痛が重なる。

「つっ……」

 痛みに気を取られ、一瞬動きが鈍くなる。

「皇子っ!!」

 アルフィーネの悲鳴と、猛り狂う咆哮が同時に耳朶を打つ。

 剣を返して構えようとするが、間に合わない。

 オーシグルが眼前に迫っていた。

 鋭い牙とかぎ爪がショウを襲う。

「くっ」

 反射的にショウは剣の柄頭をオーシグルの鼻面に叩き込んだ。

 それをモロに受け、オーシグルは呻き声を上げてたたらを踏む。

 そこへ、びんっと何かが傍らの樹木に突き刺さる音がし、むっとする強烈な刺激臭が鼻を突いた。

 次の瞬間、森の蛮人達の間から悲鳴が沸き起こる。

 オーシグル達が鼻を()(むし)り、我先にと一目散に逃げていく。

 ショウは呆気に取られ、それを見送った。

 一体何がどうなったのかよく分らないが、どうやら助かったらしい。

 その場にへたり込み、ショウは深く安堵の息を吐いた。

 

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