見晴らしのよい崖上の空き地に着くと、エルドは持っていた小袋の口をしっかりと締めて腰のベルトに括り付け、弟が集めておいた薪を使って焚き火の準備を始めた。
馴れた手つきで火を
その横で弟のシグが、細い枝に切り分けた肉を刺して焚き火の周りに立てていく。
その間に少し離れた場所に座り、アルフィーネは改めてショウの傷の手当てをした。森の中で応急処置はしたが、ちゃんと消毒しないと傷口が
ショウを手伝って返り血で汚れ、破れた上着を脱がせ、アルフィーネは水に濡れても大丈夫な油を染み込ませた革袋から、傷の手当てに必要な物を取り出した。
丁寧にショウの腕の傷を消毒して薬を塗った布を傷に当て、細く裂いた布を巻き付けていく。王宮ではエイルの助手らしき事をしていたので、実に手慣れている。
「痛みはどうですか?」
「ああ、大分いい。助かったよ」
右腕を動かし、ショウはアルフィーネに礼を言った。
あの血生臭い場所を離れて
その様子にホッとしたアルフィーネは、小さくくしゃみをした。
そう言えば、アルフィーネは川に落ちてずぶ濡れになっていたのだ。その後オーシグルとの戦闘になり、今に至るまで着替えもできずにいた。体が冷えていても不思議ではなかった。
「寒いんだったら、もっと焚き火の近くにお出でよ」
アルフィーネのくしゃみを聞きつけたエルドが声を掛けてくる。
それに甘え、新しい上着に着替えたショウはアルフィーネと共に焚き火の傍らに座った。
「さっきは、本当に助かったよ。ありがとう」
まだオーシグルから助けて貰った礼を言ってなかったのを思い出し、ショウは改めて礼を言う。
「別にいいよそんな事。こっちも弟助けて貰ったし、お互い様だからね」
事も無げに言って、エルドは黄金の髪の少年を見た。
「しっかし、あんたも変わった奴だよね。誰かがオーシグルの群れに襲われてても、何の準備も無しに一人で助けに行く奴なんて大人でもいないよ。怖じ気付いちゃって見捨てるけどね、普通」
「そう……だな」
今なら
多分幼い頃より聞かされ続けた『男子たる者、自分より弱い者を護るのは当然の義務だよ』という祖母の教えが身に染み付いている所為だろう。
「あの、何処か着替えられる所ありませんか?」
ぽつりと言いにくそうにアルフィーネが訊いた。
「着替える所?」
「わたし、川に落ちてしまって……」
「あぁ……」
それでさっきのくしゃみなのかと、エルドは納得した。
「確かにそれじゃ気持ち悪いよね。こっちに良い感じの繁みがあるから案内するよ」
と、立ち上がり、エルドは荷物を持った亜麻色の髪の少女を連れて行った。
後に残されたショウが所在なげに焚き火の炎を眺めていると、肉の焼き具合を見ていたエルティアの少年が声を掛けてきた。
「なあ、兄貴」
「兄貴?」
目を瞬き、ショウはソバカス面の少年を見た。
「そっ、おいらより年上だろ?」
「まぁ、多分」
おそらく姉の方は自分と同じくらいだろうから、その弟より年下なわけがない。
「じゃ、そういうことで兄貴。『川』って地面の上をニョロニョロと水が流れてるコトだよな」
「ニョロニョロって、蛇じゃあるまいし……」
何がそういうことなのか、自分を兄貴と呼ぶ少年の変な川の喩えに、ショウは眉根を寄せた。
「でも、そんな感じだって年寄り達が言ってたんだよ。おいら『川』って見たこと無いんだ」
この森も奥まで入った事がないから、川があるとは知らなかった。
「川を見たことが無いって、もしかしてエルティアって川がないのか? 一つも?」
ショウは驚いた。川が無い国があるなんて予想外だ。
「うん、昔はおっきな川があったらしいけど、今は干上がっちゃってないんだよ」
雨が降ってもみんな地面に吸われ、地表には所々に湧き水が出るだけだった。それも直ぐに地に潜ってしまう。水の豊かなソルティアと違い、エルティアは水の少ない乾燥した国だった。
「………」
——ってことは、またあの森の中を行かなきゃならないって事か。あのオーシグルがうようよしてる……
それに、もはやあの川がこの森の何処にあるかさえ判らない。最初から自分の
思わず