アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅱ ―エルティアの姉弟(3)―

「ん? 何かあったのかい?」

 なにやらショウのどんよりとした雰囲気に、着替えたアルフィーネと共に戻って来たエルドは訝しそうに二人を見た。

「別に、ちょっと『川』の話をしてただけだよ。おいら見たことないから」

 シグは軽く肩を竦め、兄貴認定した少年をチラリと見た。

「そういや、そうだね。ここいらじゃ、この森のずっと奥のアルティア寄りにあるくらいかな」

「やっぱりそうなのか……」

 エルドの言葉に、更にショウは落ち込んだ。

「何? 川がどうかしたのかい?」

「あ、姉ちゃん。焼けたぜ、肉」

 疑問に思うエルドに、シグが地面に突き刺した肉付き枝を示す。

 炎に(あぶ)られ、所々焦げて茶褐色に焼けた肉片は、温かい湯気と共に美味しそうな匂いを漂わせていた。

「ほら、兄貴達も食べなよ。美味(うま)いぜ」

 シグは手に取った肉付き枝を、ショウとアルフィーネに差し出した。

 途端に正直すぎる腹の虫が、早く欲しいと鳴き声を上げる。

 思わず二人は赤面した。

 特にショウはあれだけの重労働をしたのに、最後に口にした食べ物と言えば、昼頃くらいに食べた携帯用のパンと干し肉だけである。

 とはいえ、さっきあんな凄惨な血生臭いモノを()の当たりにしたばかりで、とても焼き肉なんて食える気分じゃないのに、なんて正直な腹なんだ。

「い…ただきます」

 軽い自己嫌悪に陥りながら、ショウはシグの差し出した肉付き枝を受け取った。

 何の肉だろう、と思いながら口にする。肉は見た目よりも柔らかく、噛み締めると何とも言えない肉汁の旨味が口の中に広がった。

「美味い……」

 感嘆の声が思わず口から漏れ出た。

「チャルバの肉さ」

 食べながらエルドが説明した。

 体長三十フィア前後の草食動物の一種で、全身は光沢のある綺麗なエメラルドグリーンをしている。主に毛皮を取る為に狩られるが、肉も臭みが無くあっさりとしていて美味しかった。

「昔はここいらじゃ、チャルバやハムスなんかがよく取れたのに、あのオーシグルの所為で最近はさっぱりさ」

 今日も丸一日森の中を駆け回って、獲れたのはチャルバが二匹、ハムスは一匹だけだ。昔の半分にも満たない量だった。それでもう少しと、つい時を忘れて狩りに夢中になり、弟の許に戻るのが遅れたのだ。ちなみにハムスの肉は物凄く不味い。

「オーシグルはもっと深い森の奥とか、アルティアのダルの森辺りに出るんじゃなかったのか?」

「獲物を取り尽くして、餌が無くなったんじゃないの。見かけるようになったのもここ一、二年のことで、特に最近は数が多くなってるみたいだけど」

 ショウの疑問に気のない返事を返し、エルドはさっき気になった事を改めて訊き返した。

「それで、さっきの話だけど、川がどうかしたのかい?」

「あ、ああ……」

 嫌な事を思い出し、ショウは再び落ち込んだ。

「——俺達、ある所に行くために川を遡ってるんだ。エルティアに川があるなら、そこを遡ろうと思ってたんだよ」

 この知り合ったばかりのエルティアの姉弟に、何処まで事情を話していいものか。思案しながらショウは言葉を継いだ。

「だけど、こいつに無いって言われて、川を探してまたあの森の中を行くのかと思うと——」

「ショウ……」

 森の中で疲労困憊になったショウの姿を思い出し、アルフィーネも表情(かお)を曇らせた。

「そのある所って、川を遡らなきゃ行けない所なのかい?」

「どうだろう……? ただ今の処、手掛かりはそれだけだからな」

 取りあえずヴィルドヒルに辿り着く為には、川はなくてはならない。たとえオーシグルが(たむろ)む森の中にあろうとも。

「ふ~ん」

 ショウの何やら訳ありっぽい様子に、エルドは顎に手を添えて考え込んだ。

「じゃあさ、あんた達お婆様に会ってみない?」

「お婆様?」

「そう、あたし等の(むら)の長老だよ。この世界(アーサス)の事なら何でも知っている、女神ヴァンデミーネの巫女。お婆様ならその場所に行くのにもっといい方法を教えてくれるよ」

「そうだぜ、ちょっと性格がアレだけど」

「え?」

 ——この二人、女神ヴァンデミーネの巫女を知っているのか?

 驚くショウに、エルドは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「どうだい? 闇雲にオーシグルの群れる森の中行くよりは、よっぽどいいと思うけど」

「そうだな……」

 ヴィルドヒルのある場所を調べた神話の中に、必ず出てきたこの世界の神の一柱。清風の化身であり知識の神と()われている()の女神の巫女なら、ヴィルドヒルの事も詳しく知っているだろう。確実な手掛かりを得られる絶好の機会だった。ただ、シグが呟いた一言が非常に気にはなったが。

「じゃあ、そのお婆様って人に会わせてくれ」

「いいよ。でも今日はもう遅いからね。出発は明日の朝だよ」

 食べ終わった枝を焚き火に放り、エルドは立ち上がった。

 

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