「ん? 何かあったのかい?」
なにやらショウのどんよりとした雰囲気に、着替えたアルフィーネと共に戻って来たエルドは訝しそうに二人を見た。
「別に、ちょっと『川』の話をしてただけだよ。おいら見たことないから」
シグは軽く肩を竦め、兄貴認定した少年をチラリと見た。
「そういや、そうだね。ここいらじゃ、この森のずっと奥のアルティア寄りにあるくらいかな」
「やっぱりそうなのか……」
エルドの言葉に、更にショウは落ち込んだ。
「何? 川がどうかしたのかい?」
「あ、姉ちゃん。焼けたぜ、肉」
疑問に思うエルドに、シグが地面に突き刺した肉付き枝を示す。
炎に
「ほら、兄貴達も食べなよ。
シグは手に取った肉付き枝を、ショウとアルフィーネに差し出した。
途端に正直すぎる腹の虫が、早く欲しいと鳴き声を上げる。
思わず二人は赤面した。
特にショウはあれだけの重労働をしたのに、最後に口にした食べ物と言えば、昼頃くらいに食べた携帯用のパンと干し肉だけである。
とはいえ、さっきあんな凄惨な血生臭いモノを
「い…ただきます」
軽い自己嫌悪に陥りながら、ショウはシグの差し出した肉付き枝を受け取った。
何の肉だろう、と思いながら口にする。肉は見た目よりも柔らかく、噛み締めると何とも言えない肉汁の旨味が口の中に広がった。
「美味い……」
感嘆の声が思わず口から漏れ出た。
「チャルバの肉さ」
食べながらエルドが説明した。
体長三十フィア前後の草食動物の一種で、全身は光沢のある綺麗なエメラルドグリーンをしている。主に毛皮を取る為に狩られるが、肉も臭みが無くあっさりとしていて美味しかった。
「昔はここいらじゃ、チャルバやハムスなんかがよく取れたのに、あのオーシグルの所為で最近はさっぱりさ」
今日も丸一日森の中を駆け回って、獲れたのはチャルバが二匹、ハムスは一匹だけだ。昔の半分にも満たない量だった。それでもう少しと、つい時を忘れて狩りに夢中になり、弟の許に戻るのが遅れたのだ。ちなみにハムスの肉は物凄く不味い。
「オーシグルはもっと深い森の奥とか、アルティアのダルの森辺りに出るんじゃなかったのか?」
「獲物を取り尽くして、餌が無くなったんじゃないの。見かけるようになったのもここ一、二年のことで、特に最近は数が多くなってるみたいだけど」
ショウの疑問に気のない返事を返し、エルドはさっき気になった事を改めて訊き返した。
「それで、さっきの話だけど、川がどうかしたのかい?」
「あ、ああ……」
嫌な事を思い出し、ショウは再び落ち込んだ。
「——俺達、ある所に行くために川を遡ってるんだ。エルティアに川があるなら、そこを遡ろうと思ってたんだよ」
この知り合ったばかりのエルティアの姉弟に、何処まで事情を話していいものか。思案しながらショウは言葉を継いだ。
「だけど、こいつに無いって言われて、川を探してまたあの森の中を行くのかと思うと——」
「ショウ……」
森の中で疲労困憊になったショウの姿を思い出し、アルフィーネも
「そのある所って、川を遡らなきゃ行けない所なのかい?」
「どうだろう……? ただ今の処、手掛かりはそれだけだからな」
取りあえずヴィルドヒルに辿り着く為には、川はなくてはならない。たとえオーシグルが
「ふ~ん」
ショウの何やら訳ありっぽい様子に、エルドは顎に手を添えて考え込んだ。
「じゃあさ、あんた達お婆様に会ってみない?」
「お婆様?」
「そう、あたし等の
「そうだぜ、ちょっと性格がアレだけど」
「え?」
——この二人、女神ヴァンデミーネの巫女を知っているのか?
驚くショウに、エルドは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「どうだい? 闇雲にオーシグルの群れる森の中行くよりは、よっぽどいいと思うけど」
「そうだな……」
ヴィルドヒルのある場所を調べた神話の中に、必ず出てきたこの世界の神の一柱。清風の化身であり知識の神と
「じゃあ、そのお婆様って人に会わせてくれ」
「いいよ。でも今日はもう遅いからね。出発は明日の朝だよ」
食べ終わった枝を焚き火に放り、エルドは立ち上がった。