アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅲ ―ケリアの邑(2)―

 エルティアの者達に一斉に目を向けられ、ショウはばつが悪そうに視線を反らした。

 エルドにも言われていたが、やっぱり自分がやった事は、大の大人が驚愕する程に普通じゃあり得ない非常識な事だったらしい。

 そこへシグが何故か得意そうに、その理由(わけ)を説明する。

「兄貴はおいらを助けてくれたんだよ。あのオーシグル相手に一歩も退()かないで、ばっさばっさと斬り(たお)してさ。すげぇ、かっこ良かったんだぜ」

「ほほぅ、成程な」

 と、頷いたバサムはおもむろに堅く拳を握り締め、思いっ切りシグの橙色の頭に振り下ろした。

 ゴツッと凄い音がして、シグが頭を抱えてしゃがみ込む。

 それを後目(しりめ)にバサムはショウに向き直った。

「どうやら同胞が世話になったようだな。礼を言おう、ソルティアの少年よ」

「え、いや……」

 物凄く痛そうにしているシグを、ショウは何とも言えない表情(かお)で見やった。

 やはりシグは大人にも独りで森の中に入るなと言われていたのだろう。

 今のは言い付けを破った事に対するお仕置きに違いない。とはいえ、問答無用で拳骨一発とは、何とも豪快なやり方だ。

「たまたま見かけて、それでつい——」

「つい、助ける為にオーシグルの群れを潰したのか。ヌルルの実も持たずに。凄いな、お前」

 族長の傍らにいた若者は、色々な意味で感心したような声を上げた。

「別に凄くなんか。二、三匹は逃げてったし、結局俺もエルドに助けて貰ったし……」 

 そうだ、あれは単に運が良かっただけに過ぎない。自分の力だけでは無理だったのだ。向こう見ずと呆れられても仕方なかった。

 だが、ケリアの若者は首を横に振った。

「いや、見ず知らずの子供のために、躊躇せずあのオーシグルの群れに向かってったのが凄いんだ」

「命知らずだってか?」

「違う、その歳で男として為すべき事を、逃げずに成そうとした事がだ」

 自嘲気味に言うショウに、ケリアの若者はきっぱりと言った。

 普通は頭で判っていても、それを行動に移すのは難しい。何の準備も無しにでは尚更だ。

「俺からも礼を言う。こまっしゃくれたガキだけど、死ぬにはまだ若すぎるからな」

 と、苦笑気味に頭を抱えて涙目でうずくまっている少年を見やる。

「エルティアじゃ、他の部族の子供でも関係ないのか?」

 フォルドの知識では、部族ごとに分かれて暮らしているエルティアの民は、一部族一家族的な処があり、同じ部族ならばお互い家族同然の扱いをする。

 だが、他部族ではそうはいかない。きちんと区別している筈だ。それがこの若者や族長の様子だと、やけに親しい。

「ああ、確かにエルド達は他部族だけど、ネヴィラの森で狩りをする時はうちの邑に厄介になるからな」

 それで自然と遠慮が無くなり、今では他部族でも家族同然のようになっていた。

「そうだ、まだ名乗ってなかったな。俺はダムアだ」

 ケリアの若者はそう言ってニヤリと笑うと、挑戦的な目をショウに向けた。

「どうだ、一つ俺と勝負しないか?」

「へ?」

 いきなりの提案に、ショウは呆気に取られた。

「オーシグルの群れを潰した腕がどれ程のものか、見てみたいからな」

 獰猛な森の蛮人の群れに単身突っ込んで行くくらいだから、余程好戦的な性格だと思われたのか、ファイティングポーズを取り、ダムアが挑発する。

 ——えぇ…、別に好きでやった訳じゃないんだけど……

 できれば遠慮したい。切にそう思うショウだった。

 だが、暇人が多いのか、それとも娯楽が少ないのか、ダムアの声を聞きつけた邑人達がわらわらと二人の周りに集まって来た。

 わくわくと期待に満ちた目を二人に向けてくる。

 とても断れる雰囲気じゃない。

「ショウ……」

 アルフィーネが不安そうにショウを見た。

 エルドは頭を押さえたままの涙目のシグ共々、面白がって見ているだけだ。

 族長のバサムも興味深そうに腕を組み、止めてくれそうになかった。

 ハァっと嘆息し、ショウは諦め顔でダムアを見返した。

「少しだけなら」

「よし、じゃあここは人が多くて手狭だからな、外に行こう」

 集まった邑人達を見回し、ダムアは邑の外に向かって歩き出した。

 ——この邑、暇人多過ぎだろ。

 げんなりしてショウもその後に続く。

 そして、二人を追うように見物人の邑人達もぞろぞろと付いていった。

 

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