アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅲ ―勝 負(2)―

 呼吸を整え、今度はショウから仕掛けた。

 鋭く踏み込み、袈裟懸けに剣を一閃させる。

 軽く後ろに跳んで、ダムアが難なくそれを避ける。

 その瞬間、更にショウは前に踏み込み返す刃を横薙ぎに振り払った。

「っと」

 咄嗟にトンボを切り、ダムアは辛うじてその斬撃を(かわ)した。

 そして、着地と同時に剣を振り切ったショウに向かって地を蹴った。

 一足飛びにショウに迫る。

 勢いのまま体を弓なりに()()らせ、組んだ両拳をショウの頭に振り下ろす。

 体を返している暇はない。

 ショウは横っ飛びに地に転がった。

 一瞬前までショウが立っていた地面にダムアの拳がめり込んだ。

 あれを喰らったら、絶対ただでは済まない。

 ——遊びじゃなかったのかよ。

 心の中で毒づき、すかさず立ち上がってショウは剣を構えた。

 だが、このままではじり貧だ。

 相手の素早い変則的な動きに、この鞘付きの剣では重すぎてついていけない。

 どうしてもダムアの動きに遅れを取ってしまうのだ。今のように。

 ——どうする?

 気の進まない勝負だったが、やる以上負けたくはなかった。

 何かないかとショウは周囲に視線を走らせた。

 邑人の一人が手に細長い棒を持っているのが見えた。

 ——あれだ。

 今にも跳び掛かってきそうなダムアを制し、ショウは訊いた。

「ちょっと待った。剣替えてもいいか?」

「ああ、別に構わんが」

 あんな長めの剣などこの邑には他にない筈だが、何と替える気なのだろう。

 構えを解いたダムアは訝しそうにソルティアの少年を見た。

 ショウは剣をアルフィーネに渡すと、さっき見つけた棒を持つ邑人に足を向けた。

「その棒、ちょっと貸してもらえないか?」

「はへ?」

 意外な頼み事に、薄い赤茶の髪の邑人はきょとんとして自分が手に持つ棒を見た。

 長さ一フィノ半程のこの棒は地面を叩いて音を出し、家畜のヌゥートを柵の中に追い込む時に使う、なんの変哲も無いただの棒だ。

「いいけど、こんなの剣の代わりになるのかね」

「ああ、これで十分だ。ありがとう」

 受け取った棒を軽く振って握り具合を確かめ、ショウは礼を言った。

 少し長いが棒の太さといい、重さといい、昔使っていた竹刀に似ていて実にしっくりくる。

 ショウは棒を両手で持つと、右腕、腰、右足と右半身を揃えるように前に出し、棒の先端をダムアに向けて中段に構えた。

 ——構えが変わった……?

 ダムアは微かに眉を(ひそ)めた。

 前に出た右半身が構えた棒にぴったりと重なり、仕掛ける隙が無くなった。

 試しに右に回り込んでみるが、その動きに合わせてショウも一定の距離を保ったまま円を描くように動き、棒の先端はダムアから一瞬たりとも外さない。

 反対に回り込んでも同じだった。

 迂闊に仕掛ければ、反対にやられかねない。

 構えた棒の向こうで、静かに自分の一挙手一投足を見据える蒼い瞳が、ダムアに自分から仕掛ける事を躊躇(ためら)わせていた。

 つと、ショウが一歩前に出た。

 刹那の瞬間、更に深く踏み込む。

 同時にショウは構えた棒を気合いと共に鋭く振った。

 ダムアの頭上に棒の先端が打ち下ろされる。

「っ!?」

 すんでのところでダムアは横に跳び退いてそれを回避した。

 躱されたショウはくるりと体を返し、また先程と同じ構えを取った。

 棒の先端をピタリとダムアに向け、機を窺うようにゆっくりと弧を描いて移動する。

 それに合わせて動きながら、ダムアは舌を巻いていた。

 変則的な緩急合わせた動きと、変幻自在にどんな体勢からでも繰り出せる手数の多さで、敵を圧倒して倒すのがエルティアの体術だ。

 それに比べ、こいつは直線的で判りやすい動きなのに、静から動への切り換えが半端なく速い。見えていたのに、危うく脳天に一撃喰らうところだった。その後も直ぐ横をすり抜けていったのに全く手が出なかった。最初の鞘付きの剣を持って見せていた動きとはまるで別物だ。

 ——ひょっとして、これがこいつ本来のスタイルなのか?

 勝負を持ちかけたのは好奇心からだった。あの森の蛮人を凌ぐ程の力がどれ程のものか見極めるつもりだった。

 だが鞘付きの剣を見た時、勝負は直ぐに着くと思った。なのに、こいつは自分の攻撃を避け切った上に反撃までしてきたのだ。

 面白いと思った。だから直ぐに終わらせるのは惜しいと、何処までやれるのか見たかった。

 だけど得物を替えただけで、ここまで動きが違うとは。舐めて掛かると手酷い目に遭いそうだ。

 気持ちを切り換え、改めてダムアはソルティアの少年に相対した。

 

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