晶が寝かされていた部屋は二階だった。その眼下に広がる風景を一言で表現するなら「楽園」という言葉がぴったりだろう。
よく手入れされた庭園には色とりどりの様々な花が咲き乱れ、その中を甘やかな匂いに誘われて舞うように優雅に蝶達が飛び交う。その合間を縫うように白い石畳を敷き詰めた小道が楽園の中に優美な模様を描いて伸び、中央を流れる小川の
夢のような光景に、晶は暫し茫然と見入っていた。
おもむろに頬を指で摘まみ、思いっ切りつねる。
「いててっ」
頬を押さえ、晶は呻いた。
「…って事は、やっぱりこれは夢じゃない……」
晶はもう一度、窓の外に広がる楽園を見渡した。
これが夢でも幻でもないなんて、ますます訳がわからない。
こうなったら、ここが何処か独りで悩んでいるより、誰か人を捕まえて訊いた方がよっぽど手っ取り早いかも。
だが、目が覚めて今まで結構時間が経っているが人が来そうな気配はないし、ここは自分で探しに行った方がいいのかもしれない。
「そうと決まれば——」
晶は窓を離れ、自分の学生服を探してそろそろと部屋の中を歩き回った。
今晶が着ているのは、誰が着替えさせてくれたのかは知らないが、サイズがぴったりの光沢のある薄い水色のパジャマらしき代物だ。このままの格好で外をうろつくのは流石に気が引ける。祖母にも『身だしなみは心の鏡だからね。人前に出る時はきちんと整えないと品性を疑われるよ。それにだらしない格好だと相手に侮られるからね』と常々言われていたし。
とはいえ、いくら探しても学生服は何処にもない。あったのは、アンティークな造りのワードローブの中に十数組の衣装だけである。それもこの部屋のTPOに
——このままで出歩くのと、これを着て行くのと、どっちがより恥ずかしいだろう?
腕を組んできっかり二分間悩んだ末、晶はワードローブの中のひと組の服を取り出した。
濃紺に銀糸の縁取りのあるこの中では比較的地味なベストのやつだ。白の長袖のシャツにベストと同色のズボンを履き、その上に先ほどのベストを着込む。靴はやはり自分のやつが見当たらないので、ベッド脇に置いてあったそれを借りて履く。
この部屋の主は余程晶と背格好が似ているのだろう。どれもまるであつらえた様にぴったりだった。支度を整え、脱いだ服をワードローブに代わりに掛けておく。
似合わないだろうけど一応確認したくて鏡を探したが、それらしき物が何処にもないので、仕方なくそのまま部屋を出た。
そこにまた部屋があった。中は広くゆったりとした造りで、落ち着いた色合いの家具や調度品が並び、窓寄りの中央には重厚なテーブルと革張りの椅子が置かれてあった。さっきの部屋が寝室としたら、ここは居間といったところか。なかなか居心地の良さそうな部屋だった。
向かって左側と正面に扉がある。
晶は取りあえず、近くの左側にある扉に手を掛けた。
だが、びくともしない。どうやら鍵が掛かっているらしい。だが、開け方が分からない。
仕方なく壁や家具を伝うようにゆっくりと部屋を横切り、正面の扉に向かった。
扉に手を掛けると今度はすんなり開いた。
その先も部屋になっていて、さっきの部屋と違い簡素な造りになっていた。中にある家具も木製の机に椅子だけだ。
——どれだけ部屋があるんだよ。
げんなりして晶は中を見回した。左手奥に扉がある。
今度こそと、晶は部屋同様簡素な造りの扉の前に立った。
ここも鍵が掛かっていた。が、さっきの扉とは違い、こちらは少し複雑な造りだが、いわゆる
晶はそれを苦労して開けると、ようやく部屋の外に出ることができた。