捜索に向かう騎士が一人になったところを捕まえ、フォルドの行方を吐かせる。
一人目は知らなかったが、二人目で隣国に向かう為に東に向かったらしいという事が判った。
林の中に二人の遺体を埋めて隠すと、早速サウアー達は東に向かおうとした。
一角獣に飛び乗り、手綱を引いて体を返す。
それをゲッシュは制した。
「何処へ行く?」
「何処って、フォルド様を追って東に——」
「ならば、何故あの道を行かない」
と、ゲッシュは応えるクノックの言葉を遮り、くいっと顎でダルの森の方を示す。
鬱蒼とした森の脇に、草が伸び放題でもはや道だった面影が僅かに残るのみとなった元公路が東に向かって伸びていた。
フォルドが行方を
「馬鹿を言うな。あの道はダルの森同様危険なのだぞ」
その意味するところはゲッシュが一番よく知っていた。なにしろ彼はアルティアの商隊の護衛の一人としてダルの森を抜ける途中、普通よりも二回りも大きな個体が率いる通常の群れの数倍に匹敵する数の
荷物に香油や香木などの匂いの強い商品を多く積んでいた為、その匂いがオーシグル除けのヌルルの実の臭いを中和してしまった所為だと思われる。
そして、その商隊で生き残ったのはゲッシュ一人だった。それも瀕死の重傷を負って。右目から頬に掛けての傷痕は、その時負ったものだ。
彼が助かったのは商隊の取引先が手厚く面倒を見てくれたお蔭だった。それを指示したのが、懇意にしているその商人からゲッシュの話を聞いて、興味を持ったマクアークだったのだ。
「だからなんだ。単に脇を通るだけだぞ」
道は草がぼうぼうで整備されてないとはいえ、見通しが悪いわけじゃない。脇の森から襲って来ても直ぐに対処できる。それに商隊のように大荷物を抱えてのろのろと行くのではなく、足の速い一角獣で一気に突っ切るのだ。同じ危険でも森の中を行くより遙かに安全だった。
「通るだけでも、そのような危険な道、サウアー様を行かせる訳にはいかない」
強固にクノックは反対した。
万が一にも何かあったらどう責任を取るつもりか。というより、全責任は自分が取らせられるに決まっている。そんな貧乏くじ絶対引きたくない。
「成程、所詮はお坊ちゃんと言うことか」
「何だと貴様っ」
「違うのか? 整備された安全な道しか歩けないお坊ちゃんには、荒れた道は無理という事だろ」
小馬鹿にされて憤然とするサウアーを、更にゲッシュは嘲った。
「おのれっ!」
完全に頭に血を
瞬時にそれに反応し、ゲッシュは鞘走らせた剣でそれを受け止めた。
「フォルド皇子を
「ああ、先に貴様を殺ってからなっ」
殺気立ってサウアーが吐き捨てる。
ゲッシュはチラリとクノックに視線を走らせると、皮肉げな笑みを閃かせてサウアーの一角獣の腹を思いっ切り蹴った。
いきなり腹を蹴られた一角獣は驚きと痛みに竿立ちになる。
「うぉっ!?」
片手で手綱を握っていたサウアーは体勢を崩し、そのまま地に投げ出された。
「俺に付いて来れたら相手をしてやろう」
地に転がるサウアーを見下ろしてそう言い捨てると、剣を鞘に収めたゲッシュは手綱を取って一角獣の脇腹を蹴った。
その場にソルティアの主従三人を置いて、ダルの森に向かって駆けていく。
「許さんぞっ、下郎風情がっ!」
バッと跳ね起きると、サウアーは興奮する自分の一角獣を
「サウアー様っ」
慌ててクノックが呼び止めるが、激昂するサウアーの耳には届かない。
目を血走らせ、サウアーは先を行くアルティアの男を猛追する。
こうなっては付いて行くしかない。
クノックとアガスは急いで各々一角獣に跨がると、先に行く二人に置いて行かれまいと必死になった。
時たま公路に飛び出してくる猛獣を斬り捨てるアルティアの男と
―とある苦労人従者の心の嘆き―
『あの野郎、なんか俺に恨みでもあるのか? ことある事にサウアー様を刺激して。
サウアー様もサウアー様だよ。あんな安い挑発に簡単に乗るんだもんな。
いいよな、サウアー様は。何かあっても全部こっちに丸投げで済むんだから。その後始末するこっちの身にもなって欲しいよ。
ったく、親父もロクでもないヤツを付けてくれたもんだよ。確かに腕は立つけど、性格に難があり過ぎるだろ。
弟は全然頼りにならないし、何で俺だけ苦労しなきゃならないんだ。
最近やたらと毛が抜けるし、胃がシクシク痛むんだよなぁ。
はぁ、このまま段々頭の毛が寂しくなって、親父より先に禿げるなんて事は——
うっ、また胃が痛くなってきた』