サウアー達四人がフェデルの出城近くにあるテルヌス湖に辿り着いたのは、先に出発していたレグナント達より二日近くも早かった。やはり、ダルの森沿いの道を抜けた分かなり距離を稼げたらしい。
そして、一人も欠けなかったのは、何とかサウアーを
湖畔の町に着いた早々の聞き込みで、四人は新たな情報を得ることができた。
フォルドらしき者を見たという話は無かったが、
その少女の髪がエルティア近辺では珍しい茶系統の色だったので、少女に地図を売った商人が覚えていたのだ。
その情報を元に、サウアーは従者兄弟と共にルナーバ河近辺で、エルティアから流れ込んでいる唯一の川の岸辺にいた。
葦がガサガサとさざめいた。
一人の男がその中からぬっと顔を出す。月のような丸い顔に、小さい目と団子のような鼻に横長の唇が、平凡の見本市のように並んでいる。サウアーの従者の一人アガスである。
その手には見事な装飾の馬具一式があった。
「サ、サウアー様、こ、これを」
と、アガスは自分の持つ鞍の前輪の中央部分をサウアーに見せる。
優美な彫金が施されたその中央に、太陽と剣を模した意匠のソルティア王家の
「確かこの近辺の人家の者が数日前、この辺りで毛並みの良い野生の一角獣を二頭見かけたと話しておりました。捕まえようとしたら西の方に逃げて行ったということです」
クノックがその理由を裏付けるように補足する。
「フォルドめ、とうとう見つけたぞ」
やっと掴んだ手掛かりにサウアーは顔を歓喜に染める。
だが、これだけではまだフォルドが何処へ行ったかまでは判らない。
そこへ川の上流から戻って来たゲッシュがぶっきらぼうに言った。
「この先にある森に、人が分け入った跡があった」
と、川の上流を顎で示す。
その先は水に濡れて滑りやすい岩場が続き、一部崩れた所もあって危険だった。余程の物好きでなければ、地元の者でもここを通ろうとは思わないだろう。
「まさか……」
ここに来るまで、フォルドらしき者を見たという話は全く聞かなかった。そして、さっき見つけた捨てられた王家の馬具に、目撃された野生の一角獣。それに加え湖畔の町で得た情報。それらを考え合わせれば、答えは一つだった。
フォルドは人目を避け、この川の先にある森を通ってエルティアに向かったのだと。
「よし、直ぐに後を追うぞ」
「ならば、この実を潰して体に塗れ」
サウアーの足許にバサリと実の付いた枝を放り、ゲッシュはぞんざいに言った。
「なんだこれは?」
「ヌルルの実だ。未成熟だが、無いよりはマシだろう」
「ヌルルの実?」
ゲッシュの説明に、ソルティアの主従三人は怪訝な表情になる。
それは森で生きる者でなければ不要な知識だ。知らなくて当然だった。
ゲッシュが面倒臭そうに説明を加える。
「
「オーシグル!?」
見たことは無いが、一応知識だけは持っていたクノックは目を剥いた。
「それが、その森に居ると言うのか!?」
「知らん」
素っ気なくゲッシュが応える。
「だが、近年奴等は森なら何処にでも姿を現わすようになった」
用心するに越したことはない。
言われてみれば確かにそうなので、従者兄弟は枝の実を一つ取って指で潰してみた。
硬いかと思ったら意外と柔らかく、潰した実から汁が飛び散る。
途端に刺激的な悪臭が鼻を突いた。
「うぐっ」
余りの臭さにクノックとアガスは慌てて潰した実を放り投げた。でも、汁が付いた指がまだ猛烈に臭い。
傍にいたサウアーが鼻を押さえて顔を
臭くて堪らず、慌てふためいたアガスは自分の服でそれを拭い、クノックは脱兎の如く川に走り寄り、水で何度も指を洗う。
「こんなもの、体に塗れるわけがないだろう!」
「では、オーシグルの餌になるのだな」
そう突き放すと、ゲッシュは体を返した。
その背には何時の間にか、一角獣に括り付けてあった自分の荷物を背負っている。
手に持っていたヌルルの実を握り潰し、体にそれを塗りながらゲッシュは川の上流を目指した。
フォルドを追い、請け負った依頼を果たす為に。
「ま、待てっ」
奴を先に行かせる訳にはいかない。フォルドを
そして、この手にソーレスを取り戻す。
その一念でサウアーは悪臭の元である枝の実をもぎ取り、アルティアの男の後を追った。
慌てて一角獣から自分達の荷物を降ろして背負うと、クノックとアガスは嫌そうにヌルルの実の付いた枝を拾い上げる。
——
そう確信しながら従者の兄弟は、心底情けない