「っ!?」
陰鬱とした森の中、下生えの繁みを搔き分けた向こうには、凄惨な光景が広がっていた。
血の染み込んだ赤黒い土の上に大型の獣の死体がそこここに転がり、そのどれもが食い荒らされて皮と骨だけになっている。骨に僅かにこびりついた肉は腐臭を放ち、羽虫がその上を飛び回っていた。
「なんなんだ、これは……」
鼻と口を覆った布の上を更に手で押さえ、自分達が
その後ろでクノックとアガスは、顔を
「オーシグルだ。殺されて数日といった処か……」
剣を手に死体を検分し、ゲッシュは立ち上がった。
切断された骨の具合から、これらは皆剣の一撃で
森の蛮人と恐れられていても、死んでしまえば只の肉の塊。他の肉食獣にとって餌に過ぎない。それが自然の摂理というものだ。
これらを斃したのはおそらくフォルド皇子だろう。エルティアの者ならば短剣と弓を使う。このように骨を切断することはまず不可能だ。
これで正しく標的の後を追えていると判ったが、問題はこの先だった。
不意に、ザっと横手の繁みから黒い影が飛び出してくる。
瞬時に体を返し、ゲッシュは手に持つ剣を袈裟懸けに一閃させた。
断末魔の吼え声と血飛沫を上げながら、それがどうと地面に転がる。
次いで横に飛び退き、飛び出してきたもう一頭の牙を躱す。
躱された獣はそのままゲッシュの後ろに居た男へと向かう。
「サウアー様っ!?」
従者兄弟が悲鳴を上げる。
サウアーは佩剣を引き抜くと同時に、眼前の獣に向かって横薙ぎに振り切った。
跳びかかった獣は腹を斬り裂かれ、
すかさずサウアーはその頭蓋骨に剣を突き降ろして止めを刺した。
「貴様、わざと避けたなっ」
獣の頭から剣を引き抜き、サウアーは憤然とアルティアの男を
それを無視し、ゲッシュは
「何処へ行く!?」
「ここを離れる。
今自分達を襲ってきた薄茶と黒の斑模様の大型四足獣がそれだ。獰猛で一度狙った獲物は決して逃さないと言われている。大型の癖に足音を立てずに忍び寄り、死角から襲い来る。
普段は単独行動をするが、今はこの惨状から見て、かなりの数がこの近辺に集まって来ている筈だ。
この二頭で打ち止めとは思えない。新たな鮮血の臭いを嗅ぎつけ、直ぐここにまた何頭も集まって来るだろう。
オーシグル除けのヌルルの実の臭いは、バルザームに余り効果はない。できるだけ早く奴等が来る前にここを離れなければ、この後も延々とバルザームの相手をすることになる。
さっきサウアーに一頭相手をさせた隙に辺りを見回したが、オーシグルの死体を喰い散らかした獣がこの辺りを踏み荒らした所為で、自分達が来た方向以外人が通ったらしき跡はなかった。
もっと詳しく調べれば見つけられるかもしれないが、時間が無い。今この森の中は流れた大量の血に肉食獣達が興奮し、何時もより手が付けられなくなっているのだ。
こんな中を標的の足取りを探して
そう即座に判断したゲッシュは、サウアーが馬鹿な事を言う前に元来た道を引き返し、川沿いに森を抜ける事を選んだ。