雨を降らせた雲が緩やかに流れていき、醒めるような蒼空が顔を出す。
西のアルティアとの国境の手前にある町の郊外に広がる田園の向こう、こんもりと雑木林が陽の光を浴びてキラキラと濡れた葉を輝かせていた。
乗って来た一角獣の手綱をその手前で待っていた部下の一人に預け、グレントは案内の騎士の後に付いて険しい表情のまま雑木林の中に足を踏み入れる。
暫く行くと粗末な小屋が見え、その近くに更に数人の騎士たちが堅い表情をして騎士団長の到着を待っていた。
その足元には今しがた掘られたばかりの細長い穴が開いている。
待機していた騎士の説明を待たず、グレントは穴の中を覗き込んだ。
そこには両手両足を縛られた下着姿の男が横たわっていた。
だが平民ではない。後ろ手に縛られた掌に剣を扱う者特有の
騒がれずに始末する為か、背中から心臓を一突きにされている。
この時期は湿度や気温が高く、埋められていたとしてもかなり腐敗が進んでいた。もう少し発見するのが遅かったら、この姿では誰だか判別付かなくなっていただろう。
ここは皇子が失踪した際に真っ先に捜した後、この時期誰も寄り付かないとして放置されていた場所だ。遺体を隠すには打って付けだったに違いない。
自分達にとっても盲点だったが、それは裏を返せば、犯人に繋がる重要な手掛かりでもあった。
「皇子が失踪した辺りから見掛けるようになった者が居ないか、そしてそいつ等は何時頃見掛けなくなったか調べろ」
それだけ指示を出すと、グレントは
後は連絡待ちである。もう一人の行方不明者もじきに発見されるだろう。おそらくは遺体として。
ネールの出城の一階、自分の執務室で両腕を組み、座る椅子の背もたれに身を預けてグレントは、眉間に深い
執務室の扉を慌ただしく叩く音がする。
「入れ」
目を開け、グレントは背もたれから身を起こした。
「失礼します」
入って来た若い騎士は、沈痛な面持ちで要件を告げる。
「もう一人の行方不明の騎士——ベルスの遺体が見つかりました」
「場所は?」
「一人目のロメイルの遺体発見場所から東に二十フィノ離れた雑木林の奥です」
やはり装備を剝ぎ取られ、正体を判らなくして殺されていた。
一か所に遺体を埋めなかったのは、分散させて捜索の攪乱を狙ったというより、手間を省くため、殺したその場に埋めたと考えるのが妥当だろう。
——だが、何の為に騎士を襲い、殺したのか……
理由が判らない。判るのは、下手人がかなりの手練れだという事だけだ。
暗金色の髪を短く刈り上げた頭を無造作に撫でつけ、グレントは深い溜息をついた。
「二人は埋葬し直して丁寧に弔ってやれ。それと皆には引き続き二人の装備品を探すように言っておいてくれ。それに犯人の手掛かりがあるかも知れんからな」
「判りました」
騎士団長の命令に生真面目に返事を返し、若い騎士は出て行った。