アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅴ ―邑の跡地―

 ウィドの(むら)を目指してケリアの邑を出発したショウとアルフィーネは、エルドの先導で道なき草原の中を、ひたすら登る太陽を横目に一角獣を駆けさせた。

 ざっと風が吹き抜ける度に緑の海原が波打ち、その中を岩々が島のように点在するのが見える。

 たまに獣の頭らしきものも見えたが、一角獣の速度に追いつけないそれらが寄ってくる事は無かった。

 太陽が沖天(ちゅうてん)に差し掛かった頃、前方の草原の中に丸太を組み合わせた柵のようなものが見えてきた。

「あそこで休憩するよ」

 そう言いながら、エルドが一角獣の速度を上げる。

「あ、ああ」

 何も無い草原の中に何故あんなものが? 

 と、疑問に思いながらもショウはそれに続く。

 着くとそれは、どことなくケリアの邑の周りにあった柵に似ていた。

「なあ、ここって……」

「マドラの邑の跡地だよ」

「跡地?」

「そ、おいら達は今頃の季節に邑を移動させるんだ」

 額と頭の両脇に三本の小さな角を持つ動物の横顔の紋章が刻まれた門の柵の扉を開け、さっさと一角獣を連れて中に入った姉の代わりにシグが応えた。

 本格的に暑くなる前にエルティアの民は皆北方の涼しい地域へと移動する。それは主な家畜であるヌゥートが暑さに弱いことと、餌となる草の為であった。同じ場所の草ばかり食べさせると芽が出なくなり、その土地が荒れてしまうからだ。

 家畜の為に邑ごと引っ越すとは、何とも豪快なお国柄である。

 実はケリアの邑も夏場の跡地を整える為に既に先発隊が移動していた。あそこに残っていたのはエラドラに頼まれ、エルド達が戻るのを待っていた者達だ。今頃彼等は支度を調(ととの)えて北に向かっている頃だろう。

 中はケリアの邑と殆ど変わりなかった。中央に位置する広場の真ん中に井戸があり、広場の周囲に立ち並んでいた天幕(いえ)の跡だろうか、天幕の布が剥ぎ取られて骨組みの太い丸太だけが等間隔に地面に突き立っていた。

 流石に移動した後だけあって、色とりどりの天幕が林立して人の賑わいを見せていたケリアの邑に比べると、随分と寂寥(せきりょう)として見える。

「こうやって柵や支柱を残しておけば、また秋にここに戻ってくる時楽だろ」

 目印になるし、野生の獣から邑の(かなめ)の井戸を守ってくれる。

「まぁな。——けど、勝手に入っていいのか?」

 シグと共に既に中に入ってしまった後だったが、心配になってショウは訊いた。

「そこはきちんとすれば、誰も文句なんか言わないよ」

 こうやって邑の跡地を安全な休憩地として利用するのはお互い様なのだ。

 エルドが井戸の蓋を開け、桶に汲んだ水を一角獣に飲ませている。

 ショウもそれに倣い自分が引いてきた一角獣に水をやる。

 その間にアルフィーネが、荷物から今朝ケリアの女性から貰った弁当の包みを取り出していた。

「なぁ、エルド」

 食事が済み、食後の香草茶を飲んで一息ついた後、ショウは昨日からずっと疑問に思っていたことを口にした。

「お前、俺達、いや俺の事ホントは知ってるんじゃないか?」

 正確にはこの体の正体についてだ。

「なんでそう思うんだい?」

「何となく。ダムアが俺のこと詮索した時とか、ケリアの族長との話とか、色々と意味ありげにしてただろ」

「まあね」と、エルドは軽く肩を竦めた。

「でも、あたしはお婆様に頼まれただけだから。ネヴィラの森にソルティアからの客人が二人来るから迎えに行けって。それとそいつらの素性を人に詮索させるなってね」

 みんなお婆様に言われた通りにしただけで、それ以外は何も知らないと。

 それで数日前からシグとネヴィラの森に行き、そこでやって来る筈の二人を探すついでに狩りをしていたのだが、まさか弟を助ける為にオーシグルの群れに突っ込んでいたとは思わなかった。

 ただ、最初ソルティアの者が二人だと思っていただけに、アルフィーネを見て驚いたが、彼女の話を聞いて間違いないと確信したのだ。

「おいら、そんな話聞いてないぜ」

「あんたは思った事すぐ表情(かお)に出るだろ。それに口が軽いし」

 それではケリアの詮索好きの女連中にすぐばれてしまう。問い詰められたら、あっさりとべらべら喋ってしまうだろう。

「あたしはケリアの族長にしか話してないよ」

 初耳だと文句を言う弟に、エルドはしれっとして応えた。

「そのお婆様って、一体何者なんだ?」

 何もかも見透かされているようで、ショウは薄気味悪かった。

「言っただろ。この世界(アーサス)の事なら何でも知っている女神ヴァンデミーネの巫女。エルティアの力の宝石(いし)暁の星(エルーラ)〉に選ばれし者さ」

「エルティアの力の宝石(いし)……」

 ショウはギクリとした。

 一瞬背中のソーレスの紺碧玉の事が頭を()ぎる。

 神々からもたらされた、この世界に四つしかない力の宝石(いし)。フォルドの他にその宝石に選ばれた者が、自分がこの国(エルティア)に来る事を知っていたのは果たして偶然だろうか。

「まぁ、全てはお婆様に会えば判るさ」

 と、話を締め括り、エルドは出発の支度に取りかかった。

 焚き火をしっかりと消し、桶を片付けて元通りに井戸に蓋をする。柵の扉も中に獣が入れないようにきっちりと紐で結び直しておく。

 ついでに壊れた所が無いか、ぐるりと柵の周りを確認すると、四人は再び一角獣に乗ってウィドの邑に向けて出発した。

 

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