ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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14(実馬編) 菊花賞

 そして、菊花賞の日がやってきた。

 

『アッシュブライド』

『ネオユニヴァース。わかったよ誠意のある走りってなんなのか』

『そう。でも今は聞かない。レースで示して』

 

 ネオユニヴァースはそう言ってぼくから離れていった。

 

 そうだよね。ぼくがしてきた勝つ気がない“誠意のない走り”は、全力で走っている仲間たちを否定することだった。

 だからネオユニヴァースが言うように、『レースで示す』よ。

 今日は、勝つ。

 

『目が変わったな』

 

 気合いを入れ直したぼくの下に、ネオユニヴァースではない別の馬がやってきた。

 弥生賞、日本ダービー、そして先日のセントライト記念で走ったコスモインペリアルだ。

 

『なるほど。牡馬に言われて気づけたという訳か』

『ボバ?』

『我を笑わせるにしてももっと上等な冗談があるだろう? そのような乙女の顔をしておきながら……え、ほんとに?』

『ボバとかヒンバとか、たまに厩舎のみんなが言ってるけどなんなの?』

『うっそだろう!? 汝は性別も理解せずに生きてきたのか!?』

 

 よくわかんないけどすごく馬鹿にされてる気がする。

 ちょっとムカムカしてきた。

 

『そんな不機嫌になるでない。我が手取り足取り牡馬と牝馬というものを教えて……やろうと思ったがやめておこう。……向こうで睨んでくるやつもいることだしな』

『えっ、ネオユニヴァースのこと?』

『その何も知らない無垢な恋情を我に向けさせてもみたいが……冗談だ冗談。今にも蹴りますなんて顔をするでないわ』

 

 訳のわからないことを言うだけ言ったらコスモインペリアルは去っていった。

 代わりにネオユニヴァースがまたやって来る。

 

『……大丈夫? 何もされてない?』

『別に何もされてないよ?』

『そう。ならよかった。じゃあレースで』

 

 そしてネオユニヴァースはまた離れていく。

 

 なんか、ぼくのわからない攻防が行われているっぽい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14(実馬編) 菊花賞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートの中で、他の馬の準備を待っている最中。

 

「今日も頑張ろうね」

 

 うん。と人間の言葉で伝えることはできないので代わりに嗎きで応える。

 

 

 

 ネオユニヴァースに許してもらうために、ぼくはこの菊花賞で必ず勝つ。

 

 もうネオユニヴァースに並んだからといって足を緩めたりしない。

 もうネオユニヴァースを見るために後ろにつけ続けたりしない。

 

「そろそろだよ」

 

 ヨツハチャンもやる気のようだ。

 

 これまでごめんね。今日はそのやる気に応えてみせるから。

 

 

 

 そして──ゲートが開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートが開いた直後、如月はいつもと明らかに違う感覚になりました。

 

「もしかしてアッシュちゃん、緊張してる?」

 

 アッシュブライド号の背から伝わってくる揺れがいつもより不自然なのです。

 滑らかに地を蹴っているいつもとは違い過剰に力を込めて走っているのがわかりました。

 

「落ち着いて。いつも通り、いつもの位置につけるよ」

 

 手綱を繰って前に行こうとするアッシュブライド号をいつもの位置に移動させようとしましたが中々いうことを聞きません。

 

「わかるよ。アッシュちゃん今までより張り切って練習してたよね。けどこのペースじゃスタミナが持たないから」

 

 無理にいうことを聞かせようとするのではなく、優しく手綱を引きます。

 

 すると少しずつ揺れがいつものように自然になっていくのを如月は感じました。

 

「うん。練習してきた通りにやれば勝てる。このままついていくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。少し落ち着いた。

 勝たないといけないと焦ってたみたい。ヨツハチャンの言葉でなんとかいつものぼくの走りを取り戻すことができた。

 

 いつものように真ん中より少し後ろでついていって、ヨツハチャンの指示で全力を出してゴールまで維持すればいいんだね?

 

 はやる気持ちを抑えて、いつも通りに徹する。

 

 

 

 

 

 そしてレース中盤。

 

『我が脚よ、動け、動くのだ……』

 

 というものの、明らかに疲れで足が回らなくなり始めているコスモインペリアルが垂れてきた。

 

 大丈夫? とは言わない。

 ただ黙々と走り続ける。

 

『そうだ、それでいい。だが後ろには気をつけよ。我が最終直線で脅威的な末脚を発揮するかもしれんからな……』

 

 

 

 どんどん後ろに垂れていくコスモインペリアルを見届どけて最終コーナー手前の直線。

 ヨツハチャンから加速の指示があった。

 

 ぼくは脚に力を込めて全力で走り出した。

 

 ネオユニヴァースもほぼ同時に加速しだし、ぼくの前を進む。

 

『このままじゃいつもと変わらないよ』

 

 ネオユニヴァースがそう言った。

 

『でも今日は追い越すよ』

『……追い越してみなよ!』

 

 そして最終直線。

 先頭には2頭の馬がいた。

 

 ぼくはその2頭を追い越そうとさらに加速していくが、ふと気づいた。

 

 ネオユニヴァースが加速しない。

 いや、むしろ遅くなっていく。

 

 みるみる差は縮まって、ついにぼくが前に出た。

 

『ネオユニヴァース……?』

 

 コスモインペリアルの時は我慢できたのに、ネオユニヴァースだと声が出てしまうのはやっぱり、ネオユニヴァースが好き(特別)だからだろうか。

 ネオユニヴァースは悲しそうな表情になった。

 また誠意のない走りをするのかと、そういう顔だ。

 

 だからぼくは、ネオユニヴァースを置いていく。

 

 

 

 先頭の2頭も追い越して、さらに差を開いていく。

 

 そして、

 

『アッシュブライド先頭に躍り出た! 1馬身、2馬身……3馬身差をつけてゴールイン!』

 

 実況がぼくの勝利を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ネオユニヴァース。ぼくのことを許してくれる?』

『うん。今日は、いいレースだったよ』

『ありがとう。……安心した』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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