ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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『サンドリヨン』はやり直す前の名前、なのかもしれません


15 菊花賞の後に・“窓”を開く

「おめでとうございます。今までの努力の成果ですね」

「まあ、これは“異界”のぼくと同じ花束だから……“異界”のぼくの持ってない花束も欲しいところだね」

「向上心があるのはいいですけど、菊花賞で勝つというのがどれだけすごいのかわかってますか?」

「わかってるよ。だからとっても嬉しい」

 

 アッシュブライドは菊花賞で勝利を収めた。

 今までG1で勝つことができてなかったこともあってその感動はひとしおだ。

 

「では“異界”のアッシュが勝つことのできなかった次のレースを教えてもらうことはできますか?」

「ジャパンカップ、だね」

 

 ジャパンカップ。

 海外のウマ娘も招いて行う国際的G1だ。

 

 確かに、“異界”の知識がなかったとしても次走はジャパンカップを選択するだろう。自然な流れだ。

 

「ジャパンカップで負けてしまうんですか……」

「だから、ジャパンカップで勝つことができたらネオユニヴァースを迎えにいく時の花束を“異界”のぼくより増やすことができる」

「はい。今まで“異界”と同じレース結果で来ていて、ジャパンカップで負けることが予想できているとしても……勝ちに行きますよ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15 菊花賞の後に・“窓”を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そしてその日の夜。

 私とアッシュブライドはトレセン学園の屋上に来ていた。

 

 街の明かりにも負けない一等星たちが輝く夜空の下で、アッシュブライドは天に手を伸ばしていた。

 

 そこに現れたのは──

 

「来てくれてありがとう、ネオユニヴァース」

「“窓”を開く方法が見つかった……。UNBL。信じられない、だよ」

 

 ネオユニヴァースだ。

 

「え、別宇宙を見る方法がわかったんですか!?」

「うん。まだ仮説で、ジャパンカップで実証したいと思ってる」

 

 ネオユニヴァースが言った、『別宇宙を見る方法が見つかった』というのは私を心底驚かせた。

 

 別宇宙を見るためにはネオユニヴァースに見る方法を教えてもらわないといけないと思っていたのに、アッシュブライド自分でその方法を見つけたというのだから。

 

 

 

「“異界”。ネオユニヴァースがいるしネオユニヴァースに併せていうと『ABSS』のレース結果は今ぼくたちがいるこの世界に多大な影響を与えている。レース結果が現状『ABSS』と同じになっているように」

「そう。ABSSは最もこの宙域に類似している。このままではこの世界はABSSと同じ航路に行き着くだけかもしれない」

「だからABSSから離れて行こうと思う。この世界が辿る未来の変動が起これば、ぼくは別宇宙を見ることができるかもしれない」

「ちょ、ちょっと待ってください! 言いたいことはわかります。でも、未来の変動が起こったらどうしてアッシュが別宇宙を見れるようになるって話になるんですか?」

 

 当然の疑問だ。

 ABSS、“異界”と違う未来を辿れば未来が変わるというのは自然なことだ。

 

 しかし、未来が変わるというのと、アッシュブライドが別宇宙を見れるようになるということの因果関係がわからない。

 

「可能性は高い。アッシュブライドのメイクデビューのあの日、未来の変動が発生してアッシュブライドはABSSを観測する力を得た。再度未来の変動を起こし世界の“航路”を変えることができれば、“窓”は完全に開く」

「な、なるほど……?」

「けれど、その方法は“ダークマター”。“窓”を開くことが出来たとしても、何が起こるかわからない。“遊星”であるアッシュブライドは最悪……消えてしまうかもしれない」

「消えっ!?」

 

 またわからない話になってきた。

 

 けど聞き流せない。だってアッシュブライドが消えてしまうなんて、トレーナーとして見過ごせない。

 

「“遊星”。そう、アッシュブライドがアッシュブライドであるのはこの宙域だけなんだ。ありとあらゆる別宇宙において、『アリス』はアッシュブライドではない」

「ごめんなさい、ネオユニヴァース。私にはその言葉の意味がよくわかりません。もう少しわかりやすくお願いできませんか? アッシュが消えるなんて、見過ごせませんから」

「……ネガティブ。言語化は『難しい』ね」

 

 ネオユニヴァースの言葉を理解できないもどかしさに肩を震わしていると、アッシュブライドが自身なさげに言い出した。

 

「トレーナー、ぼくの仮説だけどいいかな?」

「……はい」

「多分、ぼくは他の別宇宙では『サンドリヨン』と名乗っていると思うんだ。そして『サンドリヨン』はこのぼくほど強くない。未勝利戦を突破できないくらい」

「それは他のウマ娘にもあり得ることなんですか?」

「ううん。多分ぼくだけ」

「なるほど……。だから何が起こるかわからない、ということですか」

 

 なんとか理解できた。

 

 理由はわからないが、アッシュブライドは別宇宙では別の名のウマ娘になっているらしい。

 

 そしてそれは他の例のない状態で、だからそんなアッシュブライドがこれ以上ABSSや別宇宙に関わる能力を身につけてしまうと『何が起こるかわからない』ということだろう。

 

「……そんな危険な策をっ!?」

「これしか方法はないと思うんだ。ネオユニヴァースのお墨付きもこうしてもらえたことだし」

「でもっ!」

「ネオユニヴァースも『引き止める』をするよ。別の方法を探した方がいいと思う」

「それじゃあ間に合わない! ぼくはネオユニヴァースの助けになりたい。『GATE』の入り口は、春の天皇賞は近づいているっていうのに! ネオユニヴァースが消えるくらいなら……!」

 

 そんなこと言わないでください、と言えたらどれだけいいだろうか。

 

 アッシュブライドの、ネオユニヴァースが好きだという思いは本物だ。『GATE』対策への協力ができずにネオユニヴァースが消えてしまうくらいなら自分が消えるリスクを選びたいと思うのもわからないわけじゃない。

 

 

 

 そして私は黙ってしまった。

 

 

 

「だからさ、トレーナー。ぼくはジャパンカップを勝つよ。絶対に」

「……いいえ。ダメです」

「なんで!」

「はい。私も対案を出さずに否定するほど子供じゃありません」

「対案……?」

 

 そう、対案だ。

 私は必死にそれを考えた。

 

「専門家に助けてもらいます。未来を変えるのは、ネオユニヴァースが立ち会えるレースにしましょう。ネオユニヴァース、エリザベス女王杯には出走しますか?」

「……出走しない。『わたし』はFEMLじゃないから」

「では連続出走になりますが、エリザベス女王杯に出走します。万が一悪い何かが起きてしまった時、一緒に走っているより観客席にいた方が体力的にも対処しやすいですから」

「うん……わかった。それでトレーナーの協力が得られるなら、連続出走なんて余裕だよ」

「もちろん、ネオユニヴァースのトレーナーの許可をとれたらの話です。ジャパンカップ直前の大事な時期の一日を私たちに使ってもらうのですから」

 

 多分、これが最善の方法だ。

 専門家(ネオユニヴァース)の助けがあれば、多少は安心することができる。

 

「ではエリザベス女王杯にむけてのトレーニングメニューを組みます。明日から始めるので今日は早めに寝てくださいね」

「……ありがとう、トレーナー」




6月25日追記
 ABSS=異界=実馬世界 と 別宇宙=並行世界 を取り違えて意味のわからない展開になってたので直しました……。ごめんなさい……
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