ダメそうならいつか改稿するので取りあえず、
・灰嫁は未来が変わる余波で力に目覚める。
・そのためにエリ女に出走した。
・でも灰嫁はなぜか他の世界ではアッシュブライドではなく凡庸なウマ娘サンドリヨンを名乗っててネオユニ的にも前例がないからこれ以上力に目覚めたら何起こるかわかんない。
・そう思ってたらやっぱり消えちゃったぁ
と説明させてください……
メイクデビューの夜に“異界”を見る力に目覚めて、さらにネオユニヴァースから別宇宙のことを聞いてから、ぼくはずっと疑問に思っていた。
どうして別宇宙のぼくはアッシュブライドではなく、“異界”のぼくがやり直す前の名前を名乗っているのだろうか。
考えても考えても出てくる仮説は根拠のない、読んでいる小説に影響されたとしか思えない突拍子もないものばかりだった。
でもやっと今日、確信が持てる理由が見つかった。……というか、これ以上ないくらい分かりやすく見せつけられた。
『アッシュブライド』は、恋をしたから生まれたんだ。
17 サンドリヨンとアッシュブライド
エリザベス女王杯に勝利し、この世界の未来が変動した。
それによってぼくはメイクデビューの夜のように力に目覚め、今度こそネオユニヴァースと同じ、
しかしその対価は大きかった。
ぼくは自分が開いた別宇宙を覗く“窓”に吸い込まれ、どこともつかぬ星が綺麗な場所に招かれていた。
「此処は……此処ではなく、其処でもなく、此処や其処やどこかが統合されたところ」
そしてそこには、ぼくがいた。
「ようこそ。数多の『アリス』が至れなかったぼく。初めましてだね、『アッシュブライド』」
ぼくよりも2つか3つ程年上に見える彼女は、そう言ってぼくを出迎えた。
「ここがどこなのかを教えてもらうことはできる?」
「初めに言った通り、此処や其処やあの辺やこの辺やどこかやあそこが統合された場所。物凄く簡単にいうと、ありとあらゆる宇宙が統合された場所だよ。全ての可能性は最後にここに行き着くんだ」
「もうちょっと分かりやすく言うと?」
「全ての宇宙が最後に辿り着くという意味では、あの世みたいなものかな。君の宇宙もいつか辿り着き、星になってこの星空の仲間になる」
ここは死後の世界と言うにはあまりにも神秘的すぎるが、サンドリヨンの言葉はあっているのだろう。
直感的に分かっているのだ。ここはそういう場所なのだと。
「なんとなく目星はついてるけど、君は誰?」
「ぼくは『サンドリヨン』。君とは、アッシュブライドとは違う歴史を歩んだ君だよ」
「やっぱり。“異界”のぼくがやり直す前の名前なんだね」
「ぼく達サンドリヨンには君の言う“異界”なんて見えないから、そう言われてもなんとも言えないかな」
サンドリヨンは語ってくれた。
この場所からずっとぼくを見ていたこと。
全ての宇宙のサンドリヨンはメイクデビューで負け、未勝利戦を突破できずにトレセン学園を去ったと。
ぼくがメイクデビューを勝った時には奇跡が起きたとこの場所にいる全てのサンドリヨンで諸手を挙げて喜んだと。
クラシックレースに挑んでいる時には全員で固唾を呑んで見守り、菊花賞の勝利で喜びすぎて舌が回らなくなり舌を噛んだサンドリヨンがいたこと。
「大きくなった数百人のぼくがそうやってる光景を想像するとちょっと怖いね」
「数百人じゃきかないよ。今はみんなぼくに任せて隠れてるけど、ここは全ての宇宙が統合される場所だからね」
「ええー」
ひとしきり話した後に、本題に入ろうかと言ってサンドリヨンは草原に座り込んだ。
ぼくも同じように隣に腰掛けて、ターフとは違う草の匂いを感じた。
「君は元の宇宙に戻りたいと思ってるでしょ?」
「うん。まだぼくは走りきってないし、何より……」
「ネオユニヴァースに相応しい花嫁になってない、か。甘酸っぱいね」
「その感じ……もしかして君はネオユニヴァースのことが好きじゃなかったの?」
「ぼくが、と言うより、サンドリヨンはみんなネオユニヴァースに恋愛感情を抱いたことはないかな。幼馴染ではあったけど、すぐ雲の上の存在になっちゃったしね」
衝撃の事実だ。
ネオユニヴァースに恋をしていないぼくというものを想像したこともなかったと言うのに、ぼく以外のぼくは、全てのサンドリヨンはネオユニヴァースに恋をしなかったと言うのだ。
あまりの驚きに何して生きてきたのかサンドリヨンを問い詰めてしまう。
「お、落ち着いて!? 本題に、元の宇宙に戻る話をしよう! ね!」
「…………そうだった」
「まったく。恋はこうもウマ娘を変えるんだね。……じゃあ元の宇宙に帰る方法の話をするけど」
曰く、
「皆目見当もつきません」
「え」
「いや! ぼく達は普通に走って、勝てなくて引退して、普通の人生を送っただけのウマ娘だから、別宇宙とかは専門外っていうかね?」
元の宇宙に帰る方法はわからないらしい。
「……怒ったりしないんだね?」
「まあ、帰る方法がわからないならわからないなりにやっておきたいこともあるし」
「それは?」
「ここにいるネオユニヴァースに会わせて」
「…………本当に質問はあれだけで良かったの?」
「うん。別宇宙のネオユニヴァースに聞くならあれしかない。それに……」
「それに?」
「ヒントを貰いすぎたら、ぼくが自力じゃネオユニヴァースの役に立てないみたいでしょ。だからひとつだけ」
「甘酸っぱい。反省して」
「なんなのさ!? ネオユニヴァースを好きにならなかったと言ってもそんなにたくさんいるなら恋をしたサンドリヨンくらいいるでしょ!?」
「いるけどぼくは生涯独身だったよ」
別宇宙のネオユニヴァースに、ひとつだけ質問をした。
内容は、『ネオユニヴァースがいきなり消えるなんてありえるの?』。
ネオユニヴァースの答えは『ありえない。今なら自信を持ってこう言える』。
だから天皇賞・春の後に待ち受ける『GATE』の正体は、ネオユニヴァースが忽然と消えてしまうことじゃないと予想できる。
そして、ぼくの目に映るようになった別宇宙の未来を考えれば、元の宇宙に帰った時にネオユニヴァースの役に立つことができそうだ。
……やっとだ。やっとネオユニヴァースの役に立てる。皐月賞の後にネオユニヴァースから『消失』のことを教えてもらって、なんとか手伝いたいと思っても何もできなかったぼくはもういないんだ!
「嬉しそうで何よりだけど、結局帰る方法はどうするの? 何も教えられなかったぼくが聞くことじゃないけどさ」
「大丈夫。迎えが来るから」
迎え? とサンドリヨンは首を傾げていた。
ぼくは信じて待つだけ。ぼくをネオユニヴァースに相応しい花嫁にすると約束してくれたあの人を。
「まあ迎えが来るならそれでいいけど……そう言い切れるとは結構違う人生送ってる感じだなぁ……。ねぇ、ぼく達『サンドリヨン』と『アッシュブライド』の分岐点ってどこだと思う?」
サンドリヨンは突然そう聞いてきた。
分岐点がどこか。それはこの一時間程度の会話で分かりきっていたので、簡単に答える。
「ネオユニヴァースに恋をしたかだよ」
「どうしてそう思うの?」
「ネオユニヴァースに初めてあった時、どう思った?」
「えーっと、確か地元の公園で何かのイベントがあった時だったような……」
そう。ぼくとネオユニヴァースが初めてあったのは、小学生の頃、地元の公園で夏祭りがあった時だった。
その日、太鼓の周りを周回しながら盆踊りを踊った子供にお菓子を配る催しが行われていた。
ぼくはにんじんクッキー目当てで参加したけど、実際に貰えたのはにんじんグミで少しがっかりしたことを覚えている。嫌いな訳じゃなかったけどね。
そしてそのにんじんグミを食べながら縁日を回っている時に、ネオユニヴァースに出会った。
ネオユニヴァースは父親と手を繋いで、ぼくと同じように出店を見て回っていた。
ぼくはネオユニヴァースが盆踊りでもらえるお菓子の袋を持っていないことに目ざとく気づいて、
『盆踊りしたらお菓子もらえるよ!』
と子供なりの親切心で声をかけたのだ。
ネオユニヴァースの手を取って盆踊り会場に向かうものの、この頃のネオユニヴァースは今と違って、『理解されない』ことを恐れていた。
今はレースを通じてわかり合おうとしているけど、この頃は他の子供と通じ合うことが出来なかったからだ。
だからネオユニヴァースはぼくの手を振り解いて、父親の元に戻ってしまった。
『……? ごめんね?』
そんな心情を知る由もないぼくは、よくわからないまま謝った。
『“コネクト”は困難。……ANTIとABLEは別問題』
ネオユニヴァースはすっかり怯えてしまって、がっしりと父親の手を握っていた。
当時のぼくからすれば訳のわからないことを言うネオユニヴァースを見て罪悪感だけが増していく中、ぼくは袋の中のにんじんグミを差し出した。
『あげる』
でもネオユニヴァースは怯えてしまって食べてくれそうもない。
ぼくはよくわからないまま罪悪感に耐えかねて泣きそうになっていた。
それを見かねたネオユニヴァースの父親が代わりに受け取って、
『ありがとう。これおいしいね。ユニも貰ったらどう?』
『……うん』
ネオユニヴァースに薦めてくれて、ネオユニヴァースもぼくからグミを受け取ってくれた。
『おいしい。スフィーラ、だね』
この時の、怯えが取り払われた小さな笑顔。
それを見た時に、ぼくはネオユニヴァースのことを可愛いと、そう思った。
「そんなことあったっけ……?」
「だから分岐点なんだよ。あの笑顔をどう思ったかが分岐点なんだと思う。ぼくはネオユニヴァースが好きだから走るんだ。ネオユニヴァースに恋をしなかった『サンドリヨン』よりも、恋の力で少しだけ走る意欲があった……ってことだと思うよ」
「ふーん……?」
サンドリヨンはあまり納得がいっていないようだ。
まあ、恋とは得てしてはたから見ると理解し難いものなのだろうけど、別の宇宙の自分もよくわからないという顔をするのであれば、それだけネオユニヴァースに恋したことがぼくを変えたってことなんだろう。
「ネオユニヴァース、アッシュが消えたというのは本当ですか?」
「……うん。布団というブラックホールに抗えなかったから……DALS。ごめんなさい」
「いえ。それはいいんです。アッシュもドキドキの青春お泊まり大会だったでしょうし」
──冗談はさておき、私はトレーナー室の棚から持ってきたひとつの論文をネオユニヴァースに見せる。
「多次元世界を肯定した場合の『世界の終焉』に関する仮説……?」
「アグネスタキオンに紹介してもらった、別宇宙に関係しそうな論文のひとつです。これの……このページです。『世界の統合と剪定』。ネオユニヴァースから見て、これは正しいと思いますか?」
「……“否定”するよ。でも、INTI、興味深い点もある。宇宙に優劣はないんだ。劣った宇宙を剪定なんてARGCだよ。……ネオユニヴァースは、宇宙の統合される場所を知っている」
ネオユニヴァースの言葉はまさに福音だった。
私はアッシュブライドが消えるかもしれないと聞いてから、消えるとしたら完全に消滅するのか、それともどこか別の世界に行ってしまうのかと様々な空想を本気で検証していた。
そのうちのひとつが、この論文にある『世界の統合』が行われた結果としてアッシュブライドがいない世界になってしまうのではないかというものだったが、思わぬ方向で進展があった。
「アッシュがその場所にいる可能性はどの程度でしょうか?」
「……わからない」
「では行ってみます。行き方はわかりますか?」
「KNWT。既知の範囲内。……だけど、アッシュブライドのトレーナーが行くのは難しい」
話を続けるように促すと、ネオユニヴァースは簡単な言葉を使うようにすごく気を遣いながら話してくれた。
ネオユニヴァース1人なら行って帰ってくることは簡単らしい。
「そこは宇宙の向こう側。アッシュブライドのトレーナーは、ネオユニヴァースに『身を預ける』が出来る?」
「もちろん……と即答することはできません。私はネオユニヴァースのトレーナーではなく、ネオユニヴァースと信頼関係を築いているかと言われると自信がありませんから」
「…………」
「私はアッシュのトレーナーです。アッシュを助けに行くっていうのに、全てをネオユニヴァースに任せるのは情けなくもあります。なので……私の身体なんていくらでも預けます」
「……スフィーラ。スフィーラだね。ネオユニヴァースは、アッシュブライドのトレーナーを送り届けるよ」
「ほら、迎えがきたでしょ?」