ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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19 ジャパンカップの後に・メンバーは揃った

 ついに別宇宙を観測する力を手に入れることができたアッシュブライドはそのままジャパンカップに挑んだ。

 

 結果は快勝。

 “異界”での出遅れからのスタミナ切れを知った今のアッシュブライドが負ける理由はまるで無かった。

 

 まさに絶好調。覚醒したアッシュブライドに敵はいない──!

 

 

 

 と思われたが、やはり恋愛面での敵は多いようだった。

 

「本当にトレーナーさんに話すの……?」

「嫉妬してないでいきますよ。これまで他のトレーナーの担当ウマ娘捕まえて秘密を作ってたのがおかしいんですから。ネオユニヴァースのトレーナーの協力も得て本来の形です」

 

 アッシュブライドはなんとも面倒臭い乙女のように、『好きな人との秘密』を知る人が増えてしまうことに実に醜い嫉妬をしていた。

 

 しかし流石に隠し続けることも、話すと決めたネオユニヴァースの意思を無理に曲げさせることもよくないとわかっているのでそれ以上は文句を言わずに粛々と従うので、根は善性なのがよくわかるというものだ。

 

 

 

 そしてトレセン学園に戻り、

 

「これまでひた隠しにしていて本当に申し訳ありませんでした!」

「……ごめんなさい」

 

 2人でネオユニヴァースのトレーナーに謝って筋を通し、ネオユニヴァースの吐露を待った。

 

 ネオユニヴァースはしばらく躊躇を見せていたが、淡々と話しだした──

 

「トレーナー、ネオユニヴァースに未来は見えない。でも、“観測”できるものがあるよ」

「それは……エリザベス女王杯の時にアッシュブライドが開こうとしていた“窓”、か?」

「アファーマティブ。そしてアッシュブライドは実際に観測する力を得て見せた」

「じゃあ……2人は何を、“観測”してるんだ……?」

 

 ネオユニヴァースの言葉が詰まった。

 やはり、まだ怖いのだろうと助け舟を出そうとすると──

 

「NTHK。大丈夫、言えるよ」

 

 そう強い目で言った。

 だから私は何も言わない。

 

「トレーナー……ネオユニヴァースに見えるのは────別宇宙(アナザーバース)

「別……宇宙!?」

「そう。そこにはもうひとりのネオユニヴァースがいる。ネオユニヴァースは連なっているんだ、無限に。その中の、1番近い『ひとり』が見える」

 

 ネオユニヴァースのトレーナーはとても驚いているようだ。

 でも、彼は信じた。私がアッシュブライドの言葉を信じたように、彼とネオユニヴァースにも信頼の蓄積があったのだ。

 

「ありがとう、話してくれて。でもまだ終わりじゃないんだな?」

「アファーマティブ。“GATE”後についても話さないといけない」

「わかった。話してくれ」

 

 それからは“GATE”について話した。

 春の天皇賞でネオユニヴァースが大敗し、その後、

 

「…………いなくなる」

 

 消失する未来について。

 

「いなくなる……!?」

「ネオユニヴァースはいなくなる。“観測”できず、どうなったのかも見えない。ネオユニヴァースはSTRKしたいんだ。“GATE”を越えて……存在したい。消失したくないんだ……!」

 

 “GATE”を突破したいと切実に言うネオユニヴァースにこの場の誰もが胸を打たれた。

 

 私も、ネオユニヴァースがここまで内心を吐露しているのを見るのは初めてだった。

 これまでの、高い知能を持つ難しいウマ娘という認識が急速に書き換わり、身に合わない力を持って生まれて未来を嘆く、共感できるひとりの少女に変わったのがわかった。

 

「メンバーは揃ったってことだね……」

「アッシュ?」

「ぼくからも話さないといけないことがあるんだ」

 

 ネオユニヴァースが話したいと言っていた内容を全て話しきり、次はアッシュブライドが話し出した。

 

 その内容は、これまでの前提を覆すものだった。

 

「ぼくはエリザベス女王杯で別宇宙を観測する力を得た。そして、春の天皇賞の後のネオユニヴァースを観測したんだ」

「……ユニヴァースに観測できなかった、“消失”したユニヴァースを!?」

「うん。だから伝えたい」

 

 初耳の情報だった。

 

 アッシュブライドが、ネオユニヴァースが観測できない領域にまで観測を可能にしているとは意外だが、それはアッシュブライドの目を見た瞬間掻き消えた。

 これ以上なく深い深淵を称える、美しいまでに透き通った真っ黒な瞳。

 

 ──ネオユニヴァースと同じ、ここではないどこかを見ている瞳だ。

 

「ネオユニヴァースは消失していない。ただネオユニヴァースには見えなくなっただけで、ぼくには見えている。足を負傷し引退した、別宇宙のネオユニヴァースが」

「案外普通、というよりもありふれた可能性みたいだけど……どうしてそれがユニヴァースには見えないんだ?」

「……それはぼくにもわかんない。でも、仮説はある」

「教えてくれ、アッシュブライド」

「仮説だよ、仮説だからね? ……ネオユニヴァースは本来、春の天皇賞で引退するのが本来なんだ。“異界”、あるいはABSSによって定められた運命なんだと思う。それ以降の未来に到達するのはその運命に逆らうことだから、それを望まない世界の意思がネオユニヴァースの瞳を曇らせてるんだよ」

 

 アッシュブライドの言葉に私はネオユニヴァースを見た。

 他には見えないものを、必死に言語化した結果難解な言葉遣いになってしまっているのがそっくりだ。

 

 ネオユニヴァースのトレーナーも、流石に別の方向性で言語化を始めたもうひとりのネオユニヴァースとでも言うべき語彙を解読するのは難しいようで困惑している。

 

 でも、私にはその言葉のおおよその意味が掴めた。

 児童文学を愛読しているからか、言語化の方向はどちらかというと空想寄り。宇宙よりの言語化をするネオユニヴァースの言葉は分からなくても、こっちなら理解できる。

 

「つまり、ネオユニヴァースを何が何でも春の天皇賞で引退させようという妨害ということですね」

「そう! そんな感じ!」

「じゃあ……“GATE”の突破は不可能……?」

「ううん、きっと突破出来るよ。真に引退が運命付けられているならそんな妨害なんていらないから。頑張れば突破できるからこその妨害なんだよ!」

 

 “GATE”は妨害こそあるが、突破できる障壁なのだとアッシュブライドは言った。

 その言葉にきっと、ネオユニヴァースは励まされたはずだ。

 

「……スフィーラ。アッシュブライドがいて『よかった』よ」

 

 ネオユニヴァースは少し安心したように見えた。

 

「よかった。ぼくはネオユニヴァースの役に立てたかな」

「でも、これからですよ。妨害があると言ったのはアッシュです。“GATE”を突破するために私たちにできることは全てやっていきますよ」

 

 次走は春の大阪杯。そして、春の天皇賞。

 その後ネオユニヴァースが引退せずに走り続けることができていたなら、その時こそネオユニヴァースに相応しい花嫁になるために『凱旋門賞』に挑むと決めた。

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