22-1 大阪杯にむけて
GATEがネオユニヴァースが走り続ける未来を拒むというなら途方もない努力で乗り越える、とこれ以上ないほど脳筋な結論に至ってはや4ヶ月。
ネオユニヴァースのトレーナーとも協力して、実質的なチームを組んでアッシュブライドとネオユニヴァースは互いに高め合った。
そして大阪杯を迎え、2人はパドック裏で話し込んでいた。
「“GATE”は航路上のデブリ。迂回するのも手だけど、ネオユニヴァースは『望まない』だよ」
「わかってる。定められた道筋がある意味最も明るいからね。光ない道を進むよりいい」
「
「身を任せてるだけだと、ぼくが掻っ攫っちゃうかもしれないよ? ぼくは“遊星”だから」
とてもやる気に満ちた様子なのだが──
「会話の難しさが悪化している……っ!」
「多分、この大阪杯は通過点で春の天皇賞とそれに続く“GATE”にむけて奮い立っているんだと思いますよ」
「わかります! 私だってアッシュのトレーナーなのでなんとなくはわかりますけど! なんとなくは嫌なんですよ!」
「一緒に頑張りましょう」
ネオユニヴァースと同じ力を手にいれ、以前よりも話す機会が格段に増えた結果、アッシュブライドの言葉遣いがどんどん難解になっていくのだ。
私やネオユニヴァースのトレーナー、クラスのウマ娘たちと話す時は今まで通りの言葉遣いなのだが、どうもネオユニヴァースと2人で話す時は同じ視座を持つウマ娘同士で盛り上がって私ではなんとなく察するのが限界になってしまう。
この状況を打破すべく、ネオユニヴァースのトレーナーと言葉についての気づきを交換していこうと決めた。
パドックに上がると、歓声がアッシュブライドを出迎えた。
『G1での3勝目期待してる!』だとか、
『春シニア三冠取ってくれ!』『もう告白したのか?』といった声が聞こえてくる。アッシュブライドは最後の一つに『うるさいよそこー』と返事をしていた。
アッシュブライドは2番人気。菊花賞、エリザベス女王杯に続く3つ目の花束を手に入れることができるだろうか──
22-2 大阪杯
ネオユニヴァースが普段より増していいスタートを切り前から5番手の先行気味の位置につけたのに対して、アッシュブライドはいつも通りに後方差し態勢を取った。
エリザベス女王杯で分かったのだ。
もうアッシュブライドはネオユニヴァースが抜け出す後ろについて行かなくても、バ群を越えて先団に出ることができると。
だから今日は、好意追走を選んだネオユニヴァースに無理について行くことはせず、自らの武器である規格外の全力ロングスパートのための体力を温存するのだ。
「いいですよ。そのままトレーニング通りに……」
しかし、アッシュブライドは少し焦りを見せた。
後方の追い込みウマ娘2人がアッシュブライドに圧力をかけているようだ。
最初のコーナーから、ジリジリと2人が詰め寄ってきている。
まだアッシュブライドが加速するには少し早い。詰め寄られる圧力に耐えて、いつも通り体力が持つタイミングでのスパートを掛けられるかが鍵になるだろう。
後方との距離が縮んでいってもアッシュブライドは動かない。
表情が強張っている。今にも飛び出したいのを耐えているのだ。
「加速するのは最終コーナー手前の向こう正面です。まだ、もう少し耐えてください」
初めのコーナーを越えて向こう正面の直線。
その中央付近が加速するポイント。
少しずつ、追い込み2人が大きな存在感を放って詰めてくる。
アッシュブライドは耐え切った。
あらかじめ決めていた加速のタイミングでスパートをかけ始め、並びつつあった2人を突き放す。
そのまま大外を回って追い越していく。
最終コーナーに入ると、ネオユニヴァースも加速しバ軍の隙間を通り抜けていった。
最終直線で先頭はネオユニヴァース。続いてアッシュブライドの順。
2人ともが最高速に達し激しく競り合っている。その実力は他のウマ娘たちより頭1つ抜き出ていた。
声援を受けて2人は走った。
2人を応援する声の中には、当然私とネオユニヴァースのトレーナーの声もあった。
そして、2人並んでゴールイン。
どちらが勝ったのかわからないほどの僅差だ。
誰もが息を呑んで掲示板の点灯を待っていた。
……いつもより長い。慎重に検討しているのだろうか。
「アッシュブライドのトレーナーさんは、どう思いますか?」
「アッシュです。……と言いたいですけど、正直なんとも。ほぼ同時でした」
私たち以外の観客も少しずつ騒がしくなってきた。
誰もがどちらが勝ったかと熱く語り始めてしまうくらい長い時間が経った後、誰かが『あ』と言ったのが思いの外響いた。
その声に反応して、群衆が一斉に掲示板を見上げる。
「同着だ」
そう言ったのは私か、ネオユニヴァースのトレーナーか、はたまた名前も知らない誰かか。
しかしその言葉から感じられる驚きは私も感じていた。
22−3 大阪杯の後に・お揃い
「“コネクト”はこれ以上ない成果だった。次は春の天皇賞だね」
「まさか同着なんてね。“異界”とは違うレース結果だよ」
「アファーマティブ。ABSSから逃れられる。“GATE”は越えられるんだ」
「2人とも嬉しいのはわかりますけど、ウイニングライブまでにやっておきたいことはたくさんあるんですよ? 激しい運動の後なのでストレッチもしておきたいですし他にも……」
「……うん。そうだね。じゃあまた後でね、ネオユニヴァース」
同着。
全くないわけではないが、相当珍しい判定だ。
その上この結果は“異界”とは違う結果らしい。このことで私たちは“異界”と同じレース結果になってしまう強制力のようなものはトレーニングで乗り越えることができると再確認し、確信に至った。
天皇賞・春とその後に待ち構える“GATE”もきっと越えられると信じられた2人の顔は晴れやかだった。
控え室に入ると、アッシュブライドは椅子に深く腰掛け水分を取り、疲労を隠そうともしないまま背もたれに深く寄りかかった。
「疲れたぁ……」
「お疲れ様でした」
「レースもすっごく大変だけど、やっぱりキツイなぁ」
「緊張しますか? ネオユニヴァースと話すと」
「うん。するね。ぼくはまだまだだから」
「……花束についてよく考えたら、この同着ってネオユニヴァースとお揃いの花束ってことになるんですか?」
私がそういうと、アッシュブライドは笑ってしまうくらい呆けた顔をして、そして頬を染めて嬉しそうな顔をした。
「お揃い……お揃い! そっか同じレースの花束だ! あっすごい嬉しい。鳥肌立った」
椅子から勢いよく立ち上がって、抑えきれない喜びを両手を感情豊かに振り回して示しているアッシュブライドは、飛び級のニシノフラワーと1cmしか変わらない小さい体も相まってとても可愛らしかった。
「落ち着きましたか?」
「まだドキドキするけど、話は聞ける」
「ならオッケーです。次のレースは春の天皇賞でいいんですよね? ネオユニヴァースが大敗した別宇宙の自分を超えるのを特等席で見るんでしたもんね」
「うん。これからもいっぱいトレーニングして、ネオユニヴァースが“GATE”を越えられるようにお手伝いするんだ」
「わかりました。……確認しますけど、勝つ気はありますか? アッシュが1着でネオユニヴァースが2着というのを考えてもいいんでしょうか」
「あ、そっかトレーナーに言ってなかったけ。別宇宙の春の天皇賞で1着になるのは、ぼくだよ」
「……じゃあその宇宙の私に負けないようにアッシュをトレーニングしないといけませんね。アッシュが1着で、大敗する未来を覆したネオユニヴァースが2着を目指します」
何の気なしに明かされた天皇賞・春での勝利に驚きつつも、その宇宙にもいるであろう私に負けないためにも全力でアッシュブライドのトレーニングに取り組むと決めた。
……アッシュブライドが言う『“異界”のぼくより少ない花束ではネオユニヴァースを迎えにいけない』の気持ちが分かった気がする。