ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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23 ファン感謝祭 と 『ネオユニヴァースの役に立てているの?』

23-1 ファン感謝祭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ファン感謝祭。

 トレセン学園をファンに公開して様々な出し物を行う、トレセン学園生にとっての文化祭のような催しだ。

 

 私は春の天皇賞が控えたアッシュブライドに肉体的だけでなく精神的に休息を取ってもらうことが出来ると考え、積極的に参加しようと思っていた。

 

 アッシュブライドはネオユニヴァースの参加するボウリングに参加しようとして──なかった。

 

「てっきりボウリングに出たいのかと……」

「何回も言ってるじゃん!? ネオユニヴァースの役に立つためなら恥ずかしいがあんまり強くないけど、なんでもない機会だと普通に恥ずかしいの! トレーナーは恋する女の子の理解度が足りない!」

 

 アッシュブライドに怒られてしまった。

 わからない。好きな人とはいつも一緒にいたいものじゃないのだろうか。

 

 必然性があれば普通に話せるけど、ないなら恥ずかしくて話せない。言葉の意味はわかるが、なんとも実感が湧かない。

 

「参加するなら……これがいいかな」

 

 アッシュブライドがスケジュール表の中から指差したのは──

 

 

 

「ゴルシちゃん、決めちゃいなさい!」

「ゴルシ様の華麗なダンクシュートを見せてやるぜ! おらあああああ!」

 

 バスケットボールだった。

 

 トレセン学園でも一二を争う小ささのアッシュブライドには明らかに向いてない競技だが、あえて選んだ理由はただひとつ。

 同じ会場でネオユニヴァースが参加するボウリングが行われているからである。

 

「バスケに集中する気が1mmもない……!」

 

 一応参加してはいる。

 パスを受け取ればドリブルでディフェンスを引き付けて射線を作り前方のチームメイトにパスをするくらいはするし、そのパスも身長の低さを活かした鋭く止めにくい低いパスだ。

 

 しかし常に自陣側に待機し、パス回しに徹しているのだ。

 アッシュブライドの場合それは作戦ではなく、フリーな時間をできるだけ長く取ってネオユニヴァースを見ていたいだけなのだろう。

 

「仕方ないですね……」

 

 私はボウリングの順番待ちをしているネオユニヴァースに近づき、ちょっとしたお願いをした。

 

 

 

「ちょっと詰まっちゃったかしら。一旦後退ね。アッシュちゃんパス!」

「うん。この感じならパスを回すべきは……」

 

 マルゼンスキーからパスを受け取ったアッシュブライドは、誰にパスを回すのが1番いいか考えているようだ。

 

 このタイミングでネオユニヴァースから一言。

 

「アッシュブライド、『ファイト』だよ。恒星間を“航行”し、指定中域にボールをシュート。“大活躍”だね」

「っ!? トレーナーめ……」

 

 作戦は成功だ。

 ネオユニヴァースの掛け声の直後、アッシュブライドはゴールドシップにパスを回し、全力でゴール前へと駆け込んだ。

 そしてゴールドシップからパスを受け、華麗にレイアップシュートを決めてみせた。

 

 その後も正確なパス回しと身軽でトリッキーな切り込みで獅子奮迅の活躍を見せたアッシュブライドは、バスケットボールという出し物でのMVPに表彰されたのだった。

 やはり好きな人の応援は効くな。漫画にも書いてあった。

 

 

 

 

 

「この恋愛経験少女漫画止まりトレーナー!!」

「なんで知ってるんですか」

 

 ファン感謝祭の全日程が終わった後、トレーナー室でアッシュブライドに腰を掴まれグラグラ揺らされた。掴みやすい位置にあるのかもしれないがデスクワークで弱っている部位なので是非とも別のところを掴んでほしい。

 

「あ、電話鳴ってますから離してください」

「やだ。反省しないと離さない」

「困ったなぁ」

 

 腰にアッシュブライドを巻いたまま頑張って腕を伸ばして机の上の電話を取る。

 相手はネオユニヴァースのトレーナーだった。

 

「どうかしましたか?」

『ユニヴァースの瞳にかかったモヤが晴れました! 見えてなかった未来も、アッシュブライドのように見れるようになったんです!』

 

 気づいているのかいないのか、アッシュブライドはその言葉を聞いてどこかショックを受けた顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23-2 『本当に役に立てているの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニヴァースが“GATE”後の自分を見れなくなってたのは、『目を逸らしていたから』みたいなんです』

 

 ネオユニヴァースのトレーナーは語った。どうしてネオユニヴァースの瞳にモヤがかかっていたのかを。

 

 別宇宙において、春の天皇賞で大敗したネオユニヴァースは宝塚記念でこそ勝ってみせると奮起しトレーニングに励んでいたらしい。

 しかし、それは初めての大敗なのもあって必要以上の焦りを生んでいたという。

 その結果、ネオユニヴァースは自身が春の天皇賞で負った小さな怪我に気づくことができず、気づいた時にはもう脚は手遅れだった……という悲しい話。

 

 ネオユニヴァースはその辛い道を歩んだ自分を直視することを無意識下に拒み、その結果として見えなくなっていたのだ。

 

『ユニヴァースには大変な思いをさせてしまいましたけど、これで“GATE”後の別宇宙を見通すウマ娘は2人です。絶対にユニヴァースに怪我はさせません!』

 

 ネオユニヴァースのトレーナーは非常に高いモチベーションを保っている様子だ。

 確かに、ネオユニヴァースの瞳にかかったモヤが晴れたのは喜ばしいことだ。

 

 しかし私は、私に巻きついたまま茫然自失としている自分の担当ウマ娘の方が気になっていた。

 

「すいません、一度切って後でかけ直しますね」

 

 通話を切断し、アッシュブライドを引き剥がしてソファーに座らせる。

 アッシュブライドは無理にそうされても文句を言えないくらい、何かにショックを受けている。

 

「なにが、辛かったんですか?」

「……ぼくは、ネオユニヴァースが未来を観測できなくなった原因を、燦然と存在感を放つ“異界”と同じレース結果にしようという強制力が働いて、別宇宙を観測することで“異界”と同じ道を、ABSSを回避しかねないネオユニヴァースの力を制限してるんじゃないかって仮説を立てたよね」

「はい」

「でも違った。ネオユニヴァースは自分で自分の力を縛っていた。“異界”の強制力なんてなかった」

 

 予想が外れるなんてよくあることだ。予想なんて間違いを反映してより精度を上げていくものだろうと伝えたのだが、アッシュが苦しんでいるのはそれだけではないようだ。

 話の腰を折ってすいませんと、続きを促す。

 

「ぼくには、ネオユニヴァースが怪我をして引退する様子は見えていた。でも、それがネオユニヴァースが自分で自分の力を縛るほど直視したくないものだとは気づけなかったんだ」

「……ジャパンカップの後に『ネオユニヴァースは怪我をして引退する』と言ってはいましたけど、確かに言葉ではウマ娘のありふれた可能性で、ネオユニヴァースが力を縛るほどには感じられませんね」

「うん。言葉では実際の“風景”は伝えられない。唯一同じように別宇宙を観測できるぼくだけが、ネオユニヴァースが怪我をして引退する“風景”を見れる。でもネオユニヴァースは同じ景色を見て、力を縛り忘却するほどのショックを受けたというのに、ぼくは大したショックを受けなかったんだ。ありふれた引退だと感じて、ネオユニヴァースがこれを見れないのは別の要因があると考えたんだ。あんなにネオユニヴァースが好きだって言いながら、ネオユニヴァースの心を理解してなかったんだ」

 

 ダムが決壊したようにアッシュブライドは思いを吐露し続けた。

 

 そして一通り言い切ったのか、アッシュブライドは沈黙した。

 

 

 

 私はまず慰めるべきだと考えて『人の心を完璧に理解できる人なんていない』と言おうとした。

 しかし、アッシュブライドがそれより早く、泣きながらこう言った。

 

「ぼくは、本当にネオユニヴァースの役に立てているの……?」

 

 心の底から自分の存在に疑問を抱いた悲壮な言葉を受けて、考えていた安っぽい慰めが喉から出てくることはなかった。

 

 私は真剣に考え直す。

 アッシュブライドに本当にかけるべき言葉がなんなのか。

 

 そして──

 

「そんなことを考える必要はないと思います」

 

 正面から切り捨てた。

 

「人間関係って必ずしも実利がないといけないものじゃないでしょう。一緒にいたら心地いいくらいでいいんです。アッシュはネオユニヴァースといると心地いいでしょう? 緊張はしてるみたいですけど、心があったまる部分もあるんじゃないですか?」

「でも、ネオユニヴァースがどうかは……!」

「と、いうことで本人に聞きます」

 

 私はチャットアプリを立ち上げ、ネオユニヴァースに『アッシュブライドをどう思っていますか?』と送った。

 

 さほど時間を置かずに既読がつき、返答が来た。

 

「『ネオユニヴァースとCMINしてくれる、得難い“友達”』だそうですよ」

「…………その聴き方でこの回答はフラれてるじゃん」

「でも、一緒にいたい存在ではあるみたいですよ」

 

 アッシュブライドにそのチャットが映ったままのスマホを渡すと、感慨深い様子でしばらく見つめていた。

 

「──“友達”止まりなら、好きになってもらえるくらいのウマ娘にならないとね」

 

 涙は収まり、アッシュブライドは吹っ切れたと言わんばかりの不敵な笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 もう大丈夫みたいだ。

 私はほっと胸を撫で下ろして、スマホを返してもらうともう一度ネオユニヴァースのトレーナーにかけ直した。

 

『もう大丈夫ですか?』

「ありがとうございます。それでさっきの続きを……」

『はい。よければ、春の天皇賞後の、“GATE”対策として正式にチームを組みませんか? その方がユニヴァースが別宇宙と同じように怪我をしても気付きやすいと思って。こちらにしか得がない条件かもしれないんですけど……』

 

 アッシュブライドと顔を見合わせる。

 返事は決まり切っていた。

 

「もちろん、お引き受けします」

 

 

 

 そして後日、秋川理事長に一枚の書類が提出された。

 

「この時期にチーム結成願いですか?」

「肯定! しかし見てみろたづな! このチームは世間を騒がすに違いない!」

「チーム・アークトゥルス、春の大三角の一角ですね。メンバーは……なるほど、確かにこれからのトゥインクルシリーズを盛り上げるチームです」

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