27-1 テレビに出よう!
「ネオユニヴァースたちの"SPFE"……特集を組むの?」
「ああ。春天での勝負でトウカイテイオーとメジロマックイーンを思い出したファンたちが結構いて、今2人は世間で注目の的だ」
あるトゥインクルシリーズ専門テレビ番組からチームアークトゥルス、つまりネオユニヴァースとアッシュブライドの特集を組みたいという話が舞い込んできた。
そのためネオユニヴァースのトレーナーと私で特集の説明をしているのだが──
「なになにボクを呼んだ?」
「ユニヴァースちゃんとアッシュちゃんテレビ出るんだって!」
「テレビか……。私もタマとよく取材されたな」
場所が良くなかったかもしれない。
トレーニングの時間を削りすぎるのは勿体無いので、私たちトレーナーも昼食を食堂に持ち込んで食堂で打ち合わせをすると、周りのウマ娘たちの注目を集めてしまったのだ。
トウカイテイオー、マヤノトップガンといった元気溌剌な面々に誘われてオグリキャップやゴールドシチーのようなメディア慣れしている先輩たちも集まってくる。こうならないようになるべく早いチームルームの支給が求められる。
と、初めは打ち合わせが進まないと不満に思っていたが案外そうでもなかった。
「テレビは映像だからね! 自然体のボクたちを見てもらうのがコツなんだよ!」
トウカイテイオーをはじめ集まってきているのは名ウマ娘ばかりだ。
彼女らの経験談は今のスターウマ娘にとっていい刺激になるようで、2人とも興味深そうに話を聞いていた。
「……2人とも乗り気みたいです」
「アッシュはネオユニヴァースがいればテレビでもラジオでも恥ずかしがりながら受けそうですけどね」
私はネオユニヴァースのトレーナーとトレーニングの予定を調整を始めた。
ウイニングライブの文化からもわかるように、競走ウマ娘の仕事はレースだけではない。マネージャー業に近い仕事もサブトレーナー時代にしっかり仕込まれている──と言いたいところだが、一年目からウマ娘と専属契約を結んだ新人とは思えないネオユニヴァースの手際に自信を打ち砕かれそうだ。
それでも私なりにアッシュのために全力でマネージャー業にも取り組む。凱旋門賞を制覇し、アッシュブライドが自分に自信を持てるようになるために。
「あ、それだと移動時間キツいと思いますよ」
「ちょっとスケジューリング教えてください……」
──やっぱり自信打ち砕かれるかもしれない。
私はネオユニヴァースのトレーナーに頭を下げてマネージャー業のやり方を教えてもらった。
「じゃあ次のコーナーではぐわって質問するからがって感じにお願いね!」
「どういうこと?」
「“MIP”……でも言葉はいらない。FELGが大切なんだね」
「ネオユニヴァースさんわかってるじゃん! そんな感じによろしくね〜」
擬音が多い監督とのコミュニケーションに四苦八苦しながらも、ネオユニヴァースとアッシュブライドは立派に収録をこなしてみせた。
『アッシュブライドさんはネオユニヴァースさんが大好きなんですね』なんてインタビュアーの女の子が聞いた時にはアッシュブライドが何を言い出すかと焦ったものだが、長く語り出すことなく一言『うん。ぼくが走ってるのはネオユニヴァースがいるからなんだ』と気持ちが伝わる答えを出来ていた。
ネオユニヴァースはいつも通りの不思議な言葉遣いでインタビュアーを困惑させていたが、それでも楽しそうに収録をしていた。
「収録終わりました。これから私の車でトレセン学園に戻りますね」
『はい。器具を準備して待ってます』
学園に残ってトレーニングの準備をしてくれていたネオユニヴァースのトレーナーに感謝して、私たちは帰路についた。
「収録はどうでしたか? 楽しめましたか?」
「SMLA。コンタクトは不完全だけど、“意思”は伝わったと思う。アッシュブライドがいたからだね」
「えっ、あっ、ぼくもネオユニヴァースがいたから楽しかったよ! これからも一緒だったらなんでも楽しいと思うよ!?」
ネオユニヴァースが言う『アッシュブライドがいたから』は多分、ネオユニヴァースの言葉をいくらか翻訳していたから“意思”を伝えられた、ということだと思うが……アッシュブライドは突然な甘い言葉にびっくりしていつもじゃ言わないだろう大胆な台詞を吐いていた。
まあ指摘するのは野暮だろう。ネオユニヴァースも特別引くでもなく普通に告白まがいの言葉を受け入れているようだし。
27-2 宝塚記念にむけて
今日の宝塚記念にネオユニヴァースは出走しない。アッシュブライドだけだ。
エリザベス女王杯ぶりのネオユニヴァースのいないレースだが──
「……乗り物酔いしたぁ」
「もはや懐かしいまである」
長距離移動にとても弱いウマ娘は健在だ。
これほど移動が苦手なのに恋の力で乗り越えていたというのだから若いというのは素晴らしい。
とはいえこのままレースに臨んでもらうのもやはりよくないので出来る限りの対処をしている。その最たるものが──
「はい、特効薬です」
「なにそれ……えっ、え!? くれるの?」
「もちろん」
私が鞄の中から取り出したものを見て、アッシュブライドは素っ頓狂な声を上げた。
それは、ネオユニヴァースのぱかプチだ。しかも先週リリースされたばかりのお菓子メーカーとのコラボバージョン。
アッシュブライドは直前まで椅子を3つ繋げた即席ベッドに横たわっていたにも関わらず勢いよく私に詰め寄ってきて──
「届かないんだけど!? 手、手降ろして!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて私の手からぱかプチを取ろうとした。
「なんて、冗談です。はいどうぞ」
「やった、ありがとうトレーナー! これこないだの休養日に7000円つぎ込んで取れなかったんだよね」
「えっそんなに」
嬉しくてたまらないとぱかプチを抱きしめて小躍りするアッシュブライドは、もう乗り物酔いなんて忘れ果てたようだ。
安心して送り出せそうなので、今度はタブレットを取り出してスライドを見せながら次の話を始めた。
「凱旋門賞に出走するにはこの宝塚記念で1着を取っておきたいところです。その最大の障害となるのは──」
──タップダンスシチー。
まだG1での勝利こそないものの、金鯱賞2連覇を成し遂げ注目を浴びているウマ娘だ。*1
昨年から"覚醒"した彼女の逃げはどれも凄まじく、G1を勝利してないのが不思議なほど。この宝塚記念でも大きなライバルとなるだろう。
そんな説明をしていると控室の扉がノックされた。まさに噂をすれば影だ。
「少しいいかい?」
現れたのはタップダンスシチーだ。
「アッシュブライド、アンタも今年の凱旋門賞を狙うんだってね」
「ぼく"も"ってことは、タップダンスシチーも海外に行くの?」
「ああ。だからこれは宣戦布告ってところさ。宝塚記念に勝って海外に行くのはこのアタシ、タップダンスシチーだってね!」
アメリカ生まれのロマンを解するウマ娘は言いたいことを言い切って、満足したと控室から出ていこうとしたのだが、アッシュブライドが彼女の手を掴んで引き留めた。
「ごめんね。ぼくは凱旋門賞を獲って
「……Well said.いい勝負にしよう」
アッシュブライドは先輩からの宣戦布告に堂々と応えてみせたのだった。
もうすぐパドック入りが始まる。
タップダンスシチーとのやり取りで気持ちもレースに向かったようだ。
乗り物酔いも無くなりよく集中出来ているアッシュブライドを見て、私は勝利を確信するのだった。