ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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キャラ集にひっそりいたアッシュの騎手の女の子の話です。171cmで顔がいい綺麗めな美人さんが癖なので対戦よろしくお願いします。


4 騎手 如月四葉

 当然のことながら、競走馬にはたくさんの人間が関わっています。

 馬の持ち主である馬主、強い馬に育てる調教師、世話をする厩務員、そもそもの馬の生産者など様々です。

 そして、競走馬に関わる仕事の花形、『騎手』もその一つです。

 

「これからよろしくお願いします! 緋田さん!」

「おう、励めよ」

 

 緋田厩舎には如月四葉という騎手がいます。3月に競馬学校の騎手課程を修了したばかりの新人騎手です。それも珍しい、女性騎手です。

 競馬の世界に縁故があれば別の道もあるのですが、無い者の騎手としての働き先は3年次での実地研修先がほとんどです。如月もその類に洩れず、わくわくと胸を膨らませて研修先だった緋田厩舎に所属することになったのですが……。

 

「そういえば、イヴちゃんは元気してますか?」

「こないだ怪我して引退したんだよね」

「え」

 

 緋田厩舎に競争馬は一頭残らずいなくなっていたのです。

 

 如月は涙しました。

 研修生時代に騎乗した思い出の競争馬が、競馬学校に戻っている間に引退していたのです。『騎手になったらイヴちゃんに乗ってレースに出るんだ』なんて思っていたのもあって、梯子を外されたような気持ちになりました。

 

「なして*1…………?」

「引退と言えば、イヴの鞍上だった栗畑さんも腰やって長期休養中だから」

「栗畑さんも!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緋田厩舎、少し見ない間に変わったなぁというのが如月の率直な感想でした。

 イヴスカーレット号と先輩騎手として良くしてくれた栗畑がいなくなったのもそうですが、なにより変わったのは調教師の、緋田源三の雰囲気です。

 

「真壁さん、緋田さんなんか変わりました?」

「やっぱりそう思うッスか。なんか緋田さん、最近元気ない感じなんスよね。……厩舎畳もうかななんて言っちゃうくらい」

「ええ!? いたましく*2ないですかそれ」

 

 そして、厩舎の暗い雰囲気を目の当たりにしました。

 

「お、お久しぶりでーす」

「……四葉ちゃん、授業はいいの?」

「もう卒業しましたよ……?」

「あれ、もうそんなに経つっけ。イヴちゃんがいなくなってから全然やることがなくて、時間感覚が曖昧かも」

 

 厩舎のムードメーカーだった女性厩務員も前会った時に比べて元気がなくなっていました。

 

「じゃあ四葉ちゃんここの所属になったんだ。……悪いことは言わないから別の働き口も探しといた方がいいよ。もうすぐここ畳まれちゃうから」

 

 緋田調教師の、厩舎を畳むという発言は厩舎全体に浸透して、皆が皆やるせない表情をしているのです。

 

 これは是正せねばなるまい。

 小学生の頃からどんよりした空気の人を見つけると声をかけてしまうたちの如月はそう決意しました。

 

「真壁さん! お掃除手伝わせてください!」

 

 努めて明るく振る舞い、自分の仕事やトレーニングを終わらせしだい厩務員たちの仕事を手伝いました。

 

「皆で栗畑さんのお見舞いに行きましょう!」

 

 入院している緋田厩舎所属の主力騎手のお見舞いを主催しました。

 

「差し入れです!」

 

 自腹できのこの山とたけのこの里を買って振る舞いました。当然のように戦争が置きましたが、言い争っている姿はいつもの何倍も元気でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしている内に11月。入厩の季節です。

 新しい競争馬たちがそれぞれの厩舎にやってきます。

 緋田厩舎に入厩したのはたったの一頭、灰被りの花嫁(アッシュブライド)と名付けられた葦毛の牝馬です。

 

 如月の第一印象は『走れないなこの子』でした。

 トレセンまでの道のり程度で酷くガレてしまっているのですから、ストレスがよりたまる競馬場への道のりじゃ死んでしまうんじゃないかとさえ思えました。

 

 しかし実際に乗ってみると、移動の疲れは抜けていませんが、それでも人を乗せて揺るがない体幹があり、指示に正確に従う賢さもありました。

 素質馬であるということは間違いありません。

 才能のある馬だと知った馬主の島原は早く走っているところがみたいと早期のデビューに乗り気でしたが、緋田によってストップがかかりました。

 疲労がまだ抜けきっていない。デビューはもう少し遅らせても大丈夫だ、と。

 如月もそれには賛成でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えたメイクデビュー。

 如月はアッシュブライド号の鞍上としてレースに挑みました。

 やはり移動に弱く、疲労の溜まった状態での挑戦でしたが、結果は快勝。しかし……。

 

「気分はどうだい?」

 

 緋田がそう聞いてきましたが、如月に答える余裕は残っていませんでした。

 

「やっぱり疲れたかな」

「……アッシュちゃんは強かったです。才能が段違いです。今まで乗ってきた馬と比べてとんでもない速さで、伝わってくる地面を蹴る強さも比べ物になりませんでした。私はスパートの指示を出すだけで、あとはしがみつくのに必死で」

「まあ、如月くんは女の子だもんね。これからもっと鍛えるしかないさ」

「はい」

 

 今回の悔しさは如月をより奮い立たせました。

 女性ながら恵まれた体格で身体能力には自身があったというのもありますが、なによりも馬を導く騎手としての役割を果たせなかった無力感があったのです。

 

「今回で、牡馬相手とも戦えそうなことがなんとなくわかった。次のレースからはもっと激しさを増すから覚悟しておいてね」

「はい。クラシック三冠にだって挑める騎手になってみせます」

*1
『どうして』

*2
『もったいない』

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