ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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6 再会と課題

 ぼくは、以前のぼくじゃ成し遂げられなかった偉業をいくつも達成した。

 

 1つは、勝利。メイクデビューを勝利することのできる競走馬(なかまたち)はごく僅かで、以前のぼくは勝つことができない側だった。メイクデビューの後に未勝利戦というものもあるけど、それも突破することはできなかった。この勝利はとてつもない偉業だ。

 

 そしてもう1つは、オープン戦での勝利。一勝を成し遂げた選ばれし競走馬(なかまたち)がさらに振るいに掛けられるこのオープン戦をぼくは勝利した。

 

 

 

 けれど喜ぶのはまだ早い。

 だって、ネオユニヴァースも当然のようにここまで勝ち進んでいるのだから。

 

 ぼくの夢はネオユニヴァース、君の隣に立つことだ。ぼくは知っている。君がさらに勝ち進み、G1という最高峰のレースでの勝利を複数手にすることを。しかもその栄冠の中にはクラシック三冠という最上の勝利のうちの2つもある。

 だからまだ喜べない。ぼくはまだ、以前のぼくじゃできなかったことをするんだ。

 

 

 

 と、決意を新たにしたぼくの前で2人の人間が話していた。

 人間の言葉は他の競走馬(なかまたち)に比べたらわかるつもりだけど、その2人の話には難しい言葉がたくさん出てきてよくわからない。

 

「次のレースのことですが……」

「緋田さんも律儀ですよね。緋田さんが決めていいって言ってるのにー」

「いやいや、確かに競馬については私の方が詳しいのはそりゃそうですけど、こういうのの最終判断は馬主さんに決めてもらわないと」

「わかりましたー。けど俺、レースのこと全然わからないので教えてくださいよ。なんとなく皐月賞に出たいなーってくらいしかないんですから」

 

 サツキショウ。

 ……え、それってもしかしてネオユニヴァースが勝ったクラシック三冠の一角の『皐月賞』!?

 やったー!! ネオユニヴァースと会えるー!!

 

「あ、ちょうどその話をしようと思ってたんです。アッシュブライド号は間違いなくG1級ですから、これからどっちに舵を切るのかって聞こうと思ってたんですよ」

「どっち、っていうのは?」

「3歳馬の時期に、皐月賞、ダービー、菊花賞のクラシック三冠路線に挑むのか、桜花賞、オークス、秋華賞の牝馬三冠路線に挑むのかってことです」

「あー、そういえば女の子でしたもんね。そっちも行けるのかー」

 

 なになになにどういうこと。皐月賞もダービーも菊花賞もわかるよ。ネオユニヴァースが出たレースだよね? クラシック三冠の。

 じゃあオウカショウ、オークス、シュウカショウのヒンバ三冠って何!?

 やだよ!? ネオユニヴァースと一緒に走りたいー!!

 

「脚質的には中長距離のクラシック三冠なんですよ。こないだ距離別のタイム表見てもらったじゃないですか」

 

 そうだそうだ! 距離別のタイム表が何かはわからないけど絶対クラシック三冠がいい!!

 

「でも女の子、牝馬なんですよね。今の今まで活躍ぶりで忘れてましたけどー、やっぱりこれから能力的に厳しくなったりするんですか?」

 

 ならない! いや以前のぼくは未勝利戦を突破できないくらい弱かったけど今はいける多分絶対!!

 っていうかヒンバって何!? ぼくは競走馬だよ!

 

「厳しくならない、とは言い切れません」

 

 ならないってば!? こっちの人間、多分調教師って人だと思うんだけど、とにかく負けないで! ぼくをクラシック路線に連れてってよ!

 

「けど、現時点での実力は牡馬と大差ないどころか超えてさえいます。こんなに小さいのに」

「じゃあクラシック路線で行きましょう! ちょっと憧れてたんですよねー、馬を、アッシュを買った時から自分の馬をクラシック路線で走らせるの!」

「なら皐月賞を目指す方向で行きますね。皐月賞、っていうかG1に出るためには2つの方法があって……トライアルレースってわかりますか?」

「……解説お願いします」

 

 ……これって、もしかして、

 クラシック三冠路線に決まった!?

 わーい!!

 うれしーい!!

 ネオユニヴァースと走れる!!

 やったー!!

 

「っていうレースなんですよ」

「なるほどー。G1ごとにいくつかの『トライアルレース』があって、それで一着から三着の馬が対応するG1に優先的に出れる仕組みなんですね。作った人はては賢いな?」

「レースによって優先出走権を得れる着順は変わってきますけど、大体そんな感じですね」

「じゃあトライアルレースに勝たないと出れないんですか? G1」

「そういうわけじゃないですけど、安心を取るにはトライアルレースですね。獲得賞金が多い順に出れる制度や全くの抽選、ファン投票なんてのもあります」

「へぇ。メモしとこ」

「ということで皐月賞のトライアルレース一覧です」

 

 ふう、嬉しすぎて話聞いてなかった。

 けどなんとなく察するに、皐月賞に出るためには別のレースで活躍しないといけないって話みたい。

 じゃあネオユニヴァースに会えるのは次の次のレースだね。楽しみすぎる。

 

 あー! 今日は寝れないなー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6 再会と課題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞のトライアルレース、『弥生賞』……の前にG3『きさらぎ賞』。

 なぜ弥生賞ではないのか、その理由は至極簡単なものです。

 

「まさか獲得賞金が足りないなんて。素人すぎて予想してなかった」

「足りないわけじゃないッスよ? あーでも、弥生賞で勝てなかった時の保険として十分な賞金を得ておいて賞金順の枠をゲットしようって訳だから間違ってはいないッスね」

 

 全ては金飾りの腕時計の若手厩務員真壁一平の言う通りです。

 アッシュブライド号が今の今まで無敗で勝ち進んでると言っても、『競馬に絶対はない』ので、もしかしたら弥生賞で入着を逃してしまうかもしれないと考えたが故の保険的な出走です。

 

 しかしアッシュブライド号は移動に非常に弱い馬です。本当は出走を最低限にしたいものですが、それで万が一皐月賞に出れないとなっては本末転倒です。

 なので今回も万全の準備を尽くし、阪神競馬場ほどではないにしろ近くの競馬場である京都競馬場を選択しました。

 そして、

 

「ガレ……てない!」

「よし! 頑張ったねアッシュちゃん! これからのレースは私も頑張るね!」

 

 なんとか疲労は軽めに抑えることが出来ました。

 

 

 

 厩舎唯一の競走馬の体調に一喜一憂する緋田厩舎の面々。ほっとしてアッシュブライド号の葦毛の馬体を撫でて労っていると、アッシュブライド号が突然歩き出しました。

 

「アッシュちゃんそっち行っちゃダメだよ。え、めっちゃ頑張って歩くじゃん止まって!?」

 

 引き止める如月騎手を引きずって向かった先には、

 

「黄色のメンコの馬……っ!?」

 

 緋田が幻視した黄色のメンコの馬、ネオユニヴァースがいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。けどだいぶ楽になった。なんか前のレースでも思ったけど揺れが減った気がする。隠れておやつくれる人間、多分厩務員の人がついていてくれるし。

 そして車を降りるとそこは競馬場。今日は確か、皐月賞に出る権利を得るためのレースって話だったはず。皐月賞でネオユニヴァースに会うのが楽しみだなーーーってネオユニヴァース!?!?

 なんでいるの!? 実は今日皐月賞だった!?

 

 おーいネオユニヴァース!!

 

『……あれ、見たことある馬がいる』

『ぼくだよ! アッシュブライド……じゃ通じないか牧場から出てからの名前だもんね。えっと、アリスだよ!』

『アリス。ああ、あの。随分と背丈が伸びて気づかなかったよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緋田源三調教師の日記

 

2003/02/16

 今日はきさらぎ賞だった、が、それに関して衝撃的なことがあった。

 幻覚だと忘れようとしていたあの風景、黄色のメンコの馬にアッシュブライド号が突き放される風景。その黄色のメンコの馬が実在していたのだ。名前はネオユニヴァースというらしい。一目見た瞬間、この馬だとなった。

 だからこのきさらぎ賞でアッシュブライド号はネオユニヴァース号に敗れるのかと思ったものだが、そうではなかった。いや破れはしたのだが。

 混乱していて文章がめちゃくちゃになっているらしい。整理して書こう。

 まずこのきさらぎ賞、アッシュブライドは2着だった。1着はネオユニヴァース号だが、あの風景のように突き放されての負けではない。本当に僅差だった。しかし如月くんが気になることを言っていた。『ネオユニヴァース号に並んだ瞬間、アッシュちゃんの足が緩んで追い越せなかった』と。

 そういえば出走前にアッシュブライド号はネオユニヴァース号に強い興味を示していたな。何か因縁があるのかもしれない。向こうの厩舎と連絡を取ってみるか。しかし相手はあのオグリキャップを抱えていたこともある厩舎だ。調教師の人柄はインタビュー程度でしか知らないが、こんな話を信じてくれるだろうか。

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