ネオユニヴァースに恋した世界一の蹄跡   作:はやてだわきち

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8(ウマ娘編) 皐月賞

 皐月賞に際して、ネオユニヴァースには発見があった。

 それは出走ウマ娘が発表された時のことだった。

 

「ユニヴァース! 出バ表が発表されたぞ!」

「REQU。トレーナー、『教えて』」

 

 皐月賞に出走するウマ娘と枠番号が発表される『出バ表』。それは多くの場合直前の木曜日にURAにより公開される。

 出走できるのか、自分の得意な枠に入ることが出来たかと多くのウマ娘が祈りながら待つそれは、しかしネオユニヴァースにとっては『PREV』、既知の範囲内だった。

 それは数多の別宇宙から、今の自分に最も近い自分を観測する特殊能力による擬似的な未来予測によって知り得る情報。

 

 ネオユニヴァースはその未来予測とズレがないか確認するという、他のウマ娘とは少し違った心境でトレーナーから出バ表を受け取ったのだが──

 

「7枠15番、アッシュブライド……?」

 

 ズレはあった。

 未来予測においてその枠は別のウマ娘のものだったのだ。

 

「トレーナー、REQU……、REQUだよ。この星の軌跡はこの宙域においてUNBL……“異常事態”」

「い、異常事態? えっとREQUは、リクエスト……。このウマ娘について知りたいってことか?」

「そう、“肯定”」

「ちょっと待ってくれ。この世代の有力なウマ娘は調べてあるから……あった、これだ」

 

 担当トレーナーがタブレットを操作して、未知の軌跡を行く星(アッシュブライド)についてまとめた情報を見せてくれる。

 

 ネオユニヴァースはまさしく雷に撃たれたような衝撃を受けた。

 

 メイクデビューの時期はネオユニヴァースより少し後、ひどい体調不良にも関わらず快勝。その後寮で倒れてインタビューで話していたきさらぎ賞への出走を取りやめたが弥生賞での圧勝から考えるに回復し切っていると考えられる。

 

 戦績の欄からもこの皐月賞に出走するのが自然な実力と適性が察せられるが、衝撃を受けたのはここではない。

 添付されていた顔写真だ。

 

「アリス……? トレーナー、このウマ娘が『アッシュブライド』?」

「皐月賞に出走するライバルの下調べとして弥生賞を見に行ったし間違いない、はずだ。何かあったのか?」

「ネオユニヴァースはこのウマ娘を『アリス』だと推測するよ」

「アリス?」

「ネオユニヴァースがまだ小さい頃に……そう、近所にいた“幼馴染”。トレセン学園に入学していたのはUNKW、『知らなかった』だよ」

 

 この時、ネオユニヴァースは1つの仮説を立てた。

 最も近い世界には存在しない──正確には『アッシュブライド』でないウマ娘と、先日の未来の変動。

 

 この世界において『アリス』はネオユニヴァースと同じように別宇宙の観測を可能としているのではないか、という仮説。

 もしそうだとしてもその力は限定的、あるいは覚醒したばかりだと考えられる。ネオユニヴァースの関与しない未来の変動は先日、『アッシュブライド』のメイクデビューの夜が最初なのだから。

 

 しかしこの仮説をトレーナーに伝えることはできない。

 その理由は単純に、怖いからだ。

 つまりは、もし打ち明けて契約未締結だったあのトレーナーのように自分から離れて言ってしまったら……という怯え。

 

「トレーナー、アッシュブライドは“要注意”だよ」

「あ、ああ。わかった。もう時間は少ないけど出来る限り情報を集めて対策を練ってみるよ」

「アファーマティブ。……ありがとう」

 

 だから今できるのは、アッシュブライドに特に気をつけたいという意志を伝えることだけ。

 

 皐月賞まで後少し。ネオユニヴァースはレース当日に何があっても対応できるようによりトレーニングに励むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8 皐月賞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、スタートしました!』

 

 ゲートが開き、横一列に綺麗なスタート。

 先頭集団に躍り出たのは13番と5番。さらに2番と11番といった先行脚質のウマ娘が続いていく。

 

 3番、ネオユニヴァースは中団の内側、レーンギリギリで他のウマ娘に囲まれながら追走する形。

 しかし焦りはしない。わずかな隙間を縫うように追い抜くのはネオユニヴァースの得意技。今回も最終直線での機会を待って静かに付いていく。

 

 

 

 そしてアッシュブライドは、

 

『15番アッシュブライド、ネオユニヴァースの後ろについています』

 

 スリップストリーム、もとい、ネオユニヴァースの走り姿を見れる位置に陣取っていた。

 

「アッシュ!? ちょっと後ろすぎますよ!?」

 

 トレーナーの悲痛な叫びは、走っているウマ娘に届くわけもなくファンたちの歓声に呑まれて消えていった。

 

 しかしレースは続く。

 

 

 

 

 

 最終コーナーを回るとそれまでレースを引っ張っていた13番が馬群に沈み、その合間を縫って3番、ネオユニヴァースと6番のサクラの名を冠したウマ娘が抜け出して先頭で競り合う状況に。

 

 それを見たアッシュブライドは、嫉妬の炎を瞳に宿した(鬼が宿る)

 

ネオユニヴァースの隣(そこ)は、ぼくの場所だぁあああああああ!!!!!」

 

 そしてアッシュブライドは驚くべき末脚で先頭の2人に並びかける。

 

「すげえ熱意だ!」

「頑張れー!」

「そんな末脚私知らない……」

 

 その声は観客席にも届き、なんという勝利への渇望だと観客を沸き立たせた。

 若干一名、頭を抱えている女性トレーナーがいたが熱い展開に夢中で誰も気づかない。

 

 

 

 3人が団子になった状態でゴールイン。

 観客全員が息を呑んで掲示板の点灯を待っていた。

 

 勝ったのは──

 

『ネオユニヴァースです! クラシック三冠初戦皐月賞の栄光は、3番ネオユニヴァースが手にしました! 2着は15番アッシュブライド! 3着は6番サクラプレ────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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