翌日、霊夢は箒で境内を掃除していた。神職に就いている彼女だが、性格はぶっきらぼうで、面倒な事を嫌う。しかし、先代の努力の末、境内の掃除だけは遣るようになった。
境内の落ち葉を粗方集め終え、次は裏境内へと箒を持って移動する。この裏境内は人里をはじめとした幻想郷を一望でき、桜の木も経っているので、春になると立派な宴会場になる。そう言えば、今年の春は誰を呼ぼうか。霊夢は落ち葉を集めながらも、思い当たる人物を思い浮かべて行った。
まず魔理沙。
では次は誰だろうか。紅魔館の悪魔でも良いし、西行に住む亡霊少女もこんな宴が好きだったか。そう言えば、こういう時にあの鴉天狗は何時も来るものだ。それに、酒となるとあの小さな鬼も来るかもしれない。永遠に死なないお姫様、妖怪の山の風祝、珍しいのでは地底に住む覚妖怪も良いかもしれない。
はて、誰を呼べばいいだろうか。全員呼んだとなれば、この裏境内には収まりきらないだろう。しかし、霊夢も大きな宴は好きだ。いっそ、博麗神社全体で宴でも行おうか。
さてさて、如何した物かと思った所で、霊夢の視線が止まる。その先には、其処には人里で楽しそうに遊んでいる子供たちの姿。裏境内から人里までの見える距離はそんなに遠くなく、人里を行きかう人々の顔を見分ける位なら出来る程度の長さで、霊夢の視力も有ってかその姿は嫌になるほど懸命に見えた。
恐らく寺子屋の帰りなのだろう、空いた土地で、蹴鞠の様な物を使って遊んでいる。男女比の差は無く、男子も女子も笑顔を浮かべていた。よくよく見れば、昨日見た子供も混じっているではないか。その子を観察していると、無性に心が悲しくなって来るが、また何かがそれを鎮めてくれた。
ここからでも、かすかに聞こえる子供たちの笑い声。霊夢の耳に入ると同時、霊夢はなにか嫌な気分になりながらも、遊んでいる子供たちを固まりながら見ていた。
「昨日は家族に、今日は何見てるんだ?」
ふと、後ろから魔理沙の声がする。はっと我に返った霊夢は何を思ったのか慌てて何もない地面を掃き出した。大方、子供を見ていたと思われたのが恥ずかしかったのだろう。しかし魔理沙は本当に何もわからないようで、昨日今日とおかしい霊夢を訝しげな眼で見ている。
と、霊夢はここでまた疑問が思い浮かんだ。昨日は微笑ましい家族を見て思った事だが、今日は子供達が一緒に遊んでいる光景……そう、友達だ。しかし、如何質問すればいいか分からない。霊夢は最大までひねった挙句、魔理沙に向かい、こういった。
「―――私って、誰と仲良し?」
「私だ」
言い切った瞬間、前回とは違い、まさに流れ星のような速さで答えられた。「私しか居ないだろ」とでも言いたげな顔に霊夢は苛ついたが、また何かがふつふつと心に手を掛け、それを鎮めてくれた。
もとより、魔理沙が霊夢と仲が良いのは、霊夢自身も知っている。何せ、毎日縁側に座って御茶を飲んだり、機能みたいにお酒を呑んだりする仲だ。寧ろ、魔理沙の顔を見ない日の方が少ない。だから、霊夢は魔理沙の得意げな笑みを受け流しながら言う。
「あんた以外で。誰でもいいから、私と仲のいい人、言ってみて」
その質問に魔理沙は最初「簡単じゃないか」と呟いて、何かを発しようとしたが、良い人が思い浮かばないのか黙りこくってしまった。そんな魔理沙を見て、霊夢は分かっていたのか溜息を一つ吐いて、掃除を再開した。
「えーと……アリスとか……?」
時間をかけて、やっと魔理沙が答えたのはとある魔法使いの少女。霊夢もそういえばそうだと思いだし、掃除の手を止める。
霊夢とアリスは、魔理沙と同じくらいから知り合っている仲だ。彼女は元々魔界の出身で、もっと魔法の事を勉強したいがために、幼いころ幻想郷に来たという。霊夢と知り合ったのはその時で、まだ右も左もわからないアリスを先代の巫女は泊めてやり、そこで今より小さい霊夢と出会い、互いに関係を深めていった。
「そうねぇ……あんたと同じ、幼馴染かしら」
彼女と初めて会ったとき、まだ霊夢と同じ年だった。それは時間がたっても変わらず、魔界の出身でも年は取るのかと驚いたことも、霊夢は覚えている。それから博麗神社によく来る魔理沙とも知り合いになり、数年たった今では魔法の森に家を建て、人形を作りながら暮らしている。
誰がどう見ても昔っからの幼馴染だが、霊夢にはなにか、心に残るものがあった。
確かに、アリスは霊夢が素で接する事が出来る、数少ない人物だ。魔理沙程では無いが博麗神社によく足を運ぶ人物であるし、宴会の時などは自作のお菓子を酒の肴として霊夢たちに提供するほどだ。
仲がいいと誰もが思うが、霊夢は魔理沙以外に
「ねぇ魔理沙。私が、心を開ける人ってどんな人だと思う?」
「私だ」
「あんた以外で……二回目よ、これ」
まったくもう、と霊夢は悪態を吐きながらも、自分の中で考えた。魔理沙も同じように考えようとしたが、うまく思いつかない。霊夢が自分以外で心を許し、尚且つ特別に接する事が出来る人物。そんな人物は、幻想郷に居るのだろうか。霊夢も魔理沙も、それは分からなかった。
「……もしかすると、それって恋仲なのかもな」
唐突に、魔理沙が口を開く。それを聞いて、霊夢は一瞬呆けた後に、はぁ? と彼女にしては珍しく声を上げた。
「だって、そうだろ? 今も昔も、恋人同士っていうのはお互いを分かりあってる存在だ。お互いの事が好きじゃないと恋仲にはなれないだろ? 好きな奴の事をとことん調べて、そいつに尽くすのが恋。それをお互いでし合ってるのが恋仲じゃないのか?」
なるほど、魔理沙の意見にも一理あるようだ。霊夢は感心した。しかし、それは恋仲であり、霊夢が聴いているのは友達の事だ。心を開くのが恋仲であれば、霊夢と魔理沙は同性愛者になってしまう。
「それじゃぁ、私と魔理沙は恋仲?」
「まさか」
「なら、違うと思うの。恋仲っていうのは魔理沙の言うとおり、お互いを想っている人だけど、私と魔理沙みたいな存在……そうね、
友達ではなく、
「親友か……確かに、それなら霊夢が心を開くやつなのかもしれないな」
「そうかしら? 今の所、私が親友と思える様な人は一人しかいないけど」
「私か?」
「訊かなくても分かるでしょうに」
魔理沙が聴くと、霊夢は溜息を吐きながら答えた。その通り、霊夢が育ての親以外で唯一
「さ、ちょっとお茶にしましょう。話疲れて喉が渇いたわ」
霊夢は掃除を切り上げ、箒を以て倉庫の方へと歩いて行った。そして魔理沙は何時もの様に博麗神社の本堂へと躊躇いなく入って行き、なぜか置いてある自分の分と霊夢の分、二つの湯飲みを取り出した。
「(あいつの親友、か……私じゃ不服なのか?)」
慣れた手つきでお茶を淹れながら、魔理沙は心の中で思った。
「(ま、良いだろ。霊夢にもいつかそんな奴が出来るし、居なかったら私がなってやるし)」
「勝手に淹れてんじゃないわよ」という霊夢の声が聞こえ、魔理沙は「何時もの事だろ?」と悪戯の様な笑みを浮かべて返した。
博 麗 霊 夢 は 友 達 を 知 ら な い
議題2:博麗霊夢の親友とは何か?