博麗霊夢は全てを知らない   作:宇宮 祐樹

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博麗霊夢は科学を知らない

 

 ある日、霊夢のもとに名を名乗らない河童がやって来た。何でも、自分の発明した道具が盗られた。友人に聞けば、博麗の巫女なら何とかしてくれると聞いたので、博麗神社にやって来たと言う。

 

 とんだ迷惑な話だ、と博麗霊夢は思った。彼女が請け負っているのは妖怪退治や不作の時の祈祷、先日もした様に葬式や結婚式の官司である。別段、万事屋などでは無い。博麗霊夢は只の巫女だ。そんな仕事を引き受ける気など起きなかった。

 

 しかし、その河童は助けてくれたお礼は何でも払う、と言った。物欲の強い霊夢は少したじろいだ。相手の種族は河童だ。何でもくれる、と言うならば、その異常に発展した科学の何かを貰おう。霊夢は気が付けば不敵な笑みを浮かべており、河童が声を掛けた瞬間、自慢の勘で何処かへと飛んで行ってしまった。

 

 人間では到底出せないスピードで飛んで行った霊夢の後に、風が吹いた。霊夢の物欲は異常だ。しかも、相手は河童である。故に、霊夢は己の願望を叶える為、この時の速さはそこら辺をネタ探しのために飛んでいた鴉天狗でさえ驚いたと言う。

 

 数分、河童が博麗神社でへたりと座っていると、遠くから霊夢が何かの板な物を持って来て、此方に飛んで来た。ぜぇはぁと肩で息をし、獲物を見るような眼で「これでいい?」と聞く霊夢の姿は、河童から見たら鬼の様だったと言う。

 

 しかし、幾ら勘だとはいえこんな速さで、しかも何がどんな形状なのかも伝えていないのにこれだけの時間で河童の獲物を取って来る事には恐怖を感じる。霊夢の勘は異常に当たるのだ。明日の天気や、異変の黒幕の場所、果てには今日博麗神社に訪れる人物とその時刻まで正確に当てた事も有る。これで人の事言うのだから、驚きである。

 

 河童はと言うと、これだけの速さで見つけて来た霊夢に賞賛し、手元で軽い拍手をした。その後に、なんと霊夢が見つけて来た板の様な物をくれると言う。元々この板はさらにいい板が出来た為に捨てる予定だったらしい。しかし、その板の中に入っているデータは必要らしく、中のデータを抜き取ってしまえばこの板は用済みなのだという。

 

 なによそれ、と項垂れる霊夢であったが、河童が言うにはこのままでも幻想郷では十分進んでいる技術だ、とのこと。霊夢もそれならと二つ返事で了承し、河童は中に入っていた小さい板の様な物を取り出し、いそいそと霊夢に板の様な物を手渡し、帰って行ってしまった。

 

 お礼も言わずに帰るとは、どういう神経をしているんだろう。霊夢は苛立ちながらも、改めて手に持っている板の様な物を見た。一辺が20cmくらいの正方形で、表面には人里で見た硝子の様な物が貼られている。その下には、申し訳程度に霊夢にもわからないが『何か押せそうなところ』が取り付けられている。

 

 霊夢はその板の様な物を持って本堂へと入って行った。居間にある卓袱台の前に座り、卓袱台の上に板の様な物を寝かせる。ことり、と見た目の割には重そうな音がした。

 

 改めてみるとまことに変なものである。霊夢はこういった機械は香霖堂に置いてある『パソコン』というものや、鴉天狗が持っている『カメラ』と言うものくらいしか見た事が無い。しかし、これはどちらとも違う形状の様で、霊夢にはどうも理解できなかった。

 

 恐らく、『パソコン』ではないだろう。表面上に貼られているのは『パソコン』と同じようなものだが、あの『パソコン』という物には必ず『キーボード』という物が付いている。香霖堂で見たものでは二つ折りになっていて、片方がこの板の様な物、もう一つに『キーボード』が付いていたはずだ。霖之助が言うには『ノートパソコン』という物だったか。

 

 しかし鴉天狗が持っている『カメラ』でもない様だ。あの鴉天狗が持っている『カメラ』は黒くて手中に収まるような大きさだったが、この板の様な物は両手で持っても収まりきらない。それこそ、香霖堂で見た『ノートパソコン』くらいの大きさだ。

 

「よ、霊夢……って、なんだそりゃ」 

 

 この板が何か分からずに苦戦している霊夢の所に、何時もの様に魔理沙が声をかけてきた。足音すら聞こえなかった霊夢は驚くも、そういえばコイツの本業は泥棒だったな、となぜか納得してしまった。

 

 その魔理沙はと言うと、霊夢が手に持っていた板を上から取り上げ、まじまじと見ながら卓袱台を挟んだ霊夢の対面にどかりと胡坐を掻いて座る。

 

「河童から貰ったのよ。でも、行き成り渡されてもなんにもわかんないし。まったく、面倒な物を貰っちゃったわ」

 

「へぇ……河童か。となると、科学系の物だろうな。見た所唯の板にしか見えないけどな……いや、ほんとになんだコレ」

 

 腕を組んで悩む魔理沙は、どちらかと言うと魔法具(マジックアイテム)召喚具(サモンアイテム)と言った『道具』に詳しい方だ。魔理沙もそれを分かっているらしく、たまに霊夢に変な道具を見せに来たりする。だが結局、その道のプロである霖之助には負けてしまうのだが。

 

 そういえば霖之助さんに見せてみてはどうだろう、と霊夢は思った。幻想郷で数少ない男である彼の能力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』だ。もしかしなくても、この道具の『名称』と『用途』位は分かるであろう。肝心の『使い方』が分からないのが不便だが。

 

「それなら一回霖之助さんに見せてみたら? 何か分かるかもしれないし、アンタの頼みなら聞いてくれるわよ」

 

 うんうんうなる魔理沙をもどかしいと思ったのか、霊夢はそういった。それを聞いた魔理沙は一瞬だけ動きを止めた後、またすぐさま見つめ始める。

 

「いやだな。あいつだけには勝ちたいんだよ」

 

 霊夢は一瞬何のことかわからなかった。

 

「このまま全部頼りっきりってのも駄目だと思うんだ。だから、私は自分で成し遂げる。昔っから世話かけてちゃ迷惑だしな」

 

 そう語る魔理沙の眼には、そこか灯がともっていた。なるほど、魔理沙は人一倍競争心が強い。弾幕ごっこや異変解決でもそうだし、同じ魔法使いのアリスやパチュリーとも競い合っている。ゆえに、霖之助とも同じ『道具』にかかわっている分、競争心という物が出来るのだろう。

 

 むむむ、とそのまま動かない魔理沙に対して、霊夢は如何しようかと迷っていた瞬間、板が置かれていた卓袱台に、突然黒い何かが開いた。

 

 その黒い何かに魔理沙が眺めていた板は落ちていき、魔理沙は「あ!」と声を上げた。霊夢も驚いて目を追っていくと、そこには紫色の空間に、無数のうつろな瞳。霊夢はその『スキマ』を見て、とある人物を思い浮かべる。

 

「なにすんだよ紫! 」

 

 魔理沙が霊夢が浮かべた人物の名前を叫ぶと、その紫はまた別の所にスキマを開き、そこに腰掛ける様にして現れた。まさに神出鬼没。しかし、霊夢も魔理沙も慣れている様で、霊夢に至ってはお茶を飲んでいる。

 

「何を、と言われましても……幻想郷の秩序を守っただけですわ」

 

 幻想郷の秩序? とオウム返しに聞く魔理沙に対して、紫は言葉をつづける。

 

「外の世界より劣化している幻想郷にとって、科学は触れてはならないタブーですの。禁忌、反則……即ち、貴女達が触れてはいけないものです。科学が幻想郷に普及してしまえば、妖怪と人間のバランスが崩れてしまう。だから、科学は人間が使ってはいけない。これは、管理者からの命令ですのよ。此処に住む貴女達ならこの命令を聞く義務が有るのです」

 

 科学はバランスを崩す。霊夢の心のどこかに、それがずしりと響いた。確かに、妖怪が使う訳のわからない科学を使えば、人間が復興することなどたやすいだろう。下手をすれば、妖怪と人間の立場が逆転するのかもしれない。

 

「ねぇ紫、科学ってなに?」

 

 強大な力を持つ『科学』という言葉に、霊夢はいつも疑問を抱いていた。それは魔理沙も同じことだったのだろう。だから、霊夢はつい、紫に聞いてしまった。

 

「…………。」

 

 突然の質問に紫は絶句していた。口を開け、呆けたような顔をしている彼女の様子は、その式から見たらさぞ滑稽なことだったであろう。やがて彼女の手に持っている扇子が落ち、かつんと跳ねたのちに紫は落ち着いた様子で扇子を取り上げた。

 

「まだ貴女は知らなくて良い事ですよ。確かに科学は強大です。それこそ、此処(幻想郷)のバランスを崩しかねない程に。科学の薬品やその技術を応用した銃器、果てには人間を作り出す技術だって有りますもの―――」

 

 人間を作り出す技術。その言葉を聞いた瞬間、霊夢と魔理沙は目を開けて驚いたが、それを無視して紫は続ける。

 

「―――ですが、まだ貴女達……いや、幻想郷の人物は知らなくていいのです。科学がこの幻想の地に舞い降りたとするならば、それは外の世界がそれまでに風化してしまったと言う事。ですから、貴女達は科学を知らなくていいのです」

 

 どこか諭すように言った紫は、そそくさとスキマの中に消えて行ってしまった。紫が消えて行ったあとには静寂が訪れ、二人はどこか呆けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博 麗 霊 夢 は 科 学 を 知 ら な い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






議題4:幻想郷にとっての科学とは何か?



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