博麗霊夢は全てを知らない   作:宇宮 祐樹

5 / 11
博麗霊夢は恋愛を知らない

 またある日、霊夢は人里での依頼を受けた。先日受けた葬式の依頼とは違い、今度は人里で結婚式を開くと言う。そこで今日、その新郎が博麗神社にやって来て、霊夢と相談をした。

 

 まず初めに霊夢は何故あの風祝に依頼しなかったのか、と聞いた。すると、あの風祝が居る神社は、妖怪の山に有る。故に、普通の人では辿りつくのが難しいと言う。それもそうか、と霊夢は納得した。

 

 では何故私を呼んだのか、と霊夢は訊いた。すると、男は結婚式に神職の人はつきものだからだと言う。確かに結婚式は神職の者が神に誓いを立ててする者だが、霊夢はふーんと何処か嫌そうに返事をした。

 

 実を言うと、霊夢は結婚式の官司などできる筈が無い。先代は滞りなく遣っていたが、先代が神社を後にして以来、霊夢に結婚式の官司を依頼してくるものは居なかった。恐らく神社の奥にある文献を漁れば作法等が書かれてる資料が見つかるかもしれないが、霊夢の性格ではそれは面倒臭いと言う結果にしか至らなかった。

 

 そう言おうとしたのだが、その新郎はやけに霊夢に期待しているらしく、この結婚式を最高な物にしたいと言う。余りの気迫に霊夢はすこしたじろいでしまい、新郎の頼みを二つ返事で了承してしまった。

 

 新郎が去って行き、霊夢は内心で後悔しながらも仕方なく神社の文献を漁る事にした。少なからず何かのヒント位は見つかるだろう。霊夢は少しの希望を持ちながらも、本堂の右奥側に有る倉庫へと向かって行った。

 

 

 ~ ~ ~ 

 

 

「よ、霊夢」

 

 霊夢が倉庫からそれらしき本を数冊見つけて、居間で読んでいたところに魔理沙が縁側から入り込んで来た。霊夢はちらりと魔理沙の方を向いて、そのまま今持っている本へと視線を移し、黙々と読書に勤しんでいた。

 

 まず魔理沙は霊夢が読書をしている事に驚いた。普段があのぐうたらで面倒臭がりの巫女だ。そんな彼女を魔理沙が一番知っているからこそ、驚いた。そして次に霊夢が読んでいる本。ぱっとみ古ぼけた本にしか見えないが、よくよく見ると神事の作法本ではないか。

 

「れ、霊夢……おまえ、どうした」

 

「何が」

 

 魔理沙が驚愕の声を上げるも、霊夢は黙々と読書を続けている。おかしい。霊夢の事を良く知っているからこそ、魔理沙はその場に立ち竦んでしまった。後ろで閑古鳥が鳴いている様な気もした。

 

 そんな魔理沙の方を見て、霊夢も自覚が有るのか、一つ溜め息を吐いて本を閉じた。

 

「あのねぇ、私がそんなに仕事しないとでも思った? これでも一応巫女なんだから、それ相応の仕事はするわよ」

 

 呆れ顔で言う霊夢。魔理沙も今の言葉を聞いてはっとしたが、どうも結論には至らなかったようだ。取り敢えず霊夢の対面側に座り、傍らに置いて有る数冊積まれた本から一部を取って、何と無く開いて見た。

 

 書かれていたのは魔理沙には縁も無さそうな神事についてだった。不作の時の祈祷の仕方や、結婚や葬式の取り締まり方等々。幅広い分野で書かれており、それが数冊。博麗神社にこんな本が有った事は知らず、魔理沙は驚いていた。

 

「それにしても……何でこんなもの引っ張り出して来たんだ?」

 

 自分の興味が無い本は読まないのか、魔理沙は手に持っている本をまた山積みにして霊夢に問いかける。

 

「さっきも言ったじゃない。仕事よ、仕事。結婚式の官司を頼まれちゃってね」

 

 魔理沙が山積みにした本を取りながら、霊夢は続けた。

 

「私は結婚式なんて母さんがした事しか見た事無いし、結婚式なんてやり方が分からないからこうやって調べてるの」

 

 面倒臭いけどと付け足しながらも、再び霊夢は手に取った本を最初から黙々と読み始めた。

 

 なるほどと相槌を打っていたが、魔理沙は珍しく混乱していた。普段の霊夢と、今の霊夢を比べると全く違う。付き合いの長い魔理沙だからこそ分かるのだろう。だからこそ、少し判断能力が鈍っていたのか、こんな質問をした。

 

「お前、結婚式に何か思い出でもあるのか?」

 

 静寂。

 

 こんなに働く巫女を見て、魔理沙は霊夢の何かを感じ取ったのだろう。この巫女が動かされるとすれば、先代や紫だろうか。いや、人間の特徴である何かしらの強い思念によって動かされたのだろう。如何やら結婚式と言う行事に何か有ると魔理沙は思ったのだ。

 

 霊夢はと言うと普段慣れない事をしているのか、眠たそうな目をしながら魔理沙の方を見つめていた。魔理沙は「ど、どうした?」と少したじろぐが、霊夢はそれを無視しふとある光景が脳内に浮かぶ。

 

 白無垢に身を包んだ女性と、その女性の手を取って境内を歩く男性。まだ幼かった霊夢はそのとき、この行事が『結婚式』と言う行事だと知らずに本殿の中から流し目で見ていた。今となってもその記憶は鮮明に思い出され、嬉しそうにその結婚式を取り締まっていた先代の顔が思い出される。

 

「ねぇ、魔理沙――」

 

 一部始終を思い出すと、霊夢はふと疑問が浮かんだ。何故、結婚と言う儀式は有るのだろうか。二人の男女が愛を誓い合い、子を成し、それを後世へと受け継いでいく。その過程に、なぜその愛を神に誓うのだろう?

 

「―――恋、ってなんだと思う?」

 

 気が付けば霊夢は口を開いていた。よくよく考えればとても乙女なことを聞いていたことに霊夢は気づき、恥を覚えたのか顔を赤らめて口を押えた。霊夢も年頃の女子なので、当然と言えば当然なのだが。

 

 魔理沙はと言うと一瞬だけ呆けた顔をしたかと思うと、はっはっはと大笑いを始めた。霊夢はやめてよ、とイラついた顔で返すも、目じりに涙を浮かべた魔理沙は胡坐を掻いて、膝辺りを強くたたいている。ついには腹を抱えて床に転がった魔理沙に霊夢は頬をさらに赤らめながらも、溜息を一つ吐いた。

 

「いや、まさか霊夢が恋について語るなんて……なぁ?」 

 

「なによ、別に良いじゃない。私だって女の子なんだし」

 

 そうだけどなぁ。いや、でも、霊夢がなー。あのぐうたら巫女がなー。と何か面白い物を見つけたように魔理沙が顎に手を当てながらつぶやいていた。霊夢は流石に怒ろうとしたが、またその何かを別の何かが鎮め、霊夢は「もう、知らない」と再び本に目を通した。

 

 そうだな、と本を読んでいる霊夢に届くかは分からないが、魔理沙は恋愛について話し始めた。少なくとも霊夢よりは分かってる。魔理沙もそれは自覚していて、既に対象が居る自分にとっては造作もない事だった。

 

「いいか、霊夢。恋愛ってのはそうだなぁ……この前、友達が如何たらとか言ってただろ? その友達の、更に仲を深めたものが恋愛だと思うぜ」

 

 その言葉に、霊夢の本を持っている手が動いた。どうやら霊夢の耳に伝わっているらしく、霊夢は魔理沙の話を聞きながら本を読むという荒業を実行し始めた。

 

「愛にはいろんな形が有るし、それが愛なら愛なんだよ。理屈でどうこう言うもんじゃない、二人の好きっていう気持ちが通じれば、それが愛なんだよ」

 

「………霖之助さんとは通じ合ってるの?」

 

「まったくだぜ」

 

 にかり、と何処か元気がなさそうに笑って言う魔理沙。「駄目じゃない」と霊夢は興味をなくしたのか本を読むことに集中したが、「いや、まだ終わりじゃないぜ」と魔理沙が続ける。

 

「確かに、あいつは私の事なんて気にしてないだろうな。種族の違い、生きる時間、いろいろ私とあいつを阻むのは有る。多い程にな。だけど、絶対振り向かせてみせる。これが、私の恋だぜ」

 

 少しだけ顔を赤らめながらも魔理沙は話すが、霊夢は本を読み終えたのかぱたりと閉じて傍らに置いた。そして、次の本を読む必要はないのか「虚しいわね」と魔理沙との会話に参加する。

 

「先に死ぬのは魔理沙なのよ? いずれは離れ離れになってしまうじゃない。どうしてそこまで霖之助さんに執着するのよ」

 

 妖怪と人間の差。寿命もその一つに数えられ、その差は圧倒的だ。幾ら霖之助が妖怪と人間のハーフだからとて、その差は絶対に訪れる。しかし、その差が来るとわかっていて何故魔理沙は執着するのだろう。恋に疎い霊夢はそれが分からなかった。

 

「うーん、そうだなぁ……育てて貰った事とか、魔法具とかの関係もあるが――」

 

 魔理沙は一瞬だけ考えるような動作をしたが、すぐにその動作を辞めて、靈夢の目を見据えて

 

「――『好き』だからかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博 麗 霊 夢 は 恋 愛 を 知 ら な い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







議題5:霊夢にとっての恋愛とは何か?



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。