博麗霊夢は全てを知らない   作:宇宮 祐樹

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博麗霊夢は八雲を知らない

 翌日、霊夢は滞りなく結婚式の官司を終えた。あれだけの読書で、と霊夢自身も思っていたが、出来た事は事実だ。寧ろ好都合か、と霊夢は自分の中で納得し、早々に帰る事にした。

 

 帰る前、霊夢は給料として金ではないが、沢山の野菜と川魚を貰っていた。なんでも、結婚式を挙げたところの家は、中規模の農家だったと言う。霊夢はその野菜を遠慮せずとももらい、ほくほく顔で帰路についた。

 

 博麗神社へと戻ると、やけに静かになって居る事に霊夢は気付く。夕焼けの赤い色が母屋を照らしている。境内の中にはたくさんの落ち葉が落ちていて、また掃除をするのが面倒だなぁと霊夢は内心で愚痴を吐いていたが、今気にする事はそんな事では無い。

 

 そうか、魔理沙が居ないのか。霊夢は気付き、別段気にする訳でも無く母屋に入って行った。いつもは魔理沙が居る所為で騒がしい神社だが、今日ばかりは水を打ったように静かだった。霊夢は其処に違和感を持つも、魔理沙が居無い所為だと決めつける。

 

 両手でやっと抱えられるほどの野菜を卓袱台の上に置き、ふぅと一息つく。霊夢もこんなに食糧を貰った事は久しぶりなのか、やけに嬉しそうな顔をしていた。今日の夕飯は何にしようかしら、と顎に手を当てながら考えている。

 

 取り敢えず、一服しよう。そう考えた霊夢は台所へと向かって行った。何時もなら魔理沙が勝手に自分の分を淹れてくれているのか、台所に行って御茶を淹れると言うのは霊夢にとって少し新鮮な感じがした。

 

 卓袱台の上にある荷物を退かして、御茶を淹れた湯呑を置く。ことり、と小さい筈の音が大きく聞こえ、霊夢に神社の静けさをより感じさせた。しかし、霊夢はどうせ明日になれば騒がしくなる、と御茶を啜った。

 

 

 ~ ~ ~ 

 

 

「こんばんは」

 

 しばらくして。霊夢がそろそろ夕飯の準備をしようと思った直後、霊夢の後ろから声が聞こえた。霊夢はまたかと一つ溜め息を吐いた後に後ろをを向く。そこにはいつもの様にスキマから顔だけ出した状態では無く、珍しく立っている紫の姿が有った。 

 

「……何か用?」

 

「あら、用が無くては来ていけないのですか?」

 

 訝しげな目線を紫に向ける霊夢。しかし、紫は眉を顰めて笑いながら返す。そのまま紫は霊夢の対面側に座り、「ご苦労様でした」と霊夢の眼を見て行った。

 

「な、なにが?」

 

「今日の結婚式のことですよ」

 

 と紫は続ける。

 

「普通、此処での結婚式なんて口実で決めればよいのです。しかし、彼等は博麗の巫女であるあなたに官司を頼んだ。つまり、別にあなたは断ってもよかったのですよ。だけど、貴方は承知した。それに私は、ご苦労様でしたと言っているのです」

 

 どこか諭すように言う紫。霊夢は飛んだ無駄骨だ、と今日行ったいろいろと面倒な事を思い出し苛ついたが、ふとあることが気になっていた。

 

「じゃぁ、なんであの人たちは私に依頼したの?」

 

 口実だけで良いのなら、博麗の巫女やそもそも神職の者なんて要らないのだろうに。それなのに、何であの二人はわざわざ人里から遠い博麗神社まで来て頼んだのだろう。それに頼まなければ、今霊夢の傍らに置いて有る大量の食糧も支払わなくて良かった筈だ。

 

「では霊夢。あなたは、あの方たちを見て如何思いましたか?」

 

 質問に質問で返された霊夢は少し苛ついたが、たちまち別の何かがそれを鎮めてくれた。そして、思い出す。あの二人の表情を正確に覚えている訳では無いが、霊夢から見ると凄く嬉しそうな顔をしていたことを覚えている。

 

 結婚式前の時も、結婚式の中でも、結婚式が終わった後でも二人はいつまでも笑っていた。それも、普通の笑う、という行為では無くどちらかと言うと微笑みに近い、なす事を達成したと言う笑みだった。

 

 そういう事か、と霊夢は納得した。つまり、あの二人にとって愛を誓える存在が欲しかったのではないか? 幻想郷での結婚は口実だけで出来る。それが二人は恐ろしかったから、だから愛を誓える存在が欲しかったのでは、と霊夢は結論付け、紫に話す。

 

「そうですね、あの二人はこう考えたのでしょう。誰にも二人の愛を誓えないで、それが愛と言えるのか? 私達は本当に愛し合っているのか? とさえ思ったのでしょう」

 

「だから、誓いを立てる為に私を呼んだって訳でしょ? それなら別に悪い気はしないわ」

 

 晩御飯つくろ、と言って台所へと向かう霊夢。ふと振り向くと、紫は未だに座ったままで霊夢の方を見ている。すると何かを察したのか、また一つ霊夢は溜め息を吐いて紫に聞いた。

 

「紫、食べてくの? 」

 

「はい。久しぶりに霊夢のご飯が食べたいです」

 

 微笑んで言う紫に、霊夢はすこしたじろぐも二つ返事で了承した。まぁ、今日貰った物がある。一人にしては多いから丁度いいか。そう霊夢は決めつけ、台所へと向かって行った。

 

 

 ~ ~ ~ 

 

 

 

 特別豪華な料理でも無く、ましてやそんなに少ない様な料理でも無かった。確かに食材は沢山あったが、幾ら何でもご馳走とまではいかないだろうと思い、霊夢は普通の食事を紫に出したが、紫は嫌な顔をせずに寧ろ「霊夢の作ったご飯ですから」と喜んで食べてくれた。

 

 現在霊夢は食事の片づけをしており、もうそれも終盤だった。しかし、未だに紫は神社に滞在しているままである。このまま泊まるんだろうか、と霊夢は紫の事を気に掛けながらも、最後の洗い物を終えて居間へと歩いて行った。 

 

「美味しかったですよ、霊夢」

 

 霊夢が居間に入った瞬間、紫が口を開いた。霊夢も気にする事無く返すと、紫は如何したのか霊夢を対面に座らせるように言った。昔から育てて貰っている紫なので、本能的に動いたのだろう、霊夢は警戒する事も無く紫の対面側に座った。

 

「さて、食前の話ですが、あれにはまだ続きが有ります」

 

 と、紫は唐突に神妙な面持ちになる。如何したのだろう、と霊夢は少し困惑した。

 

「何故あの二人は山の巫女の方に行かなかったのでしょう?」

 

 何か意味が有るように訊く紫。しかし、霊夢は先日その訳を聞き、簡単に答える。

 

「山までの整備が取れなかったんでしょう? 妖怪の山は危ないし、それに天狗が居るから簡単には入らせてくれないと思うけど」

 

 あの風祝が居る神社は、妖怪の山に有る。故に、普通の人では辿りつくのが難しい。確か、あの男性はそう言った筈だ。だから、こっちに依頼した。

 

「本当にそうでしょうか?」

 

 確信づいた霊夢に、紫が問う。

 

「確かに、妖怪の山へ至る路は危険です。しかしそこの巫女は頻繁に人里に訪れると聞いています。恐らくその日も」

 

 確かにそれならば合点がいく。だが、それに気付いていない場合もあるし、確信づいた情報では無いと霊夢は推測する。しかし、その推測は次の紫の言葉によって外れる事になる。

 

「それに、こっちにだって妖怪は出ます。人里からも、妖怪の山と比べたら圧倒的に遠い。更に、下手をすれば幻想郷から出てしまいますよ?それほどまでのリスクを背負って、なぜ彼は博麗の巫女に頼んだのでしょう?」

 

 なるほど、そう聞けば確かに謎だ。簡単に結婚式まで待てなかった、と言うのが理由に挙がるが、それならばより近い妖怪の山の上に有る神社に行けば問題は無いだろう。だが、彼はあえて博麗神社を選んだ。これは如何いう事だろうか?

 

「むかし、こういう言い伝えが有ります」

 

 霊夢が悩んでいる最中、紫が唐突に話を切り出した。

 

「博麗の巫女が執り行った結婚式は、生涯まで続き、またその家系は妖怪に襲われなくなり、末代まで幸せに暮らすことが出来る」

 

 まさか、博麗の巫女にそんな言い伝えが有るなんて。初耳の事に、霊夢は驚愕を隠し切れず「本当?」と聞いてしまった。紫は「本当ですよ」と答え、続ける。

 

「現に、貴方の先代が結婚式を執り行ったじゃないですか。それに、その前だって博麗の巫女は一生に一回は結婚式の官司をしています」

 

「……何で?」

 

 またも発覚する衝撃の事実に、霊夢は訊いた。

 

「巫女、と言うのは神のお告げをする者、云うなれば神の依代なのです。巫女に祈りを捧げれば、間接的ですが神に祈りが届き、神の御加護を得る事も出来るのです」

 

 まぁ今となっては滅多に知られていませんが、と紫は悲しい顔をして続ける。

 

「更に、博麗の巫女と言うのは幻想郷の中でもかなり力を持った巫女です昔の人はそれを知っていたのですから、結婚式が上手く行くように、そしてこれからも上手く行くように博麗の巫女に結婚式の官司を依頼するのは当然と言った所でしょう」

 

 淡々と話す紫だが、霊夢には少し気になる点が有った。先程も紫が言った様に、巫女と言うのは神のお告げをする者だ。霊夢にもその知識は備わっているが、その点に霊夢は気がかりが有った。 

 

「ねぇ、紫」

 

 なんですか? と言う言葉と共に、紫が笑って返す。

 

「さっき、巫女は神の依代となる者って言ったじゃない?」

 

「ええ、そうです。巫女は神の言葉をそのまま人々に告げる物ですから、その表現も間違いではあるませんね」

 

 それじゃぁさ、と霊夢は呟き紫の目をしっかりと見据えて言った。

 

「私を依代にしている神って、誰なの?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、紫の表情が固まった。目を見開き、まるで理解が出来ない様な物を見たような表情になって居る。その紫の異変に霊夢は不思議がって「どうしたのよ」と声を掛ける。

 

 瞬間、紫は口を手で押さえ、何かが間違いを探るようにしてぶつぶつと呟き始めた。しまった。まさか。いいや、早すぎる。この娘は特別だから。でもどうすれば――と、断片的な事だけが霊夢の耳に入る。

 

「紫、如何したのよ」

 

 そんな紫の異変を察知したのか、はたまた紫のことを心配したのか、霊夢はさっきとは違い、はっきりと聞いた。しかし、それを聞くと紫はさらに混乱したような状態になる。

 

「違う、博麗の巫女はそんな事を気にしなかった。けど、何で? やはり、特別だったから?盲点だった、如何すれば戻せる? 如何すれば全部元に戻る?」

 

 段々と紫の呟く声ははっきりと聞こえ、霊夢は嫌な嫌悪感に包まれた。自分は特別だ、と言う紫が何気に発した言葉。その言葉に酷く心を抉られる様な気持ちになった。紫はナニの判断基準を持って特別としたんだろう。

 

 そう思うと昔自分が人より避けられていたことを思い出し、霊夢は急激に腹が立った。このとき、何時も鎮めてくれる筈の何かが欠け落ちた様な気がして、霊夢は強く、それでいてはっきりと聞いた。

 

「紫、貴女って何よ」

 

 ぴたり、と静寂が訪れる。あれだけ困惑していた紫が今度は何かに対して、酷く怯えたような表情になって居た。こんな紫の表情は初めてだ。一体何が、と霊夢が言おうとした瞬間、紫はいきなり立ち上がり、自身のスキマを開いて何処かに行ってしまった。

 

 また独りぼっちになった霊夢は、「なによ、あいつ」とだけ言い棄て、不意に酒が飲みたくなって台所へと向かった。霊夢の心の中にはまだもやもやが残っていて、それを無視したいが為に霊夢は酒を呑もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博 麗 霊 夢 は 紫 を 知 ら な い

 






議題6:現在時点における博麗神社の祭神は何か?



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