博麗霊夢は全てを知らない   作:宇宮 祐樹

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※少し独自の解釈をしている点が有ります。気にせずに読んでもらえれば幸いです。


博麗霊夢は神様を知らない

「こんにちは霊夢さん」

 

 またくる日、霊夢がいつものように境内を掃除していると早苗に声をかけられた。珍しい、どうしてここに来たかと聞くと、なんでも外の世界からお菓子をもらってきたという。物欲の高い霊夢はすぐさまお茶を用意し、早苗を縁側へと向かわせた。

 

 早苗はというと、霊夢の対応に若干戸惑っていたが、手に提げている鞄から大き目の袋を取り出し、袋の表裏をつまんで引っ張った。ぱん、と軽い音とともに袋が開き、黄色い菓子のようなものが見え、香ばしい匂いを漂わせた。

 

 「なにこれ?」と霊夢が見慣れない、しかし美味しそうな匂いを漂わせている物体にいぶかしげな目線を向けていると、早苗は「まぁまぁ」と霊夢に食べるよう、袋を差し出した。結局何か分からなかった霊夢は、仕方なく袋の中に手を突っ込み、一枚を取り出して口の中へ放り込んだ。

 

「あら、おいしい」

 

「でしょう? 『ぽてち』って言うんですよ」

 

 口の中に広がる香ばしい香りと、薄くて軽い、しかし満足感のある食感に霊夢は感嘆した。こんなにおいしいものが幻想郷にあっただろうか。いや、外の世界のものだったか。などと考えていると、早苗も『ぽてち』を美味しそうに食べている。

 

 そういえば、早苗はもともと外の世界に住んでいたのか、と霊夢は今更ながら思い出す。確か秋くらいに突然早苗を含む守屋神社一団が幻想入りして、博麗神社の信仰を盗もうとしていた。それはもう、今となっては過去の出来事なので、霊夢にとっては何でも無い事だった。

 

 しかし、早苗はどうして幻想入りしたのだろうか? 幻想郷よりも、絶対外の世界のほうが便利なことは確かだ。この『ぽてち』以外にも美味しい物は沢山有るだろうし、この前紫が言っていた『科学』も幻想郷より発展しているのだろう。さすれば、なんで早苗を含む守屋一団は幻想入りしたのだろうか。

 

 霊夢が長考していると、早苗が一言も発さない霊夢に「どうしたんですか?」と声をかけた。一瞬間を置いた後、霊夢ははたと気づいてなんでもない、と答えたあとに残りが少なくなってきたぽてちを食べ始めた。

 

「そういえば、早苗はどうして幻想郷に来たの?」

 

 やはり霊夢は気になっていたのか、早苗の目を見て聞いた。たいてい、幻想郷に来る陣容は重い過去を背負っていることが多い。博麗の巫女である霊夢からすれば、なおさらわかっていることだった。

 

 それを聞いて、早苗は驚いたような顔をした後に、どこか遠い目で空を見上げた。霊夢は迂闊だったか、と反省して、「嫌なら良いのよ」とぽてちをつまんで口の中に放り込んだ。

 

「……霊夢さんは、今の外の状況を知っていますか?」

 

 唐突に、これまで押し黙っていた早苗が口を開いた。

 

「外の世界は此処と比べると、ものすごく悪いんですよ。空気は悪いし、人もあまり温厚じゃない。そして何より、神様をほとんど信仰しておらず、神の需要が少なくなっているんです」

 

 神の需要が少なっている。そのことに、霊夢はひどく驚いた。幻想郷での神というのは割とメジャーな存在で、守屋神社のあの二柱もいれば、秋に出てくるあの二人も神である。神が身近な存在になっている幻想郷で、神の需要が少なくなっていることなんて霊夢は想像がつかなかった。

 

「だから、神奈子様と諏訪子の信仰心が少なく無くなってきて……って、このことは前にも言いませんでしたか?」

 

 首を傾げて聞く早苗に、霊夢も首を傾げて「そうだったかしら?」と答えた。霊夢の周りは異変が頻繁に起こっているので、いちいち一つの異変のことなど覚えていられないのだ。早苗は「何回言わせるんですか」と呆れ顔になり、霊夢はそんなに聞いたっけ? と首を傾げたままだった。

 

「それにしても、神様にとって信仰ってそんなに大事なの?」

 

 ぽてちをつまみながら、霊夢は呆れ顔の早苗に聞いた。すると、早苗は呆けた顔をした後に、「大事に決まってるじゃないですか!」と驚くように叫んだ。

 

「信仰心がないと神様は消滅してしまうんですよ!? 霊夢さんだって巫女なんだから、そのくらい知ってないと!」

 

「いや、知ってたんだけど、いまいち重要性が掴めなくて……だって、ほら。私の神社に祭神はいないし」

 

 博麗神社に祭神はいない。早苗にとってもそれはわかっていることで、そういえば、と声を漏らした。神様がいないのなら、それは神社と言えるのか? 根本的だが、謎めいた疑問が霊夢の中に生じ、霊夢は少し混乱した。

 

 早苗も霊夢と同じような疑問を抱いていた。どうして、博麗神社に祭神はいないのか。そもそも祭神がいないのなら神社として成り立たないはずなのだ。しかし、博麗神社は全うな神社であり、霊夢も『博麗の巫女』という神職である。巫女がいるなら、神様だっているはずだ。もしかすると、博麗神社の神様は本当はいるのではないのか?

 

「ねぇ、早苗」

 

 考えれば考えるほど謎めいた思考が生まれ、混乱に陥っていた早苗に霊夢が声をかけた。唐突な霊夢の行動に早苗は若干たじろぎながらも「なんですか?」と答える。

 

「神様って、なんだと思う?」

 

 神様とは何か。霊夢は根本的なところに目をつけたらしく、自分が一番近い職業だとわかっていながらも早苗にその疑問をぶつけた。そもそも早苗は現人神であり、神に近いか、といえば早苗のほうが近いのだろう。

 

 早苗はというとその疑問に対して「そこからですか……」と呆れ顔になり、ため息を一つはいた。なによ、その顔はと霊夢は苛立つも、早苗は関係の内容にして説明を始めるために口を開いた。

 

「良いですか? まず神様というのは信仰心の塊。つまり、人の『神様がいる』という物の集まりなんです。たとえば、そこに神奈子様がいれば、それだけで信仰は集まってくるものなのですよ。それで、信仰心がなくならない限り神様は消滅しません。わかりますよね?」

 

 『そこにいる』と認識されるだけで生きながらえる。つまり、早苗の言っていることはこうだった。普通の生き物ならば考えられないことだが、霊夢はそれを知っているのでそんなに驚きはしなかった。

 

 霊夢の聞きたいのはそこではない。神様が信仰さえあれば生きていけるのも知っているし、ありえないほどの莫大な力を持っているのも知っている。それは霊夢も知っていることだ。

 

「じゃぁ、神様はなんでいるの?」

 

 神の存在意義。そこに、霊夢は疑問を抱いていた。なぜ神様という存在はいるのか。あれだけの力を持って、何を成そうとしているのか。霊夢には、それが分からなかった。もし神様の存在意義があるのならば、なぜ博麗神社に祭神はいないのか? それも、霊夢には分からなかった。

 

 早苗はというと霊夢の斜め上を言った質問に頭を抱えてしまった。自分が現人神で、それで存在意義を問われる。それほど訳の分からない事は無く、「分かりませんよぉ……」とうなだれてしまったのだ。

 

「そもそも、なんで博麗神社に神様はいないの?」

 

 霊夢が前々から思っていた質問を早苗にぶつけるが、早苗が分かる由もない。これ以上の質問は無理だと思ったのか、霊夢は忘れていたぽてちをつまんで口の中に放り込んだ。すると、さっきまでうなだれていた早苗が「……本当は」と唐突に呟いて、霊夢のほうを向いた。

 

「本当は、居るんじゃないんですか? 博麗神社の祭神は。私や霊夢さんに見えていないだけで、本来ならば祭られているんじゃないんですか?」

 

 早苗もまた斜め上の答えを見つけたが、霊夢はなるほどと思った。本来はいるが、見えていないだけ。それならば見えないはずだと霊夢はなぜか納得してしまった。それなら、博麗神社の祭神はなぜ姿を見せないのか? 霊夢にまた新たな疑問が生まれた。

 

「おそらく、信仰心が少ないために見えていないんでしょう」

 

 早苗は霊夢と同じことを考えていたのか、呟くように言った。たしかに、と霊夢は思う。此処に来る人は居ない。さすれば、参拝に来る客なんている訳が無い。そんな状態では、信仰心も集まらないわけだ。

 

 それならば、神様が居ないはずなのになぜ自分の様な『巫女』が居るのか?

 

 霊夢は頭をひねったが、どうも分からない。そもそも『巫女』と言うのは神に仕える女性と言う意味であり、その神が居なければ巫女もいるはずが無い。しかし、現に自分と言う『博麗の巫女』が居るのだ。そうすれば、博麗神社に祭神が居てもおかしくないのでは?

 

 しかし、こんな神社に信仰なんて集まるはずが無い。どうやってその神様は生きながらえているのだろうか? そんな事を考えていると、早苗は「どうしたんですか?」と霊夢の顔を覗き込んだ。

 

 あ、いや、別にとぎこちなく返す霊夢に、早苗は「神様の事なんですか?」と聞いた。霊夢は少し考えた後に頷く。

 

「大丈夫ですよ。神様は誰かが『居る』と思えば其処に居るものなんですから」

 

 早苗は笑顔でそういった後に、「じゃぁ、私はこれで」と鞄からぽてちの入った袋を数個取り出し、霊夢に渡して帰って行ってしまった。霊夢はこのお菓子をどうしよう、と取り敢えず何時もの様にお茶を淹れるため、台所へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博 麗 霊 夢 は 神 様 を 知 ら な い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









議題8:『神』とは何をもって存在しているのか?



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