またくる日、霊夢が早苗にもらったぽてちを食べていると、魔理沙がどこからともなくやって来た。しかし、霊夢は慣れてしまっているのでさほど驚くこともなく、のんびりとお茶をのみながら「あら、魔理沙」と声をかけた。
「なんか久しぶりな気もするな……って、なんだこれ」
と魔理沙がつまみ上げたのは、一枚のぽてち。霊夢は時に何を言うでもなく、「ぽてちよ」と答えた。魔理沙は一瞬「ぽてち……?」と首を傾げたが、先ほど霊夢が口にしているのを見かけたのか、意を決したようにして口へと放り込んだ。
口の中に香ばしいかおりと、芋の甘みが広がり、魔理沙ははじめてぽてちを食べた霊夢と同じように驚嘆した。幻想郷にこんなものがあっただろうか。いや、ない。そんなことを考えて魔理沙は二口目をつまみ上げ、また口の中に放り込んでいた。
「これ、霊夢が作ったのか?」
「早苗が持ってきたの。そとの世界のお菓子だってさ」
「なんだ、早苗のか」と魔理沙はどこか納得したようにして、三口目をつまんだ。やはり、美味しい。これなら幻想郷にある筈がないし、誰も忘れるはずがないだろう。魔理沙はうんうんと頷きながら歩いていき、霊夢の隣へと座った。
霊夢はというと、普段通りお茶を飲みながら早苗にもらったぽてちをつまんでいたところだった。そして、久しぶりに来た魔理沙に言い表せない何かを持っていたが、それとはまた別の何かがふつふつとわきあがり、その何かを沈めてくれた。
そういえば、魔理沙は神についてどう思っているのだろうか。昨日来訪した早苗により、霊夢は神に少しの興味を抱いていた。魔理沙はこれといった神への関連は無い。しかし、幻想郷からしたら魔理沙は『一般人』であり、それなりに神への知識は持っているほうだと思う。
それならば、一般から見た神の印象はどうなのだろうか? 霊夢の中にそんな疑問が浮かび上がり、魔理沙に声をかけて昨日早苗と話したことを話した。早苗がどうやって幻想郷にきたか、神様とは何か、なんで博麗神社に神様はいないのか――霊夢は自分でもわからないが、どこか熱く迫るようにして魔理沙に伝えていた。
「うーん……私には良く分からないな」
霊夢がすべてを話して帰ってきた魔理沙の回答は、これだった。
無理もないだろう。魔理沙は普通の魔法使いであって、自分のように神道に通じた人間ではない。「そっか」と霊夢はそっけなく返し、いつものように魔理沙用のお茶を入れるために台所へと向かっていった。
「いきなりどうしたんだ霊夢。まさか、お前やっと巫女らしく生活するようにしたのか?」
霊夢が魔理沙にお茶を渡すと、魔理沙がからかう様にしていった。確かに、今までの自分は巫女としてダメだったと思う。しかし、こうも言われると霊夢は心のどこかにふつふつと怒りがわいてきた。しかし、その怒りもまた別の何かによって拒まれてしまった。
「いや、ちょっとね」と怒りをどうすればいいかわからない霊夢はそう答え、また自分のお茶を手に取って飲み始める。魔理沙も同じように出されたお茶をすすり、二人の間に言い表せない静けさが感じられていた。
その中で、霊夢は思考していた。昨日早苗が言った言葉、『信仰心が少ない』という発言に、霊夢は少しの疑問を抱いていた。確かに、博麗神社に信仰が入って来る事は無い。ならば、なぜ早苗は『信仰心が少ない』と
それに、『巫女』という自分の職業があるのも一つの問題だ。巫女というのは神の言葉を告げる職業で、神がいないということは必然的に巫女も居ない筈である。それならば、なぜ
「なぁ霊夢」
霊夢が思考をしている
「そもそも、『
その質問に霊夢は一瞬間を置き、「はぁ?」と呆れた顔で返事をする他なかった。
「いや、だっておかしくないか? 他の神社にはちゃんと『神』がいるのに、この『博麗』神社には神がいない。その代わりと言っちゃぁなんだが『博麗』の巫女が神社にいる。だけどな、極端な例だが神が居ても巫女がいない神社だってあるんだ」
「どうだ、分かるか?」と魔理沙が聞くも、霊夢はあまりわからない様子でいた。霊夢にとっては神社に神様が居ないなんて普通なのだ。その点では魔理沙のほうが常識人らしく、「つまりな――」といったん間をおいて告げる。
「神が居て、巫女がいないのはある。逆に、神が居なくて巫女が居るってのは
神が居て、巫女がいないのはあるが、巫女がいて神が居ない。確かに、それはおかしいと霊夢は思った。たとえるなら、電話の受話器はあるのに線がつながれていない状態。しかし、現に霊夢はこうして『博麗の巫女』として存在している。ならば、この『現象』は一体何なのか? 霊夢が考えていると、魔理沙が口を開いた。
「だから、こう考えてみた。
その発言に、霊夢は得体のしれない何かを感じた。霊夢にはその得体のしれない何かが怖く感じられ、途端に震えが止まらなくなった。魔理沙はその霊夢の異変に気が付き、「だ、大丈夫か!?」と声をかける。すると、
「やめて」
酷く掠れた声で、霊夢はつぶやいた。そのまま霊夢の中にある得体のしれない何かはふつふつと湧き上がって、仕舞には衝動的に立ち上がり、魔理沙の胸倉をつかんだ。魔理沙は何が何だかわからない様子で、たじろいでいると霊夢がかすれた声で言い放った。
「それだけは、やめて。私はちゃんとした『巫女』なのよ? そんなことがあるはずないじゃない」
迫るように言い放つ霊夢に、魔理沙は得体の知れない違和感を感じていた。どうしてここまで霊夢は否定をするのだろうか? 自分はただ可能性の話をしていただけなのに。魔理沙は迫ってくる霊夢を落ち着かせるように、言った。
「冗談だって。霊夢がそんなはずないもんな」
すると、霊夢は「そういうことよ」とやけに冷めた感じで言い放ち、再び縁側に座ってお茶を飲み始めた。魔理沙は霊夢が元に戻った事に安堵し、再びお茶を飲み始めたのであった。
~ ~ ~
「どうする…まだ早い? あの娘が『博麗』の真実を知るには…」
博 麗 霊 夢 は 博 麗 を知 ら な い
議題9:そもそも、『博麗』とは何か?