IS 二つ目の祈り   作:スワンプ2

1 / 7
1.隠された過去と一日目

「それで、結局行くのか?」

キーボードを打ち込みながら長髪の男が問いかける

 

「まぁな、どうせ行けるのは俺だけだ」

首元を撫でながら少年が答える

 

「……僕が行ってもいいんだぞ」

一瞬、キーを叩く音が止まった。

 

「処置が済んでいるのは俺だけだ、お前まで来る必要はない。大体、アンタじゃ年が合わないだろ」

 

「はぁ……わかった。だが過度な搭乗は避けろ、お前は……」

その先を言わせまいと、が遮った。

 

「お前こそ、変なことを考えるなよ。 戦うなら俺一人で十分だろ?ルイ」

 

 

はぁ。と息を漏らして

「わかってる、無事を祈るよ。永人」

ルイと呼ばれた男はそう返した。

 

「ああ、またな」

 

そして、少年は一言を残して部屋を去った。

 

 

 

準備を終えた永人は、通路に背を預ける女性から声をかけられた。

「……私は反対だ」

「そうですか、でもしなければ俺た……「違う、お前たちのことは……」

自身が友にしたように、言葉を遮られる。

 

「織斑一夏はあんたと同じく奇跡の存在だ。誰かが守らなければならない」

「私が……」

 

その言葉をまた同じように遮る。

 

「あなたには職務がある、いつだって一緒にはいられない。これが最善の選択です」

 

「……わかった」

 

「それと、休暇のたびにここに顔を出さなくてもいいんですよ」

 

彼女が顔をそらし呟く。

 

「……ただの癖だ」

 

癖のはずがない、そう知りながら俺は知らないふりをして

 

「そうですか」

 

一つ呟いて、そこを後にした。

 

 

 

 

 

 

永人が席を立ち、促されたように自己紹介を開始する。

自身より年下の者たちと同じ目線で語るのは少し気恥ずかしく、永人は頬を描きながら口を開く。

 

細目永人(さいもくえいと)、16歳です。皆さんとは一つ年が違いますが対等に接してくれると助かります。」

 

永人が着席すると、担任である織斑千冬が事前に用意されたカバーストーリーを語った。

 

「細目は限定的だが男でIS適正を持っている、後ろ盾のある織斑と違い誘拐等の危険性を考慮して今日まで日本国家の保護下にあった」

 

もっとも、それを彼らが知るのはずっと先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介が終わり、休憩時間にはいる。

 

永人は教材の整理を行いながら、自身の存在意義について考えていた。

 

「俺一夏、よろしくな」

 

そう織斑一夏が細目永人に話しかけるが、彼はそっけなく答える。

 

「知ってる」

 

「なんだよ、釣れないなぁ」

 

ため息をつきながら、永人が答える

 

「アンタは有名人だからな、世界初のISに乗れる男性」

 

「それはエイトもそうだろ~」

 

すかさず返す一夏に永人は少し間をおいて答えた

 

「……そうだな」

 

「だろ? 学園に二人の男子同士、仲よくしようぜ。エイト!」

 

「わかった、だからその肩を組むのをやめてくれ」

 

「いいじゃんか~」

 

親しげに話す一夏に対して冷たく応対する永人。

その二人に気付け。というようにコホン、と小さな咳。

 

「少しよろしくて?」

声は金色の長髪をした生徒だった、吊り上げられた眉がその攻撃性をのぞかせた。

一夏はそれを気にもせず返す。

 

「俺たちに何か用か?」

 

「まぁ! せっかくこの私が声をかけてあげたと言うのに、なんですのその態度は!」

返答が不服だったのだろうか、少女は僅かばかりの怒りを隠さなかった。

 

「って言われても俺、君のこと知らないし……」

「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコット」

すかさず永人が答え、その回答にセシリアの気はそれなりに収まったようだ。

 

「そちらの方はご存じのようですわね。そう、私こそ……」

「なあエイト、代表候補生ってなんだ?」

 

「……お前マジか…」

「あっ……あなた、本気で言っていますの!?」

頭を抱える永人、またも怒りを我慢できないセシリア。

 

「ああ、わからん」

 

「あのな、代表候補生ってのは……」

 

「代表候補生とは国の顔ともなる資格を持ついわば"エリート"! お二人はそんなエリートと同じクラスであることを感謝するべきなのですわ!」

 

「それお前もだろ…… 希少なIS適正を持つ男だぞ」

 

「あなた、私を馬鹿にしてますの!?」

 

一夏に説明しようとする言葉を遮り、声高に自身の優位性を語る彼女に永人が水を差す。

 

「バカなのはこっちだけだ、俺はただ……」

 

自身の発言の迂闊さを永人は呪った、だが吐いた言葉を口の中に戻すことは叶わなかった。

 

「もう結構です! せっかく新入生で唯一!試験で教官を倒した私があなた方にISについて教えて差し上げようと考えておりましたのに!」

「あ、教官なら俺も倒したぞ」

「……はぁっ!?」

 

が、一夏も同じく教官を倒していた。不用意な発言を二人して行ってしまったことに永人はどうしたものかと思考を巡らせる。

 

「わ、わたくしだけと聞いていましたが…あなたは、あなたはどうなんですのっ!?細目さん!」

「俺は勝ってない、二人してやるんだな」

「っ!…そうでしょう!細目さんはよくわかっているようですね!」

ヨイショした。永人は試験など行ってはいないが、それで彼女の気が済むのなら構わないと考えた。

 

「ああ、流石は代表候補生だな」

 

可能な限り本心のように装った言葉が、(どうかバレないでくれ)と心の奥底で祈りながら永人はヨイショし続けた。

 

「なんだよエイト、ずいぶん持ち上げるじゃん」

 

「事実を言っただけだ、だがISについて教わる必要はない」

 

「わ、わたくしの折角の好意を無駄にするというのですね……!これだから男は……」

 

続く永人の言葉を挑発と受け取ったのか、オルコットは食って掛かった。

 

「そういうわけじゃない。俺もISについてはそれなりに詳しいからな、俺が一夏に教える」

「エ、エイトぉ~」

感動かあるいは感謝か、一夏が永人の腰を抱きしめる。

 

「抱きつくな。……優れたものはもっと自己の目的のために時間を尽くすべきだ、オルコット」

 

それは、嘘や持ち上げなどではなく彼の本心から出た言葉だった。

 

入学前に同じ学年の人間を調べていた永人はセシリア・オルコットのIS適正、そしてなによりその才覚に甘んじず努力を続ける姿勢に好感を抱いていた。

 

「っ……もういいです!」

その純粋な好意から出た言葉に照れてしまったのか、彼女は二人のもとを離れ自身の席へと帰っていく。

 

「なんか……エイトっておじさんみたいだよな」

「うるさい」

 

もっとも、その二人はオルコットのことなど気にも留めず談笑を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二限目。ISについての科目だ、一夏の隣に机をくっつけ、わからないところをいちいち説明してやる。

 

「織斑君、ここまででわからないところはありましたか?」

 

副担任の山田先生が机に身を乗り出し問いかける。 沈黙を少しだけ置いて、一夏が口を開くう。

 

「は、はい……全部わかりません」

 

頭が痛くなってきた、なんだこいつ。と永人は思った。

その永人の頬を風が撫で、一拍置いて耳を貫く音が教室に響き渡った。

 

「この馬鹿者が……。事前に教本に目を通しておけとあれほど言っただろう」

 

煙を上げる出席簿を持つ担任の姿、先ほどの風はこの板で起こされたものだろう。

 

「イテテ……電話帳と間違えて捨てました」

 

まったく、とため息をつきながら千冬。

 

「再発行してやるから、一週間で覚えろ。 細目、手伝ってやれ」

 

「はい」

 

「一週間って、いくら何でも無理だぜ千冬姉!」

 

「織斑先生だ、いい加減覚えろ。 ……細目、お前はどうだ」

 

「書かれている内容は全て把握しています」

 

永人は記憶力がよかった、一度で覚えるほどの優れたものではないがISの知識には経験があった

 

「いいだろう、だが授業はちゃんと聞け」

 

一夏につきっきりで説明をしながらで疎かになっていた、と釘を刺す千冬。

 

「はい」

 

永人は何一つ文句を言わずそれをうけいれた。

 

「なんか……エイトには優しくないかぁ……?」

 

「織斑、何か言ったか?」

 

「い、いえっ! なんでもありません!」

 

一夏は姉には逆らえなかった、だが永人と千冬の関係に疑問を抱かずにもいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

呆れた顔をしながら永人が問いかける。

 

 

「それで、再発行まで俺のを貸してくれってことか?」

 

「頼むよ~。一週間で覚えなきゃだから、時間がないんだ」

 

合掌している一夏の手を払いのけ、永人は席を立つ

 

「イヤだ、貸した分まで無くされたらたまらん」

 

「エイトぉ~」

「うるさい」

 

 涙ぐみながら永人の腰に縋りつく一夏に凛とした声がかかる。

 

「い、一夏」

 

「ん? なんだ、箒か。 どうしたんだ?」

 

永人はすこし意外そうな顔をして彼女を見つめていた。

 

「あ、エイトとははじめましてだよな? こいつは篠ノ之箒、俺の幼馴染だ。つっても、この学校で久しぶりに会ったんだけどな」

 

少しずつ、永人の顔が険しくなっていく。

 

「……お前が篠ノ之箒か」

 

恨みごとのように呟く永人、その空気に気圧されたのか篠ノ之箒は怯えてしまう。

 

「な、なんだ……?」

 

怖がっている彼女の顔を目にして永人は自身が年下の少女を威圧してしまったことに気が付く。何とか取り繕おうともするが、大した言葉は出てくれなかった。

 

「いや、なんでもない。よろしく頼む」

 

「う、うむ……」

 

気まずさが流れるのを止めるように、一夏がすかさず話しかける。

 

「それよりどうしたんだ?箒」

 

「い、一夏……少し良いか?」

 

もじもじと下を向きながら箒が話を切り出すのを見て、永人は彼女の気持ちを察していた。

 

「なんだ飯か?じゃあエイトも……」

 

一夏なりの気遣いだろうが、永人は一人の少女の恋路を邪魔するほど無粋な男ではなかった。

 

「俺は良い、二人で行け」

 

「なんだよ、せっかく……」

「少し気分が悪いんだ、一人にしてくれ」

一夏の言葉を遮り、出てきた言葉は嘘ではなかった。

 

永人には彼女を嫌う理由があった。 それは誰にも――少なくとも、同じ学園。罪なき少年少女に知られてはならぬ過去でもあった。

 

「わかったよ……体調悪いなら無理すんなよ」

 

そんなことをしらない一夏は彼の体を気遣いながら身支度を始める

 

「……ああ、ありがとう」

 

「じゃあ箒、行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?結局お腹がすいてここに来たの?」

 

その言葉に、キッチンに立つ永人はぶっきらぼうに返す

 

「そういうことです」

 

「しょうがないわねぇ、じゃあお姉さんがご馳走してあげる」

 

「……作っているのは俺です」

 

更識家の主でもある楯無の言葉に歯向かう永人。

 

「それと、職務放棄は感心しないわよ。エイト君」

少し低い声で釘を刺す彼女の言葉に不服そうに永人は答える。

 

「篠ノ之箒がいるのは聞いていません」

 

「あら、一緒じゃ嫌なの?」

 

「嫌です、大体」

 

「仕事に私情を持ち込むのは感心しないわね」

 

「そもそも、彼女がいるなら俺は要りません」

 

完成した料理をテーブルに運びながらの言葉、彼女はそれを聞きながら永人をにらみつける。

 

「データが必要でしょう?一夏君の……男性搭乗者のデータが」

 

「なにより、それを望むやつらのためのスケープゴートが」

 

日本国のエージェントでもある永人は(少なくとも今のところは)国の重要人物である楯無に逆らうことはできなかった。

 

「そう、あなたにはもう少し働いてもらうわ」

 

キツい仕事だ、永人はそう考えながら彼女の向かいに座り悪態をついた。

 

「わかりました、ですがあなたは直属の上司じゃない」

 

「そうね、でも従わないなら私にも考えがある」

 

二人の狭間に流れる緊張した空気を永人が先に切り開いた。

 

「……何をすれば?」

 

すると、永人の手にスプーンを手渡し、楯無が口を開いた。

 

「とりあえずそのオムライス、一口頂戴?」

 

ため息をつきながら、永人は彼女の口に最初の一口目を差し出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。