「仲良くしないって言ったはず」
更識簪がそう言いながらこちらを睨む。
「そうだな、でもおれは気まずいのが嫌だ」
椅子を回しながら俺は顔をそらした、仮にも自分の部屋でもあるのにくつろげないのは辛い。
「1組はもう気まずくなってるって聞いた」
クリティカルな意見が胸に刺さる
「……俺のせいでもあるのは、否定しない」
「大体、なんであなたが同じ部屋なの? 織斑一夏の護衛って聞いたけど」
聞き逃せない言葉が耳に入る、一応国家機密のはずだ。
「誰から聞いた? 楯無か?」
「お姉ちゃんは関係ない!」
先ほどまで感情を見せなかった簪が突然大きな声で怒鳴る。
「悪い、だが情報の出どころによってはこちらも動きを変えないといけないからな」
楯無には悪いが、簪が口を割らないなら酷いこともしなくちゃならない。
……それで彼女に殺されても仕方がないが。
「……話したくない」
顔を背けてこぼす簪、すまないが揺さぶりをかけさせてもらう。
「そうか、なら楯無に調査してもらうことも……」
「やめて! ……絶対危害を加えないって、約束してくれるなら教えてあげる」
姉のことを口にすれば感情を乱す、わかってはいたが心苦しい。
「無理だな。殺さなきゃいけないならそうするし、でっち上げで投獄くらいはするかもしれん」
もちろん脅しだ、そんなことする気はないが……必要ならやらなければならない。
「約束して!」
食い下がる簪、ここまで感情を見せるのは珍しい。
「話せばお前は安全だ、楯無の身内だからな」
「約束してくれないなら話さない!」
あのダウナーな少女から出るとは思えないほどの強い感情に気圧されそうになる、これが更識の血なのか。
それとも、この少女一人の力なのか。
「断る、なぜ庇う? 親友か?」
「……そう」
顔を伏せて答える彼女に事実を伝える。
「約束はできない」
「同室と気まずくなるの、嫌って言ったでしょ」
今日は最悪だ、ただ二人で仲良く世間話でもしようと思っていただけなのに……
こんなにも押しが強いなんて思ってはいなかった。
「……わかった、危害は加えない」
しぶしぶ了承する、彼女の親友なら抱え込むのも選択肢だ。
最悪、楯無に土下座でもして頼むしかない。
「……本音から聞いたの」
布仏本音。彼女の付き人であり、代々更識に仕える家系の人間だ。
「そうか、なら大丈夫だ」
「やっぱりお姉ちゃんと……」
だが、彼女達は仲たがいしているようだ。
原因は楯無だろうが、布仏本音との関係は確かではない。
「知らん。だが身内なら気にする必要はない。それと君も、誰にも言わないと約束してくれ」
「わかった……ありがとう」
こちらを見つめながら礼をいう簪、なんだか恥ずかしくなって頬を掻く。
「礼を言うのはこっちだ、話してくれて助かった」
「あなたって……話すのがあまり得意じゃないんだね」
からかうように、こちらを見つめる簪に目を背けてしまう
「うっ……すまん」
「ふふっ、いいよ」
「まったく……」
この姉妹には手を焼かされてばかりだ。どちらも掴み難く、こちらを小馬鹿にしてくる。
「それより。あなたのIS、何ていう名前なの」
こちらの首を指さしながら、彼女が問いかける
「こいつか? こいつの名前は……」
アリーナのIS発進口。薄暗く、そしてカビ臭い。
「始めるわよ、エイト君」
待っていたのは上司の一人――更識楯無だ。
「ああ」
「長期間の戦闘は禁止、搭乗時間は5分に設定して」
据え置きの機材を使ってISに搭乗制限をかける。俺の体質上、長時間ISに搭乗することはできない。
最大搭乗時間は7分33秒、乗りすぎると体に反動が来る。
「了解」
左腕を掻く、いつもの癖だ
「落ち着かない?エイト君」
相変わらず口元を扇子で隠しながらこちらをからかう楯無。
「落ち着こうが落ち着かまいが、やることは変わらない」
搭乗設定が終わり、カタパルトへと向かう。
「そうね、少しはカッコいいところを見せてよね」
「前と言ってることが違うぞ」
適当な女だ、相手にすると疲れる
「だから……「乙女心だろ」」
先日言われた言葉を返し、カタパルトについてから展開を開始する
「よくわかってるじゃない」
「俺が全力を出すのは仕事だからだ」
「それでいいわよ」
「はぁ……惚れるなよ」
「冗談」
灰色の装甲が展開し、搭乗タイマーが作動する。
「フィッティング完了。IS、グレースケイル 搭乗者 細目永人」
ハッチが開き、空が待ち受ける。
「行動を開始する」
はじまったら、あとは全力でやるしかない。
「来ましたわね、細目さん」
蒼い機体に、長い金髪が映える。
長い銃身が彼女の戦闘スタイルを示していた。
楯無の言っていた相性って言うのはそういうことか
「すまない、待ち侘びていたとは知らなかった」
こちらも拡張領域からアサルトライフルを取り出し、システムが同期する
『一試合目、セシリア・オルコット対細目永人』
『試合開始!』
「ブルーティアーズ行きま……」
「悪いが時間がないんでね!」
名乗りを邪魔してブルーティアーズに突撃する
「何をっ!」
だが彼女も反応し高速で上昇、反撃を開始する
「さすがに早いな!代表候補生!」
互いに射撃を交わしながら距離を詰める
「不躾にもほどがありますわよ!」
「かもな!」
セシリアの射撃がこちらに当たり始める、動きを捉えてきた証拠だ。
「ワルツには作法が……」
渾身の射撃を左腕の物理シールドで受け流し、そのまま殴りつける
「戦いにはマナーはないんだろ!オラァ!」
衝撃で吹き飛んだ勢いを生かし、セシリアが距離を取る
「遅いですわよ!」
ブルーティアーズのスカートがない、やられた!
殴りつける一瞬、彼女はビットを切り離しここに置き去りにした。
「いきなりビットとは全力だな!」
僅かな虚勢を張りながら回転運動を繰り返し、ビットの弾幕を回避する。
完全にハメられた。四つのビットに囲まれ、相手は安全圏から射撃できる位置を取った。
「わたくしと四基のビット、合わせて五つの砲門の攻撃。しのげるとは言わせません!」
「ご丁寧にどうも!一機もらうぞ!」
こちらの射撃がひっかかり、一つ落とした。
だが相変わらず射撃は止まない、本体の狙撃も正確だ。
「無様に踊っているようですが!」
セシリアが射撃を継続する、おっしゃる通り、数発もらってしまった。
残り時間約3分、もう少しあると思ったが時間を稼がれている。
だがこちらにも作戦くらいはある。
ブルーティアーズのBT兵器は強力だ、本体の遠距離射撃型と合わせて相手を完封しうるポテンシャルを持っている。
「もらった!」
「っ!」
直撃だ、戦略こそ強力だが彼女はビットの操作中移動できていない。
「動きがトロいな!お嬢さん!」
すかさず盾を投棄、ナイフを取り出し相手に組み付く。
「ですが!」
セシリアが下がるその一瞬、もう一つビットを破壊する。
「当ててくるか!」
対価とばかりに差し込まれる射撃でISのシールドが削られた、残り2分
「近接戦にさせるつもりはありません!」
急旋回しながらブルーティアーズがビットを盾にする。
「いいな、撃ち合うのも楽しくなってきたところだ!ぐッ!!」
頭が割れるような痛みとともに意識が一瞬消える。
戻った時には地表にいた、どうやら
「いきなり止まって……バカにするのも大概にしてください!」
そのまま数発の射撃が頭上に降り注ぎ直撃する、残り1分30秒
「痛ってぇなぁ……やっぱりこいつか」
ISには珍しい、備え付けの武装を腰のホルスターから抜く
「リボルバー?FCSもない原始的な武装で……!」
いいセンサーを使っているようだ、すかざす残った二基のビットを打ち抜く。
「だがあと一つだな、ブルーティアーズ!」
左腕のナイフを投げつけ、すかさず二回の射撃をねじ込む。残り45秒
「近接戦が出来ないとでも!?」
ブルーティアーズの左手にレーザーブレードが現れ、彼女は大きく腕を振りあげる。
「じゃないとつまらないよなぁ!」
グレースケイルが興奮にするように速度を上げる。
ブルーティアーズの斬撃を躱し、一発の射撃が直撃した。
「いきなり早く……!」
「時間が少ないんでね、決めさせてもらうぞ!」
脚部でブルーティアーズの横っ腹を蹴りつける、またもや衝撃を生かして逃げようとするセシリアを咎めるように落としたライフルを拾い上げ乱射する。
「ぐっ!ですが隠し玉というものは……」
言葉とともにサイドスカートが開き、中から二つの飛翔体が接近する。
だがもう引く猶予はない、直撃コースを受け入れて最短距離を直進する。
残り時間10秒…!
「ハハハハ!そう来ないとなぁ!ブルーティアーズッ!!」
爆炎を浴びながら飛び出し、左腕でブルーティアーズを地面にたたきつける。
「シールドが……」
シールドアラートを確認して飛翔しようとするセシリア。
しかし舞う土煙を掻き分けたグレースケイルが左足で彼女を踏みつけ、最後の一発を携えた銃口が狙いをつける。
「はは……レディを踏みつけるのは趣味じゃないが…… 俺の勝ちだ、セシリア・オルコット」
「くぅぅぅ……」
屈辱にぬれたセシリアの額に狙いを合わせ引き金を……
「は?」
「あ」
突如、光の粒子が視界を埋め尽くす。
彼女の機体はそのまま、つまりこれは……
「時間切れか……。悪い、お前の勝ちだな。ミスオルコット」
「あなた……鼻血が…」
そう言われて鼻を拭うと、指が真っ赤になっていた。
「ああ、わるい……楽しかったよ、またやろう」
「それと、いい腕だな」
セシリアの射撃は確かだったし、ビット捌きもなかなかのものだった
もう少し成長すれば、俺では手も足も出なくなるだろう。
「っ……いえ…」
セシリアが気恥ずかしそうに顔を逸らす。
「じゃ、あとは織斑一夏とだな。俺はあんたに賭けてるんだ。負けるなよ」
「……ええ! もちろんですわ!」
ISから降りた彼女の顔はいつもより輝いていた。
楯無が待つガレージに向かう。
笑われるだろうな、負けたなら仕方ないが。
椅子を回しながら楯無がこちらを見つめる。
「以外とやるわね」
立ち上がり、取り出した扇子には『善戦』と書かれている。
意外なのはこっちだ、揶揄われると思っていた。
「負けたがな」
ため息をつきながら隣に座りこむ
低い適正で無理やりISに乗るのは身体的負担が高い、わかってはいたが五分の戦闘ですら意識の限界だ。
「試合開始の合図を待たなければ、あなたの勝ちだった」
らしくない慰めが意識を崩す、もう喋るのもやっとだ。
「なんだ……惚れたか?」
「そうね……あなたの実力、見せてもらったわ。今はゆっくり休んで」
彼女が体を支える。珍しい思いやりに抵抗できるほど、体力は残っていなかった。
「悪い」
「いいのよ」
その言葉を最後に、彼女に体を預けた。