IS 二つ目の祈り   作:スワンプ2

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2023/05/11 一部の誤字を修正


4.たくらみと保健室

「これがターゲットのデータだ」

「ありがとうございます」

金色の髪を持つ少女が書類を受け取る

 

「2週間以内には覚えろ、出発当日に焼却する」

 

「はい」

スーツの男は退室し、監獄のような部屋に彼女は残された。

 

一枚目には織斑一夏と、その搭乗機白式のデータが記されている。

 

「イギリスの代表候補生……セシリア・オルコットを倒した?」

紫色の瞳を大きく開き、少女は驚きを隠せなかった。

 

白式の機体データを眺めても、初のIS戦闘をする人間が乗りこなせるようなものではない。

 

よしんば乗りこなせたとして、こんな格闘のみに絞られた機体ではセシリア・オルコットの操るブルーティアーズとBT兵器を攻略できるはずがない。と

 

「油断した? いやそれでもおかしい、織斑一夏がISを使って戦闘をするのはこれが初めてのはず……」

彼女はひとまず織斑一夏のデータを後回し、セカンドターゲットでもある細目永人とグレースケイルを記した書類に目を通す。

 

 

 細目永人、16歳  ターゲット優先度:低 危険度:A

 日本人 日本IS研究センター代表の息子であり技術者でもあるが、ダミーの情報と思われる。

 

 実際は日本暗部、更識家のエージェントである可能性が高い。

 

 彼と関わる際は正体が露呈する危険性がある、注意されたし。

 

 IS適正はD、長時間の搭乗は機体とのリンクが継続できない。

 

 搭乗機体グレースケイルは打鉄をベースにした2.5世代型

 機体各部に内蔵された補助システムと頭部追加バイザーによるパイロットへの直接のデータ転送を減少させる試みにより、可能な限り搭乗時間を増加させている

 また、本来ほかのISが反応しない細目永人を搭乗させるため、ISとの適合性を出処不明の技術によって強引に突破している模様。

 確認された装備一覧

 

 拡張領域からの呼び出しを確認

 ・IS用日本製ライフル「ガルム」

 ・IS用物理シールド「ライオット=2」

 ・IS用ロングソード「スチーム」

 

 本体に備え付けされている装備 

 ・IS用大型リボルバー

 ・IS用データナイフ

 

備え付けられている装備は完全に出自が不明、リボルバーはIS本体のFCSとリンクしていない。

 パイロットの負担を軽減するために完全マニュアルの武装をIS本体の備え付けにしていると考えられる。 

 

「グレースケイルの射撃でBT兵器の半数が破壊、続く白式との戦いでブルーティアーズは使用できるビットの数が制限されていた……」

 

 なるほどね、と一人頷く少女。

 

「グレースケイル……うちの商品と同じ名前」

 

わざわざ他社の商品で使われている名称を機体名にするということは、なにか隠したいものがあるのか。あるいはただの偶然か。

 

「どちらにしても彼に関わるのは危険すぎるなぁ、できれば織斑一夏だけと接触したいけど……」

 

 そうもいかないか、だって私……いや僕は

「シャルロットじゃない。 もう、シャルル・デュノアなんだ」

 

 部屋を照らす月を眺めながらシャルルは空を仰いだ。

 

 

 

//

 

 

セシリア・オルコットは英国貴族である。

 

自身の生まれた国、そして育った土地であるイギリス……連合王国を愛している。

だからこそ、日本という土地に招かれ挙句国や自身を侮辱されるような事態など許せるはずがなかった。

自身が護ったオルコット家が、(それが直接的でなくとも)――貶されるようなことは耐えられなかった。

努力を続けたこのセシリア・オルコットがぽっと出の、それも冴えない男二人に乗り越えられるようなことを。

セシリア・オルコットは許すことなどできなかった。

 

「なのに……あの男……!」

 

セシリアはあの白髪の――目に隈のある痩せ型の男を思い出す。

 

細目永人とグレースケイル。

 

灰色の機体、見るからに日本製量産ISである打鉄をベースにした軽装甲の機体。

その割に速力も運動性も劣悪なIS。

 

負けるはずのない力の差、負けるわけのない機体の差。

 

鍛錬を積んだこのセシリア・オルコットとブルーティアーズが負けるハズなどないと、そう思った。

思っていた。

 

厳密にいえば、セシリアは勝利した。

 

彼の機体に搭載された搭乗時間タイマーが作動し、彼の搭乗が解除。

光に包まれたあと、残っていたブルーティアーズが勝者だと判定された。

 

「勝ってなんて……いない」

 

セシリアは悔しさで歯を食いしばった。

 

最後の一発が装填された銃口が向けられ、地に踏みつけられている。

 

自分の負けだと言われれば否定できない光景だった。

 

(「お前の勝ちだな」)

 

彼の試合後の言葉が頭に残り続ける。

 

セシリアが同じ条件なら負け惜しみの一つくらいは漏らしたかもしれない、だが彼は敗北を受け入れこちらを称えたのだ。

 

勝負中、どのような選択肢も使う野蛮な男だとセシリアは考えていた。

 

名乗りの途中の突撃、不意打ちの射撃に機体そのものを使った強引な格闘戦(マーシャルアーツ)

 

泥臭く、そして誇りなど微塵もない悪辣な男だ、と

 

そうではなかった、彼は自分に全身全霊で向かってきていたのだ。

 

セシリア・オルコットを油断ならない相手だと信じてくれたのだ。

 

そのような事、セシリアには初めてだった。

 

セシリアにとって、男というのは醜悪な存在だった。

 

社会的な地位や金、自身の体のために言い寄ってくる男たち。

 

その目にはセシリアは映っていなかった。

 

だが彼の眼は違った。 戦うときも終わった後も、心の底から自分を見つめていた。

 

あの男は、セシリア・オルコットを一人の人間としてみてくれたのだ。

 

「細目……永人」

 

こぼれるように呟いた名前には、今までに感じたことのない熱が籠っていた。

 

 

//

 

瞼を開くと、医務室のベッドの上だった。

隣に座る楯無がこちらに気付く。

 

「エイト君、大丈夫?」

 

「……どれくらい倒れてた?」

 

「大体30分くらい、一夏君とあなたの戦いは明日になったわ」

 

そうか、とつぶやいて天井を見つめる

 

「ダサかっただろ」

 

「そうね、美しさなんて欠片もない戦いだった」

 

楯無は包み隠さずに答えた。

 

「しかも負けた」

 

 負けた、自らの言葉が胸に突き刺さる。

 

「そうね」

 

「……勝ちたかったんだ」

 

らしくない言葉だと自覚し、楯無に背を向けてしまう。

 

「エイト君……」

 

「セシリア・オルコットには才能も努力もある。アイツに勝てれば…… 俺はISに乗った意味があるって思ってた」

 

「……」

 

その弱音に、楯無は答えてくれなかった。

彼女の表情は見れなかった。 ベッドに転がる俺の背中に楯無の小さな手が触れた。

 

「ISに乗るためならなんだってした、なんだって……」

 

「そうね」

 

「それで負けて…… 気絶して」

「俺は何のために……ここに来たんだ」

 

言葉が止まらなかった、自分の中でここまで大きな感情になっているなど思いもしなかった。

 

彼女が肩をつかみ、そっぽを向いた体を向きなおす。

楯無が、俺の目を見つめていた

 

「一夏君はまだ自分を守れるほど成長していない、まだIS学園(ここ)にいる理由ならあるわよ」

 

「……悪い、情けないことを言った」

 

真剣な瞳を前に気持ちを入れ替えられた。

勝てないな、と心の中で呟く。

 

「いいわよ、特別に許す」

 

楯無がからかうように笑った。

 

まったく……しばらくこのネタで遊ばれるんだろうな、明日からがまた憂鬱になる。

 

「ねぇ、エイト君」

「なんだ?」

 

突然の彼女の呼びかけに体を起こす、楯無が再びこちらを見つめる。

 

「お疲れ様」

 

「ま、俺以外にいないからな」

 

まっすぐなその瞳と言葉に、つい目を逸らしてしまう。

 

「……やっぱりね」

 

くすり、と彼女が笑う。

 

「なんだよ」

 

「あなたって、自分が思うよりヒーローよ」

 

いつものように広げられた扇子には『ヒーロー爆誕』の文字。

手品のようなその光景が相変わらず気持ちを落ち着かせる。

 

「……バカを言え、公務員だからだ」

 

「かもね」

 

気まずくなった俺は横になり、後ろ手に彼女を追い払った。

 

「さっさといけ、俺は寝る」

 

「枕を濡らすの間違いでしょ」

 

「うるさい」

 

おほほ~。そう笑う声が徐々に遠ざかる。

 

「……ありがとな、楯無」

 

茜色に染まる廊下を眺めてつぶやいた、わずかばかりの本心とともに。

 

そこにガサリと物音、ベッドの仕切りから顔をだす楯無のにやにやと笑う口元。

 

「どういたしまして~、エイト君」

 

「どっかいけ!」

 

照れ隠しのような叫びを受け流しながら飛び去って行く上司(悪魔)

今日は最悪な一日だ、窓の奥の西日を眺めながら細目永人は独り言ちた。

 

 

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