「それじゃあ、織斑一夏くんの代表就任を祝って!」
「かんぱ~い!」
日も暮れつつある夕方
食堂から響く学友たちの声
そのわずかに聞こえる音を聞きながら細目永人は屋外のベンチで横になっていた
夕焼けに瞼を閉じる彼の隣、わずかな隙間に少女が体をねじ込む
その窮屈そうな彼女――更識楯無の触れ方に永人はベンチに座りなおした。
「行かなくていいの?」
赤色に照らされた彼女の水色の髪をきれいだと感じながらも、彼はその言葉を使わなかった
「苦手なんだ、人と集まるの」
「それでも、行ったほうがいいわよ」
折角の青春なんだから、と年寄りのようなことを言い出す楯無。
年は同じだろ、そうつぶやいて顔を背ける永人
「それに、任務にはここからでも問題ない」
目線の先に集う人々の群れをみて永人は僅かに頬を緩める
「そんなに私と一緒がいいなんて、お姉さん照れちゃう」
「はぁ……都合のいいヤツ」
すかさずとぼける楯無の発言をスルーして、永人は自販機でコーヒーを選ぶ。
後ろ手に投げ渡されたそれを眼前に受け止めた楯無は彼を咎める。
「危ないじゃない、乙女の顔に傷がついちゃうわよ」
「学園最強ってのは、缶コーヒーで傷付くのか?」
「つまんな~い」
「知るか」
口元をとがらせる彼女の隣に永人が座りこむ。
「それより、ISでの格闘戦は禁止してたはずだけど?」
すかさず顔をそらす、その横顔を彼女は強く見つめ続ける
「…そろそろ向こうに行かないとな」
そう思い出したような言葉を吐きながら立ち去ろうとする彼の腕を、強く掴んで逃がさなかった。
「……対象の実力を正確に把握する必要があった、それだけだ」
「ウソね」
ため息をつき嘯く、それを暴かれても永人は答えなかった。
「そうだな」
「こんな無茶な事し続けたらどうなるか分からないのよ!」
今まで彼女から聞いたことのない声色が永人の言葉を遮った。
「おい。無茶な事は大前提だろう、俺達にとって……」
その態度に呆れて答えるが、楯無は彼の目を真剣に捉えて離さなかった。
「約束して、これ以上格闘戦は本当に禁止」
瞳の奥の赤い虹彩を見つめながら永人は答える。
命令ならそうする。
彼の言葉にしない赤黒い瞳の色が、心を貫く。
「っ……命令よ」
更識楯無に出せる言葉はほかにない。
見つめた彼の瞳の奥にあるものは拒絶だった、決して己に立ち入らせないという無だけがあった。
「了解した」
人々を見てほほ笑んでいた先ほどまでのあたたかさはもうなく、冷たい答えだけが残る。
「体、大丈夫なんでしょうね」
だが、なおも永人の体を気遣う楯無の言葉に彼は自身の過ちを理解し、彼女に少しだけ微笑んで答える。
「今のところはな」
不器用に口元を上げる彼の顔を見て、楯無は腰に手を当てあきれるように笑った
「ま、それでいいわ」
今のところはね。それが彼女のいじらしい返答であり、永人が彼女を気に入っている部分でもあった
「エイト~!!助けてくれぇ~!」
少しの静寂に差し込まれる一夏の叫びにため息をつく永人
「呼ばれてるわよ」
はいはい、そう答えて彼は食堂へ足を運ぶのだった。
「……」
「あ、エイト!」
首元を掻きむしりながら現れる永人に抱き着く一夏
「いちいちデカい声で呼ぶな」
周りの黄色い歓声を無視しながら大雑把に彼を振り払う。
「それといちいち抱き着くな、暑苦しいぞ」
だってさ、とわがままを続ける一夏にため息をつきながら近場の椅子にもたれかかる永人。
パシャり、と擬音を言いながら近づいてくる女生徒。
「あれれ、もしかして二人ってそういう関係だったりぃ? あ、これ名刺ね」
「黛……董子先輩?」
なんだよこれ、凄い読みづらいな
「あと取材いいかな? ケーキもらいっ!」
一瞬の戸惑いをつくように、テーブルに並べられたそれを平らげる彼女。
「どっちにです」
言外に自分を選ぶな、と目くばせを送る。
「まずは一人目一夏くんから! そんなに待たせないよ」
だめだこの女、まるで聞いていない
「俺はいいです」
「キミがよくてもほかの全生徒がよくないの」
念を押した言葉をなおも押し切って黛女史はどこから取り出したものか、レコーダーのマイクを一夏に押し付ける。
「はぁ……ジャーナリズムってやつは」
ため息をつきながらそばにあったクッキーを一枚口にする
甘すぎる、パーティ用ってのはなんでもこうなのか?
そんなこちらの些細な疑問など気にする様子もなく。
一夏の口元にグイグイとマイクが押し付けられている様子はなかなかに面白い
「ズバリ、織斑一夏君に気になる女子はいるのかな!?」
あ~、なるほどね。
心の中の合点。
あの織斑千冬の弟にして
少なくとも、このほぼ女子高(というか女子高)ではブレるはずのないヒット号だ
「気になる!?いないですよ全然!」
と一夏。
「なるほどね、絶賛彼女募集中っと」
もうわかった、この人はもうジャーナリズムに狂わされている。
「偏向報道!」
奇妙な顔をしながら背筋を伸ばす一夏。
一連の流れを鼻で笑いながら、もう一つクッキーを口にする
……向きの変わったピンマイクから目をそらしながら。
「それで細目永人君には!?」
でしょうね、一夏に聞いたのなら俺にも聞くよね。
「いません」
ここは事実を貫き通そう、いると答えて誰かと詮索されたり嘘だとバレた後の事も面倒だ。
「お、なら永人君も募集中だねぇ~」
「いりません、振り回してくる奴はもう十分です」
織斑一夏とかその周りだとか女尊男卑だとか更識楯無とか、更識楯無とか。
俺の周りには面倒くさい状況を掻きまわす面倒くさい奴らしかいない、恋愛だとか募集だとか……できるはずもない
「お~っとぉ! 実はすでにって感じ!?」
言葉の裏を読む、の意味を勘違いしてそうな黛女史の発言に横から金髪くるくるが飛び出してくる
「そそそ、そうなんですの!? 永人さん!」
あの日からオルコットは少しおかしい。話すときは目を合わせないし、そのくせ妙に近くでこちらの顔をうかがってくるし……
「おやおやオルコットさんまで混ざって修羅場か!?」
細目永人、色男!? などとメモを書いている彼女のボールペンを取り上げ、不躾なその文字の上に二重線を引き直す
「違います、変な言いがかりはよしてください」
「つれないねぇ~、二人ともなんかコメントとかないの?」
役目を終えたボールペン君を突き返すと、への字に口を曲げさらに俺達に追撃。
「が、がんばります……?」
ちらちら見ながら喋るな、俺を巻き込まないでほしい
「いやいや、もっとパンチのあるさ……俺に近づくと火傷するぜ?とか?」
サムズアップしながら爽やか笑顔でカメラに写る一夏、見出しは決まっている
そんな号外新聞の一面を想像してつい噴き出してしまう
「とかって……エイトも笑うなよぉ」
「じゃあ、織斑先生には気を付けて」
実際、あの凶悪な教師に目を付けられたらたまったものじゃないだろう。
「えぇ~?もしかして二人、禁断の関係?」
「……。はっ!? エイト、お前……!?」
目の色を変えてすり寄ってくる黛先輩と、背後に修羅を宿した一夏に臆し椅子を少し引く。
つもりだったが、予想外の衝撃にたたきつけられる
「痛ってぇ!」「グヘ!」「キュピィ!」
三人の悶絶の言葉とともに、スーツ姿の織斑先生が姿を現す。
おかしい、人間の腕は二本しか存在しないのに三人同時に殴られた
「全く……そんなわけがあるか、バカ者どもが」
呆れ顔の彼女の切れ長の目がこちらを睨みつける
「それより細目、気を付けろとはどういう意味だ?」
今起きてるこのことです、という言葉を飲み込み永人は言い訳を考えながらもごもごと呟く
「いや、その……」
ダイレクトにいっちゃマズいだろ……、いやでも事実を言わなかったらそれはそれでバレそうだし……
「じゃあありがとね二人ともー! 即退散!ってね」
そんな俺の脳内会議を露知らず、黛先輩は一瞬で姿を消した。
本当にこの学校は人間やめてるやつばっかりだな、楯無みたいなやつが浮かないわけだ……。いや、あいつはかなり浮いてるほうかもしれない
「おい、待て黛!……全くあいつは……」
「じゃあ俺も……」
「逃げれると思っているのか? 細目」
便乗して退室しようとする首根っこを掴まれながらテラスへと引きずられる
「逃がしてください」
心からの言葉で懇願するも彼女は見向きもせずにごりごりと地面を削りながら進んでいく、今から何をされるのかと思うと心臓が止まる感覚だ
「ダメだな、少し付き合え」
ニッと笑いながら扉に手をかける織斑先生、閉まる直前の扉の隙間に写った一夏の目
「一夏、助けてくれ」
お前の姉貴だろ、なんとかしてくれ
「この状態の千冬姉は……無理だな」
目をそらした彼の頭にどこからか取り出した出席簿がとびかかる
「……織斑先生だ」
一夏に降り注ぐ無慈悲な破裂の音が、食堂中に響き渡った。
外に出ると、夕焼けはもうどこに行ったのか、真っ暗な空が広がっていた
「体に異常はないのか?」
心配の問いかけ、それにあらかじめまとめておいた書類を提出して確認してもらう。
「今のところ特に、最大搭乗時間ギリギリだと意識を保つのが限界ですが」
その言葉に千冬先生はため息をついて手すりに体を預ける。
「らしくない戦いだな、近接戦闘は禁止されていたはずだが?」
「それ、もう言われました」
あの蒼い髪をした上司に、とは言わずとも伝わっているだろう。
「だろうな、だが言わせてもらうぞ」
一瞬で気配が変わる、やはりこの人は油断ならない
「これ以上の近接戦闘は許可できない。楯無からも、私からもだ」
それでも、この人は教師として俺に接してくれている、それがどこか嬉しかった
「……わかりましたよ」
そんな善意に歯向かうほどの不良になったつもりもないから、素直に受け入れることにした
「……フッ」
目を伏せて、少し笑う織斑千冬。
「なんです?」
「射撃戦を捨ててブレードを使う……お前らしくないな」
そりゃあそうだ、グレースケイルはほかの第二世代ISにすら勝てるか怪しい、本当に搭乗することだけを目的にした欠陥機だ
「……俺もそう思います」
だが、熱くなってしまった。一夏の情熱を目の前で感じてそれに答えたくなってしまった
「らしくない、本当に。 だが……少しカッコよかったぞ」
揶揄うように微笑む彼女の目は幼子を見るような慈愛が見て取れた、
「やめてください」
肩をすくめて冗談で返す俺に千冬先生は指を突きつけて俺に宣言する。
「お前も少しは楽しむことを覚えろ、まずは
ああ、この人は何処までも教師という仕事に誇りを抱いている。
それが俺がこの人を尊敬してしまう理由の一つなのだろう
「命令ですか?」
意地悪な質問で返すも、彼女は微笑みを絶やさずに答える
「命令だ」
それは楯無とは違う、やさしさと厳しさの混ざりあった言葉。甘さは無い、だが手を差し伸べてくれる導くも者の言葉。
「ではその通りに」
そう答えると、彼女はテラスに出る前にかっさらっていたフルーツケーキをこちらの口に押し込んでくる
「……まぁ食え」
「んごっ!……案外いけますね、これ」
最初はびっくりして吐きかけたが、甘さと酸味のグラデーションに驚嘆した。クッキーは駄作だったが、これを作ったやつはとんでもない天才だ、IS学園よりも調理学校に通ったほうが良い
「だろう? 私のお気に入りなんだ」
ドヤ顔をしながら残りの半分をほおばる彼女の顔は少しとろけたような顔で空を見つめていた
「覚えておきます」
「そうだ、ほかの奴の好みも覚えろ。一夏は和食と唐揚げが、オルコットは紅茶が好きだと聞いたが……それは直接聞くべきだな」
「なぜです?」
「何?」
知っていても意味がない、俺にはタイムリミットが存在する……ISに食い殺されるかもしれない、そんなタイムリミットが
「俺の任務は3年……もっと短いかもしれませんが、一夏を守ることです。それ以上の人間関係は必要ないかと」
俺は自分の命の価値を知っている、そのつもりだ
人間は二年以上関係を繋いだ人間と別れるのが難しいらしい。だから、寿命に限りのある俺と仲良くすることは彼らの心を削ってしまう。
「バカ者が、もう少し手を抜けんのか。……お前は公務員である以上に学生だ」
「学生である以上に公務員、です」
同じような、でも真反対の言葉に織斑千冬はこちらを見つめて断言する。
「いいや。私はここの教師でお前は生徒だ、言わせてもらうぞ」
この状態の彼女には、何を言っても無駄だな
そうあきらめた俺はあきらめて受け入れることにした
「……わかりました」
「それでいい」
今日一番のにこやかな彼女の笑顔にすこしドキっとした、こんなにもかわいいらしい笑顔をするんだな、と惚れそうになりながら目を逸らす
「織斑先生」
いたずらにはいたずらだ、俺は隠していたスナック菓子を千冬先生の口に突っ込む
「なん……うまいな」
意外と悪くない、その言葉に笑顔が漏れる
「織斑先生も俺の好み、忘れないでくださいね」
「フッ……覚えておこう」
すこしだけ、この人のことが嫌いじゃなくなった気がした。この学園に来てよかったことが、一つ増えた
「さて、私は残した仕事があるのでな」
あとは若い奴らで楽しめ、と背中を押して食堂に押し戻してくる彼女。
扉の前で待っていたのは、金髪ロールのお嬢様だった
「少し冷えるな、外は」
「エイトさん……?」
「セシリアか、お前は寒くないか?」
「ええ。それより髪、乱れてましてよ」
言われてみれば、テラスを窓を鏡として使ってみると前髪がぴょんと二つほど跳ねていた
「さっきまで寝てたからかも」
そう答えると、彼女は胸を張って椅子の上に俺を座らせる。
「しょうがないですわね……梳いて差し上げます」
なんだが決定事項みたいになってるが、俺は別にこれでも構わないと思っている
明日起きたら撫でつけるだけだし。
「いやいい」
「ダメですわ! このような場では身だしなみを整えないと」
……たしかに、貴族のお嬢様のいうことはテーブルマナーやフォールなデザインにこだわりがあるのだろう
「……じゃあ頼むよ」
「はい、じゃあリラックスなさって?」
「白と金、様になるねぇ~」
黒い空の下で俺の髪をセットする彼女、他愛のない会話を繰り返しながら談笑していると、どこからともなくあの女が現れた
「……まだいたんですか黛先輩」
「ジャーナリストたるもの、これくらいはねぇ~」
こっち向いて、という言葉に逆らうつもりもなく、俺とセシリアはカメラに目を向ける
「はい、おっけ~」
ありがとね~、そう言いながらもう一度退散する……ところを織斑先生に取っつかまっていた
「嵐みたいな方ですわね」
「しばらくあの人とは会いたくない」
「同感、ですわ」
それと、彼女のヘアカットはとても気持ちよかった、ISに搭乗してなくてもそのは裁断捌きにはどうにも眠気を誘われる、少し寝よう。そう思って目を閉じた
「……ありがとうセシリア、そろそろ戻ろう」
「はい」
暗がりの踊り場から会場に姿を戻すと、黒髪二人が痴話喧嘩を始めていた。
「それで箒がさぁ」
「な、なんだと!?私がどんな気持ちでお前に……」
喧噪で目が覚めた俺は右頬にある違和感を抑えながら二人の間に立つ
「相変わらず仲がいいんだな」
ニッと笑う俺の口元に答えるように二人の鬼気迫る接近に物怖じする。
おれってもしかして、小心者か? ああいやだ、どんどん自己肯定感が薄れていく
「細目!」
「永人でいい」
篠ノ之の言葉にさりげなく返す
「なあ、エイトは幼なじみとかいないのかよ?」
「一人な、今はどこにいるかもわからん」
「そ、そうか……悪い」
罰の悪そうな一夏、その隣の篠ノ之も同じように気まずそうにそっぽを向いている。
「いいんだ、それよりもっと二人のことを教えてくれ」
「ああ、このバカ者はだな……」
「バカってなんだよ」
「いや……一夏は間違いなくバカだろ」
そういってプププ、と片手で口元を抑えながら篠ノ之箒の意見に同調する
「なんだ、エイトって笑うんだな」
意外そうに眼を見開いて、一夏が破顔した。
「おい、俺をなんだと思ってるんだ」
「ずっと仏頂面でしてよ」
「そうだぞ、もっと笑ったほうが良い」
確かに、さっき織斑先生に言われたばっかりの言葉を思いだす
『コミュニケーションを大切にしろ、お前の誇りになる友人たちだ』
「そうか……? じゃあ……」
両手を口元に持っていき無理やり持ち上げる
「これでいいか?」
出来る限りのいつでも出せる笑顔だ、嘘じゃないつもり。
「なんだよそれ~」
「笑うの、あまり得意じゃないんだ」
少なくとも、自分のためには笑えないと欠点を自覚する
「じゃあこれから得意にしようぜ」
肩に軽いグーパンチ、そんな古典的な彼の行動に古臭いな、と微笑みが漏れる
「あ、また笑った!」
一夏は嬉しそうに俺に抱き着いてくる、こいつはなんなんだ、ゲイなのか?いやでもこのご時世だ、女尊男卑に嫌気がさしてそうなってしまった可能性も否定できない
「あのな一夏、これは笑ってない」
「笑ってましたわよ」
俺の隣に座るオルコットの追撃、本当に援護射撃が上手いなと感心しながら貫き通すと決めた俺はもう一度繰り替えす
「笑ってない」
「そう意固地になるな」
篠ノ之箒の言葉にむきになった俺は、何度ももう一度同じ言葉を繰り返すことにした
「俺は、笑ってない」
活動報告にてこれからの二次創作を考えているのでもし興味があれば教えてください
もちろん、誤字脱字の報告も大変助かります
10/06 貼り付けミスで改定後の文章が乗っかかってたのを修正しました