【偶像×相棒】   作:後藤陸将

48 / 67
まさか今夜の相棒にまた三浦さんが出てくれるとは……
Season14の正月スペシャル以来で、しかも今回はしっかりストーリーに絡むという。
新トリオ・ザ・捜一との絡みもあると思うとワクワクしますね。


第48話 斉藤の胸中

 ニノはその後、尊のGT-Rに乗せられ警視庁に出頭した。

 とはいえ、未だアイの事件の続報を追う世間の目がある中で、B小町のメンバーが警察に出頭したことが知れれば、マスコミはこぞって騒ぎ立てるだろう。

 そのため、事務所に捜査一課の覆面パトカーに乗せることも憚られた。態々尊のGT-Rに乗って出頭したのも、未だに事件の周囲に出没する記者の目を欺くためだ。

 まさか、人気アイドルグループのメンバーが刑事の愛車のGT-Rに乗って警視庁に出頭するなどとは誰も思うまい。ましてや、尊と右京はお世辞にも一目見て刑事と分かるような強面ではないのだから。

 ニノを連れ添って捜査一課のフロアに足を踏み入れた尊と右京を迎えたのは、諦めにも似た表情を浮かべたトリオ・ザ・捜一の三人だった。

「お待ちしてましたよ」

 三浦信輔がため息交じりに言った。

「ま、どうせこうなるとは思っていましたけどね」

 芹沢慶二は苦笑を浮かべている。しかし、その表情には微かに送検作業をしなくてすむことへの安堵感が見え隠れしていた。

「送迎ご苦労さまでした。では、後は我々の仕事ですので、お引き取りください」

 手柄を奪うことの負い目など微塵も感じていない様子の伊丹憲一が、ニノを引き取るや否や右京と尊に退室を促した。

「では、後はおまかせします」

 右京も異論を唱えることなく、そのまま立ち去ろうとする。

「斉藤社長。後は彼らにお任せしましょう」

 尊は、トリオ・ザ・捜一の三人に連れられて取調室に向かうニノの姿を横目に見ながら、斉藤に声をかけた。

 だが、斉藤の反応はない。訝しげに思った尊が振り返ると、そこには思いつめたような表情で佇んでいる斉藤の姿があった。

 どう声をかけたものかと尊が思案していると、右京が斉藤に声をかけてひとまず特命係の小部屋まで移動することになった。

 警視庁の廊下を移動する三人の間には会話もなく、ただ黙々と歩く三人の足音が廊下に響いていた。

 そうしてしばらく歩いているうちに、三人は目的の小部屋へとたどり着いた。

 右京はいつものようにティーポットを高く掲げながら紅茶をカップに淹れ、来客用ソファに座り俯く斉藤の前に差し出した。

「どうぞ」

 その声に応じて、斉藤はゆっくりと顔を上げた。そして、差し出されたティーカップを受け取ると、静かに口をつけた。

「……美味いな」

 斉藤は特段紅茶に詳しいわけでは無かったが、それでも右京の淹れる紅茶がそんじょそこらのものとは違うことは分かった。

 その味と臓腑に染みわたる温かさを感じながら、斉藤は再び視線を下げた。

 それから暫くの間、沈黙が続いた。やがて、それを破ったのは、斉藤の方であった。

「なぁ、杉下警部。何故俺がニノと菅野良介の関係を把握していたことが分かったんだ?」

 斉藤の問いかけに、右京は静かに答えた。

「花の里でお会いした時、貴方は菅野が雨宮さんを殺害していたことを知り、菅野のことを『あの節操なしのクソ野郎』と罵っていましたね」

 右京は淡々と語り始めた。

「節操なし――信念や主張が一貫していない、自分の意見をコロコロと変える人を指す言葉です。また、異性関係において不誠実であったり、浮気性であることを示す表現としても用いられます。菅野を評する言葉として節操なしという言葉を使うとすれば、前者というよりも後者の意味に近いでしょう。菅野の思想信条、主義主張がどのようなものであるかをよく知る人物の口からでなければ前者の意味で菅野を節操なしと評することはないでしょうからね」

「……顔認証システムを使って、B小町の過去のライブやコンサート映像に写っていたファンの顔と、菅野の顔を照合しました」

 尊が一枚の写真を差し出した。そこには『ニノ激推し!』と大きく書かれたうちわを持つ菅野の姿が写っている。

「当初、菅野はニノさんのファンだったようですねぇ。ですが、菅野はいつからかアイさんのファンに鞍替えした。貴方は、菅野がニノさんのファンからアイさんのファンに乗り換えたことを知っていたからこそ、彼を指して節操なしと言ったのでしょう。ですが、いくら芸能事務所の社長とはいえ、一介のファンの鞍替えを一々把握しているはずがありません。ファンであること以上に印象に残る何かが、アイさんの事件以前にあったのだと考えました。ニノさんと菅野が男女の関係にあったというのは、その中でも最もありふれたものですよ」

「敵わねぇなぁ……流石、警視庁のホームズ」

 斉藤の浮かべる乾いた笑みには自嘲の色が濃く滲んでいる。

「僕からも、一つよろしいでしょうか」

 項垂れる斉藤に対して、右京が問いかける。

「菅野がアイさんを殺害した犯人だと報道された時、貴方はアイさんの住所を菅野にリークした人物として最初にニノさんを疑ったはずです。なのに、何故、貴方はニノさんを問いたださなかったのでしょうか」

「確かに、ニノさんならアイさんの関係者の中で菅野と明確な繋がりのあった人物ですし、同じグループのメンバーですからアイさんの新居の住所を知っていても不思議ではありませんね。そして、ニノさんを含めB小町のメンバーのほとんどがアイさんのことをよく思っていなかったそうですから、アイさんを害する動機も十分にあります。社長のいう黒幕、その条件に一番近い人物というと、ニノさんということになります」

 尊も続けて疑問を投げかけると、斉藤は観念したようにぽつりぽつりと話し始めた。

「……最初は、ニノを問い詰めようと思った。だが、ニノと菅野の過去の交際関係を突き付けたところでニノに今は関係を断っていると言われればそれ以上追及する材料がねぇ。無理やり喋らせようと手を出したところで、俺が暴行罪で捕まって終わりだ。ニノが黒幕だと確信していればしらをきるアイツをぶっ殺すこともできただろうが、俺にはアイツが黒幕であると確信できなかった」

 尊は不思議そうに問いかけた。

「でも、ニノさんならアイさんの住所を知ることができる人物で、動機があるはずです。なのに何故黒幕でないと?」

「アイの転居の事実自体、アイと俺とミヤコしか知らなかったはずだ。事務所の書類やデータなんかにもまだアイの新居の住所を反映させてなかったし、アイとニノの仲は住所を教えてもらうほど親密なものじゃない。ニノがアイの転居の事実と新居のことを知ることができたとは到底思えない。それに、ニノはメンバーの中でも一番ドーム公演に対するモチベーションが高かった。ニノがアイに対して殺意を抱いていた可能性は俺だって否定できないが、だからといってドーム公演の直前に殺害しようだなんて思わないはずだ。そんなことをすればドーム公演が中止になることは目に見えてる。だから俺はニノはシロよりのグレーだと判断していた」

 斉藤はそこまで言うと、大きなため息をついた。

「何か、菅野が犯行に及んだ背景を知っているかもしれないとは思ってはいたがな」

「ですが、貴方は菅野が宮崎で雨宮医師を殺害していたことを知りました。そして、その時期に菅野とニノさんの関係が終わっている、そのことに因果関係があると――少なくとも、雨宮医師の殺害と死体遺棄にニノさんが関与している可能性があることには気づいていたはずです。そして、アイさんの入院していた病院と、アイさんの新居を知る人物を菅野に教えた人物についても知っていた可能性が非常に高い。それでもなお、ニノさんを問い詰めなかったのは何故でしょう」

 右京の問いに、痛いところを突かれたように斉藤は顔を顰めた。

「……アイが産休から復帰したころだったか、ニノは明らかに精細を欠いていた。ダンスでミスはするし、他のメンバーからもトイレに籠ってるニノの姿を何度か見てたって聞いてた。ニノからはB小町を辞めたいと内々に相談も受けてたこともある。当時は恋人だった菅野とひどい別れ方でもしたぐらいにしか俺も思っていなかったし、ニノはB小町の当時のメンバーの中ではアイ以外とは波風立てずに上手く立ち回っていた。正直、ここでニノが抜けたらB小町のメンバーのバランスが崩れて、最悪グループが崩壊するって危惧があったから、俺は違約金とか振りかざして多少強引に引き留めたんだ」

 そこで言葉を区切ると、斉藤は再びうなだれるように俯いた。しかし、すぐに顔を上げると、覚悟を決めたような表情で語り始めた。

「だが、今考えるとあの時ニノを引き留めたのは、ニノにとって拷問でしかなかったんだろうな。菅野は、アイを殺害しようと考えるほどにアイの魅力にのめりこんでいた熱狂的なファンだった。だとすれば、ニノは自分のファンで恋人の男が同じグループのメンバーのファンに鞍替えして、その魅力にのめりこんでいく様子をすぐ傍で見続けてきたってことだ。そして、自分に圧倒的な劣等感を感じさせる相手がすぐ傍にいつもいる。そんなしんどい環境にニノを放り込んだのは他ならない俺だ。仮にニノがアイと雨宮先生の死に関与していたとして、そこまでニノを追い詰める一因をつくり、B小町のためって免罪符掲げてニノの苦しみを放置していた俺がどの面下げてそれを糾弾するってんだ?アイを殺したヤツ……アイの情報を菅野に流したヤツを野放しにするつもりはねぇし、許すつもりもねぇが、そのためにニノをこれ以上追い詰めることは俺にはできなかった。雨宮先生のことを聞いた後は、なおさらだ、下手すればアイツを殺人犯として突き出すことになる。そんなこと、俺には……」

 力なくそう語る斉藤の表情は、後悔に満ちていた。

「ニノさんに対する負い目を理由に、ニノさんの罪にも目を瞑るつもりだったとすれば、心得違いも甚だしいと思いますよ。罪を隠しながら生き続けることは、いつ罪が暴かれるか分からない恐怖を抱えながら生きていくということです。それは、ニノさんに更なる重荷を背負わせることに他なりません。負い目があればこそ、貴方はニノさんの背負うものをもっと早く取り除いてあげるべきだったのではありませんか」

 斉藤は右京の言葉に言い返す言葉もなく、ただ黙って俯くことしかできなかった。




接骨院通って電気流してもらってどうにか背中と首と肩と痛みは引きました。
サトシかってレベルでビリビリしてましたが、効果はその分あったみたいですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。