【偶像×相棒】   作:後藤陸将

53 / 67
先週の相棒はまさかのpreseason第1話の回想で驚きました。
寺脇さんが若い……あれ、24年前なんですね。
作中に登場した博多や大学生の亀山薫は下手すれば生まれてない可能性があるという。

後、来週はちょっと予定があるので更新は難しいです。


第53話 杉下右京VSカミキヒカル 第2R

 右京は神木の正面の椅子に腰を下ろすと、落ち着いた声で話しかけた。

「また、お会いしましたね」

「あぁ、大学の時の……杉下さん、でしたっけ」

 神木は自信なさげに右京に確認するように尋ねた。右京も頷きながら口を開く。

「僕からも、少し、貴方からお話を伺わせてもらいたいのですが、よろしいですか?」

「構いませんが……先ほど、僕が知っていることはほとんど話しましたよ?」

 怪訝な表情を浮かべる神木を前に、右京は机の上で軽く手を組みながら口を開いた。

「ずっと考えていました。果たして、貴方と星野アイさんは本当はどのような関係だったのか」

「どのような関係も何も……自分で言うのもなんですが、身分違いの恋をしていただけですよ。だからでしょうね、最後は僕が無様にフラれてしまいました」

 神木は自嘲気味に笑う。

「僕の方は未練がなかったといえばウソになりますが、果たして彼女の方はどうだったのでしょうね。……今となっては、もう分からないことですが」

「身分違いの恋、ですか……神木さん。貴方は、大学でお会いした時にも、『僕と彼女は釣り合わなかった』と仰っていましたね」

「ええ。だって、そうでしょう? 僕はただの大学生で、彼女はトップアイドル。どうあがいたって、僕とは住む世界が違いすぎます。別れを切り出されたのも無理ないでしょう」

「そこです」

 右京はそう言うと、人差し指を立ててみせた。

 突然のことに目を瞬かせる神木を無視して言葉を続ける。

「確かに、トップアイドルと一介の大学生では比べ物にもならない程立場が違うでしょう。しかし、それが彼女の方から貴方に別れを切り出す理由にはならないのではありませんか?」

「え?」

 困惑する神木に向けて、右京は更に疑問をぶつけていく。

「アイさんと貴方の関係が解消したのは、アイさんの出産前ですから、4年ほど前になるはずです。そのころのアイさん、そしてB小町はお世辞にも人気があるとは言えませんでした。テレビや雑誌といったメディアへの露出もほとんどなく、あったとしても数分程度の出番か、コラムコーナー程度だったと事務所からは伺っています。当時であれば、貴方とアイさんの立場は貴方が言うほどに釣り合わなかったとは考え難いですし、それを理由に別れを切り出すのは不自然です」

「でも、現にアイはトップアイドルになりました。同時に、一介の学生でしかない僕とは到底釣り合いの取れない存在になった。そういうことじゃないんですか」

 食い下がる神木に、しかし右京は首を振ることで答える。

 その表情には強い確信のようなものが滲み出ていた。

「アイさんが、自分はいずれトップアイドルになるのだから、一般人の神木さんとは立場が釣り合わなくなる。そういう意味で『釣り合わない』と評したのであれば、現状を鑑みれば一見整合性が取れているように思えます。ですが、仮にアイさんがそのような意図をもって『釣り合わない』と言ったのであれば、彼女のその後の行動に説明がつきません」

 尊も、右京に追随する。

「自分から釣り合わないといって振った男に、出産に立ち会ってほしいとか、子供の顔を見に来てほしいなんてことは普通言いませんからね。相手の社会的地位や財力が釣り合うようになったなら、よりを戻したくてそういうことを言ったのなら分かりますが、貴方は少なくとも別れてから大学に進学した以外に大きな変化はなかったはずです」

 右京と尊の冷静な指摘を受けて、神木の表情がどんどん曇っていく。

「男女の別れた理由がそんなに気になりますか?ちょっと、下世話だと思いますよ」

 皮肉めいた神木の問いかけに、右京は涼しい顔で返す。

「最初で大学でお話を伺った時と、今回の任意での事情聴取。僕にはどうも貴方が意図的にアイさんとの関係は既に終わっていて、気持ちの整理をつけているように印象付けようとしていると思えてなりません。本当はアイさんとの間には未練があるにも関わらず、それを隠そうとしているということですよ。そして、職業柄でしょうかねぇ。つい、あらぬ妄想をしてしまいます。例えば、恋人から別れ話を切り出されて絶望した男が、それまでの愛情が憎悪へと変わってしまい、恋人に殺意を抱いた。別れ話を隠そうとするのは、動機を隠すための行動と考えられます」

「ドラマや小説ならよくあるパターンですね。そして、大体そういうわかりやすい動機を持った関係者は犯人ではなくて、真犯人は別にいるという」

 茶々を入れる神木に対し、右京は不敵な笑みを浮かべてみせる。

「ただ、その男は安易に恋人を殺害しようとはしませんでした。自分の手で恋人を殺害すれば、犯行が露見し逮捕されるリスクがありますからね。因みに、日本の警察の殺人事件の検挙率は、96.8%。*1つまりは、殺人事件を起こせばほぼ確実に捕まると言っても過言ではありません」

「へぇ……日本の警察は優秀なんですね」

 神木は感心したように頷いて見せた。

「なんとか警察に捕まることなく恋人を殺害できないか。悩んだ末に男は、一つの答えにたどり着きました。自身で直接手を下すのではなく、他人に殺害を実行させればよいのだと。ですが、たとえ友人や家族であったとしても、殺人を依頼されたからといってそれを引き受ける人物など、そういるはずもない。ましてや、ドラマや小説のように、殺し屋などというものはそう簡単に見つかるものではありませんからねぇ。そこで、男は考えました。誰かに、恋人に対する殺意をもってもらい、自発的に殺害に及んでもらうよう仕向ければ良いのではないか、と」

「殺意をもってもらうって……そんな簡単に人を殺そうと思うものですか?」

「哀しいことですが、人間というのは存外、殺意を持つ理由には事欠かないのですよ。世の中には、自分の父親と似ているという理由で愛した男性を、父親とは違うという理由で殺害した女性*2もいれば、長年ともに仕事をし、尊敬してきた相手が、自分の名前を憶えていなかったという理由で殺害した男性*3もいます。つまり、人は誰でも殺人鬼になりえるともいえるでしょう。*4。僕も例外ではありませんし、貴方もまた、例外ではありません」

 右京の説明を聞いて、神木は小さく笑う。

「つまり、杉下さんは僕が良介君にアイに対する殺意を抱かせて、殺害させようとしたって疑っているんですよね?」

「あくまで、僕の妄想ですよ。証拠は何一つありません」

 右京はそう言って肩をすくめる。

「もし、僕の妄想が真実だったとすれば、貴方には自首をお勧めしますがね」

「杉下さんは僕を買いかぶりすぎていませんか?一介の大学生が、他人を思いのままに操って殺意を抱かせて、実行に移させるなんてことができるわけないじゃないですか。杉下さんのいうとおり、誰もが殺人鬼になりえるとしても、誰かを殺人鬼にすることは誰にでもできることじゃあないでしょう。それこそ、人を惹きつけ、信じさせる天性の魅力を持つ人物にでもなければ。僕が別かれた後もアイに未練があったというところは間違っていませんが、それを隠していたのも未練がましく4年もアイのことを引き摺っていたことを他人に話すのが恥ずかしかったからで、他意はありません」

「なるほど」

「でも、杉下さんの妄想は面白かったですよ。サスペンスやミステリーものの舞台も劇団にいたころに何度かやりましたけど、そこでやったどんな脚本よりもユニークでした」

 そう言うと、神木は椅子から立ち上がった。

「すみませんが、明日も朝から講義があるので、そろそろお暇させてもらってもいいですか?これ、あくまで任意の事情聴取なんですよね」

 黙って右京の聴取を見守っていたトリオ・ザ・捜一の面々も黙って取調室の扉を開放する。神木のいうとおり、これは任意の事情聴取だ。神木についても、現時点では重要参考人というわけでもなく、あくまで関係者の一人として聴取している以上、引き留めるのは難しかった。

「本日はご協力ありがとうございました」

 貴重な聴取時間を割いていながらも特に成果を上げられなかった右京を横目でにらみつけながら、伊丹が定型文どおりの挨拶を口にする。

 それに対して、神木は特に気にした様子もなく軽く頭を下げるとそのまま部屋を後にした。

「警部殿、何しにきたんですか?」

 神木が退室したのを見届けた伊丹が聴取でなんの成果を上げられなかった右京を暗に非難しながら尋ねる。

「やはり、一筋縄ではいきませんねぇ。おそらく、彼がしたことはアイさんの入院先や住所を菅野に教えたことだけなのかもしれません。ただ、入院先や住所を知った菅野がアイさんを殺害しようとすることを確信していたのでしょうが」

「でも、それをどうやって立証するんです?肝心の菅野はもう死んでるんですよ?」

 芹沢が困り顔になりながら問いかけるも、右京は表情を硬くしたまま何も答えなかった。

*1
SEASON6第17話『新・Wの悲喜劇』参照

*2
SEASON2第1話『ロンドンからの帰還〜ベラドンナの赤い罠』及び第2話『特命係復活』参照

*3
SEASON1第10話『最後の灯り』参照

*4
SEASON4第2話『殺人講義』参照




右京さんとカミキの決着は第3Rへ持ち越しとなりました。
拙作も大分クライマックスに近づいているので、自分の見込みでは後10回くらいで完結するんじゃないかなぁって考えてます。



SEASON6第17話『新・Wの悲喜劇』

前半ほとんどが夢落ちで、後半はドタバタな雰囲気を醸し出す課長と亀ちゃんの追跡劇。
出演者様の関係で再放送は絶望的なところはありますが、亀山シーズンのコメディ色の強い傑作のひとつです。
右京さんと米沢さんのガスマスクをめぐるやり取りも笑えます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。