pixivにも投稿したものです。
その日のアララギ研究所の客人は二人。珍しいことに、二人とも遠く離れた地方から来たトレーナーだった。これからイッシュ地方を旅するにあたって、図鑑のアップデートをしに来たのだ。
一人は金髪の少女。ぴょんと跳ねた前髪にポニーテール、レギンスとミニスカートを身につけたその姿は、絵に描いたような活発お転婆娘である。
もう一人は黒髪の少年。長めの髪と黒縁メガネが理知的な印象を与えてくれる。が、細身ながら引き締まった体つきは、彼がただのインテリではないことを物語っていた。
「二人とも、お待たせ」
ポケモン図鑑を二人に手渡すと、二人ともキラキラとした瞳でそれを見つめた。これからの冒険に思いを馳せて、もう待ちきれないといった表情だ。
こんなにも素直な反応を示す二人だが、実はトレーナーとしては結構ベテランである。まだ幼いながらも既に複数の地域を巡り、それぞれ何度かのリーグ出場経験もあるのだ。そういえば何年か前にも、ベテランに見えないほど素直で真っ直ぐなベテラントレーナーがいたな、とアララギは思い出した。二人はなんだか、あのときの彼によく似ていると。
「これからどこへ行くのかは決めているの?」
「はいはーい! あたしはね、ジム戦をしに行くつもり!」
元気いっぱいの返事は少女。
「僕も、ジムを回る……あ、いや、その前にこの辺りのポケモンを見に行きたいかな」
冷静に計画を立てる少年。
「あらら。じゃ、とりあえずサンヨウシティに向かうのがいいわね。ここから一番近い町で、ジムもあるし。サンヨウシティ外れの夢の跡地には、変わったポケモンも住み着いてるから」
アララギがそう言うと、二人は再び目を輝かせ、
「夢の跡地!? なんだか素敵な名前ね!」
「ええと……ああ、タウンマップにも載ってますね」
それぞれの反応を返してくれた。正反対にも見えるけど、結構気の合うコンビなのじゃないだろうか。
「ねえねえ、行くところが同じならさ、折角だし一緒に行かない?」
「うん、いいよ。一人より二人の方が楽しそうだしね」
少年の返事に、少女は嬉しそうに笑う。少女の下げたポーチがもぞもぞ動き、小さなポケモンが顔を出した。ピカチュウに少し似たそのポケモンも、にこにこと笑っている。
「でねー」
「あ、おはよ、ねぼすけさん。やっと起きたのね」
「でね、でねねー」
何を言っているのかは分からないが、少女と会話をするその様子はとても微笑ましい。少女はポケモンを両手の平で掬うように持ち上げると、少年に差し出した。
「この子はデデンネ! あたしの一番のパートナーよ! デデンネ、この人とね、これから一緒に行くことになったのよ。ご挨拶しなさい」
「でねー」
デデンネ、というそのポケモンは、一声鳴くなり片手を挙げた。少年も手を挙げることでそれに応え、それから苦笑と共に少女を見やる。
「パートナーの紹介もいいけど、僕まだキミの名前すら聞いてないんだけど」
「あっあっ、そうだったごめんなさい! あたしもあなたの名前聞いてないや!」
少女はぺこりと頭を下げると、少年に向かって右手を差し出した。少年はその手をガッチリと握る。
「あたし、ミアレシティのユリーカ! カロス地方から来ました!」
「僕はトウカシティのマサト。ホウエン地方の出身だよ」
「ついたー!!」
「ここがサンヨウシティ……。」
キョロキョロと周囲を見回した二人。故郷とはまた違う町並みに、感動しているらしい。
とりあえずとポケモンセンターに行き、仲間たちの回復がてら人間の回復について尋ねると、一軒のカフェを紹介された。早速向かえば、程よい混み具合のおしゃれなカフェである。
「かっわいいー! いい匂いもするー!」
「へー、お姉ちゃんが好きそうだなぁ」
「あれ? あなたお姉さんがいるの?」
「うん、食べることが大好きでね。一緒に旅をしていたときは、行く町行く町のグルメガイドが手放せなくて……」
「うふふ、面白いお姉さんね!」
「まあねー」
そんな話をしながら、カフェに入る。ちょうど二人掛けの席が空いていて、すんなり座ることができた。ユリーカは店員に許可を取ると、デデンネをテーブルの上に座らせた。
「んーとね、あたしはこのパスタセットと、ポケモン用マカロンをください」
「僕はハンバーグにしよっと。それから、ポケモン用マカロン持ち帰りで」
二人は顔を見合わせて笑う。
「やっぱり、ポケモンたちにも食べさせてあげたいもんね」
「だよね。僕たちだけ美味しいもの食べたら、皆に悪いもん」
その頃には、二人はもうすっかり打ち解けていた。ポケモンたちに接するスタンスも、バトルや育成の方針も、何から何まで気が合うのだ。もちろん考え方の違う部分もありはしたが、それだって理解できる、納得のできるもので。二人を知らない者が見たら、きっと長年の相棒のように見えることだろう。
「このあとはどうしようか? 先にジム戦か、夢の跡地に行ってみるか」
「あー、どーしよ。早くジム戦したいけど、知らないポケモンも気になるし、うー!」
頭を抱えるユリーカを、マサトは苦笑と共に見つめた。気持ちはわかる。よーくわかる。
と、そこへパスタとハンバーグを持ってきた店員が、にっこり笑いながら声をかけた。
「お客さま、ジムへの挑戦ですか?」
「はい。でも、先に夢の跡地に行こうかどうか迷っていて……」
「何かゲットするご予定でも?」
「いえ、はっきりとは。だけど、新しい仲間を増やしたいかなって……ねえ、ユリーカも?」
まだ頭を抱えていたユリーカにマサトが声をかけると、彼女と彼女の真似をして頭を抱えていたデデンネが、同時に振り返った。同じようなきょとん顔で、マサトは思わず店員と二人で吹き出す。
「あー、笑うなんてひどいんだ!」
「ごめんごめん、だって君があんまりにもデデンネそっくりだったからさ」
「もー」
「ででねー」
抗議をする顔さえそっくり。ポケモンはトレーナーに似ると言うが、本当のことらしい。
店員は弟か妹でも見守るような顔で、二人を見守っていた。それに気づいたマサトがふと見上げると、にっこりと笑う。
「ポケモンを捕まえる予定がおありなら、先に夢の跡地に行かれる方がよろしいかと。それで、新しいお仲間にジム戦のなんたるかを見せて差し上げたらいかがです?」
「それいい!」
店員の提案にユリーカはすっかりご機嫌だ。マサトは「単純だなぁ」とかなんとか呟いているが、そんな彼も提案には乗り気らしく、口元の笑みを隠しきれていない。二人とも単純……いや、素直なのだ。
美味しい食事に二人と一匹は大満足で席を立つ。会計を済ませると、待ちきれないとでも言うように足早に店を出ていき、それからはたと立ち止まった。
「夢の跡地なら、向こうですよ」
素敵な提案をしてくれたあの店員がひょっこり顔を出した。その顔に浮かぶのは苦笑。
「あれ、なんで?」
「君たち、道わかってるのかなって不安になって」
どうやらあの会話の後から、こちらを気にしてくれていたらしい。おのぼりさん丸出しだったからなー、とマサトはちょっぴり顔を赤くする。
「僕は仕事がありますが、このヤナップが道案内してくれますよ。お気を付けて」
「やななっぷ!」
見れば、頭に小さな木を生やした小さなサルが、店員の足元でぴょんぴょんと跳び跳ねていた。なんともかわいらしい。おサルは任せておけとでも言うようにポンと自分の胸を叩くと、二人を先導するように歩き出した。二人は慌てて後を追う。
「店員さん、ありがとうー!」
「お世話になりました!」
「またのお越しをお待ちしていますよ!」
大きく手を振ると、店員も優しく微笑みながら手を振り返してくれた。
―――その数時間後、首尾よく仲間を増やした二人が勇んでジムに向かうと、そこにあったのは件のカフェで。そればかりか件の店員が「ジムリーダーです」と出てきて。二人が目を回すほど驚いたのは……また、別の話である。