~ぼっちな俺の家にロボットの女の子が来た結果、その女が想像以上のやべーやつだったため、最悪の陰謀に巻き込まれます~機械創世記・MaKina 作:ハーレム好き男
こちらに、4つの表情が向けられていた。
1つめは、目を大きく開いて口を開き、顔を赤らめている。
2つめは、口に手を当て眉を上げ、顎をすこし引いている。
3つめは、目を細め、口歪めて眉間に皺を寄せている。
4つめは、さらに顔を赤くして、目だけをこちらに向けている。
「……ないわ。本当に」
「アン!変なこと言わないで……」
「妹さんが好きなのはいいことですのよ!でも場所を選ばないと……」
「いやっ、違っ……」
「じゃあ誰に言ったのですか?」
「それは……」
マキナに言ったなんて、死んでも言えない。
初めて経験する、とんでもない恥ずかしさだ。
俺は決して、マキナに言ったんじゃない。ただ、意味もなく出た言葉な訳で……。
そういう言い訳ばかりを頭の中で繰り返す。
「お嬢様に言ったなら、ぶっとばすから」
「はぁ!?なわけないだろ!」
「なわけないってなに?ぶっとばすよ」
「結局ぶっとばすんじゃん!」
言い合うアンと旬を見て、その他の3人が言う。
「あの2人って仲が悪いのでして?」
「多分悪いのです」
「んー……。仲良いんだと思いますよ……。もともとあんなに人と話せる方じゃなかったですもん……」
「人間って難しいですね……」
そしてアンと旬が3人の方を向いて、
「こいつ、怖い!」
「こいつ、気持ち悪い」
お互いに主張するように指を指しあった。
「……それで、誰にかわいいって言ったのですか?」
そう言ったマキナは、こちらに目を合わそうとしない。
顔が夕暮れに照らされて眩しいので、詳しい様子は分からないが、頬を膨らませているらしく、どうも胸が暑いもので締め付けられる。
「俺は……」
旬はこの時、何を思ったのだろうか。
おそらく、ろくでもないことだろう。
「みんな、可愛いと思うよ」
〇
旬宅にて、2人は低い机の対向に座って話し合った。
その、気持ち悪すぎる発言について。
「旬くん、私は非常に残念なのです」
「……だぁぁぁぁっ!俺のアホーッ!」
肘をつき、頭をかかえて嘆いた。
あの発言の後、女性陣の辛辣な言葉が連なったことは想像にかたくないだろう。
「……正直辛すぎて、何言われたか覚えてない」
「うわぁ。本当に気持ち悪い。最悪。それはやめておいた方がいいと思いますわよ。旬様ってそんな人だったんだ……」
「言ってくれなんて一言も言ってないし……。最悪だ、絶対嫌われた……」
旬が恐れていた事態の1つ、友達に嫌われる。
「正直、私も引いたので……」
「えっ」
その瞬間、旬の心がバキバキに砕かれる音がした。
いままではヒビが入る程度だったが、マキナのその一言で完膚なきまでに破壊された。
「あっ、ああ、ふふっ、終わりだ、もう」
「あっ、旬くん壊れたのです。まぁ私に言ってたのは知ってますけど」
変な笑みと、絶望の顔を繰り返しするようになってしまった旬は、まるで壊れたラジオかのように「終わりだ」「ああ」「もう」を連呼し始めた。
「もう、仕方ないんですから……」
マキナは旬の横へずれて、顔を近づけた。
「はい、こっち向いてください」
「……なんだ?」
マキナは、旬の肩から背中に手を回して体を引き寄せた。
「んっ」
その時、旬の頬にいままで経験したことのない感覚が走った。
暖かかくて、湿っていて、甘くて、柔らかい。
その感覚は、しばらく消えない。
旬は、何をされているのか一瞬間を置いて理解した。
「(……これは)」
「……ぷは」
しばらくしてからマキナの手が外れ、まだ消えない感覚もだんだんと冷たくなっていった。
頬に指をあて、それを見ると少しだけ濡れている。
「……恥ずかしいのです」
「……」
旬は、言葉を発することが出来なかった。
言葉を編み出す環状は、さっきの感覚のことで完全に絡まり、喉を動かすという所作すら忘れてしまった。
座った状態のまま、そこから動くことができないし、喋ることも叶わない。
旬の封印されてきた思春期の思考回路は、この時マキナによってこじ開けられたのだ。
そして、その負荷が一気に旬へ襲いかかった結果、旬を木彫りの像のようにしてしまった。
「ごめんなさい、出過ぎた真似をして」
「……」
「私は、旬くんのことを愛しています。まるで、家族みたいに接してくれる旬くんが大好きなのです」
旬はマキナの方を見れなかったが、その声音で彼女のしおらしさが耳から脳へ突き抜けるほどの情報量だった。
「まだ言えないことはあるけど、それでも信頼してくれてる旬くんは、私の……」
突然、マキナが口を噤む。
やっと旬はその時過負荷から解き放たれ、身体の自由を取り戻すことが出来た。
自由になった口を、恐る恐る開く。
「……家族、か?」
マキナの目を久しぶりに見る。
「まぁ、そんな感じです」
その美しい目は、ガラスみたいに強くて、固くて、すこし不安定な所があるように見えた。
窓からさす光に照らされ瞳の奥までが透き通り、その奥には暖かさが溢れている。
そうやって旬を見てにこりと笑う様子は、旬にとって初めての宝物で、何よりも大切な物だった。
「俺も、マキナのこと……」
あれ、なんで可愛いと思ったんだ?
あれは多分、可愛くて好きになるとか、そういうのじゃない。
もっと昔に見たことがあって、それでいて、あの横顔を久しぶりに見たような感じがして。
ああ、分かった。
俺は、マキナのこと――
「愛してるんだ」
恋人、仲間、家族なんかじゃない。そんな言葉じゃ言い尽くせないほどに、好きだ。
何億年も昔から、彼女とのあの邂逅が約束されていたのなら、一緒にいれる時間はどれだけ一瞬で、どれだけちっぽけなのだろう。
旬が恐れて踏み入れなかった領域。
それは、マキナを愛すこと。
マキナとの離別が辛くなってしまうような感情を持ち、それを自認することは旬にとって恐ろしいことだった。
約束された別れという運命には抗えず、全ては運命の前に無力であるから。
しかし、旬は前からなんとなく分かっていた。
マキナのことを愛さずにはいれないことを。
しばらく静寂が続き、それを旬が破る。
「……なんか、久しぶりだな」
「何がですか?ずっと2人だったのに?」
「いや、分からないけど、こうしてマキナと喋ってるのが懐かしい感じがして。最近バタバタしてたからだろ。わからないけど」
「……私は、なんとなく懐かしいって思いましたよ」
「というと?」
「デウスやエクスと一緒に遊んだり、寝たりしたことを思い出したんでしょうね。なんだか最近色々思い出しちゃって」
「そうなのか。……その2人って本当はどんな子だったんだ?」
旬は前々から、マキナの兄妹事情について気になっていた。
「エクスは、喧嘩っ早くてツンツンしてましたけど、長男だったから面倒見はよくて、私とデウスのことを素直じゃないなりに可愛がってくれました。デウスによく噛みつかれてましたが……」
くすっと笑みが零れていた。
「……デウス、は?」
既にデウスは、幼い頃に亡くなっている。
「デウスはとにかく賢くて、それが起因してエクスと喧嘩ばかりしてました。でも私とよく遊んでくれて、私のことを1番に守ろうとしてくれて……、2人のおかげで私はとにかく幸せ者だったのです」
声が、震えている。
恐らく、この2人と旬のことを重ねているのだろう。
マキナは、強くてなんでも出来て、旬にとっては憧れでもあったのだが、マキナは本来兄たちに守られてきた末妹。
一人でトリニティと敵対するのは心細いに決まっている。
だから旬が、その兄たちに変わってマキナを支えなければならない。
「だから旬くんは、もう1人の私のお兄ちゃんみたいな人なのです!」
震えた声で、さらに下まぶたを力ませている。
しかし、そう言ったマキナの笑顔は何よりもずっとずっと輝いていた。