~ぼっちな俺の家にロボットの女の子が来た結果、その女が想像以上のやべーやつだったため、最悪の陰謀に巻き込まれます~機械創世記・MaKina 作:ハーレム好き男
「……なんだ、鉄の箱じゃない」
その黒い正方形のような見た目を目の前にすると、全員同じ感想を持つのだろう。
「あれだよ、ちょっと前にオカ板で話題になってたVRっぽいゲームじゃない?これ」
「……暗号機、ではないのです。ただのゲーム機だと思います」
エニグマに搭乗する用の自動ドアしかないし、暗号を読み解く機構を備えているとは思えない。
重々しいエニグマの雰囲気が、パソコン部を包む。
「旬くんが今クマさんに確認してきてくれてるので、待つのです!」
〇
「このゲーセンにあるエニグマ。あれはただのゲーム機じゃない」
「おう、それがどうした」
旬の言葉に不審がっている様子だ。
眉を片方だけ上げて、旬の突拍子もない発言を怪しんでいる表情。
それは織り込み済み。
「……ここは、もともとMIA軍の駐屯基地として使われていたという情報を入手しました」
激しく拍動する心臓を感じる。
冷たい汗が身体をほとばしる。
クマさんの顔が、どんどん厳しくなっていく。
「この地下室を買い取られただけなら、エニグマもMIAによって回収されていたはず」
場は、硬直しきっていた。
「あなたは……、“トリニティ”ですね」
デウスが、マキナを引きつけるためにあそこに現れた理由は謎だった。
しかし分かっていたことは、マキナがアンを守るためにゲーセンまで戻ってくるという情報がなければ、あそこには現れないはずということ。
デウス、トリニティには、人間の内通者がいた。
「……やっぱり、あの時殺しとくべきだったなぁ」
クマの腕がゆっくり動く。
それは、直立する旬の身体に垂直になった所で止まった。
その腕に付いた毛むくじゃらの手には、黒い光沢を放つ、無慈悲な暴力。回転式の拳銃が握られている。
「“裏切り者”にはよろしく言っておくから、安心して逝きな」
拳銃から放たれる弾丸の軌跡が見える。
「くっ!」
撃鉄が火花を放つ瞬間、姿勢を倒して弾丸を避けた。
銃声が響いた時、店内が騒然とする。
「旬くん!」
すると、マキナがゲーム機の上を高速で駆けこちらへ来ていた。
空気抵抗になびかれる髪は、青く輝いていた。
「旬くんに手を出すなっ!」
マキナがカウンターに突っ込むように放つ高速の蹴りが、クマへ打ち込まれる。
その衝撃で、辺りの絵や額縁がほとんど落下した。
「ぐおっ……」
マキナの足は、クマの頭を壁に押し付けていた。
その大きな体躯さえ持ち上げてしまうほどのマキナの脚力が、いまにも頭を潰そうとしている。
「くっ、裏切り者が……」
「うるさい」
必死にもがいているが、マキナの足の圧が強くなっていくのか、だんだんもがく力がなくなっている。
「えっ、真紀奈、どういうことよ……」
「ひぃぃぃっ、本当に怖いじゃん!真紀奈ちゃんも怖いぃぃっ!」
あたりの客、パソコン部の2人、それらが編み出す空気は強ばって、それでいてだれも手出しをしようとしない。
全員、混乱しているのだ。
その状況で、旬は前に出る。
「マキナ、銃を取り上げるだけでいい。よせ」
マキナはクマから銃を剥ぎ取るようにして奪うと、クマの身体をカウンターのへりへ突き出した。
ぐったりとうなだれるクマを目の前に、旬は話す。
「クマさん、あんたはアンのことをよっぽど可愛がっていたようだな。なぜあんなことをした」
旬の心持ちは、いたって冷静だった。
アンを裏切ったことに対する怒りや、悲しみは大きい、しかし、しなければならないことがある。
「すべては“父なる神”のために」
そう言うクマの目元は、完全に普段と違う。
なにか虚ろで、からっぽで、人間としてのものを失っている目だ。
「父なる神っていうのは、誰なんだ」
「……」
クマは口を噤む。
「誰なんだ!」
旬は叫ぶ。
その声はゲーセンの明るい壁に拡散し、ゲームの音で散り散りになる。
「……旬くん、無駄です。もうこいつは、死んでる」
マキナの目も、心なしか虚ろだった。
「何言ってるんだ、まだ生きて……」
「トリニティの下部工作員は、全員洗脳されてます」
旬は、それがどういう意味なのか理解を拒んだ。
「とりあえず、警察に電話して身柄を引き渡してください。フウカちゃん、マイちゃんのどっちかでいいです」
「……どういうことか、後で説明しなさいよ」
「警察警察警察警察、警察って110だっけ……」
忙しなく携帯を操作するマイ。
そうして、警察が到着するまでの間、緊張した時間が経っていった。
〇
警察が到着すると、クマは人が変わったように大人しくなり、速やかに連行されていった。
警察の事情聴取は、小一時間、その場で行われた。
俺もマキナも、何も知らないふりをした。
マキナは、警察に褒められていた。普段のマキナならはしゃいでいるが、今回はその例通りではなかったのだ。
そうしてバタバタとした状況が一段落つき、ゲーセンの奥の方、エニグマの横で4人は話している。
「どういうこと?真紀奈。急にゲーム機の上に乗ったかと思いきや、あんなことに……」
「旬くんに向けて拳銃を向けていた悪い人だったのです。私は取り押さえただけです」
「真紀奈ちゃん、達人なんだね……」
「……見目兄妹、ここは本当に安全なんでしょうね」
腕組みをするフウカの鋭い視線が、旬とマキナを刺す。
「……エニグマのことが終わったら、すぐ出よう」
旬が提言する。
「そうだよ、ここまで来て引き下がったら勿体ないじゃん」
そう言われるとフウカは目を瞑ってすこし眉をひそめた。
「……いいわ、でも少しだけよ。何か危ないことがあったらいけないから」
「私に任せてください!」
マキナはエニグマの近くへつかつかと歩いていった。
「……何するつもりなのかしら」
そうフウカが言った時、旬の脳裏に悪い予感が走った。
「いや、おい待てマキナ!それはまず……」
既に遅かった。
その時には、もうマキナは拳をエニグマに振りかぶっていたのだ。
マキナの拳がエニグマに衝突すると、金属質な響きが店中に広がるぐらいの大きな音が鳴る。
マキナが殴ったところのボディは大きくひしゃげ、側面にちょうど手が入りそうな隙間が出来た。
「やったのです、そしてこうしてー」
そしてエニグマの隙間に手を入れ、エニグマを構成していたプラスチックを引きちぎり、それをただの板にしてしまった。
エニグマの側面の隔たりがなくなり、内部構造が顕になった。
「……いや、あんた本当に人間?」
「鍛えてるので!」
「いやぁぁぁっ!真紀奈ちゃん怖い!怖いすぎる!」
エニグマの板を持った方の腕を持ち上げ、ガッツポーズをした。
「これで、内部の構造が分かると思います。お2人が見て、鍵を探してください」
「何事もなかったようにしないでくれるかしら……。まぁいいわ」
「ワクテカだけど怖いよぉ、ガクブル……」
そうして、2人はエニグマの内部を点検する。
マイが携帯のバックライトで中を照らし、身を乗り出して確かめている。
それを旬は後ろから見ていた。
「これがこれでしょうね、それで……」
「うへぇ、私の分野じゃないからなんも分からない……」
暗いブラックボックスの中を漁っている2人を目の前に、マキナと旬は小声で話している。
「仮にエニグマに“鍵”があるなら、それを回収したがってたのかな」
「あの暗号文とMIAが関係してるってことですか?」
「分からないけどもしそうだとしたら、それを持ち帰れば2人が危ないんじゃ」
「旬くん、厳しいことを言います」
マキナは、旬の目を真っ直ぐ見る。
「私は、トリニティを止めるのは1人でやろうと思ってました。一般人、例えば旬くんに危害が及ぶのは嫌でしたから」
「そうだったな」
「でも今は違います。旬くんと一緒に行動して、それによって色々なことが分かり始めてる。
だから色んな人を巻き込まざるを得ない。そこら辺を旬くんは理解してないです」
「……確かに」
旬は、マキナについて行きたい、マキナと一緒にいたいと思うがため、自己中心的な考え方をしていた。
それが、他人を傷つけることに繋がると自覚せず。
「でも、私も友達を傷つけたくない。だから……」
マキナは、旬の袖を引っ張る。
「早く、トリニティを止めましょう。時間は限られてます」
「……ああ」
厳しいこと。それは旬にとって辛いこと、という意味ではなく、現実的に難しいという意味なのだろうか。
旬にはそれが分からなかった。
「ひゃっ、いちゃいちゃフィールド……」
「リア充爆発しなさい!」
すると、大きな黒い塊のようなものを持つフウカと、顔を手で覆うマイの2人がこっちを見ていた。
「……ん?」
「やっぱ古いよフウカちゃん」
「食堂の男の方が古いわよ!」
「それで、それはなんだ?」
重々しい、黒い鉄塊のような見た目。
「おそらく、この機械のメモリ。鍵があるなら、この中にあるはず」
「私だ……、解析は任せてくれ。フッ、それも世界の選択……」
「……ほんとに持ち帰っていいの?ゲーセンのものじゃないの?」
不安げに問うフウカ。
「さっきの人が店長だし、このゲーム機もどの会社のか分からないから大丈夫だよ」
と、適当にはぐらかした。
でもこれで、トリニティに奪われるはずだったエニグマの“メモリ”が手に入ったのだ。
「(見せてもらおうか。トリニティ)」