~ぼっちな俺の家にロボットの女の子が来た結果、その女が想像以上のやべーやつだったため、最悪の陰謀に巻き込まれます~機械創世記・MaKina   作:ハーレム好き男

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3 彷徨闊歩のシンギュラリティ

 

 マキナの表情は、昨日今日の活発なようで気だるげな表情とはかけ離れていた。

 

 鋼鉄のような、感情を感じさせない表情。

 

「マキナ……なのか?」

 

 マキナは、まっすぐの足を振り上げた。

 

 それを、勢いよくドローンの頭部めがけて振り下ろす。

 

「やっ、やめ……」

 

 かかと落としを食らったドローンの頭部は吹っ飛んでいく。

 

 それは、旬の指先あたりに着地した。

 

「ひっ」

 

 マキナは、こちらに視点を向ける。

 

 旬を見ると、マキナの目の虹彩が輝きを取り戻した。

 

「見目さーん!」

 

 マキナは、旬に向かって小走りし、いきなり抱きついた。

 

「マキナ……?」

 

「もー、私がいないとダメですね」

 

「……マキナ!」

 

「なんですかー?」

 

「誤魔化そうとするな!」

 

 旬は、マキナを突き放す。

 

「えっ、何……」

 

「俺をどうする気なんだ!」

 

「急にどうしたんですか?」

 

「……っ」

 

 マキナの、無邪気な顔は、嘘のつきようのないぐらいに綺麗だった。

 

「ごめん、助けてくれたのに。気が動転した」

 

「無理もないですよ」

 

 マキナは、もう1度旬に近づく。

 

「ほんと、心配だなーっ」

 

 旬の頭の上にマキナは手を置く。

 

 マキナは微笑み、旬を見た。

 

「……今のは、お前が居なかったらマジでやばかった」

 

「へへん、お手柄なのです」

 

「……ありがとう」

 

「……」

 

 ふとマキナが、驚いた顔になった。

 

「もー、ずるいなーっ!」

 

 旬のことをもっと力強く抱きしめた。

 

「くっ、苦しい……」

 

 

 

 

 2人で家に帰り、テーブルで向かい合った。

 

 旬の足の痺れはマキナが肩を貸して歩いているうちに和らいで、すっかり治った。

 

「さっきはほんと助かったよ」

 

「マキナちゃんのお手柄なのです」

 

 マキナは胸を張って、自慢げに鼻を鳴らした。

 

「しかし、あのドローンは一体何だったんだ?わざわざ愉快犯で、警察のドローンをハッキングして改造なんてあるわけない」

 

「警視庁の公務ドローンは、あそこには本来居ないはずなんですよね?」

 

「そうだ。一体誰が、何の目的で……」

 

 おかしな挙動、強化されたパラライザー、ましてそれが警察のドローンで行う理由とは一体なんなのだろうか。

 

 旬は、眉間に手を当てて考えた。

 

「公務ドローンって確か、MIAが開発しているんでしたよね」

 

「ああ」

 

「MIAが、人を殺すように設計した殺人マシーンってとこでしょうか!」

 

「なわけあるか。いやでも、パラライザーだったり、行動パターンを公務ドローンのセキュリティをもって上書きするのは……」

 

 それこそMIAの技術力をもってしてこそ行える所業。

 

「まずだ、なぜ俺だけを狙った。そして、俺の登校路に狙いすましたように1台だけ」

 

「確かに、複数台殺人ドローンを犯人が配置していればニュースに出ていそうですね」

 

 旬は、携帯でニュースを確認した。

 

「ない。あの一台だけか」

 

「であれば、見目さんだけを狙った」

 

「そういえば、ドローンの頭は持って帰ったんだよな」

 

「はい!ばっちり!」

 

 マキナの小脇には、歪んだドローンの頭が抱えられていた。

 

「これを……」

 

 旬は、ひしゃげたプラスチックの隙間に手を入れ引っ張った。

 

「ふんっ!」

 

 硬い音とともにドローンの装甲が剥がれる。

 

「……これは」

 

 その中は、まるで虫、蜘蛛のような装置がドローンの基礎構造の上に乗っていた。

 

 黒い手足に、身体にある赤いランプが光って禍々しい見た目をしている。

 

 まるで、毒蜘蛛みたいだ。

 

「んー?君は……」

 

 マキナがその蜘蛛をひょいと摘みあげると、じっとそれを見つめ始めた。

 

「何かわかるのか?」

 

「さっぱり」

 

「そうか、それじゃあ……」

 

「でも、私はロボットなので……」

 

 彼女は、蜘蛛を指で撫でた。

 

「何をしてるんだ?」

 

「なんか可愛くないですか?」

 

「いや……」

 

「私は好きですよ」

 

「とりあえず、こいつがこのドローンを操ってた犯人だろうな」

 

「捕まえておきましょうか?」

 

 棚の中にあるガラスのボウルを取り、それをテーブルの上の蜘蛛に被せた。

 

「やめろよ、汚いなぁ」

 

「ただの機械ですよ?大丈夫です。有機ロボットの私だって、服は体液で汚さないですし」

 

「そっか……」

 

 ガラスボウルの中で、赤い光の蠢いているのが分かるのが不気味だ。

 

「後々、こいつは分解して調べることにしよう。この家にはなにも機材とかないし」

 

「今度、お買い物ですね」

 

「うん」

 

 ふとマキナに目をやると、にこやかなその顔が少し怖かった。

 

 さっきのマキナを思い出してしまうからだ。

 

「それでさ、さっきのことなんだけど……」

 

「ん?」

 

 彼女の冷たい鋼鉄の顔が目に浮かんだ。

 

 あの気配は、今のマキナとは大きく違う。

 

 あれは何なんだ?

 

 旬は唾を飲み、言葉を詰まらせた。

 

「う……」

 

「見目さんは、私がドローンを蹴ったことが気がかりなんですよね?」

 

「わかるか?」

 

「だって凄い怯えてるんですもん」

 

「はは……」

 

 マキナの手が、顔に触れる。

 

 その手はかすかに温かみがあって、まるで本物の人間のようだった。

 

 人間の肌に触れた記憶なんてもうない旬がそう思うなんて変だったが、旬はそれを真っ先に思った。

 

「えっ、あっ」

 

「……私は、あなたを守ります」

 

 埃っぽい窓から差す夕日が、2人を照らした。

 

 マキナがふと旬から離れる。

 

「私、本当はすごく強いんですよ?」

 

「そう、なんだ」

 

「嫌だな、泣かないでください」

 

「えっ……」

 

 旬が自分の目を指で拭うと、確かに指に水滴が付いた。

 

 気付かぬ間に涙を流していたようだ。

 

「あの後、あなたから離れて彼女らと駅まで行こうと思ったのですが、その前に、あなたが不自然な動きをしてるなと思ったのでついていきました」

 

「なんで俺の位置が……」

 

「本当は私、あなたの携帯の位置が分かるようになっているんです」

 

「そうだったのか……」

 

 何故そうなっているのかは、旬には一切分からなかった。

 

「それに私、普通の人間より多少身体能力は高めですし」

 

「どんぐらいに?」

 

「金属で出来た機械を歪ませるキック力ぐらい?」

 

「ああ、そう」

 

「ふふっ」

 

 マキナの顔は、いつもの安心する笑顔に戻っていた。

 

「2日しか経ってないのが嘘みたいだ」

 

「2日しか経ってませんよ」

 

 そうして2人で話していると、窓から差す光はすっかりなくなり、暗い部屋に微かな街灯の光が漏れるのみになる。

 

まるで、2人だけの世界みたいだった。

 

「そろそろ電気つけないと……」

 

 旬が部屋の電気をつけようと立ち上がった。

 

 電気がつくと、部屋はパッと色を取り戻してワンルームのマンションに世界が解き放たれた。

 

「はぁ、眠いね」

 

「お風呂、入っては?」

 

「そうだな。テレビでも見といて」

 

「はーい」

 

 旬は、脱衣場の方へと向かった。

 

 1人になって、壁にもたれかかる。

 

「ふぅ……」

 

 どんどんマキナへ感情移入していく自分に、旬はうんざりもしていた。

 

 今日の一件でマキナがロボットであることは明らかになった。

 

 人間とロボットの境界が、旬の中でも曖昧になっていく。

 

「嫌だな……」

 

 不穏なドローンの事件。

 

 蜘蛛の装置の謎。

 

 マキナの存在。

 

 旬は、マキナが現れたこの2日間から何かが変わり始めていくのを感じた。

 

 単にマキナが現れたことがだけが変わったことじゃない。

 

 もしかしたら、見えない所で日常が崩れていくことへの恐怖から来る感情なのかもしれない。

 

 こういった事件が、何を意味するのか。

 

 旬は、考えるのが怖かった。

 

「見目さん!」

 

 マキナが脱衣場に飛び込んでくる。

 

「なんだ!?」

 

「ニュ、ニュース!」

 

 脱衣場から出て部屋に戻ると、テレビにはニュースが映し出されていた。

 

「……ただいま、都心を中心に各所でドローンが暴走する事件が発生しています……」

 

 渋谷の交差点で、複数のドローンが人を襲っている。

 

 ドローンのパラライザーが、夜だから余計に目立って見えた。

 

 悲惨な光景が繰り広げられているのが、上空から映し出されていた。

 

「なんだ、これ……」

 

 誰かの日常が崩れていく光景が、目の前にあった。

 

「あれからしばらく経ってますよね?」

 

「ああ、あれから……」

 

 家に着いたのが5時あたり、今は8時過ぎぐらいになった。

 

「しばらく経った後だぞ……」

 

「私、少し行ってきます」

 

 マキナは、突然立ち上がった。

 

「えっ、なんで」

 

「こういう時は、スーパーロボット少女マキナちゃんの出番なのです」

 

 旬の顔を見て、にこっと笑った。

 

「じゃ、行ってきますね」

 

「まっ、待て!」

 

 マキナは、何も言わず微笑むだけだった。

 

 そのまま、玄関から出ていって、マキナは見えなくなった。

 

「……俺も」

 

 1人になった部屋で、旬は思った。

 

 自分の人生に無頓着で、まるで自分が世界に忘れられているような気がしていた。

 

 でも、この1件で自分も世界に巻き込まれ、それは使命感として旬の空虚な胸に刻み込まれたのだ。

 

 この事件を解決する。

 

 それは旬の初めてのやりたいことになった。

 

「俺も行こう。“東京”へ」

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