~ぼっちな俺の家にロボットの女の子が来た結果、その女が想像以上のやべーやつだったため、最悪の陰謀に巻き込まれます~機械創世記・MaKina 作:ハーレム好き男
すっかり人のいない、午後8時の上りの電車に揺られる。
蜘蛛装置の入っているリュックを前に庇ってドアによりかかる。
新宿まで、あと数分でつく。
窓から街を眺めると、もう警察によって規制されている道路があるようで、混乱はかなり広くまで及んでいるようだった。
「マキナ……」
一体、ああ言い残して去っていったマキナは、なんの意図があって外に出たのだろうか。
旬には、皆目見当もつかない。
「マモナク、終点、新宿――」
新宿に着くと、反対側の駅のホームに人が溢れているのに気付いた。
「相当ヤバいみたいだな……」
急いで階段を駆け上がる。
空気が重いような気がして、身体が押しつぶされそうだった。
「なんだこれ……」
階段を登りきると、旬は驚愕した。
下る階段へ向かう人々が押し合い圧し合い、まるでひとつの巨大な物体が蠢いているようにすら見えた。
その人々の塊のわきを掻い潜り、走って駅の出口まで向かった。
メイン出口は人が溢れることを避けるため、真っ直ぐは行かず、小さな通路を経て別路線の出口から出ようと考えた。
「はぁっ、はぁっ」
出口に着いた。
幸い、人が居た方には警察による規制がなされていたようだったが、ここは誰もいない。
だから、旬はそのまま足止めを食らうことなく新宿の騒ぎの中心、新宿駅南口まで向かった。
迂回して南口に周り込めば、何かが分かるかもしれない。
地図とニュースを照らし合わせると、主に新宿、そこから四谷や歌舞伎町、区単位だと千代田や台東にも波及していることが分かる。
新宿がこの騒動の中心であることは、明らか。
とすると、さっき見た渋谷の映像より酷い状況が想定される。
「早く行かなきゃ……」
旬を駆りたてるのは、使命感だった。
自分と何事も無関係な気がしていた旬にとって、なぜかこの事件は放っておいてはいけない気がしていた。
旬にも何故かは分からなかったが、確かに今までの人生とは違う何かを感じ取った。
だから、横に流れる銀色や灰色の建物の景色が妙に怖く感じた。
「マキナ……」
今、マキナは何をしているのだろうか。
騒ぎの音は、依然として変わらず鳴り響いている。
警察の避難誘導、人々の声。
空を見上げると、煙が上がっているような所も見えた。
そして、遂に新宿駅の南口も見える。
想像していた通り、大勢の人々を避難させる警察、倒れている公務ドローン、また救護活動をしている人もいる。
しかし、南口に来たのはいいが、ここは警察が避難のために残された人の捜索をしているから、ここに留まり続けることは正しくない。
旬が見つかってしまえば、原因を探ることも愚か、マキナとも会えなくなってしまう。
南口の状況をしっかりと目で確認した旬は、次にマキナを探すことにした。
マキナと行動すれば、身の安全はほぼ確保されるからだ。
だが、声を出せば、警察にバレてしまうから下手なことは出来ない。
自分の足で、自分の目でマキナを探して会うしかない。
「マキナ……」
南口を後にし、バテないように軽く走りながら探す。
だが、マキナどころか人の気配もない。
「どこだ……?」
街灯は明るくて、視界には困らないはずなのに暗く感じる。
それほど焦って視野が狭くなっているということなのだろう。
「ドガーン!!」
旬が辺りを見回していると、突然轟音が鳴る。
結構近いようだ。
旬は、迷うまもなくその方向へ走った。
「マキナっ……」
音が鳴ったのは、この細く暗い路地の先。
「……行くしかない」
奥へ進んでいく。
自分の足音がやけに大きく聞こえる。
奥に行くほど、心臓の鼓動も早くなっていく。
最奥に着くと、暗闇の中で何か動いた。
「……」
「何だ?誰かいるのか!」
相手を牽制するつもりで叫ぶ。
暗すぎて、何かが動いているということしか分からない。
旬は、携帯のバックライトで前を照らした。
「あっ、ああ……」
そこには、壁を背にぐったりと横に倒れている人がいた。
でも、明らかに人の気配はなく、恐らく、もう。
「だっ、大丈夫ですか……?」
「……」
旬は駆け寄り、その人の様子を間近で確認する。
髪は黒く、赤いメッシュがバツのマークように前髪にかかっている。
歳は旬と同じぐらいの若い男だ。
ぴっちりとした黒いスーツに、義足のような足をしている。
流血はしていないが、同時に息もしてない。
もう、遅かった。
「人が……、死んだ……」
旬は、自分が思うより普通の性格だった。
人の死を目の前にして、怯えたのだ。
「そうだ、救急……。はっ」
電話を掛けようと携帯の電源を付けたとたん、背中のリュックが揺れた。
中で、蠢いている。
「なんだ?」
リュックをあけると、蜘蛛の装置が足をカサカサと動かしてどこかへ向かおうとしていた。
旬はそれを取りだし、地面に置く。
すると、蜘蛛は男の方へとおもむろに向かった。
「なぜ、男に?」
蜘蛛は男の身体を登って、丁度胸の真ん中辺りで止まった。
すると、足を身体に突き刺した。
そう旬には見えた。
すると男は突然目を開き、ひょいっと立ち上がり、後頭部を抑える。
ちらと覗くその眼光は、紅く、鋭く、恐ろしかった。
「……いってぇなぁ。手加減しろよ、マキナの奴も」
「マキナ?なんでマキナの事を……」
「あ?なんだお前……はっ」
男は、こちらを見ると驚きの表情を見せた。
「お前……、お前は……」
「な、なんだよ!」
竦む足を抑えながら、旬は男を睨みつけた。
「マキナはこいつに俺の場所を教えやがったのか。泣ける再会を演出ってか。ハハハッ」
「何を言っている!」
「そうだよな、お前はぜーんぶ忘れちまった」
男は、旬に歩み寄る。
こちらに向かってくるその体格は、かなりの迫力があった。
かなり大きい、旬よりずっと筋量があるように見える。
旬は、自分の顔周りが冷たくなっていくのを感じた。
「……なんだよ、やるのか!」
虚勢を張ることしかできない。
この時旬は、自分がどれだけ臆病でちっぽけな存在なのかを自覚してしまった。
自分の足場が狭くなっていく、そんな感覚が旬を襲った。
「お前を……、殺す」
その瞬間、男は旬に飛びかかる。
「なっ」
旬は思わず腕を構え、男の攻撃を受けようとする。
男は拳を大きく振りかぶり、旬の腕に打ち込む。
「ぐあっ!」
拳が直撃すると旬の体は浮き、後方へ大きく吹っ飛ばされる。
「弱ぇなぁ、弱っちすぎる。それが平和ボケした結果かよ」
旬の体は路地の突き当たりに打ち付けられ、大きく体勢を崩した。
無機質な街灯の明かりに照らされ、自分の無力さが自覚できる。
「かはっ」
気を失いそうなぐらいの激痛だ。
旬は、気合いを振り絞り前方に視界を向ける。
男が、歩いてこちらに近づいて来るのが見える。
「(こいつ、強すぎるっ……)」
「くはははッ!」
そのまま前に倒れ込むように踏切り、こちらへ突進してくる。
「まずっ!」
旬は全力を振り絞って、手を地面に突いて横に避ける。
そこそこ身体能力はある方なので、身のこなしは軽かった。
「ふんっ」
一瞬前に旬の頭があった所に一撃の蹴りが打ち込まれた。
そこのコンクリートの壁は、クレーターのように大きく凹んで亀裂が入っていた。
「あっぶな!」
「やりゃあ動けるみてぇじゃねぇか」
あれが旬に直撃すれば、間違いなく命はなかった。
旬は素早く立ち上がり、男に向かって構える。
「(攻撃を受けることは不可能……ならば)」
次の攻撃の予備動作。
身体の微妙な動きが見える。
「(避けるっ!)」
男の強烈な掌底が繰り出される。
その瞬間、旬はそれを見切り身をねじって回避した。
「なっ」
男に驚きの表情が見える。
「ちっ」
先程よりかなり予備動作の少ない蹴り。
しかし、旬にはその瞬間が分かる。
旬はいつの間にか、男の攻撃に完全に対応していた。
それが何故なのか、攻撃を避ける旬自身にも全く分からない。
でも、男の身体の微かな揺れ、動きが“見えた”。
次々と繰り出される蹴りと拳を全て避ける。
旬は元々身体が動く方だったが、ここまでとは自分では思ってもみなかった。
「急に動ける様になるのかよ」
「まぁね……」
だが、旬は息切れを起こしていた。
動きが原因じゃない。
身体の動きを見切る度に、体力がいきなり減るのを感じるのだ。
それだけじゃなく、目の奥が痛むような頭痛。
旬は、この身のこなしを使う度に体力がどんどん消耗していくのだろう。
「(でもここでやらなきゃ、殺される)」
覚悟を決めた旬は、息を吸って止めた。
それは、旬にとっての気合いの構えだ。
「お前、いつの間にそんな……」
呆然とする男。
「お前がさっきから何を言ってるのか、全然分からないね」
旬は、依然として男を睨みつける。
「まぁいい、所詮人間」
男は、旬に手をかざす。
「死体も残らねぇぜ」
男の手のひら部分の黒いスーツが開いて、銀色の穴が出来る。
だいたいゴルフボールぐらいの大きさの穴。
旬は、それが何を意味するのかなんとなくわかった。
「やばっ」
その時、旬は見えた。
男の手から出る、うっすらとした軌道が。
光り輝いた、目を焼くような光線の軌道。
そして、旬が思わず手を伸ばした先には取れかかった古いパイプ。
それをちぎるように引っ張り、手に持った。
そのまま身体を男の懐に潜り込ませ、かざした腕に思い切りパイプを振る。
「ふんっ!」
旬の渾身の一撃は命中。
男の腕が上に逸れ、火花が散る。
「なっ」
男は少し仰け反り、腕は天を見上げるように上がった。
その手から、轟音と共に白い柱のような光線が放たれた。
旬は振り返って見たその光線に目が眩んだ。
しかしそんなことを気にする余裕は、今の旬にはない。
ただひたすらに、生きることに必死になっていた。
「(まともにこのまま戦ったら殺される……ならば)」
旬は仰け反った隙にそのまま男の脇を通り抜け、路地の出口まで一気に駆け抜ける。
「くっ」
男が駆け抜ける旬の方を振り返るが、もう旬はその時路地を出ていた。
「……まさか、あいつは」
旬は脇目もふらず、要塞のような夜の街を全力で走った。