「―――つまり、清隆を高育に入れる計画が清隆本人にバレた、ということか、松雄?」
「申し訳ありません。流石にキーボードを打つ音だけでパソコンのパスワードを盗まれるとは思ってもいませんでした。おかげで今までの綾小路先生とのメールのやり取りも全部バレてしまい……」
「……アイツの五感を甘く見ていたか。いや、そもそも清隆を少しでも自由にしたのが間違いだったな……」
「綾小路先生への伝言です。『逆らった松雄さんを貧乏から死に追い込むストーリーを作る気だったみたいだが、ロクな準備をしないで親父に逆らって半年程度で破産して自殺するとか松雄さんのキャラが馬鹿すぎる。海外に逃げるとか資金を持ち逃げするとか助かる方法なんかいくらでもあるだろ。もっとキャラとストーリーを練り込め。15点』だそうです。
それと高育には進学されるそうです」
「そうか…………なら、いいかぁ……」
――― 橋本正義 ―――
Aクラスには3人、クラスメイトから一目置かれている人物がいる。
1人目は葛城康平。
スキンヘッドのいかつい顔をした男子で、一見すると怖そうに見えるが実際のところは紳士的で真面目な性格をしている。
成績も優秀だし、中学時代には生徒会に所属していたこともあって、他の2人がいなかったら葛城がAクラスを率いることになったのだろう。
ただ、保守的で頭が固いところがある上に考えがどこか甘いところがあるので、葛城がリーダーだったら他クラスに対抗出来たかは正直怪しいと思う。
2人目は坂柳有栖。
暫定的ともいえるが現在のAクラスのリーダーであり、安定志向の葛城とは正反対の可愛げな美少女のイメージに似合わない攻撃的な性格をしている。
先天性の疾患で運動が禁じられているので運動方面では当てにはならないが、頭脳方面ではまず葛城以上だろう。
今のところはとりあえず彼女に従っているが、3人目の出方次第では俺の身の振り方を考える必要がある。
そしてその3人目が綾小路清隆。
一見するとボケっとした鈍そうなところのあるイケメンなんだが、運動でも頭脳でも綾小路に勝てるヤツはクラスにいない。正確に言うなら、学力テストなどでは坂柳が同率の一位だが、底の知れなさという点では綾小路の方が上だろう。
綾小路は入学したその日から目立っていた。
初日に担任の真嶋先生からSシステムの説明をされ、何か質問があるかと言われたときに綾小路は真っ先に手を挙げて質問をした。
その質問も綾小路は初めから隠されていたSシステムの本質がわかっていたんじゃないかと思ってしまうぐらいの核心を突いた質問で、答えることが出来ないということで回答を拒否した真嶋先生が教室から出ていったときには、クラスの全員が綾小路の方を見ていた。
特にその中でも、坂柳は笑みを浮かべながら綾小路を見つめていたのが印象に残っている。
そして綾小路の動きはまだ続いた。
真嶋先生が教室から出ていって入学式が始まるまでの空いた時間になると、綾小路は呼び止める暇もなくさっさと教室を出てどこかへ行ってしまった。
しょうがないから残った生徒で自己紹介なんかをし、余った時間で綾小路がした質問について話し合っていると、もう10分ぐらいで入学式が始まる頃になって綾小路が教室に戻ってきた。そして戻ってきた綾小路は教壇に立ってクラスメイトに簡単な自己紹介をした後、
・校内のアチコチに監視カメラが設置されていること
・先ほど説明されたポイントは、正確にはプライベートポイントであること
・プライベートポイントの他にクラスポイントがあること
・クラスポイントの初期値は1000
・プライベートポイントの支給額はクラスポイント×100
・生活態度などでクラスポイントが減少すること
・クラスポイントの増減によってクラス変動が起こること
・クラスポイントの増減が生じる特別試験があること
・希望する進学・就職先を保証するのはAクラスのみであること
・これらのことは5月1日まで秘密であり、上級生には緘口令が敷かれていること
・上級生には普通の高校では考えられないほどの退学者が既に出ていること
と、学校が秘密にしておきたかったであろうことの多くをいきなりぶっこんできた。
「……綾小路、色々と確認したいことはあるが、まずこれを聞かせてくれ。
おまえはどこでそれらを知ったんだ?」
「真嶋先生の話が怪しかったんでな。ついさっき上級生の教室がある廊下を何度か往復してきたんだが、その際に教室の中で上級生が色々と話しているのを廊下から盗み聞きしてきた。
今日がオレ達新入生の初日ということもあって、自分が1年だったときの思い出話に花を咲かせていたぞ。おかげで盗み聞きし放題だった」
「は?」
「耳の良さには自信がある。
葛城、シャーペンの芯持ってるか? 後ろ向いているから、ちょっとシャーペンの芯をある程度の高さから机の上に何本か落としてみろ」
「わ、わかった…………どうだ?」
「5本……いや、落としたのは4本だな。1本は落とした時に折れただろ?」
「……その通りだ」
マジかよ、って思ったな、あん時は。
それと同時に勝ったとも思った。入学したその日でだ。俺だけじゃない。クラスのヤツらも笑みを浮かべながら綾小路のことを見ていた。
特にその中でも、坂柳は引き攣った笑みだったのが印象に残っている。
とりあえず同学年におけるクラス対抗になるということから、綾小路が話した内容については他クラスには秘密にしておくことだけを言われ、その後は時間が来たので入学式のために体育館へと移動することになった。
そして入学式も終わり、初日ということで授業もなく昼前に解散となったので、教室に残って綾小路が話した内容について更に詳しい話をしようかということになったが、当の綾小路は
「油断している上級生から更に情報を引っこ抜いてくる」
と言って俺たちの返答も聞かず教室からさっさと出ていってしまった。
マイペースなヤツだな、と思ったが、確かに上級生が油断しているのは今だけの期間限定だろうから、その機を逃すことが出来ないと考えるのは仕方ないだろう。
仕方ないので、残った俺たちは再び他クラス……いや、教師だろうと上級生だろうとSシステムの真実について言わないことを決め合い、後は各自が綾小路のように情報を集めることにする、ということを決めて解散となった。
実際、綾小路の言葉だけを鵜呑みにするわけにはいかないから各自で確認する必要はあるし、それにこれからの寮生活の準備をする必要もあるしな。他のクラスが気づけていないという有利な点さえ確保出来ていれば、本格的な話はまだする段階ではないだろう。むしろ他クラスに気取られないように慎重に行動すべきだ、ということになった。
かくいう俺は情報収集するよりも、綾小路と誼を通じようと思って綾小路を探してみたんだが……結局、その日は綾小路と会うことはなかった。
「ん? 橋本とは何度かすれ違ったぞ。気配を遮断していたからおまえは気付かなかったみたいだけど」
翌日、綾小路に話しかけたときにこんなこと言われたけど…………マジ?
いや、綾小路を探し回ってる間に上級生に退学者が多いことと、監視カメラがたくさんあったことは確認出来たから歩き回ったのも無駄じゃなかったけどさ。
――――――――――――
その後、Sシステムのネタバレがされた5月1日まで、俺たちAクラスは情報収集をしながら真面目に過ごしていた。
といっても、他クラスに気付かれないよう慎重にだったから、綾小路が取ってきた情報以上のものはあまり集めることは出来なかったが、それでも他クラスに俺たちの動きを気取られることはなかっただろう。
綾小路が2年の南雲生徒会副会長をサッカーで完膚なきまでに叩き潰したり、運動系・文化系の部活問わずに無双しまくったのが俺たちの動きを隠すカモフラージュになったのかもしれんけどさ。
……南雲先輩のことを要注意って言ったのは綾小路じゃん。
それなら何で南雲先輩からPK勝負で50万プライベートポイントも巻き上げてんだよ? そんなことしたら目ぇ付けられるんじゃないの?
とまぁ、そんな騒動もあったりはしたのだが、俺たちAクラスは990クラスポイントを保持して5月1日に臨むことが出来た。
他のクラスはBが640、Cが490だし、Dに至ってはまさか0という、圧倒的な大差をつけたスタートダッシュを決めることが出来たのは綾小路のおかげだろう。
そしてSシステムのネタバレも終わったので、今後本格的に行われるクラス対抗についてのAクラスの方針を決めようと放課後にクラス全員が残って会議をすることになった。
一方、綾小路は「ちょっと寮に物を取りに行ってくる」と言って、俺達が止める間もなく教室から出ていった。
……うん。もうクラスのヤツらも慣れたからいいんだけどさ。
綾小路のあのマイペースなところ、本格的に何とかならないのかね?
Aクラスは現在、2つの派閥がある。坂柳をリーダーとする派閥と、葛城をリーダーとする派閥だ。正確に言うなら、どちらの派閥にもついていない無派閥の生徒もそこそこいる。具体的に言うと綾小路。
これがもし綾小路がクラスをまとめようとしていたなら、今まで実績的におそらく葛城も坂柳も綾小路の下につかざるをえなかったのだろうが、綾小路はクラスをまとめる気がないのか単独行動ばかりしているため、自然と綾小路以外で目立っている2人が派閥を作るような形になっている。
葛城が保守派……俺から言わせてもらえば消極派で、坂柳が積極派。
そのため葛城は得られたリードを確保しつつ、近くにある定期テストについて勉強会などを開いて頑張るという面白味の欠片もない案を出して、坂柳は積極的に他クラスへちょっかいをかけることを提案した。坂柳にとっては定期テストを頑張るというのは論ずるまでもない当たり前のことらしい。
それぞれ支持者の数に関してはほぼ半々。
葛城と綾小路の仲が良さそうに見えるのがプラスだが、坂柳に比べると頑なというか頭が固い印象があるところがマイナス。俺もそのところが気になったのと、綾小路と葛城の仲が良いのかどうかが俺からは微妙に見えてるので、今はまだ坂柳の方へついている。綾小路と葛城は仲が悪いわけじゃないんだが、綾小路が葛城へ向けている感情がその他大勢と同じに見えるんだよなぁ……。
坂柳は綾小路に事あるごとにちょっかいをかけて適当にあしらわれているのがマイナスだが、それがどう見ても気になる男子にちょっかいをかけてる小学……中学生女子に見えてクラスの雰囲気をほのぼのさせるところがプラス。それもあって女子の大半は坂柳の応援をしているな。
まぁ、そんなわけで坂柳についているのは暫定だ。葛城派と坂柳派で主導権を取ろうと争ってはいるとはいえ、実力的に綾小路がクラスのリーダーに名乗り出るなら即座に鞍替えするつもりでいたんだが……。
「は? 葛城派と坂柳派で今度の中間テストの点数勝負?
……スマン。コレ、去年の中間テストの過去問なんだが、さっきの真嶋先生の話し方からすると今年もこれと同じ問題が出るぞ」
「何だと?」
「寮の部屋に取りに行くと言ったのはコレですか。既に綾小路くんは手に入れていたんですね……」
「前に
ちなみにテストの点数勝負しようって言いだしたのは坂柳か?」
さっきまであれだけ葛城派と坂柳派がバチバチやり合ってたのに、綾小路の持ってきた物で一気にクラスの雰囲気が盛り下がった。またかよ、って感じで。
いや、綾小路は悪いことしてるわけじゃないんだよ。
だけど俺たちなりに努力して物事を進めようとしてんだから、それを悪気なくとはいえアッサリぶち壊すのはどうかと思うんだよ。もうちょっと他人のことも考えようぜ。
というか、綾小路は今のクラスの現状をどう思っているんだ?
何だか綾小路の様子を見ていると不安になってきたので、もうこうなったからには直接確認するしかないだろう。
「綾小路」
「何だ、橋本?」
「今、Aクラスは2つの派閥に分かれてるって知ってるよな? いわゆる坂柳派と葛城派。
今後のためにもそろそろクラスのリーダーを決める必要があると思うんだが、綾小路としてはどう思っているのか聞いてもいいか?」
おまえがリーダーをする気はないのか?
そうは聞かなかった。
聞いたら坂柳も葛城も不愉快になるだろうし、何よりも綾小路にリーダーやるって言われた方が困るような気がしたからだ。
これまでのことでよくわかった。ぜってぇリーダーに向いてないじゃん、綾小路。こうなったら坂柳派に綾小路が入ればヨシとしよう。
「興味深いですね」
「ああ、綾小路の意見は是非とも聞きたいな」
「クラスのリーダー、か。効率的に考えたら坂柳じゃないか?」
「……ム」
「綾小路くんの考えは嬉しいですが……“効率的”に考えた場合ですか? “方針的”にではなく?」
「いや、方針的に考えるなら、という意味でも坂柳の方がいいとは思う。
しかし、積極方針とはいえ今の時点で他クラスにチョッカイをかけるというのは反対だ。理由を簡単に言えば“最初の一発は他人に打たせるべき”だからだ。どうせCクラス辺りが近いうちに何か仕出かすだろうからな」
「フム。単独トップであるAクラスの私たちの方から他クラスにチョッカイをかけると、B~Dクラスが対Aクラスで団結する可能性があるから、ということですか?
その可能性を否定することは出来ませんね」
確かにな。俺たちAクラスのクラスポイントは990。これは他クラスにとっては衝撃的な数値だろう。
それなのにAクラスの方から他クラスに早速仕掛けるとなると、他クラスがAクラスを脅威だと感じて団結するかもしれないというのは十分ありえる話だ。
「だから今の時点でオレたちがすべきことは引き続き情報収集だろう。後は既に死に体のDクラスに首輪をつけるとかだな。
情報収集に関しては他クラスのリーダーやムードメーカーになる生徒。勉強が得意な生徒、運動が得意な生徒なんかを調べておくと、これからのクラス対抗において役立つ。今まではクラス対抗について他クラスに感づかれないように慎重に動く必要があったが、ネタバレもあって他クラスの生徒にも色々と変化が出るだろうから調べ直す必要もあるだろうしな。
それとこれから行われる特別試験について調べておくとかも必要だろう。上級生が今までに行った特別試験と同じ試験が行われるとは思えないが、それでも上級生に今までの経験を聞けば特別試験の傾向や雰囲気はわかるはずだ。
そういう観点からすると、葛城の消極的な方針ではこれからは他クラスに対して後手に回ってしまう可能性が高い」
「そうだな。情報収集はすべきことだろう。
……そう言われると綾小路の言う通り、“今まで通りに自クラスの地力を高めていく”は確かに消極的だったかもしれん。認めよう」
「葛城派と坂柳派で勝負をしたいんだったら、それこそ情報収集で勝負をすればいいだろ。Aクラスに有益な情報を多く集めた方の勝ちだ。
バラバラに情報収集するのは効率的とは言えないかもしれないが、2つのグループに分かれることで得た情報を最終的にダブルチェックする形にすると情報の信頼度も上がるから、バラバラに情報収集するのも場合によってはメリットがある。
それこそ葛城はせっかく生徒会に入ったんだから、そっちの方面から情報を集めてみろよ」
「フム、“Aクラスに有益な情報を集めた方が勝ち”か。その考え方はいいな。
先ほど橋本は“2つの派閥に分かれてる”と言ったが、正確にはどちらの派閥にもついていない中立の生徒もまだいる。綾小路のようにな。その生徒のことを考えると“テストの点数勝負”なんぞより“Aクラスに有益な情報を集めた方が勝ち”の方がよっぽどクラスのためになる」
「おや? 綾小路くんは私の方がリーダーに相応しいと言っていましたので、中立の生徒とはもう言えないと思いますよ、葛城くん。
それで綾小路くん。方針的なことはわかりましたが、効率的に私の方がいいとはどういうことか説明して頂いていいでしょうか?」
「坂柳ってリーダー以外は出来ないだろ、身体事情的に考えて。
それなら坂柳を全体のリーダーにして、葛城を主戦力グループのリーダーにした方がいいだろ、効率的に考えて」
身も蓋もないこと言いやがる。
言っていることは間違っていないんだが、坂柳の身体事情は先天的なものなんだから、もうちょっとオブラートに包んだ言い方をしても良いんじゃないか?
「……その場合、綾小路くんはどのように動くのですか?」
「どちらが全体のリーダーをするにしても、オレは個人で動いた方がいいだろう。
オレなら全体のリーダーも主戦力のリーダーも出来るだろうが、個人の能力で考えるならAクラスどころか全学年含めても一番の自信はあるから、坂柳と葛城の2人にはない強みを活かすための単独行動が適切だ。クラスをまとめるのは坂柳と葛城で出来る。
言い難いが、クラスの他の誰も単独行動をするオレにはついてこれないだろう。ついてこられたらオレの強みが消えてしまうからな」
「綾小路、おまえが凄いということは認めるが、クラスメイトを足手まといのように言うのはどうかと思うぞ」
「だって他に気配遮断スキル持ってる人いないじゃん」
前から思っていたけど、そのゲームに出てきそうなスキルは何なの?
「隠密に行動出来ないと俺と一緒には行動出来んぞ。
ところでCクラスが少し前からカラオケ屋の広い部屋で何度か集会を開いてるって知ってるか?」
「もしかして忍び込んだことあるんですか?」
「今日、学校からSシステムのネタバレをされたことで近いうちにまた集会を開くだろうから、その時に同行する人いるか? 部屋は薄暗くてBGMもうるさいぐらい流されてるからむしろ難易度イージーだぞ」
「すまない。俺が悪かった。
確かに綾小路についていけるヤツはいないな。おまえは特殊過ぎる」
「……鬼頭くん、橋本くん」
「無茶を言わないでくれ、坂柳」
「勘弁してくださいよ」
「話を戻すが、坂柳は頭の回転が速くて勉強も出来る。葛城の能力を基準の100として、坂柳の全体のリーダーとしての能力は130ぐらいあったと仮定しよう。
だが、坂柳の主戦力のリーダーとしての能力を考えると、運動系試験と学力系試験で大きく差が出てしまう。学力系試験でなら130あったとしても、運動系試験だと下手したら0だぞ。
そうだな……例えば複数人から構成される1チームをクラスから選出して、運動系か学力系かも決まっていないランダムな試験で他クラスと1発勝負する、という特別試験があった場合、坂柳はチームが何人構成だったら自分をチームに入れる?」
「試験内容がランダム、ですか。
……難しいですね。少なくとも5、6人程度のチームだと自分を入れようとは思いません。10人……いえ、サッカーの定員が11名ですから、12名以上のチームでならようやく、といったところですか……」
「そんなところだろう。サッカーの他だとメジャーなチームスポーツで一番チーム人数が多いのはラグビーユニオンの1チーム15人だが、ラグビーは野球やサッカーに比べると日本での普及度が低いからな。ラグビーが試験になる可能性も低いだろう。
まぁ、それぐらい大人数になるなら坂柳もいていいだろうが、4人とかの少人数チームで運動系試験が当たった場合だと、言っちゃ悪いが坂柳は足手まといになる可能性が出てくる」
「……否定はしません」
学力系の試験だとわかっている場合ならともかく、運動系の試験のことを考えると坂柳は主戦力グループのリーダーとしてはどうしても葛城に劣る、か。
確かにそれだったら坂柳は最初から全体のリーダーを務めておいた方がいいな。
「対する葛城は運動より勉強の方が得意だろうが、それでも運動が不得意というわけじゃない。人を率いることも出来る。先ほどの例として挙げた特別試験でなら、遅くとも4人目ぐらいから選出候補になるだろう」
「4人目、か?」
「運動なら葛城より鬼頭の方が得意なように、個別の能力なら葛城を上回る能力を持っている生徒もそれなりにいるからな」
「……まぁ、運動は鬼頭にはかなわないな」
「オレの場合は他にリーダーを任せられる人間がいないならともかく、リーダー任せられる人間がいるならオレ個人で動いた方がクラスの利益になると思う。
基礎能力のパラメータでいうなら葛城と極端な差がついているわけじゃないだろうが、気配遮断のようなパラメータを活かす便利スキルを数多く持っているからな。
……葛城って飲まず食わず寝ずで72時間ランニングとかって出来る?」
「俺に死ねと言うのか? というか、どんなスキルを持ってたらそんなこと出来るようになるんだ?」
「心拍数を減らして新陳代謝を減らせ。発汗量も発熱量もコントロールしろ」
「心拍数!?」
「それこそ筋肉量だけならオレより葛城の方が多いんだろうが、身体の動かし方がオレから見たら全然なんだよなぁ……」
「任意で心臓を動かすやり方なぞ知らんわ!」
アニメやゲームの話じゃないんだぞ、と言いたくなる綾小路の衝撃の事実が発覚したが、ひとまずは最悪のパターンであるAクラス内で血で血を洗う抗争が起こることは避けられた。
綾小路の提案通り、派閥ごとでAクラスにとって有益な情報を集めて坂柳と葛城のどちらがクラスのリーダーに相応しいかを競うことになった。中間テストは過去問で余裕があるしな。
結果として中間テストではAクラスの平均点は100点近いものとなり、堂々と学年一位となった。
それに他クラスの主要人物、図書館で勉強会を主導している生徒や、クラスメイトに勉強を教えている生徒、逆に教えられている生徒を調べることで、学力に優れているであろう生徒の目星もつけることが出来た。部活動の様子も組み合わせれば、それぞれの生徒の学力・運動能力も大雑把なところまでならわかるだろう。この情報は今後のクラス対抗に役立つに違いない。
坂柳派と葛城派の確執も、両派閥とも情報収集で有益な情報を集めてきたことでお互いの実力を認め合い、争うよりも協力した方がクラスのためになるという当たり前のことを再確認することが出来た。
葛城自身もひとまずは坂柳が全体のリーダーをすることを認めたようだ。
綾小路の意見は尤ものことだったし、坂柳が自身の考えに固執せず情報収集で実力を示すことに賛同したことから、坂柳の考え以上に合理的で有効な意見を出せば無下にはしないことがわかったからだろう。要するに自分がしっかりすればいいと考えたわけだ。
それに今はまだ坂柳のお手並みを拝見する、という姿勢を取っているので、今後の試験の結果次第では葛城が全体のリーダーを務めることも考えられるだろう。
綾小路が余計なことをしたらどうなるかわからないがな!
――― 森下藍 ―――
森下藍です。
綾小路清隆がDクラスの堀北鈴音を頻繁に自室へ連れ込んでいるそうです。その堀北鈴音は手料理を持参していたり、帰るときに中身の入ったゴミ袋を処分場に持っていくなど通い妻のような甲斐甲斐しい姿を見せているとのことです。
これを坂柳有栖に報告したら「わっ、わわわわたったったが、ささきさきすっすすすすだったったたのに!?」とバグってました。
さて、今回の綾小路清隆の仕出かしは
・綾小路清隆、Dクラス堀北鈴音の心を折る
・綾小路清隆、Dクラス堀北鈴音を通い妻にする
・綾小路清隆、Dクラス平田洋介、櫛田桔梗を借金漬けにする
の3本です。
坂柳有栖がバグっているので今回は葛城康平に頑張ってもらいますね。
ジャンケン、ポン!*1
――― 葛城康平 ―――
「さて、中間テストもAクラスの平均点が1位と無事に終わることが出来た。
なので延び延びになってしまっていたが、綾小路がDクラスに対して仕出かしたことについてクラスで改めて確認したい。具体的にはDクラスの堀北と平田と櫛田についてだ」
「わっ、わわわたたたしもうかがいがいいたたいですねっ!」
本当にな。Cクラスが動くまで手を出さない方がいいと言ったのは綾小路だろうに。教室にいる周りの皆も呆れ顔……いや、半分ぐらいは諦め顔だぞ。
それと坂柳は少し落ち着け。
「オレから能動的に動いたのではなく、Dクラスの動きに対応した受動的な行動の結果だから、オレが仕出かしたとまで言われるのは不本意なんだが?」
「言い訳はいいから説明しろ」
「……まぁ、説明すると、まず平田と櫛田の件の経緯は簡単だ。Dクラスの須藤たち3人が赤点になって退学を回避するためにテストの点数を買うことになったけど、Dクラスにそれだけのプライベートポイントの持ち合わせはない。だから平田がプライベートポイントに余裕があるオレに頼ったわけだ。
そしてDクラスを助けるようなことをした理由だが、まずオレの考えとしてクラスポイントが0のDクラスに今の時点で退学者が出てもAクラスに旨味はない。それならDクラスの足手まといを残しておくことと、Dクラスのリーダーである平田と櫛田に首輪を嵌めた方が今後の利益になると思ったからだ」
「戦略の一つとしては間違いではないな。
それにしても南雲副会長を始めとして、部活動をされている先輩方からプライベートポイントを搾り取ったのが早速役に立ったわけか」
「胡麻の油と南雲パイセンは絞れば絞るほど出るものナリ」
「……Dクラスへの貸しということで利益があるのはわかるし、何よりも貸したプライベートポイントは綾小路の自腹だ。
だから責めるつもりはないし、責める筋合いもないのだろうが、せめて相談ぐらいはして欲しかったとは思うぞ」
「しかし、葛城。平田の申し出に対して即決で応えるということこそが、プライベートポイント的にも心理的にも平田に対する大きな貸しとなると思うぞ」
「だから責めているつもりはない」
そもそも綾小路が平田にプライベートポイント貸すと決めたその場に俺もいたのだからな。そしてその場にいたんだから相談しろと言っているんだ。
『よぅ、平田。Dクラスは中間テストの結果どうだった……って、随分と元気ないな? プライベートポイントが足りないのか?』
『あ、綾小路くん……いや、実はDクラスに中間テストで赤点を取ってしまった生徒がいてね。昼休みまでにどうにかしないと……』
『? だからプライベートポイントが足りないんだろ?』
『えっ?』
『えっ?』
『…………その、だね』
『うん? テストの点数を買うためのプライベートポイントが足りないんじゃないのか?』
『っ!? そ、そんなことが出来るのかい!?』
『出来るぞ。Dクラスは入学式の日にプライベートポイントでどんなものでも買えるって説明受けてないのか?』
……綾小路。確かに初日におまえのした質問で授業の出欠などもプライベートポイントで買えるのは知っていたが、流石にテストの点数までも買えるとは俺も知らなかったぞ。気がついていたなら俺たちにも言ってくれ。
あっという間過ぎて口を挟む暇がなかったじゃないか。
そのような感じで綾小路はDクラスの平田と櫛田に合計260万プライベートポイントを貸し与えた。
テストの点数1点につき10万か。高い……と思うべきではないのだろう。
もちろんAクラスでは流石にDクラスのようにテストで赤点を取る生徒は出ないと思うが、急な体調不良などで低い点数を取ってしまう生徒が出てしまうことは想定しておくべきだ。やはりなるべく多くのプライベートポイントを確保しておく必要があるな。
そういう意味ではDクラス……いや、平田と櫛田に貸した260万はもったいない気もするが、こんな序盤のうちに1クラスに対して首輪を嵌めることが出来たのは将来的に役立つはずだし、何よりも綾小路の自腹なのだから文句を付けられる筋合いではない。
それにDクラスに貸したのではなく、Dクラスのリーダー格である平田と櫛田に貸したというのがいい。
『だってDクラスで信頼するに値するのは平田と櫛田ぐらいしかいないし。
もちろん2人がクラスからポイントを徴収して返済するのは自由だ。要するに借金の責任者が2人だということだな。とりあえず今年度中の返済を目指してくれ。状況次第では延長も受け付ける』
『必ず返済するよ』
『う、うん……そうだね』
平田と呼び出した櫛田に直接貸す条件等を説明した綾小路の感じたところによると、平田は返す気満々だが現実から目を背けている傾向アリ。櫛田は返す気はあっても現実的に難しいと理解している……がクラスの状況的に借金するしかないと絶望気味。
そういう意味では平田はクラスを裏切ることが出来ないだろうが、櫛田はクラスのためにクラスを裏切ることは出来る、とのことだ。これは覚えておいた方がいいだろう。
……まぁ、借金漬けにして言うことを聞かせるというのは卑怯な手法のような気がしないでもないが、赤点を取ったDクラスの自業自得だ。
それに暴発されても困るので、南雲副会長ではないが細く長く搾り取る方向で行くと綾小路が言っていたから、そうそうDクラスの悪いことにはならないだろう。
「Dクラス全体のことはそれでいいだろう。綾小路の功績を掠め取るようなことを言ってしまうが、これでDクラスはAクラスに逆らえなくなった。
……で、Dクラスの堀北についてだ。前に集めた彼女の情報とは全然違う様子になっているみたいだが、いったい堀北に何をしたんだ? さながら新妻のように部屋に通って綾小路の世話をしていると聞くぞ?」
「通い妻の新妻っ!?」
「何だそれは? 借金のカタに家政婦として家事をしてもらっているだけだぞ」
借金? てっきり堀北と男女交際を始めたかと思えば、全く違う予想外の言葉が来たな。それにしても260万も平田と櫛田に貸したのに、まだ堀北に貸すだけの余裕があったのか。
しかし、確かに堀北の性格が以前と一変したとか、綾小路の部屋に入る堀北が死んだ目をしていたという情報もあったから、男女交際を始めたというよりも納得は出来る。
「……堀北と付き合っているわけではないのだな?」
「そっそそそそうですよねっ、綾小路くんっ!?」
「ああ、ちょっと堀北とダイスビンゴってゲームで勝負したら大勝ちしてな。
それで背負った借金が大金だったせいで今すぐ返済することが出来ないようだったから、部屋の掃除とかのメンドクサイことをしてもらうことで返済に猶予を付けただけだ。それどころか月に1万プライベートポイントを支払っているぞ。金欠のDクラスの生徒にはむしろ良い話だろう」
「……いくらの借金を背負わせたんだ?」
「8兆9161億44万8256ポイント」
「は???」
「……。
…………。
………………そうか。そう……なのか」
予想してたのとは桁が違った。多くても100万とかそういう桁だと思ったのに、億を飛び越えて兆に届くなんて思ってもいなかったぞ。あまりの金額の大きさにバグっていた坂柳が正気に戻ったではないか。
そもそも兆単位の借金とかどういうことだ? これは事情を深掘りしても大丈夫なヤツなのか?
「……Aクラスに影響はないんだな?」
「ん? うーん、堀北との勝負でちょっとした一芸を堀北に見せてしまったのは、今後に影響があると言えばあるかな?
もちろん堀北には口止めしておいたし、堀北もあの大負けがトラウマになったみたいでクラスメイト相手にも口に出せなくなっているだろうが、それでも念のために全く同じ手を今後の特別試験で使うのは避けた方が安全かもしれん。少なくともDクラス相手にはな。
……正直、ちょっとやり過ぎたと思ってる。堀北には週2か3でいいと言ったのに毎日のようにオレの部屋に来て、まだ汚れていない部屋を虚ろな目のまま掃除したりしてるし……」
「“ちょっと”? というより、堀北の精神状態マズくないか?」
「12の12乗という数値のどこが“ちょっと”なんですか?」
綾小路の口から飛び出たあまりにも大きな数字に、流石の坂柳も正気を取り戻したらしい。
それにしても12の12乗? 先ほどの8兆91……億という数値が12の12乗の答えなのか? いや、それだけの借金を背負えば精神的に折れるのは仕方がないかもしれんが……。
「堀北さんとダイスビンゴというゲームをしたと言っていましたね?」
「ああ。5×5マスを書いて、その25マスの中にフリースポットの黒丸1つと1~24の数値を好きなように入れて、サイコロを4個振った時の出目の合計数の数字を埋めて列を揃えたらビンゴ、というゲームだ」
「12の12乗とダイス、ビンゴという言葉から察するに……なるほど。5×5のビンゴ表ですと、揃えられる列は縦5横5斜め2の合計12列。となると、上がった時の勝ち点は“揃った列数を揃った列数で累乗”した数ですか?
しかし、それでは絶対に出すことの出来ない1~3のマスが…………綾小路くん。24個のマスの中には“1~24の数値を好きなように入れる”んですね?」
「そうだぞ」
「ああ……そういうことですか。好きなように入れていいということは、同じ数値を複数回入れてもいいということですね。
そのルールの説明の仕方では、普通の優等生なら引っ掛かってしまうでしょうねぇ」
坂柳がチラリと俺を見ながらそう呟く。
俺も同じように引っ掛かると言いたいのか? と坂柳に言いたかったが、同じ数値を入れてもいいということは坂柳が言及するまで気づけなかった。何も知らずに綾小路とダイスビンゴをしていた場合、俺も堀北と同じ末路になっていたかもしれん。
……やはり、坂柳の頭脳は侮るべきではないな。坂柳は俺以上の頭脳を持っていると認めて、彼女の動きに対応しなければならないだろう。
しかし、坂柳の力は認めはするが、それでも必要以上に平地に波瀾を起こすような真似を認めるわけにはいかない。綾小路が既に必要以上に平地に波瀾を起こすような真似をしているかもしれんが。
だが、きっと大丈夫だ。
弥彦を始めとして俺の方針に賛成してくれているクラスメイトはいるし、坂柳を支持しているクラスメイトの大半は“坂柳だったら勝てるから”という理由で坂柳を支持しているに過ぎない。特に橋本がそうだな。
だからもし、坂柳の打ち出した策よりも有効な策を俺が提示出来たのなら、そのときは俺のことを支持してくれる坂柳派のクラスメイトが出てくるはずだ。それは坂柳も無視することは出来まい。
俺が頑張れば大丈夫のはずだ。
「それだけか?」
「それだけ、とは? まだ他に何か?」
「ああ、いや……坂柳が思いつかないならいいんだ。まぁ、堀北も最初は信じられなかったみたいだから、実際に体験してみないと理解し難いことだから仕方がない」
「……興味深いですね。よろしければ、この後にでも実際に体験させて頂けませんか?」
「サイコロを持ち歩いていないから、一度寮に戻る必要があるぞ」
「っ!? ……ええ、構いませんよ。今日はこれから特に予定もありませんので、綾小路くんの部屋にお邪魔させて頂きますね」
……でもこの様子を見ている限りだと、坂柳を抑えるなら綾小路の力を借りた方が早い気がしてきた。
聞き出したところによると、綾小路の方針は“正攻法には正攻法を、外法には外法を”という、相手の取ってきた手段に合わせて対処法を変える方針とのことなので、俺としても坂柳の方針よりは受け入れやすいものだ。俺でも卑怯な方法を取ってきた相手にまで紳士的に対応する必要はないと思っているからな。
だから何とかして綾小路を味方につけ、坂柳に対抗出来る手段を見つけておきたい。
やはり近いうちに綾小路と腹を割って話す機会を得ないといかないな。
そもそもの話、坂柳の方針がどうこうより、綾小路が仕出かしたことの方が人倫に悖る気がするし。
――――――――――――
翌朝、登校した俺が教室で見たのは、虚ろな目をして4つのサイコロを机の上に延々と振り続けている坂柳だった。
……。
…………。
………………昨晩、いったい綾小路の部屋で何があったんだ?
「ポイントは賭けなかったから大丈夫だぞ」
大丈夫だぞ、じゃないわ! 今の坂柳の様子はまるで賽の河原の石積みをしている子どものようだぞ!
――― 山村美紀 ―――
や、山村美紀……です。
綾小路くんがBクラスの一之瀬帆波さんと付き合うことになったそうです。これを知った坂柳さんは「
こ、今回の綾小路くんがしたことは
・綾小路清隆、Bクラス一之瀬帆波と付き合い始める
・綾小路清隆、Cクラスの目論見を完全に潰す
・綾小路清隆、Dクラス佐倉愛里をAクラスに移動させる
の3本だそうです。
坂柳さんがまたバグっていますので、今回も葛城くんに頑張ってもらうことになったみたいです。
……ジャ、ジャンケン、ポン!*2
――― 一之瀬帆波 ―――
「お、お邪魔しま~す」
神崎くんと一緒に招かれたカラオケ店の一室に入る。
「また綾小路……か」
「
「…………」
「「「…………」」」
部屋の広さは10人以上入ることの出来るそこそこ広めのタイプ。四角い部屋の3面の壁に沿ってコの字型のソファーが置かれていて、ソファーに沿ってコの字型のテーブルがセットされている。
部屋の奥側のソファーにはAクラスの葛城くんと坂柳さん……と、Aクラスに移動したという元Dクラスの佐倉さんが座っている。葛城くんはやけに疲れた顔していて、坂柳さんは俯いてブツブツと何かを呟いていて、佐倉さんは居心地悪そうに暗い顔をしている…………けど、アレ? 佐倉さんってメガネかけてなかったっけ? それに暗い顔をしてるといっても髪型も違うし雰囲気が今までと違う気がするなぁ。
真ん中のソファーに座っているのはDクラスの平田くんと櫛田さん。平田くんと櫛田さんも暗い顔をして座っている。
部屋の入り口側にあるソファーには誰も座っていないので、ここが私たちBクラスのために空けておいた席なのだろう。神崎くんと一緒にそこに座る。
「来たか、一之瀬」
そして部屋の真ん中。コの字型テーブルの中に1つ椅子が置かれていて、そこに……その、私の彼氏の綾小路くんが座っている。たった1人で。
……被告人席かな?
「審議が終わった翌日だというのにすまないな、一之瀬」
「ううん、それは葛城くんも一緒でしょ。発言権のないオブザーバーみたいなものだったとはいえ、お互いに審議の立ち合いお疲れ様」
「ああ、これから……特に来年再来年になると、俺と一之瀬がああいうのを主導することになるというのは今から心労が絶えんよ」
その心労の絶えないことの原因の8割ぐらいは私の彼氏のせいなのかもしれないけど、違うクラスである私が口を出すことじゃないと思うから何も言わないでおく。
「さて、BクラスもDクラスも招待に応じてくれてありがとう。これからのことと、今回起こったことについて話し合っておきたいと思って、こうして招かせてもらった。
ちなみに綾小路の奢りだから遠慮しないでくれ」
「なんで???」
「いや、良い機会だよ、葛城くん。
こうしてクラスの垣根を越えて話し合いの場を持てるということは良いことだ」
「平田くんの言う通りだよ、葛城くん。
私としても確認しておきたいことはあったし、話し合いの内容の1つは私も当事者のようなものだからね」
「そうか……うん、そうだな。それでは簡単な話題から始めるとするか。
まず、ウチのクラスの綾小路とBクラスの一之瀬が男女交際を始めた件だが、別クラスでありクラス対抗で争う仲とはいえ、このこと自体は問題のないことだというのがAクラスの総意だ。これを明確にBとDクラスに伝えておきたい。もし、今後に別クラスの生徒と男女交際を始める生徒が出たとしても同じだ。
もちろんクラス対抗において、交際相手のために自クラスを裏切ったりしない、ということが大前提だがな」
他人の口からそう言われると気恥ずかしいものがある。
でも、これは確かに改めて皆で確認し直しておいた方がいいと思う事柄だから、こうして改められるのは仕方がない。
Cクラスがいないのは残念だけど、Cクラスのリーダーの龍園くんはこういうことに参加してくれないだろうから招待しなかった、と言われたら、それはそうだと私でも思ってしまうので、これもまた仕方がないだろう。
「そこは大丈夫。ちゃんと綾小路くんと話し合っていて、特別試験でお互いのクラスが争うことになったとしても、そのときは自分のクラスの味方をすると決めているよ」
「安心しろ、葛城。一之瀬相手でも容赦はしない」
「うむ。しかし、特別試験の内容次第では手を組むこともありえる……というより、体育祭を別にしたとしても、そういう別クラスと手を組む特別試験は必ず一度はあると考えている。その時には2人が互いのクラスの懸け橋になってくれることを期待する。
それと綾小路。手加減はしなくてもいいが容赦はしろ。初デートでゲームセンターに行くのはいいが、彼女とエアホッケーしてパーフェクトゲームするとかホントおまえは……」
やったのは3セットマッチだったんだけど、2セット目なんかデートを尾行していた千尋ちゃんが乱入して2対1になったのに、それでも1点も取れずに負けちゃった。
いや、手加減しないでって言ったのは私なんだけどね……。
「Dクラスとしても賛成だよ。Dクラスには他のクラスの人と付き合っている人はまだいないけど、これから同じ学校で3年間も一緒に過ごすんだ。そういう話はいずれ出てくると想定しておいた方がいいだろうからね」
「Bクラスもだ。そもそもウチのクラスのリーダーの一之瀬が当事者だからな。
……ただ、“別のクラスの男女が交際するのは問題ない”というのは、Aクラスの総意というのは本当なのか?」
「
「……その、坂柳の様子が……」
「さぁ? どうしたんだろうな?」
「スルーしてやってくれ、頼むから。だが綾小路は察しろ」
「うん。別のクラス云々とは関係なさそうだもんね。もし一之瀬さんがAクラス所属だったとしても同じことになってそうだよ。
(これは坂柳さんの弱味に……ならないか。ここまで大っぴらだとね)」
う、うーん……これは、私のせいになるのかな?
噂だとAクラスは坂柳さんと葛城くんのどちらがリーダーをするか争っていて、綾小路くんは中立だけどその優秀さで一目置かれていて、その綾小路くんを味方につけた方がリーダーとなる、ということで坂柳さんが綾小路くんに執着しているってことになっていたけど……見た感じだと坂柳さんが綾小路くんに執着してたのって別の意味でっぽいよね?
悪いことしちゃったかなぁ……?
「で、でも綾小路くんが彼女を作るだなんて驚いちゃった。“一之瀬さんと”って意味じゃなくて、彼女作ること自体の方に。
ねぇ、一之瀬さんはどういう風に綾小路くんに告白したの?」
「く、櫛田さん? どうして私から告白したことが前提なのかな?」
「……綾小路くんがそういうことを自分からするとは思えないからかな?」
「ゴメン、馬鹿なこと言っちゃったね」
「? もしかして、オレ馬鹿にされてる?」
「馬鹿にされているんじゃなくて諦められてるんだ、綾小路。
……やはり他のクラスでも綾小路はそう思われているのか……」
眉間を揉みながら葛城くんが呟く。
葛城くんには悪いけど、そうしている姿がどこか“中間管理職”という言葉を思い出させた。
「そもそも一之瀬さんと綾小路くんって親しかったの?」
「親しかったというか、お世話になっていたというか。
私は一度生徒会に入ろうとして断られたんだけど、綾小路くんにアドバイスをもらったおかげで生徒会に入ることが出来たんだ。葛城くんと同じようにね」
「ああ、俺も綾小路にアドバイスをもらった」
「他にも、実はBクラスの子がCクラスの子に因縁をつけられるというか、嫌がらせみたいなことをされたことが以前に何度かあったの。
困っててどうしようかと悩んでいたんだけど、嫌がらせをされていた場面に偶然立ち会わせた綾小路くんに助けてもらったことで嫌がらせが止まったりと、綾小路くんには前から色々とお世話になってたんだ」
「流石にああいうのはクラス関係なしで止めないとな」
これは本当だ。
生徒会に入るアドバイスをしてくれたのは私が南雲先輩の手駒にならないように、そしてCクラスの嫌がらせからBクラスの子を守ってくれたのはCクラス
「へぇ~、それがキッカケで告白を?」
「キ、キッカケというのはちょっと違うかな?
キッカケというなら……同じクラスの子からラブレターをもらったことがキッカケかも」
「え?」
「ゴメン。それだけだとわけわからないよね、櫛田さん。
同じクラスの子からラブレターをもらったんだけどOKするつもりはなかったの。リーダーの立場にいるものとして、同じクラスの子に優先順位をつけてしまいかねないことに繋がることは慎むべきだから」
「……俺はそこまで気にすることではないと思うが、一之瀬の言うことも間違いではないと思う」
「神崎の言う通りだろう。
Aクラスの場合だと俺に彼女はいないし、坂柳は……まぁ、生徒の優秀さで優先順位をつけるということは、別の意味では間違いではないからな。坂柳が綾小路のことを優先したとしても、それに文句をつけるクラスメイトはいないだろう。もちろん俺を含めてもだ」
「そう……なんだ」
「そもそも綾小路を優先するとなると、綾小路の希望を叶えるために綾小路を他クラスへ単騎特攻させる、みたいなことになるからな。そういうことなら文句を言うヤツはいないさ」
「何でだ???」
「自分の力を実際に振るってみることが綾小路の希望だからだ、神崎。
平田なら理解しやすいだろう。サッカー部の練習試合に綾小路が混ざったとき、綾小路は敵チームの守りを固めているところにワザと突撃することで、自分の技量を試すと同時に他の場所に隙を作るようなことを何度もしたと聞く」
「アハハ、そういうことしてたねぇ」
これも本当だ。
他の理由がないとまでは言えないけど、同じクラスの子に優先順位をつけてしまいかねないことに繋がることは慎むべきという考えも確かに私の中にあった。
それと綾小路くんの単騎特攻は納得。エアホッケーで千尋ちゃんの乱入を認めたのも似たような理由だからだと思う。
ただ、自分の力を実際に振るうことが綾小路くんの希望というのは語弊があると思う。
この言い方だとまるで綾小路くんが他者に勝つことを目的にしているように聞こえるけど、実際のところは自分の力を試すことが綾小路くんの目的だろう。家庭の事情で学校に行かずにずっと自宅学習をしていたということだから、同年代に比べて自分がどれだけの能力を持っているのかを試したいんだと思う。
実際、それだけの実力を持ち合わせているところが厄介なんだけどねー。
「で、同じクラスの子からの告白は断ろうとは思ったんだけど、断る理由をどうしようかと悩んだんだよね。どう断れば相手を傷つけないで断れるか。
“優先順位をつけかねないことに繋がることは避けるため”って説明だと、断るための言い訳って捉えられるかもしれないじゃない。言葉が真実だと証明しようにも、それこそ卒業するまで彼氏を作らないでいるぐらいしか証明のしようがないもの」
「まぁ……そうかもしれないね」
「誰かと付き合った経験もなかったし、時間もなくて我ながら焦っちゃって、考えが堂々巡りして行き詰まっちゃった。告白を断るためには誰かと既に付き合っていることにすればいい、なんて本末転倒な考えも浮かんじゃったよ」
「そこまで悩んだのか、一之瀬。
……しかし、それでどうして綾小路と付き合うことになったんだ?」
「えっと、いやー、その……ね。色々と考えて、別のクラスの男の子に彼氏役を頼もうかって考えたときに、彼氏役に思い浮かんだのが綾小路くんだったの。自分でもわからないぐらいに、それがさも当然のように。
何故か他の人が全然思い浮かんだりしなくて、そのことに気づいたら…………はい、それで自覚しました」
「なるほどねぇ~、確かにそれだと同じクラスの子からラブレターをもらったことがキッカケだね」
「そうだったのか……」
「フム、クラスメイトからの告白を断るためのカモフラージュとして綾小路に告白した、というなら一之瀬の行動はどうかと思うが、告白されそうになったのがキッカケで自らの恋心に気づいて綾小路に告白した、ということなら一之瀬を咎めるようなことではないな」
「れ、冷静に分析されるのは恥ずかしいよ、葛城くん」
「
これも本当……というのは嘘だ。
いや、どう断れば相手を傷つけないで断れるか悩んだのは本当だし、千尋ちゃんを傷つけないように断るために既に付き合っている人がいることにすればいいと考えたのも本当。そして最初に彼氏役として思い浮かんだのが綾小路くんだったのも本当だ。
でも、それは綾小路くんのことが男女間の意味での好きだから、ではない。
神崎くんを始めとしたBクラスの男子は同じ理由で対象外。Cクラスには知り合いはいても仲が良いとまで言える男子はいないし、何よりも龍園くんに弱みを握られるかもしれないから対象外。Dクラスの平田くんは軽井沢さんと付き合っているし、Cクラスと同じく知り合いはいても仲が良いとまで言える男子はいない。
となると、残りはAクラス。もちろんBクラスのリーダーとしてAクラスにも弱みを見せることは出来ない。
葛城くんは生徒会役員同士ということで話すことも増えて、葛城くんが信頼出来る人だってことはわかっている。でも、信頼できるような人だからこそ、自分のクラスの不利益になることはしないだろうし、今の時点でBクラスのリーダーである私と付き合うことにしたとなると、様子見のために坂柳さんへ譲ったAクラスのリーダーの座がますます遠くなってしまうだろうから、私の話に付き合うようなことはしないと思った。
そもそも相談しても言い触らしたりするようなことはしないとも思ったけど、こう言ってはなんだけど堅物の葛城くんに相談してもどうしようもないとも思った。
そして残ったのが綾小路くん。
残ったというか、真っ先に思い浮かんだのが綾小路くんというのは嘘じゃなくて、思い浮かんだ後に綾小路くんの他に誰かいないかと考え続けはしたけど、結局いなかったから綾小路くんを彼氏役に選んだというのが本当のところだった。
綾小路くんのことは以前から、それこそSシステムの真実を聞かされた5月1日よりも前から噂を何度も耳にしていた。あれだけ運動系、文化系問わず部活を荒らしていたら噂になるもの。私も見たことあるけどケヤキモールのジムで凄い筋トレをしているし、勉強も出来るようで図書館でAクラスの人に勉強を教えている場面も見たことがある。
それにいくらAクラスが情報を封鎖しているとはいえ、坂柳さんと葛城くんがAクラスのリーダー争いをしていたことが噂になっていたように、どうしても漏れて伝わってくることは出てくる。
Aクラスが990ものクラスポイントを保持出来たのは綾小路くんの功績だと。
Aクラスの人と話しているとそれを裏付けるかのように、人を率いる立場にいないはずなのにAクラスの誰もが綾小路くんのことを一目置いているのがわかった。
それに生徒会に入る際のアドバイスをもらったのがキッカケで綾小路くんとは話すようになったけど、違うクラスのことなのにCクラスに絡まれたBクラスの子を助けてくれたりしたから、男女間の意味での好きではなくとも“いい人だな”ぐらいに前から綾小路くんのことは思っていた。
だから人柄も信頼出来るし、私の事情を全部説明して力を貸してくれないかとお願いしたら
『うーん、片思いの相手としてオレの名前を使うとかならともかく、付き合っている振りをするってのは…………メンドイな』
『メンドイって?』
『いや、付き合っている振りをするってことは、デートとかも白波にわかるようにしなきゃいけないってことだろ?
実際に付き合うってのならともかく、振りなのにデートするとかってのはメンドイ』
『そっかぁ…………って、実際に付き合うのならいいの?』
『いいぞ』
『じゃ、それで』
『わかった。白波向けにカバーストーリーを別に考えるか』
『だね』
って、アッサリと綾小路くんと付き合うことが決まった。
そんな簡単に決めていいのかと思ったけど、綾小路くんは普通に男女交際に興味があったみたいだし、私のことも
『一之瀬のことは“好き”か“嫌い”かの2段階評価で言えば“好き”だし、“好き”か“普通”か“嫌い”かの3段階評価で言えば“好き”だろう。
だけど“大好き”か“好き”か“そこそこ好き”か“普通”か“そこそこ嫌い”か“嫌い”か“大嫌い”の7段階評価で言えば“そこそこ好き”ぐらいだと思う。100点満点で言うと70点弱ぐらいかな?』
『微妙な数値!?』
って好意的に思っていてくれていたみたい。
……好意的だよね?
でも、綾小路くんと付き合うことになった今だって特別嬉しいわけでも失敗したとも思っていない“まぁ、これはこれでいっか”ぐらいに感じていることからすると、私も綾小路くんと同じくらいか、お世話になった分だけちょっと上ぐらいの好きなのかもしれないね。
それこそ70点強ぐらい? うん、綾小路くんと付き合うのは“普通に楽しみ”ぐらいかな。
「それで? 綾小路くんは何て答えたの?」
「“いいぞ”って答えた」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………???」
「話をそれだけで終わらせるな首を傾げるな、綾小路」
「ど、どうして綾小路くんは一之瀬さんの告白をOKしたのかな?」
「“断る理由がなかった”から」
「……一之瀬さん、本当に綾小路くんでいいの?」
「い、いいんだよ!」
「それは酷くないか、櫛田?」
「酷いのはおまえだ、綾小路。
……ハァ、ウチの綾小路が本当にすまない」
「いやいやいやいや! 葛城くんが謝ることじゃないって!
それに付き合うことになったときに色々話し合って、言葉が足りないだけで綾小路くんの本心はちゃんとわかってるから!」
「騙されているわけじゃないんだな?」
「大丈夫! ちゃんと腹を割って話し合ったよ。
それに好感度は70点弱ってハッキリ言われているし、騙されているとかないから!」
「70…………綾小路、ちょっと来い」
葛城くんと神崎くんが綾小路くんを室外に連れ出そうとするのを慌てて止めて、綾小路くんと話し合って決めたカバーストーリーを皆に話す。
というか神崎くんはともかく、葛城くんまでもどうして私の味方みたくなってるのかな!?
「―――というわけで、綾小路くんって私のことは70点弱の“そこそこ好き”なんだって」
「微妙な数値だ……」
「オレと一之瀬が知り合ってからそれほど経っていないわけだし、短い期間でそこまで好感度が高くなるのは逆に変じゃないか?」
「私だってお世話になったから綾小路くんに対する好感度が高くなっていたわけだけど、それでもラブレターの件がなくて普通に過ごしていたら気付かなかったぐらいの好きだからね。それこそ数値で表すなら70点強ってところじゃないかな?」
「そう言われたら、70点ぐらいって生々しくて逆に現実的っぽいね」
そのぐらいの点数を前もって言っておいたら“キスをしたのか?”とかでからかわれることもないだろうということも狙いの一つ。
「お互いに異性と付き合うのは初めてだし、初めてで付き合うのだったらむしろこのぐらいの好感度が丁度いいだろう。
OKした理由をもっと細かく説明するなら、オレも普通に男女交際に興味があって一之瀬は嫌いなタイプの女性ではなかったからだ。だから端的に言って“断る理由がなかった”」
「……
「これから深い仲に発展していくって考えたら、それぐらいがいいのかもしれないね」
「初恋同士で周りが見えないぐらいに燃え上がっていたら、確かにそれはそれで不安になるしな」
「というか、綾小路くんって男女交際に興味あったんだ……」
「オレを何だと思っているんだ? 基本的に今まで経験出来なかったことには興味を持ってるぞ。ゲーセンしかりファミレスのドリンクバーしかり」
「そういえば初デートの日に、生まれて初めてコーラを飲んだんだっけ?」
「え、そうなのかい?」
「家庭の事情でな。炭酸水はテーブルマナーの講習でコース料理を実食する際なんかに飲んだことはあったが、ああいうフレーバー付きの炭酸飲料はデートの時に初めて飲んだ。入学してからもああいうのをプライベートポイントを払ってまで買おうとまではしなかったからな。
でも最近のマイブームはメロンソーダ。あのケミカルな感じにどこか心惹かれる」
「おまえは小学生か? ……いや、綾小路の家庭事情的にこういうことを言っては駄目だな。
これだから綾小路のことを叱り難いんだ……」
「(……綾小路先生のご家庭はそんなに厳しいのか)」
「夏になったら麦茶を試してみるつもりだ」
「え? 麦茶も飲んだことなかったの?」
「それは流石に浮世離れしているどころじゃない気が……」
「日本の一般家庭では夏に麦茶を飲むのが当たり前だと一之瀬に教えてもらった。正直なところオレの育った家庭は一般的とは言えないから、一之瀬から色んなことを教わることが出来て助かってる」
「
「政治家の家ってのも大変なんだね……」
本当にね。まさか政治家のお父さんの仕事の関係で小学校、中学校に通えていなかったなんて、まるでドラマみたいな話だよ。
政治家のお父さんはお仕事ばっかりで、顔を合わせるのはお父さんから直々に勉強を教わるときぐらいだけで親子らしいコミュニケーションはほとんどなし。家庭教師の人との方が顔を合わせたことがあるって、それで本当に親子って言えるのかな?
金銭に不自由したことはなかったらしいけど、そもそも家から出してもらえなかったから金銭を使わなかったってオチらしいしね。私の家はお金がなくて大変だったけど、綾小路くんの家のような酷さはなかったよ。一歩間違えなくとも虐待なんじゃないかな?
経緯はどうあれ、せっかく綾小路くんと付き合うことになったんだし、恩を返す意味でも普通の暮らしっていうのを教えてあげられたらいいなぁ。
……そのためには、まず家政婦の堀北さんをどうしよう?
親に世話をされなかった綾小路くんの境遇だと家政婦がいる生活が当たり前になるのは仕方がないけど、それでも同い年の女の子を家政婦にするのは駄目だよね? でもちゃんとプライベートポイントを支払って雇用しているみたいだから、悪いことだとは言えないのが困っちゃう。
でも、何とかしないと綾小路くんの将来が不安だよね。
「だ、だから綾小路くんには私がいないと駄目なのっ!」
「待て、一之瀬!」
「冷静になってから考え直せ!」
「解せぬ」
「
うーん、神崎くんと葛城くんが綾小路くんの予想通りの反応をしちゃってる。やっぱり綾小路くんは“わかってて行動してる”のかなぁ?
でも綾小路くん本人はそう言っていたとしても、どこか根本的なところではわかっていないと思うんだよねぇ。
――― 櫛田桔梗 ―――
綾小路くんが想像以上のポンコツだった件。一之瀬さんはこれから苦労するよ……っていうか、まるでDV夫を捨てられない妻みたいな感じになってるじゃん。
……何でDクラスじゃないんだろ、彼?
「―――フゥ、何だかもう疲れてきたが、そろそろ次の話に移るとしようか。
次はCクラスとDクラスの諍いの件だが…………綾小路?」
「これも綾小路か……」
「? いや、だから発端はオレじゃないぞ?」
「わかってる。それはわかってるんだ……」
葛城くんも苦労しているねぇ。疲れが顔に滲み出ちゃってるよ。
「……その、僕からも話したいことがある。
まずはありがとう、綾小路くん。綾小路くんが撮影した映像で、Dクラスへの被害はなしでCクラスの訴えを退けることが出来たよ」
「映像を渡したときに言ったが別に構わないさ、平田。バスケ部に遊びに行ったときに、小宮と近藤の態度に違和感があって警戒してただけだからな。
ああ、須藤には『次は助けない』と伝えておいてくれ」
「う、うん。須藤くんも反省しているよ。
それにしても綾小路くんは凄いね。小宮くんたちが須藤くんに殴りかかる場面と…………その後に小宮くんたちが龍園くんに報告するところまでの映像、そしてそれ以前に龍園くんが小宮くんたちに須藤くんへ因縁をつけるように指示している映像をあらかじめ用意してたんだから。
…………どうしてCクラスが利用中だったカラオケルームに忍び込んで無事だったの? というか、ケンカの場面はどう撮ったの? 明らかに3階の窓の外から撮影されてたよね?」
どうして特別棟の屋上から撮影が始まったんですか? どうして屋上の柵を飛び越えたんですか?
あの映像を初めて見たときはメチャクチャ怖かったんですけど!
それに撮影している綾小路くんが近くにいるはずなのに、まったく気づいていない小宮くんたち。ましてや撮影の位置の関係上、須藤くんからすると視界に入っていたはずなのに須藤くんも全然気づかなかったらしいし!
そしてCクラスの連中がたむろっているカラオケルームへ、ちゃんとドアを開けて入り込んでいるはずなのに綾小路くんに気づかれたりもしていない。というか目線は向けられているはずなのにスルーされてるってどういうこと!? アレ、綾小路くんじゃなくてCクラスのスパイが撮影したって言われた方が納得出来るんですけど!
見ててホラーだったよ! 映像を見終わった後、思わず自分の後ろを振り返って綾小路くんがいないか確認しちゃったよ!
「そういえば平田。葛城と一之瀬に聞いたが、渡した映像を審議に提出しなかったんだってな。石崎たちに直接映像を見せて、訴えを取り下げさせたらしいじゃないか。
あの映像を提出してたらCクラスは終わりだったのに、どうして提出しなかったんだ?」
「あの映像を提出してたらCクラスは終わりだったからだよ」
「???」
「カ、カラオケルームでの映像にはCクラスの生徒のほとんどが映っていて、龍園くんが指示を出すところも報告を受けるところも彼らの目の前で堂々とやっていたことから、あの映像まで提出したらCクラスの生徒のほとんどが共犯扱いになってしまう。
そこまで大事になってしまうと、停学者どころか退学者だって出かねない。そんな退学者を出すような真似なんて出来ないよ」
「? 実際、共犯みたいなもんだろ?」
「それは……そうなんだろうけど……」
表情を変えずにCクラスを壊滅させろと言ってくるのが怖い。本気で平田くんの言っていることがわかっていないように見えるのも怖い。
言っていることは間違っていないけど、同い年の少年少女の人生が滅茶苦茶になってもどうでもいいと本気で考えていそう……いや、綾小路くんだからきっとそんなこと考えていないね。考えていないというか考えて
ヤバい。いくらクラスのヤツらに良い顔を見せるためだったとはいえ、どうして須藤や山内や池のためなんかに綾小路くんから借金なんてしてしまったのだろうか。
Dクラスで信頼に値するのが私と平田くんだけという綾小路くんの評価はいいんだけれど、こんな人でなしに私の命綱を握られてしまうなんて、これからの私の高校生活はどうなっちゃうの?
一之瀬さんと付き合っていることと、そもそも性欲がなさそう……というより、発達してなさそうなことから、私の身体が目当てじゃないってことは安心出来るし、堀北を潰してくれたことはラッキーだったけど、堀北から私の中学時代のことを伝えられたりしたら…………何とも思わないんだろうなぁ、きっと。
いや、堀北から正確な内容を伝えられなくて誤解されたらマズいかもしれないけど、正確な内容を伝えられても「ふーん……え、何かコメント必要なのか?」って感じで終わらせそう。
「オレの予想……というより狙いからは外れたようだが、オレとの約束自体はちゃんと守っているんだろう?」
「そ、それはもちろんだよ! あの映像を撮影したのが綾小路くんだということは言っていない! Dクラスの皆にも詳細は言っていないし、知っているのはここにいる人たちだけだ!
……あっ、佐倉さんには、僕からは言ってないけど……」
「ならいい。とりあえずはCクラスの龍園の目がDクラスに向いただけでヨシとしよう。それと佐倉にはオレから説明済みだから大丈夫だ。
まぁ、オレとしてはDクラスがあの映像を審議に証拠として提出してCクラスを瀕死にした上で、こんな1年の1学期というクラス対抗の序盤から1クラスを脱落させたくないと考える学校の反応を見てみたかったんだがなぁ」
Dクラスは囮扱いかよ!
ああ、そうですよね。あんな乱暴な手を使ってくるCクラスは直接相手取りたくないですよね! 綾小路くんは大丈夫だとしても、Aクラスの他の子たちが大丈夫とは限らないからね。
だったら私らを矢面に立たせて様子を見た上で、ヘイトはDクラスに押し付けたいよね!
「……それでいいのか、綾小路?」
「Bクラスとしては、イチャモンつけてきたCクラスを早めに処理して欲しかったか、神崎?
自分で仕掛けておいてなんだが、それでは情勢が些か動き過ぎる。ルールに則っているとはいえ、学校にケンカを売るような真似はマズいと思う。まだ」
「“まだ”?」
「そもそもさっき言ったが、今回の件はCクラスの動きに対応した受動的な行動だ。
今回のオレの本命の目的はABDクラスで対Cクラス……というより、ダーティープレイ禁止の合意を形成することだからな。本命の目的以外は皮算用で考えていたから学校の反応は大きくしたくない。まだ」
「そのうち学校にケンカを売るって言ってるよ、私の彼氏。
とりあえず私は今回のCクラスのようなダーティープレイ禁止は賛成。審議が終わるまで秘密ってことだったからBクラスの皆にはまだ話せてはいないけど、明日にでも話をしてBクラス皆の合意を取っておくね」
「Dクラスも……僕も賛成だ。一之瀬さんと同じく明日にもクラスの皆の合意を得るよ」
「頼む。それと紳士協定を結ぶだけとはいえ、ABDが手を組んだということはCクラスには知られないようにな。まだ」
これはまぁ……仕方ない。
正攻法でやっていたらDクラスは勝てないとは思うけど、汚い方法を使ったとしても綾小路くんに勝てるとは思えない。むしろダーティープレイを解禁したら絶対に酷いことになる。
それだったら身を守るためにダーティープレイ禁止に賛成した方がいいだろう。
「ただし、改めて言っておくが、ルールとマナーに反しないならCクラスと手を組むのはアリだ。
アリというか2学期にある体育祭ではADクラス対BCクラスとなる関係上、Cクラスと手を組まざるをえないクラスは必ず出てくるから仕方がない」
「……もしかして、Cクラスにトドメを刺すことを強制しなかったのは、その体育祭を睨んでのことだったのかな?」
「あっ、そっか。このままいくと体育祭で龍園くんたちと組むのは私たちBクラスってことか。
……神崎くん、平田くんたちDクラスにテコ入れして、2学期までに平田くんたちがCクラスに上がってもらうのはアリだと思う?」
「自分の彼氏に龍園を押しつけるとか、クラス対抗では本気で容赦しないつもりなんだな、一之瀬。
心強いのはいいんだが……綾小路たちに龍園を押しつけるのはアリだし、平田たちと組んで龍園たちを叩くというのは構わないと思うが、それだとしばらくの間は綾小路たちAクラスが自由に動けることになってしまう。それは危険だ。
やるならそれこそABD連合で龍園を叩くべきだな」
「残念だが、神崎。それだとAクラスにメリットが少ないな。勝手にBCDで潰し合っててくれ。
ダーティープレイに対する秘密同盟は賛成するが、それでもその龍園のダーティープレイの矛先がAクラスに向けられるかもしれないのは断らさせてもらおう」
あのまま審議に映像を提出していたら、停学者や退学者が出てCクラスがDクラスへ落ちることだってありえる。
そしてバスケ部という体育会系の部活に所属している小宮くんと近藤くん、ケンカが得意な石崎くんとその彼らを従えた龍園くんたち4人が退学にでもなっていたとしたら、体育祭で同組になったとしたら活躍は期待出来ないどころか、足を引っ張られることさえ考えられる。
それと葛城くんの言い方からすると、Aクラスにとって一番都合の良い展開はBCDクラスで潰しあうことだと考えているわけか。そりゃそうだろうね。
だけどCクラスがこんな1年生の1学期なんて序盤でクラス対抗から落第してしまったら、借金で私と平田くんの首根っこを掴んでいるDクラスはともかく、一之瀬さんたちBクラスはAクラスを相手にすることだけに集中出来てしまう。
それを避けるためにヘイトの向け先としてCクラスを生き残らせておいて、ABDクラスで協調せざるをえない状況に持ち込んでいるわけか。
それならあの映像を審議に提出するのを平田くん任せにしたのも納得出来る。
甘っちょろい平田くんなら、敵対しているといっても他の生徒を退学に追い込もうなんてしないからね。
まぁ、それ自体はどうでもいい。
Dクラスがどん底に落ちていれば落ちているほど、クラスのために働く私はクラスの皆から尊敬の目で見られるから、私にとって都合が悪いわけじゃない。
上のクラスに上がることが出来るに越したことはないけど、どうせ今のDクラスではそんなことは出来っこない。それなら私の今のクラスのリーダー格というポジションを守ることを優先した方がいい。綾小路くんの反応だととりあえず信用はされているみたいなので、今はDクラスでの地位を守ることを優先しよう。
――――――――――――
「―――さて、それでは最後になったが、佐倉のことについて話そうか、綾小路」
「うん?」
「昨夜にいきなり『明日からDクラスの佐倉がAクラスに移動するから』ってメールをAクラス全員に送ってきて、それ以降もロクに説明していない佐倉のことだ。
今朝、問い詰めようとしても『放課後のBDクラスとの会合のときにまとめて説明する』って流した佐倉のことだ」
「……もしかして怒ってるのか、葛城?」
「…………」
「ヒィッ!?」
うわ、葛城くんが顔を真っ赤にして頬をひくつかせてるよ。隣に座っている佐倉さんが怯えてるじゃん。
やっぱり綾小路くんって普段からこんな調子なんだ。
っていうか、葛城くんも佐倉さんがAクラスへ移動することは事前に知らなかったんだね。私たちは今朝になって茶柱先生から聞かされてビックリしたけど、そりゃいきなり昨夜に『明日からDクラスの佐倉がAクラスに移動するから』ってメール送られて放置されてた葛城くんは心労が絶えなかっただろうね。ご愁傷様。
「えっと……ケヤキモールの電器店の従業員が、佐倉さんのことをストーカーしてたって聞いたよ、私は」
「……どうして俺が知らなくて一之瀬が知っている?」
「昨日、綾小路くんから佐倉さんのフォローを頼まれたから」
「おい、綾小路?」
「ストーカーなんて微妙な問題を、被害に遭った佐倉の許可なしに言い触らすわけにはいかないだろう。それも葛城のような男子相手なら尚更だ。今日、Aクラスで説明しなかったのも、いきなり大勢の前で説明させるのは酷だろうから根回しのためにこの会合が終わってからと思っただけだぞ」
「ム? …………それはそうだな。いや、すまない。頭に血が上っていたようだ。ストーカーか……そんなことがあったのなら、慎重になるのは仕方がないか。
いやしかし、いったいどうやって佐倉をAクラスへ移動させるのを学校に認めさせたんだ?」
「慌てるな、葛城。安全を確保してから一晩経ったら佐倉も落ち着いて、こうやって事情を説明してもいいと言ってくれたから、ちゃんと今から説明する。
事の始まりを簡単にまとめると、佐倉は中学時代に“雫”という名前でグラビアアイドルをやっていたんだ。そして雫のファンだったケヤキモールの電器店の従業員が、偶然にも自分の手の届く場所に来た佐倉を運命だと思ってストーカーし始めた」
「何だと?」
「ほ、本当なんです……」
え、マジ?
あの根暗そうな佐倉さんが……って、そういえば今日の佐倉さんはメガネもかけていないし、化粧が違うのか今までと顔の雰囲気もどこか違う。それに……。
「……
坂柳さんが一之瀬さんと佐倉さんの胸部をガン見してる。確かに一之瀬さんもグラビアアイドル出来そうなプロポーションしてるけどさ。
でも、確かに佐倉さんの今の顔とこの胸ならグラビアアイドルをやっててもおかしくない……か。
「で、ストーカーに気づいたオレがストーカーを暴発させることで学校敷地内から排除。今頃は警察署の留置場で頭を冷やしているんじゃないか?
そしてそんなアホを学校の敷地内で働かせていた慰謝料代わりとして、学校に対して佐倉をAクラスに移動させるの認めさせたってわけだ。それをしたのが昨日だな」
「よく学校にクラス移動を認めさせることが出来たな? プライベートポイントでなら2000万も必要なものなんだろう?」
「詳しくは学校との契約で言えないが、下手をしたら校長のクビが飛んでいたかもしれないことを揉み消すのを許したんだから、生徒1人のクラス移動ぐらいは大目に見てもらえるさ」
「……何をやった、綾小路?」
「だから詳しくは言えないって。
まぁ、一般的な話からすると、刃物って危ないよな?」
「綾小路くん? 彼氏さん? 私、刃物なんて聞いた覚えがないんだけど?」
「言った覚えがないからな、彼女さん」
「わ、私も聞いていないです……」
「いくらオレでも被害者の心情への配慮ぐらいするぞ」
「配慮の方向が致命的に間違ってる……」
っていうか、刃物とさっき言った暴発って言葉の組み合わせってイヤな予感しかしないんだけど……。
「龍園みたいに冤罪を吹っ掛けたってわけじゃないから安心しろ。
で、いくらストーカーの問題が解決したとはいえ佐倉にも心を落ち着ける時間が必要だし、相談できる相手も必要だろうから一之瀬にフォローを頼んだ。夕食を3人で一緒に食べながら話をした後、男には話せないこともあるだろうから一之瀬に後は任せてな。これは葛城じゃ出来ないだろ?」
「それは……まぁ、そうだな。
(今の坂柳にも無理だろうし)」
「夕飯、ご馳走さまでした~」
「い、一之瀬さんに話を聞いてもらって気が楽になったと思います」
私が佐倉さんのストーカー問題の解決に関与出来てたら、私のクラスでの地位も安泰だったのに……。
チッ、私に懐いている井の頭さんとかを優先し過ぎて、絡みのない佐倉さんをおざなりにしちゃってたか。でも暴れたってことらしいし、巻き込まれないですんだと考えるしかないか。
「うんうん、少しでも力になれてよかったよ。
昨日も言ったけど、私に手伝えることがあったら言ってね。綾小路くんにも頼まれてるってのもあるけど、こればっかりはクラス対抗とか関係なく同じ女の子として味方になるから」
「そんな事情があったのか……。
俺に出来ることがあるかはわからないが、Bクラスとしても佐倉個人の力になるのは問題ないだろう。一之瀬の言う通り、これはクラス対抗以前の話だ」
「言ってくれれば私も協力したのに……あっ、佐倉さん。クラスは変わっちゃったけど、次に何かあったら遠慮なく私にも相談してね」
「僕もだよ……と言いたいけど、気づけなかった僕が言えることじゃないね。
ありがとう、綾小路くん。佐倉さんを助けてくれて」
「い、いえ……綾小路くんに言われるまで、私に相談する勇気がありませんでしたから」
「それに女子である櫛田を巻き込むわけにはいかんだろ。現にあのストーカーはアッサリと挑発に乗って暴れたしな。櫛田には危険だ。
まぁ、オレは自分から首を突っ込んだんだから気にするな」
「はい。それはもう」
「私の彼氏が佐倉さんから全然心配されてない件」
「ち、違うんですっ! 綾小路くんだったら何が起こっても平気かな、って思っちゃって……」
「その気持ちはわかる」
私もわかる。
「ああ、他の女子に警戒を促すためにも、今回の件は学校を通して全生徒に周知することになっている。後日、担任の先生から話がされるだろう。
それで一之瀬には既に頼んでおいたが、先生からの話があったらDクラスの女子に平和ボケしないように注意しておいてくれないか、櫛田」
「うん、わかったよ」
「そう……だったのか。これだから綾小路を叱るに叱れん」
「ご、ご迷惑をおかけします……」
「いや、佐倉が気に病むことではない。悪いのはストーカーで、責任を持つべきはストーカーを学校の敷地内に入れた学校だ。君は被害者なんだから、胸を張って……とまではいかないが、気にせずにAクラスに馴染んでくれたらいいとも。
しかし、綾小路。佐倉を助けたことについては納得出来たが、その助ける方法としてAクラスへと移動させたのはどうしてだ?」
「まずは純粋に佐倉への礼だな。実はストーカーを仕留める前に佐倉とは契約を結んでいて、佐倉を助ける代わりにこのストーカーの件で学校から得られるものはオレに譲ってもらうことになっていたんだ。それで今回の件で学校と話し合いをした時に、色々と学校から情報を得ることが出来たからそのお礼だ。
それとDクラスにいる山内や池って男子を考えると、元グラビアアイドルの佐倉をDクラスに置いておくのは悪い予感しかしない。せっかく助けたんだから、せめて高校生活ぐらいは平穏に過ごして欲しいからな。
クラス移動ではなくプライベートポイントを学校に要求してもよかったが、それだと学校からの心証が悪くなるかもしれなかったし、それよりも学校史上初のクラス移動者を出したって評判を築くことを優先した。南雲パイセンの面子は潰れたかもしれんが」
「フム。確かにその評判はプライベートポイント等では代えられないものだな」
「こうしてAクラスが他クラスから生徒を招いた移動実績を積むことで、他クラスの生徒がオレ達Aクラスに媚びを売ってくることが考えられるな。具体的に言うとDクラスの幸村とか」
……ありえる。自分がDクラスに配属されたことに対してあんなに不満を露わにしていて、Aクラスへ上がることを熱望している幸村くんなら、実際に佐倉さんをAクラスへ移動させた実績のある綾小路くんの歓心を買おうとするかもしれない。
綾小路くんの目的は、他クラスに潜在的なスパイを作ることってわけか。スパイとまではいかなくても、少なくともAクラスに上がりたいと考えている生徒は綾小路くんの不興を買いたくないとは考えてしまうかも。
これは単純に学校へプライベートポイントを要求するよりも厄介な考え方かもしれないね。
「幸村……か。Dクラスの中では真面目で勉強が出来る生徒だと聞いているが、自分がDクラスであるということを受け入れられない頭が固い人間だと聞いているぞ。
だからこそAクラスに接触してくる可能性はあるのだろうが……」
「わかってる。正直、2000万プライベートポイントの価値があるかは微妙。
それこそDクラスで引き入れる価値がある生徒の筆頭はみーちゃん。王じゃないか?」
「え、みーちゃん?」
「不思議か、櫛田? でもあの子、日英中の3ヶ国語を話せるトライリンガルだぞ。山内みたいなホラじゃなくて、ちゃんと実際に会話して確認したからな」
「……普段は意識してなかったけど、そう言われるとみーちゃんって凄いね……」
「それなら確かにAクラスに引き入れる価値はあるか」
「AクラスにはDクラスの生徒を一括りで馬鹿にするヤツもいるが、個人で見たなら優れた生徒はいる。平田や櫛田みたいにな。
そして一之瀬はどうする? Aクラスに来るか?」
「……アハハ、クラスの皆を置いてはいけない、かな?」
「じゃあ、Bクラス全員でなら来るか?」
「えっ!?」
「40人の移動だと8億プライベートポイントが必要になるが、AクラスとBクラスが手を結べば可能性あると思うぞ」
ABクラスの同盟爆誕!?
えっ、これマズくない? 綾小路くんのAクラスと一之瀬さんのBクラスが手を組んじゃったら、もうDクラスに勝ち目なんてなくなるでしょ。ただでさえ勝ち目なんて見えないのに……。
まさか龍園くんのCクラスと手を結ぶわけにはいかないし、ましてや私と平田くんは借金で綾小路くんから首輪をつけられてしまっている。そんな状況で綾小路くんに逆らうような真似なんて出来るわけがない。
「ああ、平田と櫛田もどうだ? 順序的にはBクラスの後になるがな」
そして私たちまで勧誘してくるとか、さっき幸村くんの名前を私たちがいる前で出したことといい、もう綾小路くんはDクラスのことを完璧にカモだと思っているじゃないの。
それに一之瀬さんもBクラス全員でクラス移動するって言葉には心を動かされているみたい。
真面目な話、綾小路くんは彼氏だから争いたくないって気持ちはあるだろうし、何よりも綾小路くんに勝てるかどうかが不安なところもあるんだと思う。
だけど、8億ポイントを集めてBクラス全員でAクラスに移動させるという方法を取るなら綾小路くんと争わなくてすむし、何よりも綾小路くんだけでなく実質的にAクラスを味方につけることに等しい。
勝ち目の薄い勝負を挑むよりもいっそのこと……という考えが浮かぶのは仕方がないだろう。
「……8億全額は無理だったとしても、ABクラスが力を合わせれば3年あれば10人ぐらいはクラス移動させられそうだな」
「そうだな、葛城。つまりAクラスの特権を享受出来る人数が純粋に増えるってわけだ」
「…………ううぅぅ……でも」
葛城くんも乗り気だ。
そうだろう。もしこの同盟が成立したならAクラスは安泰だ。Bクラスは味方で、Dクラスはリーダー格の私と平田くんの弱味を握っている。残りのCクラスはABDクラスの数の利で押し潰せばいい。
クラス移動のためのプライベートポイントの貯金は必要になって不自由はあるけど、それも結局はクラス対抗のためにプライベートポイントを貯める必要があるからやることは変わらない。
一之瀬さんたちがこの提案に乗らなくてもいい。
こういうことを考えているってわかってもらうだけで、Bクラスと敵対する可能性は少なくなる。そうしたらますますAクラスの覇権は盤石になるってわけだね。
マズいなぁ。Aクラスに上がることなんて夢見てたわけじゃないけど、綾小路くんを放っておいたら身動きも出来ない状況にまで嵌められてしまいそう。そこまで一方的な状況にされるのは流石に怖い。
「……といっても、そんなことをあからさまにやってしまうと、俺たち生徒を競い合わせようとしている学校がどんな反応をするかわからないからな。
下手をすると学校側が、多くのプライベートポイントを使わなければならない特別試験を用意したり、AとBクラスを喰い合わせたりする特別試験を用意するかもしれない」
「そ、それもそうだねっ!」
「だから今はまだ大人しく、ダーティープレイを禁止しながらクラス対抗で競い合っていくのがいいだろう。思うところもあるだろうけど、この学校の厳しいやり方もオレ達の将来に役立つことになるのは間違いないんだ。
この学校での生活を通してオレ達も成長しつつお互いの信頼度を高め合って、多くの数の生徒にとってよりよい未来を掴める選択を出来たらいいと思う」
「そうだね…………うん、そうだね」
上げて落としてまた上げてやがる。
綾小路くんってやっぱり人の心がわからない天然じゃないでしょ!どっちかっていうと人の心がないサイコパスって言葉の方があってるんじゃないの!?
……とりあえず彼女の一之瀬さんに誤解されると悪いからって名目で綾小路くんには近づかないようにしておいて、どうしようもないときはなるべく綾小路くんには逆らわないでおこう。
堀北さんの二の舞はゴメンだからね!
――― 神室真澄 ―――
……。
…………。
………………モウマヂムリ。ヤスマセテ、ハキソウ……。
――― 龍園翔 ―――
「ダメ」
……俺からの提案をアッサリと一刀両断しやがった。
噂には聞いていたが、俺に脅える様子を一切見せないことから、やはり綾小路ってのはAクラスの中でも警戒しておくべきヤツみたいだな。
夏休みに入って始まったクルーズ旅行。
学校から聞かされていた当初の話だと無人島にあるペンションでバカンスってことだったが、実際はペンションどころかトイレもないサバイバル試験の始まりだった。
残ったら夏休み後にクラスポイントへと変換される配布されたポイントを使って物資を購入したり、島にあるスポットを占有してボーナスポイントを取ったりという根性が必要な特別試験だが、俺はその配布されたポイントをAクラスに売りつけようと思い、こうしてAクラスの葛城と話をしていたところ、話の途中に姿を現した綾小路のせいで話が止まってしまった。
……つーか、綾小路はファイヤーマンズキャリーとかいう運び方で人一人を担ぎながらスポット巡りをしてたのかよ?
綾小路に担がれたリーダーらしきヤツはジャージで顔を隠されていたせいでリーダーが誰だかわからないんだろうが、顔が見えなくても雰囲気が死んでるのがわかったぞ。あんな運ばれ方で島中を走り回れたらそうなるだろうけどよ。
「しかし、綾小路。プライベートポイントをクラスポイントへと替えられる機会はそうそうないと思うぞ」
そして、そんな疲労困憊したヤツを気にせずに話を進めようとする葛城。
こんな冷酷なヤツだったのか、葛城は? 聞いていた話とは少し違うな。
「それは問題じゃない。むしろただでさえAクラスのクラスポイントは他クラスと差があるんだ。見た目だけのクラスポイントなんか得られたとしても、それだと他クラスに余計な警戒を抱かせることになるだけだ」
「……確かにその危険はあるな」
「そもそも期間限定の試験中だけにしか使えないポイントと、学校に戻ったら際限なく使えるプライベートポイントを同一レートにするのは違うだろう。
でもそうだな…………契約内容の変更次第では受け入れてもいいぞ」
「……どうしろってんだ?」
俺が持ちかけた契約は主に3つ。
①Cクラスは200ポイント分の物資をAクラスに譲渡する
②Cクラスは今回の試験におけるBクラス、Dクラスのリーダーを探り、Aクラスへと伝える
③上記2項が達成された場合、Aクラスの生徒は毎月2万プライベートポイントを龍園翔に譲渡する
譲渡する物資は破損させていない状態でAクラスに引き渡す、などの細かい取り決めもあるが、大まかに言うとこの3つだ。
「まず、200ポイント分の物資の見返りは毎月2万じゃなくて、毎月1万5000プライベートポイントだ」
「あ? そんなこと受け入れるわけねーだろ」
「落ち着け。“まず”と言っただろ。
次にBクラス、Dクラスのリーダーを探ってAクラスへと伝えることに関してだが、1クラスのリーダーがわかるごとに毎月のプライベートポイントの支払いにプラス5000としよう。
というより、元の契約だとそこがおかしくないか? 1クラスのリーダーを探り当てたときと2クラスのリーダーを探り当てたときでも報酬は変わらないってのは? そもそも1クラスも探り当てられなかったらどうなるんだ、元の契約の場合?」
「……へぇ、なるほどな」
それは悪くはない話だな。
BDどちらのクラスのリーダーも探り当てることが出来なかったら損だが、両方のクラスのリーダーを探り当てられたら増益だ。
……つーか、もしかして契約③の文面からすると、元の契約だったらBDクラスのリーダーを1人も探り当てることが出来なかった場合だと契約③は不成立になってたか? むしろ契約変更で良かったと思うべきか?
「それと葛城がリーダーの名前がわかる証拠、キーカードをカメラで撮影してくるなりしてこいと言ったみたいだが、それはナシでいい。龍園の証言だけで構わん」
「おい、綾小路!」
「だからおまえも落ち着け、葛城。
ただし、リーダー名をオレ達に告げるときは真嶋先生の立ち合いの下でしてもらう。そしてその告げたリーダー名が間違っていたら、毎月のプライベートポイントの支払いにマイナス7500だ。だから2クラスとも間違ったリーダー名を教えたらプライベートポイントの支払いはナシになるから、リーダー名を告げるなら慎重にするんだな」
「……待て。“間違ってたら”って、それはどう証明するつもりだ? まさか一之瀬や平田の証言を鵜吞みにしろって言うんじゃねーだろうな?」
「それこそキーカードを見ればいいだろ。
オレがこれからBDクラスに行って、試験終了後にキーカードを見せ合うことを提案してくる。『リーダーが誰だったのか教え合って、今後の特別試験の参考にするため』とか言えば、少しでもAクラスの情報を欲しがっているBDクラスは受け入れるだろ。
ちなみにキーカードの再発行にはポイントが必要ってことを考えると、最終日に使わなくなったキーカードを失くしたことにすれば学校に返却する必要はなくなるはずだ」
「試験終了後か……」
Aクラスのリーダーは綾小路かあの顔を隠したヤツの2択に絞られているが、十中八九リーダーは顔を隠したヤツだろう。まさか裏をかいて綾小路をリーダーにしていることなんてねぇだろからな。
情報規制がしっかりされているAクラスに対して、こういう試験でリーダーを任せられるヤツが誰なのか知ることが出来るってんなら、確かに試験終了後にキーカードを見せ合うことぐらいはするかもしれねぇな。
……でも、あの覆面ヤローの様子からすると、今回のAクラスのリーダーがわかることにそこまで価値があるかはわからないと思うんだが……。
アレはただの綾小路の被害者じゃねーか。
「わかった。それはいいだろう。もちろんおまえがBDクラスを説得出来なくて、キーカードを確認出来ずに間違いを証明できなかったらマイナス7500はナシだな。
……しかし、ミスったらプライベートポイントがマイナス7500ってのは……」
「おいおい、リーダー指名で間違ってしまったら、実質クラスポイントが50ポイントマイナスされるんだぞ。生憎とプライベートポイントとクラスポイントは等価だと思っていないんでな。間違った答えを伝えてきたヤツにはペナルティを課させてもらう。
というか、そもそも元の契約での間違った名前を教えられてもペナルティ無しってのがおかしい。デジカメの写真を証拠にしたとしても、そんなものパソコンでいくらでも改竄出来るだろ」
「交換出来る物資にパソコンはなかったんじゃねーのか?」
「パソコンは確かになかったが、先生に相談すればパソコンの“使用権”ぐらいは借りれたりしそうじゃないか?」
「教師用のパソコンを借りられる権利ということか?
……それは確かにありえそうだな」
チッ、それは思い付かなかったな。真嶋が試験の説明をした時に『このマニュアルには、ポイントで入手できるモノのリストが全て載っている』と言っていたが、“権利”は“モノ”じゃないとかっていう抜け道はありそうだ。
今から真嶋に確認をしてパソコンの使用権が借りられなかったとしても、他に証拠の捏造や改竄出来る手段がある可能性を否定することは出来ないから、証拠を持ってくるから間違ったときのマイナスをナシにしろというのは通らなさそうだな。
とはいえそもそもの話、リーダーを当てられている自信がなかったらリーダー名をAクラスに伝えないだけでいいんだから、これに関しては問題ないとするしかないか。
「この契約ならBDクラスのリーダーが判明しても判明しなくても、Aクラスとしてはどちらでもいい。
判明したならBDクラスにダメージを与えられることになるから、龍園に多くプライベートポイントを支払うになったとしても元は取れる。そして判明しなかったらしなかったで、1人当たり毎月5000プライベートポイントだけ得をする。そして間違ったリーダーを教えられてリーダー指名をミスっても毎月の支払いが減少する。
そして龍園だって頑張れば貰えるプライベートポイントが増えることになるんだから、Aクラスだけが有利になるってわけじゃないだろう?」
「なるほど……確かに綾小路の言う通りだな。
龍園、俺は綾小路の意見に賛同する。契約内容の変更がされないなら、悪いがこの契約は結べない」
こうなるとこれ以上の譲歩は……無理か。
間違ったリーダー名を教えた時のペナルティが痛いが、リーダーが本当かの証明が難しい以上、こちらが譲歩をしなきゃならない立場だ。証拠がいらないってことでトントンってことにするしかないな。
だから綾小路たちが要求していることはAクラスだけに利があるわけじゃない。俺にだって利がある。そういう意味ではこの変更は拒めない。
そしてこの変更を受け入れなかった場合、間違いなく綾小路は話し合いを打ち切る。その後は……って、しまった。さっき綾小路は『オレがこれからBDクラスに行って』と言っていた。
そのことを思い浮かんでいるとなると、この交渉が決裂したら綾小路はBDクラスに行って、この交渉の顛末を話すかもしれねぇ。何しろBクラスリーダーの一之瀬は綾小路の女で、Dクラスはリーダーの平田と櫛田を借金の沼に嵌めていやがるんだからな。
Aが無理ならBDと交渉をと考えていたが、ただでさえBDクラスとは以前に揉めたことがあったんだ。それに加えて綾小路からの情報提供があった場合を考えると、俺からの提案を拒否する可能性が高い。少なくとも綾小路と同じ契約の変更は求めてくるだろう。
いや、そうじゃないな。俺の狙いが全クラスにバレてしまったら、伊吹や金田を送り込んでリーダーを探させるなんてのは絶望的だ。
ってことは、こうなった以上は素直にAクラスの契約内容変更を受け入れるか、それとも方針を変えてCクラスでサバイバル試験に挑むかの二択になってしまっているわけだ。
だが、今のCクラスでサバイバルなんか出来るわけがない。ここは受け入れるしかねぇな。
「……俺からも内容を1つ加えさせろ。
契約に対する他クラスへの機密保持の徹底だ。この契約の内容について、BDクラスには一切漏らすな。テメェと付き合っているっていう一之瀬には特にな」
「こういう試験の際には容赦しないことを一之瀬と約束してあるから大丈夫だが、その機密保持の義務を龍園にも課させてもらえるなら構わないぞ。
(つまり契約には関係ないリーダーの変更が可能だということもバラしてもいいってことだし、リーダー名を教えられても指名する義務はAクラスにはないってことでいいな)」
「…………いいだろう。俺も賛成しよう。
(綾小路め。プライベートポイントの支払いを踏み倒す気だな。
……嘘はついていないし、龍園相手だから別にいいか)」
ん? 葛城が微妙な表情をしてるが、別に変なことは言ってねぇよな?
……まぁ、いい。当初の予定とは少し変わったが、結局やることは変わっていない。むしろBD両方のクラスのリーダーを暴いて、Aクラスからプライベートポイントをせしめるチャンスが来たと考えるべきだ。
しかし、葛城だけだったらいいように騙せたかもしれないが、綾小路が出てきたせいで狂ってしまったな。やはりAクラスで注目すべきなのは綾小路か。
「よし、葛城はクラスメイトの同意を得るのと、交換する物資をどれにするかを選んでおいてくれ。それと龍園と一緒に契約書を作って真嶋先生と坂上先生の立ち合いの下で契約を成立させておいてくれ。
その間にオレはBDクラスに行って“試験終了後にキーカードを見せ合うこと”の約束をしてくる」
「仕事が多い。クラスメイトの同意を得るのと交換物資の目星をつけるのはやっておくから、契約を成立させるのはおまえが戻ってきてからだ」
「わかった。15分ぐらいで戻ってくる」
「(戻ってくるのが)早い」
「……20分?」
「…………せめて30分以上かけろ。そんな短い時間では頼まれた仕事は終わらん」
……葛城と綾小路の関係が、爆走する大型犬と握ったリードで引きずり回されている飼い主に見えてきたな。
自分より優秀な部下を持った上司の悲哀ってヤツか? 葛城も苦労してんなぁ。
「ほら、せっかく男女交際を始めたんだから、Bクラスに行ったときに少しぐらい一之瀬と話をして来い」
「いいのか?」
「いいから行け。1時間ぐらい時間潰してこい。別にBクラスの手伝いしてきても構わんから。
(一之瀬へのプレッシャーになるだろうし)」
…………よっぽど葛城の手に負えなくなったのか、リードを手放して綾小路を野生に帰しやがった。帰したというか
とりあえず契約を結ぶためには綾小路の署名も欲しいんだがよぉ。
――――――――――――
「リーダーだった千尋ちゃんは滑って転んで頭を打って意識を失って数秒で意識を取り戻したけど脳へのダメージを考えて安静にするためにリタイアしたよ。
それとBクラスのリーダー指名はCクラスの龍園くんだけを指名したよ」
「リーダーだった三宅くんは滑って転んで頭を打って意識を失って数秒で意識を取り戻したけど脳へのダメージを考えて安静にするためにリタイアしたよ。
それとDクラスのリーダー指名はCクラスの龍園くんだけを指名したよ」
「おい、龍園。試験が終了したから、契約に関してBDクラスの前で話してもいいよな?
一応言っておくが、契約については一之瀬と櫛田には一言も話していないぞ。雑談の流れでリーダーの変更方法についての話をした覚えはあるが」
「うん、そうだね。はい、約束のキーカード。新しいリーダーは私だよ。
(綾小路くんに散歩へ連れていかれた時に龍園くんの姿見ちゃったけど)」
「うん、そうだね。はい、約束のキーカード。新しいリーダーは私だよ。
(龍園くんが島に残っていることを一之瀬さんから聞いちゃったけど)」
「一之瀬と櫛田がリーダー? おいおい、龍園が言っていた白波と三宅って間違ってたじゃないか。
でも、これでCクラスへの毎月のプライベートポイントの支払いはチャラだな。BDクラスのリーダー指名はしないでCクラスの龍園だけを指名したからAクラスのダメージはないけど、あれだけ大きいことを言ったんならもうちょっとしっかりしてくれよ、龍園。
あ、Aクラスのキーカードはこれだ。新しいリーダーは葛城だな」
「「それよりも綾小路くん。“Cクラスへの毎月のプライベートポイントの支払い”って何???」」
「すまんな。Cクラスとの契約で今まで何も言えなかったんだ」
仮病によるリーダー変更!? しかもBDクラス両方がだと!?
クソがっ! これで間違ったリーダーを教えたことのペナルティでAクラスからのプライベートポイントの支払いがチャラだ! だがこんなこと偶然なわけがねぇ。最初からこれが狙いだったな!
やってくれやがったな、綾小路め。今日までの俺の苦労が全部水の泡だ。
Cクラスも今回の試験で得られる物はなかった。精々が豪華客船で遊んでたヤツらが楽しめたぐらいで、ここまでいいようにやられたとなるとスパイとしてBDに送り込んで苦労させた伊吹と金田は特に俺の手腕を疑問に思うようになるだろう。
しかもこの状況、どう考えてもABDクラスが組んでやがる。
この状況は下手をしなくても俺のCクラスの支配に影響が出てくるだろう。未だに俺に反抗的な時任や、女子の中でもデカい顔をしている真鍋なんかが増長するかもしれねぇ。
……ククク、だが面白れぇ。
ABDが組んでいたことからすると、どうやら石崎たちが審議を取り下げたのも綾小路の仕業だったってことだな。平田や櫛田があんな行動を取ったことに疑問があったが、どうやら俺に隠れながらコソコソ企んでいたようだ。
甘っちょろい雑魚しかいない学校かと思っていたが、綾小路のようなヤツもいたわけだ。Aクラスは葛城を潰した後にメインディッシュとして坂柳を倒してやるつもりだったが、あんなヤツを見逃していただなんて俺の目が曇っていたらしい。
だが3クラスが手を組んだとかは関係ねぇ。
今回は負けを認めてやるが、俺は諦めねぇ。絶対にいつかヤツらを全員踏み潰して屈服させてやるぜ。
「それにしてもAクラスのリーダーだった神室が体調不良でリタイアしちゃったんだが…………どうして???」
「「「「「当たり前だ(よ)!!!」」」」」
……神室に関してはマジのリタイアっぽいな。
綾小路のヤロー、マジで人の心持ってねぇぞ。
最新刊発売に間に合いました。ヨシ、これで最新刊で新たな事実が発覚してもオッケーです。
これにて本作品は終了となります。もしかしたら将来よう実が完結してネタが思い浮かんだら何か書くかもしれませんが。
そしてウチのきよぽんがAクラス配属になった場合のIFはこんな感じになります。
Aクラス配属だと自分の行動次第で原作の流れが大きく変わってしまいますので、天然を装った行動でクラス対抗の流れを早めに掌握する模様。やはり変なヤツが変な行動をすることは正常なことなので仕方がないと思われますね。へけっ!
なお、船上試験では龍園くんをハブって、ABDで優待者を予約送信して終わらせます。
ドラゴンボーイのことは嫌いというわけじゃありませんが、きよぽんの信条的にドラゴンボーイは“配慮や手加減する必要がない相手”と見ているので、ある意味では対等に見ていることから容赦はしないです。そもそも『手加減した方がいいか?』なんて聞いたらドラゴンボーイが断るでしょうからね。
有栖ちゃんはねー。勝負しようにもルール無用だったら物理で即死させられるから対等な勝負というものが出来ないので、勝負関係なしで親しくなっていないと関わり難いんですよね。有栖ちゃんがルールを決めたり頭脳系の勝負に限定すると、それはそれで有栖ちゃんへのハンデになっちゃいますので。きよぽんと本当の意味での対等の立場で勝負をする資格があるのは『こんにちは、死ね(物理)』を回避出来る可能性がある人間だけです。
帆波ちゃんは自クラスを勝利に導けないと自らの力不足に鬱屈してた状態ならアレですが、心機一転しようとしていた入学初期ならこんな感じになるでしょうか。流れに乗るというか状況に流されるというか、最近の覚悟完了した帆波ちゃんとは大違いですね。きよぽんには気を遣わなくてもよさそうなところがあるので、何かあっても『まぁ、いっか』で終わらせられるので気楽でしょうし、何よりも人間の男を相手にしている気がしないのが交際をしても良いと思った理由の模様。
Dクラスに関しては自業自得だから仕方がない。まぁ、愛里ちゃんぐらいは流石に助けないとマズいなぁ、ぐらいがきよぽんの心持ちでしょう。きよぽんの根っこは“礼には礼を、無礼には無礼を”ですので、初期の鈴音ちゃんや恵ちゃんの行動にはそれ相応の対応をします。本編ルートだったら同じDクラスということで接点が増え、きよぽんの実力がわかっている鈴音ちゃんや庇護下に入りたがった恵ちゃんの態度はマシだったので(きよぽんなりに)助けになったのですがね。
平田くんに葛城くんに神崎くん? 苦労枠は本編ルートと変われませんよ。坂上先生を除いて。