艦娘生活1日目   作:山頭

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あと、二人か一人。
気合い!入れて!行きます!!



研究員回想

 

私が艦娘を初めて知ったのは、私に叡智を授けてくれた教授に、研究室に行って欲しいと言われた時である。

厳密に言うと、私が車の運転中に電話がかかってきたことで、車を近くのコンビニに停めて、電話を折り返しかけた時だった。

 

きっちり一回のコールで、私の電話に出た教授は開口一番、

「富加君…未確認生物だよ!UMAだよ!アンノウンだよ!宇宙人かもしれない!地底人かもしれない!アトランティスの生き残りかもしれない!アトランティスの兵器かもしれない!耐久力は人間の数十倍どころじゃ済まない!既存の物質ではあり得ないほどの火力!おもちゃの様なサイズの大砲から目測ではあるが、三キロは飛んでいるだろう!それもほぼ水平に向けてだ!!そもそも移動手段が未知数すぎる!!う────」

 

私の名前を呼んだ瞬間に、いつもの教授はどっかったようだった。

その時の私の思考は、(火力ってなんだ?なにが三キロ飛んだ?)と、至って冷静に情報が足りない部分に疑問符を浮かべていた。

 

「落ち着けますか?」

 

「無理だ!!!」

 

「分かりました。」

 

「アレは海を移動しているんだ!海を滑るように!!面積が足りない!浮力なんて足りるはずもない!!それなのに!!!二本の足で海に立ち!そのまま移動している!!これはあり得ない!!人間のこれまでの積み重ねがぶち壊された!!!」

 

「教…授?」

 

私は教授の言葉に一瞬我を失った。

 

「ああ!!」

 

「きょ、教授の………。ぅ………。」

 

情けない事に、この時の私は、教授の初めての一面を一番見たくない状況で見せられ、半ば絶望していた。

 

「まだまだ足りないよ!砲の砲身が、一人でに動きいたのだが、それはただ、それこそおもちゃの様に、動くだけの内部だったという話だろう。私がおもちゃの大砲じゃないと分かったのは、三キロ近く砲弾を飛ばしたのと他に、それがヤツの狙っていたであろう何か当たったときだ。当たったところから噴き出たのは爆炎だった!赤い炎と黒い煙!火薬が詰まっていたとしてあんな大きさの煙も炎も上がらない!!ヤツの持つ何もかもが私の…ひいては人類の全ての常は当てはまらない!!!」

 

「常…つまり?」

 

教授が言うことが少し分かる。

つまり教授は完敗したと言うのだ。

教授は「私はいままでの人類、その全ての努力と叡智の結晶を教えてもらっただけに過ぎん。だからこそ私は、新しいものを未来の人間に教えられる者になりたい。そのために私はどんな事でも不可解な出来事でも、未来の人間が簡単に納得できる理論を作る。それがこの研究室を作った理由だ。」と、言っていた。つまり今、教授が常に当てはまらないと言い。当てはめられないのなら、当てはまる理論を作ると言わなかった理由は………。

 

「ヤツは真に人智を超えている!私はそう判断した!!…ハッ。」

 

「教授?」

 

声が震えている。私も、教授も。

 

「ヤツは見た目だけでいえば、そこら辺に居る女子大生かなんかと酷似している。全く同じ見てくれをした人間を知っているわけではないが、この表現は至って正しいものだと考える。」

 

「はぁ…。」

 

なぜ急に見てくれの話が?

そこまでの化け物なら見た目などあったない様なものだ。

つまり、私はこれから先、人間を、若い人間の女を何もかも信じられなくなる。

 

「だが得体が違いすぎる。浮力とは違う何かで海に浮いている。いや浮いていないのかも知らない。それを判断するだけの叡智が無いのだ。私には、いや…人類には。」

 

「教授………。」

 

呟いたところで思考が戻る。

教授は見たのだ。容姿をつまり………

 

「…っ!?教授は今、何か得体のしれない何か同士の戦いを観ているんですか!?すぐに逃げてください!!そもそもそんなものがいる所で私に電話なんてしないでくださいッ!!!」

 

こうだ。私が言えたのはそれだけだ。

でも、まだ私には戻りきっていなかったんだ。冷静さと言うものが。

 

「いや、富加君。」

 

「名前なんてッ…いいから早く逃げて下さい!!!」

 

「無理だよ。」

 

「え?」

 

「私は今、足が建物の残骸の下敷きになっている状態で君に電話をしている。」

 

「そんな………。」

 

そう、少し考えれば分かるんだ。

教授は諦めない。

もし分かりそうになくても、分かるまで考え続ける人だ。

そんな人が諦めている。

分かりきっていたことだった。少なくとも私にとっては。

 

「助けます。絶対に。」

 

もはや叫んでいた。コンビニに車を停めていることなんて忘れて。

 

「いや、無理だよ。」

 

「どこなんですか?教えて下さい!!」

 

「だから無理なんだ。」

 

「いいから!!!」

 

「無理と言っているだろう!!!!」

 

初めてだった。

むしろ初めてじゃなかった。

教授はいつも「無理じゃない!!!!」と叫んでいた。

その日はそれが違っていた。真逆だった。

絶望。教授の絶望が私にまで伝わってくるようだった。

 

「…なんでですか。」

 

「通行止めだ。当たり前だろうが馬鹿。建物が崩れる様な何かがあったんだ。そこに行けるわけがないだろう。…希望なんて無い。なのにそれを感じさせる事を言うな。」

 

「そんな………。」

 

絶望。教授の一言一言に、絶望が強く、濃く、へばり付いていた。

 

「それでも!!」

 

「でもなんて、無い。私はここで終わる。」

 

「嫌です…そんなの…嫌ですよ!!」

 

「私だって!!!私だって嫌だ!!!!!」

 

「…。」

 

「でも、分かるんだ。これは無理なんだって。」

 

「救助なんて来ない。それどころか私の上の家を崩したヤツがここまで来るかもしれない。」

 

「どうなったって終わり。むしろ君にヤツらを教える事が出来て良かった。それくらいなんだ。分かるだろ?」

 

「分か…ります。」

 

「よし、じゃあ楽しい事したいな…死ぬ前だし。もしくはやり残した事を消化したい。」

 

「…教授のやり残した事なんて無限にありますよ………。」

 

「知ってるよ。私が一番。だから、そのうちの一個でも二個でもやってみたい事ならやるんだよ。」

 

「です………ね?私にできる事ならなんでも言ってください。」

 

「お!言ったなぁ…!………じゃぁ、聞いて欲しい事があるんだ。」

 

「なんですか?」

 

「ふふっ…。」

 

「???」

 

「好きだった。君が。」

 

貴女がそんな事を言うから。私は今でも………。

 

「は?」

 

「これが言いたかった。別に君は好きでも無いが、それでも言ってみたかったんだ。誰かにこんな事でも言えないまま死ぬのが…なんとなく嫌な気がしたんだ…。済まないな…富加君。私の我儘に付き合わせて…いや、そもそもあと少しで死ぬ人間に電話をかけられるところから迷惑か…。済まないなぁ…。富加君。私はこんなつまりはなかったんだが………。やはり、人付き合いには文系が有利か…なんてな?ははっ………面白く無いなぁ…な?富加君。」

 

貴女がそんな事を言うから。私は国語を勉強してしまった。

 

「きょ………教授?」

 

「あぁ、なんだ?富加君。今すぐにでも、電話を切ってもいいぞ?」

 

「いえ、その…私は、教授が好きです。」

 

「は?なにを………あぁ、なるほどな…返事があるものだったなぁ…ああ言ったやつは、それを体験させてくれるとは…ありがたいなぁ………。」

 

貴女がそんな事を言うから。私はもう、貴女に「好き」と言えない。

 

「ち、違います。私は…本当に教授が好きなんです。」

 

「ははっ…そんな事ないだろう?私は親も友達も、自分も認める醜女だぞ?これ以上の醜女はいないなんてな…。そういえば…文系の友達なんかには、醜女って、あなたのための言葉みたいね?なんて言われてなぁ…。私を好きになるやつなんていない。私はそんな事言うこともないって…。」

 

貴女がそんな事を言うから。私はこの時からずっと、貴女より好きになる相手が居ない。

………貴女の言った事とは関係ないけど。

 

「じゃあ私は趣味の悪い人間です!私は教授が好きです!!」

 

「それならさ、名前で呼んでよ。信じられるわけがないんだ。こんな顔の人間が誰かに好かれるな───」

 

貴女がそんな事を言うから。私はこの時から、誰の事も名前で呼ぶ事が出来ない。

 

「みさと。」

 

「いや」

 

「それともみさとさんですか?」

 

「あのだな…。」

 

「みさとさんはどうなんですか?私の事をどう思ってるんですか?」

 

「いや、なんとも思ってなかったが…。」

 

「嘘つき。」

 

「はぁ!?」

 

「さっき好きって言ったたじゃないですか。嘘だったんですか?」

 

「いや、だが………。はぁ………いや、もう、私の負けだな。やる奴だなぁ…富加君は。」

 

貴女がそんな事を言うから。私は今でも食えない奴を演じてしまっている。

 

「そんなことは…。」

 

「ハハハッ!いいなぁ…嬉しいなぁ………。」

 

「なによりです。みさとの幸せは私の幸せです。」

 

「………誤魔化したかった。それくらい幸せだ………誰かに好きと言われるなんて………。」

 

貴女が………。みさとが、そんな事を言うから。私は………私は………………。

 

「これからも言いますよ。みさとには。好きですから。」

 

「みさと…かぁ………。名前なんて、父親以外呼ばないなぁ…。………はぁ…父親より早く死ぬなんて親不孝だな。私は。」

 

みさとが、そんな事を言うから。私は一人で、みさとのお父さんに挨拶に行ってしまった。

そして………泣かせてしまった。みさとのせいですよ?

親を泣かせるなんて親不孝者です。

みさとは、私と一緒にみさとのお父さんの所に行くべきだったんです。

 

「親孝行してあげますよ。私が。」

 

「もう私の夫気分か!…ははっ。手の早い奴め。」

 

「みさと限定ですよ。」

 

「はっ!本当に手が早くなってどうする?」

 

どうもしないですよ………むしろ…むしろ………。

…遅すぎたくらいです。

 

「はははっ!最後には良い思い出だったよ。夫を残して先立ってしまう事になるなんてなぁ………。私が女で良かったなぁ…お陰で未亡人ではないぞ?」

 

変わりませんよ。未亡人になろうがなんだろうが、みさとと結婚できるなら。

 

「関係ないですよ。どっちにしろ、私は一生童貞です。」

 

「ははははっ!!一生処女が確定した女に言う言葉じゃないな!!」

 

豪快に笑い飛ばした電話の向こうで、大きな音が聞こえた。

その瞬間、息をのむ教授。

そして、ピチャピチャという水の様な音と共に、足音が聞こえた。

 

「ココカ?チガウナア…ジャアココカァ?」

 

そして、妙に聞き取りづらく、それでいて、耳の奥が引っ掻かれた様な痛みを感じる、初めて聞くような声。

携帯のスピーカーからは、その声の後、ジャリジャリと砂の様な音が聞こえたので、おそらく教授は携帯を地面に押し付けていたのだろう。

しばらくして、パラパラと、砂の落ちる様な音がして、

 

「………なんとか助かった。ヤツは赤ちゃんの鳴き声がした方に向かった様だ。」

 

「それって…。」

 

「あぁ…。」

 

「「………。」」

 

「なぁ…そろそろ切った方がいいと思うんだ。」

 

「いや…です。」

 

「でもなぁ…。」

 

「嫌です。」

 

「っつてもなぁ…。」

 

「私は…みさとともっと話していたい…です。」

 

「………ふふっ、私もだよ。」

 

「なら!」

 

「あぁ、いいよ。話していよう。」

 

「はい!なにを話しましょうか…。」

 

「君が話したいと言っていただろう?」

 

「う…えっと………ごめんなさい………。」

 

「謝らなくてもいい。うーん、そうだなぁ………あっそうだ………ふふっ。」

 

「なんです?」

 

「君に一つ質問だ。」

 

「はい。」

 

「普通の夫婦が決めること。と、言ったらなんだ?」

 

「え?えっと………。」

 

「やはり富加君も分からないか。」

 

「い、いえ。そんなことは…。えっと、確か、どちらの姓にするかを決めたはずです。」

 

「ほう…そんなことを………。そう言えば…同級生の中には、いつの間にか苗字の変わっているのも居たが、結婚していたのだな。」

 

「ほんとになんも知らなかったんですか…。」

 

「いや。知ってはいたはずだ。君も知っていることなんだからな。ただ、私の中から、いつの間にか消えていただけだと思うよ。」

 

「そうですか…。」

 

「それと、私が聞いたのはそう言う事じゃない。」

 

「え?」

 

「夫婦が決めるルール的なことを聞いたのだが。」

 

「あぁ、なるほど。それなら私にはさっぱり。」

 

「だよなぁ。分かりきっていた事だが、念の為の確認は必要かな…ってな。」

 

「確認ですか?」

 

「そうだ。………お前を夫にもらう前に、言っておきたい事がある。」

 

「なんですか?急に。たしか関白宣言でしたっけ?」

 

「そうだ。たまに親が聞いていたんだ。母親がな。」

 

 

「お母様が…ですか?」

 

「あぁ、それを聞くたび…いや、よく言っていたのだ。『あの人なら覚悟はいらないの。でも、俺がお前の家。なんて、言う気概は微塵もないのよねぇ。』って、そう言っては一人で笑っていたんだ。」

 

「優しい方なんですね。お父様は。」

 

「あぁ…そして母さんは強い人だった。」

 

「強い…。」

 

「実の娘に『醜女』なんて言う親はそうそういないだろう。」

 

「みさとは綺麗ですよ?」

 

「はははっ!せめて可愛いと言え。それではお世辞を言っていることがまる分かりだぞ?」

 

「お世辞じゃないですよ。私は心の奥底から綺麗だと、そう思っています。」

 

「ふふふ…ありがとうな、嬉しいよ。だが、それはそれとして本題だ。」

 

「本題?」

 

「さだまさしだ。」

 

「さだまさしですか?」

 

「君を、いや…お前を夫にもらう前に、言っておきたい事がある。」

 

「関白宣言…ですか………。」

 

「私が先に逝く。これは恐らくとかじゃない。」

 

「っ!」

 

「私が死んだあと、お前はできるだけ早く相手を見つけろ。」

 

「そ───」

 

「私の事は出来るだけ早く忘れろ。」

 

「………。」

 

「私はお前のおかげで思い残すところがほとんど無い。」

 

「…。」

 

「私の人生。この数分でだいぶ、普通の幸せを知った。」

 

「…。」

 

「感謝している。好きって、綺麗って、嬉しかった。」

 

「そんなこと…。」

 

「言ってもらえるなんて…そもそも言われると嬉しいなんて知らなかった。」

 

「好きです!綺麗です!教授は!!」

 

「ふふっ…心からの言葉でも、そんな言い方じゃ、少ししか嬉しくないぞ?」

 

「うっ…。」

 

「ありがとう。」

 

「教授?」

 

「最後なんだ。名前で呼んでくれよ。」

 

「みさと。最後だなんて言わないでください。」

 

「あぁ、私はみさとだ。」

 

「みさと!今の音…。」

 

「お終いかな?」

 

「そんなこと…。」

 

「これは………街を背に戦っていたほうか…。」

 

「じゃ、じゃあ…。」

 

「いや、これは…。」

 

「みさと…?」

 

「ははは…目が………あったよ…。………さっきは遠くて見えなかったが、街をこんなにしたヤツも人型だな…そんでもって私より顔が整っているよ。…肌は真っ白で、生気を微塵も感じないがね。」

 

「みさと!!」

 

「なんだろうねぇ…!そんなに私の顔が見えて嬉しいのかぁ…!」

 

「ぅ…。」

 

「ミツケタァ!イタァ!!………ナサケナイナァ?イマラクニシテヤルヨ!!………ミィサァトォ?ウェヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

「…耳も良いようだ。」

 

「みさと…。」

 

「最後まで、私の名前を呼び続けてくれ。一番最後に名前を呼んだのがヤツなのは何となく嫌だ。」

 

「…分かりました。」

 

「返事は私の名前で…なんてな?」

 

「みさと。」

 

「ンー?…ウェヒッ!………ミィサァトォ?ウェヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!ミサト!ミサト!ミサトォ!!ウェヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

「性格悪いな…。なぁ、そう思うだろ?」

 

「みさとみさと。」

 

「はははっ!!」

 

「…ツマラナイナァ?モゥイイヤ………ウェヒッ!ウェヒッ!!ウェヒヒヒヒヒ!!ウェヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!ミィサト!!ミィサァトォ!!!!」

 

音が途絶えた。

最後の声が、笑い声でよかった。そう思う。

そう思わなきゃ、私は………。

 

 

覚えていない。もう途中からは、教授の声以外、何も覚えていない。

 

そんな記憶。

 

思い出すと、教授との最後の会話もよみがえる。

出来るだけ思い出したくない。

 

そんな記憶。

 

 

それが私が艦娘を知った瞬間だった。

 





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