海を行く、ある者を救いに。
今、思い返しているのは先日演習の時にあったこと。
いつの間にか私に近づいていた駆逐艦。
それの存在を知ったのは、主砲の音が全くの意識外から聞こえてきた時。
その駆逐艦は足元に向かって主砲を撃っていた。
その駆逐艦は間抜けな顔をしながら、自分の砲撃で荒れた海に姿勢を崩していた。
なんとか姿勢を正したかと思ったら、そのあとは射程を確認するように、何度も仰角を変えて撃っていた。
感覚をつかんだのか、同じ距離、同じ方向に砲弾を飛ばせるようになっていた。
その時は、掴んでいた感覚を取り戻したのか、才能があるのか、そのどちらかだな。なんて思っていた。
罷り間違っても、この後その駆逐艦が突っ込んでくるなんて思っていなかった。
私は感情に敏感な方という自負があった。
そんな私から見て、その駆逐艦からは敵意をかけらも感じなかった。
まるで敵が誰なのかわかっていないような…そんな様子だった。
私は、戦闘を全て、仲間に任せていた。
直掩機すら飛ばさず、海を眺めているだけだった。
駆逐艦の存在を知った瞬間から視界の端には入れていたが、それにしても驚いた。
存在感が一気に大きくなったのだ。
その存在感に思わずその駆逐艦に目を向けると、その駆逐艦の目からは敵意が溢れていた。
こちらへ向かい、加速しながら少しづつ前傾になっていく駆逐艦。
焦る気持ちを抑えに抑えて、動き始めた私。
その駆逐艦の主砲の仰角は、まるで私の動きに合わせるように、不気味にもゆっくり動いていた。
その光景を見た私は、その駆逐艦の主砲の攻撃の後に出来るはずの、“スキ”に雷撃隊で仕留めると決めた。
対空などさせぬように、こちらからも近付いた。
近付きながら、私は矢をつがえ、弓を引いていた。
恐らくだが、その駆逐艦は最大戦速でこちらに向かっていた。
その駆逐艦は、体を前傾にさせながら、腕は前へ突き出し、その先端にあたる手に持った主砲はだんだんと仰角を下げていっていた。
ありありと感じる敵意。それが膨れ上がる瞬間。
私は回頭の準備をした。
そして、その駆逐艦から、砲弾が放たれた。
その寸前に回頭していた私。
まさしく、私が寸前に回頭せず、そのまま進んでいれば、砲弾は海ではなく、私の装甲に突き刺さっていただろう。
が、私は寸前に回頭していた。
そして、駆逐艦の放った砲弾のあげた水飛沫から、出ないうちに矢を放つ。
うねる弓、突き進む矢、それらは水の音すら一瞬弾き飛ばした。
矢を放つ瞬間。
その時だけは恐怖など、忘れていた。
放たれた矢は水の壁を突き破りながら、姿を変える。
向こうからすれば、弓と矢の音が聞こえたかと思ったら、零戦が飛んでくるのだから、理不尽なものだろう。
水の壁が無くなるのと同時か少し後に聞こえたのは魚雷の炸裂した音。
そして…いや、ここからは彼女の名誉の為にも思い出さないでおこう。
歳の割に“あった”ことなどは、忘れてしまった方が良いだろう。
反省しなければいけないことはあった。
あの時は、正直恐怖があった。
狙いを付けられている。
動いてもピッタリと。
見ているこっちが怖くなる速さを、体全体でコントロールしていて、少しも危なげは無い。
確かにその駆逐艦の主砲をもろに喰らおうと、少しの痛みもなければ、傷も付かないだろう。
しかし、狙いを付けられている。今までに見たことのない洗練された動き。先ほどまでの自分の慢心。それらによって恐怖が私を縛っていた。そう、思考どうしようもなく鈍らせるほど。
本来ならば、手加減をしていた。
少なくとも、練度が低いどころか無い艦娘に私は雷撃隊など向かわせない。
使うのは爆撃機だろう…それも手加減するように妖精さんに言った。
この時の私は、恐怖からその駆逐艦に敵意を抱いていた。
妖精さんは、私の感情を読み取ることができた。
つまりだ。
私は、全力の雷撃隊で、練度の無い駆逐艦を雷撃した。
と、いうことだ。
それがどれほど過剰なものかはわからない。
なぜなら私より上の練度で、私とその駆逐艦の差を再現するだけの艦娘が、いないからだ。
それでも、想像は出来る。
………未だに私は後悔していた。
とくにあの胸当てを貸した時の顔なんかは、思い出すたびに申し訳なくなる。
いや、違う。今はそうじゃ無い。
つい、あの時の鎮守府の艦娘とすれ違ったからか、思い返してしまった。
さっきすれ違ったのは、あの時の鎮守府の長良。
彼女が、うわごとのように呟いているのを見て、つい引き留めて聞き出した。
未練たらたらな愚痴はスルーした。
彼女曰く、今朝、枕元で、声を聞いたらしい。
それの発音は拙いもので、まるで、奴らの喋った言葉のようだった…。
これを聞く限りには、私が連れ戻そうとしているのはもう…。
姿を見て、声を聞いて、状況をよく確認して、総合的に判断して、アンノウンがもう手遅れなのか、まだ艦娘のままなのか…。
もし、手遅れなら私は…。
私が人を殺したのは、大昔に一人だけ。
二人目になるのか、ならないのか。
ならないことを祈る。
「加賀?加賀?加賀!!」
通信機から、提督の声が聞こえる。
随分と大きな声で呼びかけられており、何度も呼びかけられていたのがわかる。
「あ、え、えぇ…ごめんなさい。なんでもないわ。提督。」
「そうか。そろそろ見えないか?」
偵察機に視点を移すやり方で偵察をしろ…とのことだろう。
目を閉じ、集中する。
既に発艦してある偵察機の妖精の視界になる。
「少し待って………いえ…なにも見えないわ。」
そこにあるのは、なんの変わりもない海。
穏やかな海がそこにある。
「そうか?確かそこには沢山の敵が…。」
「ぶつぶつと…もっとハッキリ喋りなさいよ。」
今日はそういう日なのかしら…。
「ご、ごめん。」
「敵影無し。進路そのまま。」
艦隊に最適と思われる指示を出す。
「あ、あぁ、それで良い。ありがとう加賀。」
「いえ…それよりも、では?」
信号のある場所に、何もなかった。
つまり、発信機が間違っているか、偵察機から見えないようになっているか。
二つに一つだろう。
「あ、あぁ、本当に敵がいないのならば───」
「見間違いはありえないわ。穏やかな海だったもの。…不自然な程。」
そう、不自然なのだ。
陸から離れれば離れるほど、海は青くなくなる。
黒い体と青い光がある、錆びた鉄がある、黒い体から青い光が消えたものがある、そして…赤い…赤い………赤く染まった海。
「偽装?いや、光学迷彩は流石に…いや、何が………。」
「またぶつぶつと…。」
本当に今日はそういう日なのかしら?
「いや、目視で確認できる距離まで近づいて───」
「もう、見えるわ。いえ、見えているわ。霧が。白い霧が。」
何も見えない。
白い事以外何もわからない。
この白い霧を目視で確認してから、偵察機となにも通信が………戻ってきた。
「お疲れ様。」
わかった事は………霧に入ると通信ができなくなる事。
霧は、どういう訳か霧があると認識しなければ、通信ができるが、恐らく相手方にとって都合のいい、別の情報しか手に入れられないという事。
そして………
「提督と通信が出来るところまで一度後退しましょう。」
霧に入っていないのに、司令部と繋がらなくなった。
妨害が強力なのだろう。
「提督。繋がりましたか?」
「あぁ、聞こえた。繋がっている。…さて、何があったか教えてくれ。」
「えぇ、分かったわ。」
説明をした。
霧の特性。…考察でしかないのもありはしたが、それでも伝えるべきだと考えた。だから、伝えた。
「そうか…一旦帰投してくれ。このままでは、どうにもならない。」
帰るしか…ない。
「了解しました。帰投します。」
助けられなかった。
今度は、違う形で。
キャラと違くても許してください。
これ、ダメですね。
これ、ただのプロットですね。
もっと煮詰める必要がありました。
お疲れ様でした。
申し訳ありません。