『今日はみんな休み!以上!!』
いきなりの大声にビクッとしたのも束の間。内容を咀嚼するよりも前に、通信から聞こえた足音と、ドアの勢いよく閉まる音が聞こえてくる。
通信の声の主は、よっぽど休みが嬉しいのか、通信を切ることなく走っていった。
「「「「「………。」」」」」
食堂が静まり返っているのがヒシヒシと伝わってくる。
──────ポチャン…
………あ、今、誰かが汁物の中になんか落とした。
未だに通信がついているのか、どたどたと、遠ざかっていく足音のようなものが聞こえる。
………今の声は満潮ちゃんかな?今更だけど…。
次に聞こえてきたのは、控えめな咳払い。
そして………。
『今、満潮が言った通り今日はみんな休みだ。昨日はよくやってくれた。ありがとう。今日はしっかり休んで、英気を養ってくれ。以上だ。』
なんとなく背筋が伸びる声………。
提督さんの労いの言葉。
昨日………。
昨日の…どうもひとりで海に出たのは間違いだったらしく…本当は響さん?って子と時雨さん?って子と一緒にあの子達に案内された所にいくのが正しかったらしい…。
響さんと時雨さんも新人さんで、昨日の出撃が初めてだったらしい………。
ごめんなさい。聞こえてませんでした………。
本当に申し訳ございません。
次からはちゃんと通信を聞くようにします。
響さんと時雨さんの二人は、あの子達………っていうかあの子達、妖精だったらしい………。
???
それはともかく、響さんと時雨さんの二人は、妖精さんの身振り手振りから、私が海に出ていることに気づいて、海に出て、私を探して、
………。
体の…足を中心に血だらけかつ、服もほぼなくなって、仰向けで海をさまよっていた私を回収して、司令部に通信を入れて、海岸まで曳航?して…。
………。
…。
申し訳ない………。
これは謝りに行って、感謝を伝えないと!!
といったところで、私にはそんなこともあり、素直に受け取りずらい言葉になっている。
はぁ………。純粋に反省。
「どしたの?今日は居なかったし、ため息ついてるし、いつもより通信がちょっと速いのとなんか関係ある?」
「いや、通信は満潮ちゃんがはしゃいじゃっただけだと思いますよ。」
「ふむふむ…じゃあ、ため息は?」
「えっと…それは………。」
「ん?なんかやらかした?」
「まぁ…はい。そうですね。」
「んふふ………。」
「?」
「いいこと教えてあげよっか?」
「えと、お願いします?」
「ふふん!いーでしょう!そ、れ、はー………。」
「それは…。」
「それは!」
「それは…。」
………ゴクリ。
「死ななきゃ安い!!」
「?…死ななきゃ………。」
「うん!生きててよかった!また会えて長良はうれしいよ!」
「はい、私も会えてうれしいです。」
「そっかそっかぁ…。じゃあ、次、同じことしなければいいの!失敗成功の母ってゆーし!」
「同じこと………。」
そりゃあするつもりはないし、しないように頑張るけど………。
「だから、死ななきゃ安い!で、いいの。同じことしないようにって、思えるだけ良い事なんだから。」
「思えるだけ?」
「そう、いくら頑張っても、ダメなときはダメだから。」
「思えるだけ………。」
あの時、もしうつ伏せ浮いていたら………。
………死ななきゃ安い。
海に出る。出て戦う。敵に大砲当てたり、アレ当てたり………敵に当てられたり。
「生きてるからいーの!また会えたからいーの!また一緒に走り込みできるからいーの!!次、こんなこと、おらないように頑張ればいいの!!………だから?」
「死ななきゃ安い…。」
死ぬかもしれない…。
そっか………。
「そう!!」
「今回も………ていうか今回が初めてかな?大規模な作戦に参加するのは…とにかくみんな生きて帰れたからいいの!」
「みんな無事?」
「無事…ではないかな?怪我した子もいただろうし…ドックに並びができるくらい………。」
「ドック………???」
「うーん…お風呂…ってことでいいのかな?」
「あぁ、お風呂………。」
「うん。みんな怪我したし、つらいこともあっただろうけど、みんなで生きて帰れたからいいの!ばんばんざいだよ。………長良は砲撃支援だし…怪我とかはなかったけど………。」
「みんな…。」
私は…一人で勝手に…響さんと時雨さんに迷惑を…でも、それ以上に私、下手したら………。
海で戦う…どういう事なのかわかんないよ………。
わかんないことばっかで…私…私………。
「ふふ…まあまあ。考えすぎてがちがちになっちゃだめだよ?…ここは、お姉ちゃんに任せなさい!!」
「お姉ちゃん?」
「そう!長良はお姉ちゃんなの。まだ妹はいないけどね。」
「???」
へ?どういう………あ!私にも妹が居るって、たしか…。
「今日は長良にいっぱい甘えていいからね!」
「は、はい!お、お願いします…。」
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいの。長良をお姉ちゃんだと思って!!ね?」
「はい…その…///…な、長良…お姉ちゃん………。///」
は、恥ずかしい…。
「………うん!まかせてよ!!」
「あ、朝ごはん…。」
「あっ!ごめん!ちょっとまってて!!」
そう言った長良さんは間宮さんからご飯受け取ると、大きな声で「いただきます!」と言って一分とちょっとくらいの時間で、朝ごはんを食べてしまいました。
そして………。
私が今居るのは、長良さんのお部屋だそうです。
うーん…ちょっとがらんどうな感じ…。
本当は私たち同じで、二人とか、三人で暮らすのに一人で暮らしてるから…かな?
畳が落ち着くいい部屋です。
満潮ちゃん、朝潮ちゃんとのお部屋は、カーペットが敷いてあって、なんか都会な感じがしてすごい感じがするけど。
畳に正座して座ると、うちの事を思い出して、何だか懐かしい感じがするなぁ。
「落ち着く?」
「え?アッハイ。」
「んふふ、なんだかいつもより顔が緩んでたから。」
「そうですか?」
「ん。長良の目にはそう映ったよ?」
「そ、そうですか………。なんかちょっと恥ずかしいです。」
「んふふふふ…もっと無防備なとこ晒してもらうよ?」
「えっ…。」
「んふふー、じゃあまずは…膝枕。したいなー?」
「えっと…どうぞ…。」
私はそう言って自分の太ももをポンポンとたたく。
「違うの!長良がしたいの!」
そう言って長良さんも自分の太ももをポンポンとたたく。
…二人で太ももをぺちぺちしあってる光景が広がるが、私がすぐに長良さんの太ももへダイブしたことでそう長く続くことはなかった。
「んふふー…どお?長良の太ももは?…ちょっと固いかもだけど………。」
「いえいえそんなことないですよ!柔らかくて気持ちがいいです!!」
「そお?それならよかった………。最近、足の筋肉がちょっときになってて………。」
「えー?そうですか?」
「うん…ちょーっと付きすぎかなー…って…。」
「そんなこと、ないと思いますよ。私のより細いかも………。」
「いやいやー…そんなことないってー…。」
「わかんないですよ…私のは自然の育んだ、ボリューム満点の太ももですから!」
「あははは!なにそれ!!」
よかった………うけたみたいだ………。
…別に私の太ももは太くないし…だから長良さんのも太くないし………。
太くないもん…。
「おー…よしよし…泣かないの、泣かないの………。ダイジョブだよー…太くないー…太くないー…よーしよし………。」
………。
私は何をされているんだか………。
「長良、なにしてるんだろ………。」
「「あはははは!!」」
二人してわらって、
心が通じ合った気がする。
「よし!太くないってことで!」
「違います。太くないんです。」
「そうだね、太くないねー…よしよし………。」
なでなでが非常にいいものだ。癒される………。
「よし!じゃ、次なにしよっか?」
あ、仕切りなおさせちゃった…まあいっか。
次…次…次…何を………うーん…。
「すること………ないですねぇ………。」
「そうだねぇ………。」
「どうしましょ…。」
「どーしよーねー…。」
「「うーん………。」」
二人で唸ってみるものの、なにか思いつく気配は無い。
「ないですねぇ………。」
「ないねー…。」
お昼ご飯のお時間は…あともうちょっとかぁ………。
「早めに食堂に行きますか?」
「ん?あ、ほんとだ。もうちょっとでお昼だね。うーん…そうしよっか。」
「はい。」
「着きましたね。」
「そうだね。」
「開いてないですね。」
「そーだねー…。」
「どうします?」
「どーしよーねー…。」
「朝は開いてましたよね?」
「うん…。」
「外って行けるんですか?」
「休みならたしか…。」
「じゃあ…ってあれ?私お金とか持ってないです。」
「うん…。仕方ないな~長良が奢ってあげるよ!」
「オゴル?」
「うん。長良が払ってあげるよーってことだよ。知らないの?」
「はい。実家のほうじゃそんなこと…。」
「へぇ~…やっぱりすごいとこだね!」
「そんなー…えへへ…。」
「よーし、じゃあ行こっか!」
「はい!ついていきます!」
お昼ご飯終了。
長良さんにはめちゃめちゃ感謝を伝えた。
「うーん…間宮さんのがおいしかったね?」
「えと…その…。」
なんて返せばいいんですか?
なんて悩んでいると、
「うーん…間宮さん、夜は居るかな?」
「間宮さんも休みなんでしょうし…。」
「そうだね。そんな気がする。…じゃあ、夕飯はここじゃないとこにしよっか。」
「えと…長良さんの行きたいとこで…。」
「うーん…遠慮しちゃうよね…ま、気にしないほうがためになるよね…。」
「えと、長良さん?」
「ううん。食べたいものってなにかなぁ…って。君はなにかある?」
「えと、料理とかよくわかんないです…。その、都会のやつ…。」
「うーん…そっかー…だよねー…奢るとかも知らないしねー…。」
「えと、はい…。」
「ま、夕飯は後だね。さて、行きたいとこはー…分かんないよねー…うーん…。」
「ごめんなさい…。」
「謝らなくてもいいよ。そーだねー………ねぇ…。」
「は、はい!」
「走り込み、する?」
「っ…はいっ!」
そこからは走り込みという名の町案内をしてもらった。
だいぶん助かったけど…ほとんどが初めて聞くもので、情報量が多すぎて、頭がショートしてしまうかと思った………。
夕飯はお昼のに比べたら、美味しかった。
でも、間宮さんの凄さが増す一方だった。
「今日はありがとうございました。」
「ううん…。長良もすっごくたのしかったから。」
「いえいえ…。本当にありがとうございました。」
「いいからいいから…。」
「でも…。」
「いいって、それよりお風呂行きたいでしょ?」
「まぁ、それは…はい。」
たしかにその通りなのだ。それはなぜか。
この会話をしている二人は汗をだらだら流しながら、肩で呼吸をしているからだ。
さっきまで走り込みという名の町案内をしてもらっていて、今は歩きながら鎮守府に向かっている。
「そろそろだよぉ………。」
「はいぃ…。」
お昼の頃に出てきた門に、ぞくぞくと美人さんが吸い込まれていく光景は…なんか…なんだろ………。
「ふぅ…あと、ちょっとで…。」
「そうですねぇ…。」
周りの目が少し気になる。
汗だくな私と、長良さんはなんとなく浮いている。
そのせいで視線が集まるのだろう。
「おっふろ♪お風呂♪おーふーろー♪」
…長良さんの歌も一因だと思う。
やはり疲れてからのお風呂は格別………。
「そーだねー………。」
いつもより声、小さめですねー………。
「そーゆー君だってー………。」
そーですねー…いつもと違って、皆さん居ますし………。
「ながらもー………。」
ふー………。
「ふー………。」
「「はふー………。」」
なんとなく…長良さんの鉢巻きに視線が集まっていたような気がする。
私の腕や足にも…
日焼け跡はめだつんだなぁ………と、思いました。
お疲れ様でした。